チャプター33 ― 戦闘は激化した。
俺は動かず、大太刀を握り締めたまま立っていた。
ルドヴァーンと髭の男が、演劇的な冷静さで物語を語る。
その空気が、背筋を凍らせる。
ヴァイオレット、ブランシュ、エスターは俺の後ろに立ち、沈黙を守っているが、ブランシュの周囲には緊張が張り詰め、彼女は「牢獄」という言葉に反応して一瞬硬直した。
ルドヴァーンが一歩前に出る。深い蒼の瞳が、鋭く俺を射抜く。
「よく聞け、始める――。
私の隣にいるこの二人の男は、秘密の秩序に属している。
その名は、お前たちの安全のために明かせぬ。」
俺は目を細め、警戒を強める。
「……それで、俺を驚かせるつもりか?」と皮肉めいて問う。
彼は微笑むことなく、容赦なく続ける。
「この秩序は、原初の大悪魔リリスの血を持つ者を探している――」
俺は眉をひそめ、情報を頭の中で整理しようとする。
髭の男が手を広げ、足元の凍った魔物たちを指差して説明する。
「リリスの七人の娘の子孫だ。」
ヴァイオレットは小さく声を漏らし、一歩後退する。
ブランシュは緊張で体を硬直させ、目は言葉一つ一つを分析している。
頬は冷たく、しかしわずかに赤みを帯びた。
ルドヴァーンは低く鋭い声で続ける。
「この生物たち……わかるか?
リリスの七人の娘の子孫の血が、これほどの業を可能にしたのだ。」
俺は凍った怪物たちを見回し、その言葉の重さを感じる。
ヴァイオレットの拳はラピエールに強く握りつけられているが、沈黙したままだ。
俺の反応を待っているのだ。
「続けろ。時間は限られている、物語を聞く余裕はない。」
歯を食いしばりながら言う。
ルドヴァーンは頭をわずかに下げ、ほとんど敬意を表すように続けた。
「かつて、秩序の偉大なる指導者の一人――名前は未だ知られぬ――が、非常に特別な子供を見つけた。
紫の瞳と白髪のエルフ……少し――エンジェルに似ていた、と私は思う。」
俺は歯を食いしばり、すぐに返す。
「偶然だろう。」
だが彼は動じず、冷静に語り続ける。
「その子は、リリスの血と完全に相関する唯一の血を持っていた。
彼らはその血を用いて、魔界を創造し、昨日見たサイクロプス・ドラゴンのような恐ろしい生物を設計した。」
背後でブランシュが硬直し、目に一瞬の陰が差す。
「牢獄」という言葉が彼女の記憶を刺激し、冷静な表情の奥で痛みがよぎる。
顔を少し背けるが、目は凍った怪物たちを離さず、細部まで分析している。
ルドヴァーンは教授のように言葉をまとめる。
「だが、その子は秩序の牢獄から消えた。そこにいた何千もの子供たちとともに。
誰も、彼がどうやって脱出したのか、どこにいるのか知らない。」
俺は沈黙し、目をそらせなかった。
言葉の重さが圧し掛かる。
俺は何も言わず、視線だけを凍りついた魔物たちに向けたまま動かなかった。
胸の奥に、じわりと重たいものが沈んでいく。
理解は追いついているはずなのに、感情だけがわずかに遅れてくる。
脅威は明白だが、まだその一部しか見ていないことも感じる。
ブランシュは冷たい表情のまま、ラピエールを強く握る。
目には怒りと尊敬が入り混じる。
ヴァイオレットは小さくため息をつき、エスターは目を見開いたままだ。
俺は大太刀をさらに強く握り締める。
「よし、承知した。では、俺たちに何を期待しているのか、正確に言え……おとぎ話は聞きたくない。」
二人は短く目を合わせ、俺が続きに値するか評価するかのように静止している。
その場に留まるだけで、一歩踏み出すごとに重さを感じるほどだ。
数秒の沈黙。重く、厳粛な空気。
周囲の凍った生物たちは太陽の光にかすかに輝き、これが始まりに過ぎないことを示している。
俺はヴァイオレット、ブランシュ、エスターの数メートル後ろに立ち、大太刀を構えたまま、場面を観察する。
ルドヴァーンが説明を終え、次に何をするつもりか尋ねようとしたその時、背筋にぞくりとした感覚が走る。
七つの女性の姿が現れた。
背が高く、引き締まった体躯。
黒いマントが軽く揺れ、フードが顔を覆う。
冷たく圧倒的な気配が漂う中、一人が際立っていた。
より高く、威厳ある姿。わずかに紫の瞳が俺を見据え、魂まで貫くようだった。
彼女はゆっくり前に進み、澄んだ氷のような声を放つ。
「親愛なるルドヴァーンさん、
我らの友人に非常に秘密な情報を明かしてしまいましたね?」
ルドヴァーンは眉をひそめ、素早く振り返る。
「……あなたは、誰だ?」
俺は薄く笑みを浮かべる。
「悪夢を見せてやれる女性たちだ」と、落ち着いて答え、大太刀を手で揺らす。
その後の戦闘は、精密で迅速、そして圧倒的な緊張感の中で繰り広げられる。
ルドヴァーンは必死に応戦し、しかし女性の指揮するチームリーダーの動きは完璧で、速度も精度も圧倒的だ。
ヴァイオレットが小声で囁く。
「……エンジェルくん、すごい……完璧すぎて怖いけど、憧れちゃう……」
俺は彼女をちらりと見て、恐怖と賞賛が混じる紫の瞳を確認した。
ブランシュは冷静だが、わずかな瞬きで各動作を評価している。
ルドヴァーンはわずかな隙を突くが、チームリーダーは神業のようにかわし、反撃を重ねる。
火花が散り、金属がきしむ。俺は距離を取り、分析しつつ、大太刀を構え続ける。
ヴァイオレットは動けず、エスターは目を輝かせ、ブランシュは冷静に観察。
俺とエリーだけが互いに笑みを交わし、この戦いの格を理解していた。
戦闘は続く。
チームリーダーの攻撃は、ルドヴァーンの防御を次第に圧迫する。彼の腕や肩が叩かれるたびに、金属が軋む音が響き、ルドヴァーンの表情にも疲労が浮かぶ。
「……ふん、ルドヴァーン……もう手に負えないな?」と俺は小声で呟く。半分は自分に、半分は状況を確認するために。
ルドヴァーンは息を切らし、筋肉を緊張させながらも攻撃姿勢を維持する。
しかし、攻撃の精度は次第に落ち、チームリーダーは一歩も譲らず、流れるような動きで攻撃と回避を繰り返す。
「敵を侮ってはいけないわ」とブランシュが低く、冷たい声で俺に忠告する。
「もし何かあれば、後ろの者たちを守れ。」
俺は頷き、大太刀をさらに強く握り締める。視線はチームリーダーとルドヴァーンに釘付けだ。
戦いの緊張が、空気を切り裂くかのように張り詰めている。
エリーが隣で、少し前のめりに観察しながら小さく笑う。
「見ろ、エンジェル、力だけじゃない。これが本当の熟練だ。全て計算されている。」
ヴァイオレットは少し離れた場所で立ち尽くし、驚きと畏怖が入り混じった表情をしている。
「どうして……どうしてこんなに正確なの……?」と、息を詰めるように呟く。
エスターも言葉を発さず、瞳を輝かせて戦いを見守る。
ルドヴァーンが最後の力を振り絞り、無理やり攻撃を仕掛ける。
だがチームリーダーは一瞬の隙も見逃さず、素早くかわし、反撃の一撃を与える。
ルドヴァーンはバランスを崩し、重く床に倒れ込む。
その瞬間、彼の周囲にいた髭の男も一歩後退し、明らかに苛立ちを隠せずにいる。
「ふん……弱いな、ルドヴァーン」とチームリーダーは冷たく言い放つ。
その表情には、軽蔑と冷徹さが入り混じる。
ルドヴァーンは何とか体を起こし、俺たちに向き直る。
「これは……さよならではない……また戻る……」
チームリーダーは黙ったまま、満足そうな視線を俺に向ける。
その目には、冷たさと計算された敬意が混ざっていた。
そして、彼女はゆっくりと俺とエリーの方を見た。
フードの影に隠れていても、わずかに表れる瞳の輝きが変化したのを感じる。
微かな優しさ、そして尊敬の色――それが隠されながらも確かに伝わってくる。
「若き勇者たち……」と低く、しかし力強い声で俺たちに語りかける。
「三つの塔の中心にある大きな建物に来なさい。お話をしましょう。」
言葉を止め、計算された光を宿す瞳で俺たちを見つめる。
俺は何も言わず、その場に立ち尽くしていた。
「ただし、その前に、エルフの少年さん。持っているものを手放すこと。」
俺はすぐに理解した。手にしているアーティファクトのことだ。
「……ああ」と単調に呟き、言われた通りに投げ放つ。
球体は天高く舞い上がり、海上で爆発する。
衝撃波が町に吹き荒れ、強風を巻き起こす。
しかし、建物や人々には一切の被害がない。
「エンジェルくん! もう、最悪!」とヴァイオレットが怒鳴る。
エスターは歯を鳴らして呆れる。
「何してるのよ、真面目に!」
俺は笑みを浮かべる。
小さな勝ち誇ったような笑み。タイミングの良さに満足している。
ブランシュは冷たい笑みを零す。
「ふふ……すごいわ、エンジェルくん。相変わらずね。」
そして、チームリーダーも澄んだ、深い笑い声をあげた。
「はははは! 変わらないね、天使くん!」
俺はその瞳と一瞬見つめ合う。
フードで隠れていても、笑いの真摯さと静かな尊敬が感じられた。
七つのシルエットは、夕暮れの空に向かってゆっくりと消えていった。
霧と紫の光の渦に吸い込まれるように、姿を消す。
「さて……次の約束だな」と俺はエリーに肩をすくめて言う。
「覚悟はできてるか?」と彼は微笑む。
荒れた海を見つめながら、爆発後の余波を感じている。
ヴァイオレットはまだ憤慨し、エスターは少し安心したように息をつく。
ブランシュは相変わらず冷静で、しかしどこか優しげな表情も見せる。
俺は不思議な感覚に包まれつつも、戦いの余韻に満ちた空気の中で、静かにその場に立っていた。




