チャプター36 ― 王女長女、行動開始 。
海風がヴォルタ王宮の城壁を力強く打ち付けていた。
満月の光が海面に反射し、銀色の輝きが巨大な白亜の建物の石壁をなぞるように照らしている。
東の中心街にそびえる王宮は、都全体を見下ろす――力と安定の象徴。
しかし、この夜、安定など存在しなかった。
評議会の大広間では、ささやきが飛び交う。
上級指揮官たち、顧問たち、そして王宮の衛兵までもが動揺し、恐怖が顔に浮かんでいた。
青白い松明の光が金と大理石の壁に揺らめき、長い楕円形の議事卓には報告書が山のように積まれている。
神経質そうな衛兵隊長が、ざわめきをかき分けて声を上げようとした。
「二日間で三度も中心街での襲撃!責任者の痕跡はどこにもない!」
「目撃者は、魔物――半狼半蜘蛛の融合生物だと言っています!こんな魔力を都の中で操れる者がいるとは…!」別の将校が叫ぶ。
「王城警護隊の恥だ!」三人目が拳を卓に打ちつけた。「民衆は恐怖に怯え、説明を求めている!」
議論は次第に混乱し、内通者の陰謀を疑う者もいれば、裏切りの魔法使い集団を憂う者もいた。
緊張が部屋に漂う。
その時、重々しい扉が轟音とともに開いた。
広間に即座の沈黙が訪れる。
衛兵たちは固まる。
顧問たちの話も止まった。
そして、ゆっくりと、威厳に満ちた姿が現れた。
ヴォルタの王女、ヴァルダ。
松明の光さえも彼女の通り道に従うかのように傾く。
白銀の髪は滑らかに腰まで流れ、月の絹のように輝く。
深く威厳を湛えた青紫の瞳は、部屋全体を一瞥するだけで支配する。
彼女は王宮の正装に身を包み、銀とアメジストで細工されたコルセット、王家の紋章が刺繍された紫のマントが、王女の曲線を優雅に包む。
幼い妹ヴァイオレットとの類似は明らかだが、成熟した雰囲気、静かな力、そして自然な権威を醸し出していた。
ヴァルダはゆっくりと計測された歩みで議事卓に進む。
歩を踏むたびに、手首の黄金の装飾が軽やかに鳴る。
そして、柔らかくも揺るがぬ声で口を開いた。
「皆様…悲鳴と恐怖は十分に聞きました。」
衛兵隊長は即座に一礼する。
「ヴァルダ姫!我々は…非常に懸念しております。都市は警戒状態にあり、我々の部隊は――」
「承知しています。」彼女は静かに言葉を遮った。声は上げずとも冷静である。
ゆっくりと卓に手を置き、議員たち一人一人を見据える。
「ヴォルタを襲った攻撃は偶然ではありません。挑発です。誰かが我々の防御を試し、反応を観察している。恐怖こそが、この瞬間における最悪の敵です。」
ざわめきが広間に流れる。
ヴァルダはわずかに顎を上げ、より強い口調で付け加えた。
「ヴォルタの首都は、私の監視下では決して落ちません。」
その声は広間に穏やかな波紋のように響き、緊張していた衛兵たちは背筋を伸ばす。
将校たちの視線も少し落ち着く。
年配の顧問が恐る恐る前に進む。
「姫様…お考えは?」
ヴァルダは少し間を置き、海の見える大窓に視線を向けた。
「警護を強化します。中心街と三塔周辺の巡回を倍に増やし、東部の魔法障壁は明朝から再稼働します。」
「市民には、姫?」別の者が問う。
「安心感を与えねばなりません。夜明け前までに安全を告げる知らせを流してください。ヴォルタに脅威は存在しない、と。」
冷静で権威ある口調は疑いを許さない。
そして衛兵隊長リヴェンに視線を向ける。
「リヴェン隊長、巡回報告は二時間ごとに。魔力の異常流入があれば、微細でも直ちに報告を。」
「承知しました、姫様!」彼は明確な指示に安堵の表情を見せる。
彼女は頷き、低い声で、ほとんど独り言のように付け加えた。
「影で何かが動いている…許すわけにはいかない。」
軽い震えが広間を走る。
声を上げずとも、ヴァルダの権威は揺るがない。
王国の静かな力。
視線は一瞬、遠く中心街の塔々に向かう。
魔力の微かな光がまだ輝いている。
唇に微笑みが浮かぶ。
「もし妹のヴァイオレットが関わっているなら…自ら詳細を聞く前に知ることになるでしょう。」
顧問たちは沈黙し、緊張の中で苦笑いをこらえる者もいた。
ヴァルダは背筋を伸ばし、海風にマントを揺らした。
「皆様、今夜のヴォルタは安らかに眠る。明日、我々は行動する。」
彼女は堂々と退室し、恐怖は尊敬に、動揺は決意に変わった。
王宮の静寂の中、下方の海の音だけが、王女の落ち着いた力を讃えるかのように響いた。
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月光はヴォルタの海を穏やかに照らし、絹のカーテン越しに柔らかく差し込む。
ヴァルダは一人、静かに歩み、足音は大理石の床にかすかに響く。
王室の広間は、評議会の喧騒を経て、静寂と荘厳さを帯びていた。
彼女は紫のレイピアを鏡のそばの黒檀の家具に置き、王服のマントを椅子に優雅に滑らせる。
動作は緩やかで優美だが、疲労の色がにじむ。
責務の重さ、記憶の重さ。
衣装の一部を解き、日中の緊張を一つずつ解放する。
小さく息を吐き、バルコニーに近づく。
遠く中心街の光を見渡す――恐怖が支配した通りの光景。
普段冷静な瞳が、思索に沈む。
「この攻撃たち…」と呟く。
「四十八時間で三度。警護は何も見抜けなかった。」
微かに目を細め、情報提供者の描写を思い出す。
フードをかぶった女性たちの影、精密かつ協調的な行動、王宮軍到着前に脅威を排除する姿。
痕跡も、民間人の被害も、説明も残さなかった。
「精鋭の戦士…規律正しい…しかし忠誠は不明。」
その瞳に不思議な敬意が宿る。
混沌の中の冷静さ、この熟練を、かつて彼女は知っていた。
左胸に手を置く。
薄い皮膚の下、かすかに見える古い傷跡。
死の影が近くにあった時代の名残。
ヴァルダは目を閉じる。
映像が夢のように蘇る。
実験室の冷たさ、痛み、恐怖…そして彼。
小さなヴァイオレットの守護者、紫の瞳を輝かせた若きエルフ。
まだ子供でありながら、自らの命をかけて彼女、妹のヴァイオレット、そして他の者たちを救った。
そして、治癒不能の血の呪いから彼女を救ったのは彼だった。
「ああ…この小さなエルフ…」彼女は優しく傷跡に触れ、呟く。
「私を死から引き戻してくれた。」
柔らかな微笑みが唇に浮かぶ。
八年の歳月が過ぎても、決意に満ちた瞳は忘れられない。
ヴァルダはベッドに進み、端に腰を下ろす。
星空を見上げ、表情は柔らかく、人間的になる。
「長年探し続けた…」
「もし彼がまだ生きているなら、全ては彼に…」
静寂が訪れる。最近の記憶――妹ヴァイオレットからの噂、エルフの名前「エンジェル」。
彼女の唇が開き、瞳がわずかに見開かれる。
「エンジェル…」
低く繰り返し、響きを確かめるように。
直感が心を震わせる。
「もし…彼なら?」
ヴァルダはしばし立ち止まり、過去の思い出と現在の謎の間に身を委ねる。
海風がそっと窓から入り、銀の髪をなで、カーテンを揺らす。
目を閉じ、静かな息を吐く。
「もし本当に君なら、小さなエルフよ…必ず見つける。そして今度は私が守る番だ。」
月の穏やかな光の下、ヴォルタの王女は横たわり、海のささやきに思考を委ねる――運命は静かに、忘れられた再会の糸を紡ぎ直していた。




