表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第3部 — 賑わう王都の中の天使。
56/62

チャプター47 ― 残された時間は……

地下はマナの圧力に悲鳴を上げていた。

カプセルは激しく震え、流路を走る紫の光は強さを増し、

ルドヴァーンの殺戮砲――その赤く禍々しい輝きが、

室内を息苦しい熱で満たしていく。


頭を締め付けられるような感覚。

空気そのものが脈打ち、

この部屋全体が生き物のように――

今にも爆ぜようとしているのが分かった。


反対側では、ヴァルダとアンジェリーナが、

ようやく砲身の基部へと辿り着いていた。


だが、マナの干渉に阻まれ、

二人は必死に操作部らしきものを探している。


「エンジェル!!」


ヴァルダの悲鳴が響く。


「何もない!

アクセスも、封印も、レバーも……何一つ!!」


アンジェリーナは導管に身を伏せ、

暴走するエネルギーの流れを必死に抑え込もうとしていた。


「まるで……

この砲そのものが……停止を拒んでる……!」


歯を食いしばる。


「生きてる……!」


その言葉に、

ルドヴァーンが目の前で嗤った。


「ククク……」


低く、歪んだ笑いが室内に反響する。


「見ろよ、可愛い仲間たちを。

理解できぬ檻に囚われた、小鳥が二羽……」


彼は、ゆっくりと三本の指を立てた。


「残り……

――一分だ。」


その声は、甘美な宣告だった。


「我が傑作は、この哀れな首都に生きる全てを――

原子に還す。」


血が、沸騰した。


限界だった。

耐え忍ぶ理性が、完全に弾け飛ぶ。


俺は、大太刀を握り締める。

指が、冷たい怒りで震えた。


「……喋りすぎだ、ルドヴァーン……」


彼は楽しげに大剣を構える。


「ほう?

やっと本気か、小さな英雄?」


嗤いながら、挑発する。


「来い!

その刃が、口先より価値があるか――見せてみろ!」


次の瞬間、

俺の身体は思考より先に動いていた。


踏み込み。

大太刀が空を裂き、純粋なマナの軌跡を描く。


ルドヴァーンは防ごうとしたが――

速度が違う。


衝突。


金属音が爆ぜ、

床が唸り、衝撃が地下全体を揺らした。


「まだ――

俺を止められると思っているのか!!」


彼は腰の力で刃を弾き返す。


俺は一歩引き、

体を捻り、言い返す。


「いいや――

終わらせる。」


全てを解放した。


秘めていたマナが、

一気に俺の周囲へ凝縮される。


視界が、熱で揺らぐ。


斬る。


一撃。

二撃。

三撃。


大太刀の軌跡が、

彼の防御を削り、

黒い装甲に亀裂を刻んでいく。


「ぐ……っ!」


ルドヴァーンはよろめき、

嗤い声が苦痛の唸りへと変わった。


反撃――

横薙ぎの一撃。

凄まじい威力。


だが、

俺は紙一重で躱す。


すれ違いざま、背後へ。


闇の中、

銀色の線が一閃――


血が、舞った。


「……チッ……」


彼は脇腹を押さえ、荒く息を吐く。

傲慢と怒りに染まった瞳。


「貴様……

この俺を……斬った、だと……!?」


俺は額の汗を拭い、静かに見下ろす。


「自慢してる場合か。

生き延びる心配をしろ。」


背後から、叫び声。


「エンジェル!!」


アンジェリーナの声が震える。


「砲が……!

マナの上昇が、さらに加速してる!!」


ヴァルダも叫ぶ。


「この砲……

全部、吹き飛ばす気よ!!」


それでも――

ルドヴァーンは笑った。


狂気の笑いだ。


「そうだ……!

見届けろ!

この都の最期を!!」


血を吐きながら、叫ぶ。


「そして――

エンジェル……

貴様も、愚かな女たちと共に消えろ!!」


歯を食いしばる。


残ったマナを、

全てかき集める。


視界が、白に近づく。


背後で、

砲の鼓動が――

巨大な心臓のように、胸を打つ。


俺は、吼えた。


「黙れええええ!!」


そして――


振り下ろす。


全力で。


大太刀が唸り、

金属の絶叫が地下に轟く。


彼の剣は砕け散り、

装甲は破断し、

衝撃波が――彼の胸を貫いた。


カプセルが、

圧に耐えきれず震え上がる。


「――がっ……!!」


ルドヴァーンは血を吐き、

目を見開いたまま後退し、

膝をついた。


震える指が、

存在しない剣の欠片を探す。


「……ありえ……ない……」


俺は、大太刀を下ろす。

肩で息をしながら、告げた。


「守るために戦う限り――

不可能なんて、ない」


赤い光に照らされる二人へ、視線を送る。


残された時間は――

心臓一つ分。


室内が悲鳴を上げる。


マナ柱が咆哮し、

ルーン警報が重なり、

殺戮砲は――

世界を消し去る寸前まで膨れ上がっていた。


「エンジェル!!」


ヴァルダが叫ぶ。


「残り三十秒!!

まだ……何も分からない!!」


アンジェリーナは震える手で制御板を叩く。


「内部ロック……

完全に封じられてる……

まるで……意思があるみたい……!」


俺は二人を見た。


一秒。

二秒。


耳鳴りが、痛みに変わる。


そして――

小さく息を吐いた。


視線は、砲の心臓部へ。


赤い太陽のように、

マナが収束する中心。


静かに、呟く。


「……選択肢は、一つか」


次の瞬間――

世界が、マナの霧に沈む。


――フッ。


俺は、

二人の背後に現れていた。


肩に手を置く。


「――っ!?」


ヴァルダが跳ねる。


「エ、エンジェル!?!」


答えない。


掴み、

マナを弾けさせる。


転移。


一瞬で、

部屋の端――

亀裂の入った壁の前へ。


砲から、十分な距離。


二人を、下ろす。


「……ここから動くな。」


声は静かだった。

だが、一語一語が――絶対だった。


ヴァルダが、砲を見て逡巡する。


「で、でも……!

一人で、あれを相手にするなんて……!」


俺は、振り返らない。


視線は、

粉塵と血の向こう――

ゆっくりと立ち上がる影に向けられていた。


ルドヴァーン――


髪は汗と血に濡れ、鎧はもはや布切れ同然だった。

だが、その瞳に宿っていたものは――もはや人のものではない。

狂気。

燃え盛るような、獣じみた光だけ。


彼は笑っていた。

低く、しゃがれた、狂乱の笑い声を。


「ハハハ……アハハハハ……

 アハハハハハハハハハ!!」


ゆっくりと顔を上げ、赤く――ほとんど白熱したかのような眼差しを、俺へ向ける。

その声が変わった。

悪魔の詠唱のように、甘美で残酷な響きを帯び、広間に反響する。


「――たとえお前でもだ、エンジェル。

 俺の力を制御することはできなかったようだな。」


口元が歪む。


「強く、勇敢だと思っていたが……

 どうやら、俺の見込み違いだったらしい。」


両腕を広げ、混沌を抱きしめるように指を開く。


「――GAME OVERだ、ガキども。

 これで、幕引きだ」


笑い声がさらに高まり、一音一音が呪文のように空間を侵食していく。


「我が名はサー・ルドヴァーン。

リリスの放浪者の修道会・第二十席――

貴様らを、塵に還してくれよう!!」


そして――

彼は、魂を叩きつけるように叫んだ。


「――――

 ルドヴァーンの原子破壊大砲アトミック・デストロイヤー!!!」


轟音。

空間そのものが悲鳴を上げた。


大砲が白熱し、次の瞬間、原子レベルまで破壊するマナの光線が放たれる。

石は溶け、床は裂け、世界が崩壊していく。


「エンジェェェェル!!」


ヴァルダの悲鳴が響いた。


――だが。

俺は、答えなかった。


代わりに……笑った。


「……ふ、ふふ……」


最初は低く、掠れた、どこか神経質な笑い。

やがて、それは鋭さを帯び――


「ハハハハハハハハ!!」


そして、解き放たれる。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


ヴァルダが後ずさる。

瞳に、はっきりとした恐怖。


だが――

アンジェリーナは違った。


“普通”でなくなった時の俺を、彼女は知っている。

魅入られたような、狂おしい崇拝と陶酔の眼差し。


その唇に、肉食獣のような笑みが浮かんだ。


俺は、ゆっくりと左手を上げる。

黒い手袋が、床に落ちた。


完全に包帯で覆われたその手。

アンジェリーナには、あまりにも馴染み深い“遺物”。


ヴァルダは、凍りついたように動けない。


「……な、なに……それ……?」


答えない。


包帯の下の皮膚が、紫と黒の光を放ち始める。

ルーンが一つ、また一つと灯り、螺旋を描いて回転する――

生きているかのような、渦。


空気が震えた。


光線は、すでに目前。

背後の壁は崩壊を始めている。


そして俺は――

歪み、低く、それでいて優しい声で、囁いた。


「……吸収アブソープション。」


渦が、開いた。


光線が、俺の掌に触れた瞬間――

それは、吸い込まれた。


雷鳴のような轟音。

だが、衝撃波は一切、二人に届かない。


大砲の光。

破壊の全て。

そのすべてが、闇の螺旋へと消失した。


やがて――

静寂が支配した。


光線が通ったはずの床は、もはや存在しない。

岩盤の奥、虚無へと貫かれた巨大な穴だけが残っていた。


ヴァルダが、両手で口を覆い、震える声で呟く。


「……ぜ、全部……

 吸収、した……?」


俺は、ゆっくりと呼吸する。

煙を上げる腕。

震える手。


視線を、ルドヴァーンへ向けた。


彼は――

凍りついていた。

見開かれた眼。

半開きの口。


「……ありえ……ない……

 そ、そんな……」


次の瞬間、壊れたように叫ぶ。


「お前は人間じゃない!!

 人じゃないだろ、エンジェル!!」


俺は、冷たい目で見返す。

感情は、ない。


数秒の沈黙。


そして、静かに――

ほとんど、哀しむように告げた。


「……俺は、一度も

 人間だと言った覚えはない」


その一言だけで、ルドヴァーンは一歩、後退した。

まるで、終焉の前に微笑む神を見てしまったかのように。


俺はゆっくりとルドヴァーンに近づいた。

一歩一歩、研ぎ澄まされた刃のように、計算し尽くした動きで。


彼は縮こまり、息を荒くし、顔には恐怖が歪んでいた――

その恐怖は、俺が意図して引き出したものだ。


彼の目が俺を見つめる。まるで、俺が生きた悪夢そのものになったかのように。


「ルドヴァーン卿、」

俺は柔らかく、どこか面白がるような声で言った。

「教えてくれ……お前は馬鹿なのか、それとも完全な自殺志願者か?」


彼は瞬きを繰り返す。

侮辱と脅威の区別がつかないらしい。

血が口元から滴り、呼吸は乱れ、震えていた。


「な、なに…?」

声は震え、言葉は引き伸ばされたように遅い。


俺は細い、冷たい笑みを浮かべる。


「敵がまだ死んでいないのに、名前も所属も公に晒す――

 そんなバカな真似、他にあるか?」


彼はなんとかプライドを取り繕おうと、挑戦的な顔を作ろうとした。

しかし、体は正直で、動揺を隠せなかった。


アンジェリーナとヴァルダは数メートル先で、青ざめながらも凝視している。

二人の呼吸は、まるで裁く者の唇に吊るされているかのように止まった。


「――俺たち、じっくり話をすることになりそうだな、あんたと俺……」

俺はゆっくりと言った。


ルドヴァーンは後ずさる。

逃げ道を探す。まだパニック。

何とか立ち上がり、瓦礫に足を取られながらも逃げようとするが――

その先はない。


走る必要はなかった。

俺は一瞬で――努力もなく――彼が逃げられると思った場所に立った。


俺の手が、彼のコートの襟を縄のように掴む。

彼は呻き声を漏らす。


抵抗する暇も与えず、拳を腹部に打ち込んだ。

鈍い音が広間に響き、彼は前に折れ曲がる。

膝が折れ、体が沈む。


「ぐ…」

彼のうめき声。


俺は壁に押し付けたまま、顔を数センチの距離に近づける。

近くにいることで、彼はさらに小さく、みすぼらしく見えた。


ゆっくりと、彼を観察する。

表情も、震えも、余すところなく。


「知ってるか、」

俺は楽しげに、あたかも美味しい秘密を教えるように声をかける。

「魔法――いや、秘術は実に素晴らしい。

 マナの流れを好きなように操れる。

 吸い取り、捻じ曲げ、制御することも――

 濫用する者に使い返すこともできる。」


左手に、小さな黒紫の渦が現れる。

ゆっくりと回転しながら、中心には、さっき吸収した大砲の光の残滓が、炭火のようにちらちらと光っている。


ルドヴァーンは顔を上げる。

その瞳は奇跡を探すが――見つけたのは氷のような決意だけ。


アドレナリンが脈打つ。

世界は彼と、俺の手の中にある狂気の力に凝縮される。

今、この瞬間に彼を塵に変えることもできる。

消し去ることも可能だ。

その考えは、清く、必要なもののように思えた。


「よく聞け…」

俺は鋭く言った。

「話すのに、残り三十秒だ……」


彼は口を開け、獲物に驚く獣のように俺を見つめる。


「さもなくば、」

渦をさらに締め上げながら、俺は告げる。

「お前は、瞬く間に原子の状態にされる。」


彼は何か呟こうとする。

しかし、俺の視線がそれを遮る。


そして――

ゆっくり、ほとんど儀式的に、俺はカウントダウンを始めた。

声は空間を飲み込むかのように響く。


「三十…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ