チャプター28 ― 何もかもが狂う前の、ささやかな散歩。
僕たちはゆったりと中心街の駅に向かって歩いていた。
だが、大きな石畳の広場に一歩足を踏み入れた途端、空気が一変した。
そこにいた通行人や市民はすぐに一礼し、顔を真っ赤にする者、目をそらす者もいた。
三人の姫が揃っただけで、周囲の人々は息をのんだ。
「わあ…」エスターはマントを直しながら小さく呟く。
「みんな、すごく緊張してるわね。」
ヴァイオレットは真っ直ぐ立ち、頬を赤らめたまま小さく頭を下げる。
「こ、こんにちは…えっと…良い一日をお過ごしください…」
ブランシュは僕の隣で、氷のように冷たい瞳を向けながらも動じない。
周囲の羨望の視線にも微動だにせず、ただ僕だけに集中しているのを感じる。
(ここに…私の天使…完璧…ずっと守る…)
思わず小さくため息をつき、ヴァイオレットに耳元で囁く。
「ねえ…そんなに赤くなって儀礼モードはやめてくれ。僕は今、ただ食べたいだけなんだ。」
ヴァイオレットはさらに赤面し、少し僕に体を寄せて、声を詰まらせながら答える。
「エンジェルくん!そんなこと言えるわけないでしょ!人々が…あの…えっと…」
「落ち着け」僕は手を上げて苦笑する。
「ただの食事だよ。王室の行列じゃない。」
エリーは後ろで笑い声をあげる。
「本当だな!こんな美女に囲まれて、注目の的になったら俺だって赤面するぜ。」
エスターも僕を見てくすくす笑う。
「でも、エンジェル…あなたって…なんていうか…完璧すぎて恥ずかしいくらいね。」
僕は肩をすくめ、髪をかき上げる。
「まあ、褒めてくれてありがとう…でも今は…ピザが食べたいだけなんだ。」
ブランシュは横目で僕を見つめ、頬にわずかに紅が差していた。
それでも冷静さは崩さず、声は礼儀正しく冷たく響く。
「では、エンジェルくん…今日訪れたいのは、この街ですか?」
(彼の一言一言……動作の一つ一つ……愛しい……見てほしい…私の存在を感じてほしい…私の天使…私はここにいる…)
「ああ、そうだ。」僕は小さく微笑みながら答える。「さあ、ビギー・ピザズに行こう。」
ヴァイオレットは小さく息を詰めて叫ぶ。
「ビギー・ピザズ?!今…?!」
「そう。今だ。お腹が空いてるんだ、それだけ。」
エリーは大笑いする。
「エンジェル、姫様に囲まれ、注目の的になっても変わらないな。いつだって食べ物が最優先だ。」
エスターも頭を振って笑う。
「さあ行きましょう。でも、またあなたの笑顔でみんなをとろけさせるんでしょうね。」
ブランシュは僕にゆっくり視線を向け、冷静な表情を保ちながら、軽く頭を下げる。
「分かりました…でも、ずっとそばにいます。たとえピザのことしか考えていなくても、私はあなたを守ります。」
(うん…たくさんの賞賛や視線…でも私は…ただそばにいるだけでいい…私の天使…)
僕たちは中心街に向かって歩き続ける。
人々は依然として感心し、赤面したり、三人の姫に敬意を表したりしている。
しかし、僕の頭の中はただモッツァレラとブラウニーのことでいっぱいだった。
いつもの大きな橋を渡り、陽の光が水面に反射し、街全体が穏やかに見える。
人々は忙しく動いているが、何も問題はないように思えた。
だが、少し先に少し奇妙な集団を見つけたとき、僕は微かに笑った。
背の高い男たちが十人ほど、黒いフードに身を包み、僕らのそばでじっと立っている。
ほぼ同じ背丈で、その妙に真剣な様子に、僕は思わず微笑んだ。
「ふむ…真剣そうだな」僕はエリーに囁きながら小さく笑う。
エリーは悪戯っぽく笑い、僕を見つめる。
「真剣?それとも、ただフードを被ってカッコつけてるだけ?」
「たぶん、映画の悪役ごっこだろうな」僕は吹き出す。
ヴァイオレットは眉を少しひそめるが、主に興味深そうに見ている。
「ちょっと怪しいけど…でも心配するほどじゃないでしょ?」
「まあ、遠くから見ておこう。すぐにヒーローごっこをする必要はない」エリーは答える。
エスターは腕を組み、二人の少年たちを叱る。
「いい加減にして!何かあったら笑えないわよ!」
「はいはい、わかったよ、エスター」エリーは手を上げ、茶目っ気のある笑みを浮かべる。
ブランシュは僕の隣で軽く眉をひそめるが、普段通りの冷たい表情を保つ。彼女の視線は一瞬僕に向けられ、微かな心配を感じる。
(危なさはなさそう…でも、私は油断しない。私の天使…どんな時でも守る…)
僕はヴァイオレットをチラリと見る。
彼女は半分楽しそうで、半分興味津々な表情だ。
僕は思う。
まあ、大したことじゃない。
ただピザに行くまでの小さな笑い話だ。
「さあ、行こう」僕は笑顔で囁く。
「向こうを通り抜けて、くだらないフードごっこは放っておこう。僕はピザが食べたいんだ。」
「そうね、エンジェルくん…」ヴァイオレットは控えめに微笑む。
「警戒はしつつも、先に進もう。」
こうして僕たちは橋を渡り続ける。
緊張は消え、軽い雰囲気が広がり、エリーの小さな笑い声や僕のフードに対する冗談が、楽しげに響いた。




