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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第3部 — 賑わう王都の中の天使。
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チャプター22 ― 自尊心を傷つけられた貴族。

翌朝、太陽がようやく昇り始めた頃、私たちはヴォルタ王立アカデミーの大きな門の前に立っていた。

風は穏やかで、桜の甘い香りを運んでくる。

淡いピンクの花びらがゆっくりと舞い、石畳や威厳ある英雄像の上に静かに降り積もった。


右手には、一人の戦士が剣を空に掲げ、挑戦的な表情で立っている。

左手には、厳しい視線の魔法使いが入口を見守るかのように佇んでいた。

通りは完全に左右対称で、整然と剪定された樹木と花壇が並ぶ。


でも、私…エンジェル…は全く気にしていなかった。

手をポケットに突っ込み、静かに歩きながら、隣で話すエリーとヴァイオレットの声に耳を傾けた。


「今日、抜き打ちテストとかあると思う?」

不安げな顔でエリーが聞く。


「毎朝そう言ってるじゃない、エリー。」

ヴァイオレットは紫と白の制服を整えながら、ため息をついた。


「でもいつか当たるんだ!」

誇らしげに彼は答える。


「その日が来たら、おそらく世界の終わりね。」

ヴァイオレットは皮肉な笑みを浮かべる。


私は小さく笑った。


「二人とも、毎回口喧嘩ばかりで、挨拶代わりなのかと思うよ。」


エリーは不満そうにふくれた。


「俺?俺は喧嘩なんかしない!相手がいつも挑発してくるんだ!」


「私?」

ヴァイオレットは眉を上げる。

「昨日化学室で『火事だ!』って叫んだの、誰か思い出す?」


「あれは実験だ!」

エリーが抗議する。


「ふーん。で、三面の壁と先生を紫に塗り替えたのがその実験ってわけか。」

私は笑いながら付け加えた。


ヴァイオレットは指で口元を覆い、くすくす笑う。


「ほらね?エンジェルくんも馬鹿げてると思ってる。」


「エンジェルは優しすぎて、面と向かって言えないんだよ。」

エリーがふくれた顔で返す。


私は二人の小競り合いを眺めながら笑った。

こういう朝は、すべてのことを忘れさせてくれる。

誰かの視線や、私の名前を囁く声、昨日見たあの奇妙なシルエットさえも。


ヴァイオレットが突然、他の像より大きな銀の鎧を着た女性の像を見上げた。


「あれ…リザンドル将軍よね?」


「そう。」

私は無関心に答える。

ヴォルタ軍を率いた初の女性で、単身でテリアントロープの侵略を阻止したと伝えられる。


「歴史に詳しいの?」

驚いた様子でエリーが尋ねる。


「少しだけ。」

私は肩をすくめる。

「でも像にはあまり興味ない。いつも同じ話しかしてないから。」


ヴァイオレットは、理由を探るような視線で私を見る。


「同じ話?」


「英雄たちの犠牲、勝利、栄光の理想…でも失ったものや、石像になる前に感じた感情のことは誰も語らない。」


ヴァイオレットは数秒間黙って、私の顔を見つめる。


「まるで本当に知っているかのようね。」


私は目をそらし、微笑むふりをした。


「少し理解しすぎているだけかも。」


エリーは両手を空に上げる。


「また“朝の哲学モード”に戻ったな、エンジェル。」


「放っておいて、たまには正しいことも言うんだから。」

ヴァイオレットは静かに言う。


「“たまに”?!」

エリーは憤慨したふりをする。

「俺はいつも真面目すぎると言うんだ!」


私は微笑む。


「エリー、たまには真面目になったら?」


「ありえない!」

彼は指を差す。

「みんなが真面目になったら、誰がヴァイオレットを笑わせるんだ?」


ヴァイオレットは視線をそらし、頬を赤らめた。


「エリーのせいで笑ってるわけじゃない…」


「じゃあ誰のせい?」


「……」

一瞬、私の方を見ると、すぐに我に返る。


「自分自身のおかげ!」

誇らしげに言い放つ。


エリーは笑い出す。


「もちろんだ、プリンセス・ヴァイオレット、もちろん。」


私たちはついにアカデミーの大門をくぐった。

朝の光が金とガラスの敷石に反射する。

学生たちが話し、鳥がさえずる。すべては平穏に見えた。


しかし、心の奥には不思議な感覚が残った。

今日の一日…

きっと違う。

静けさが完璧すぎるとき、嵐の前触れであることが多い…そして、今回はまさにそれだった。


大門をくぐるや否や、異様な光景が目に入った。

黒い制服の男子たちが群れを作り、正門の前に集まっている。

まるで習慣的な現象のように、集団を成していた。


私は眉を上げた。


「…またか。」


ヴァイオレットはため息をつき、すでに呆れた様子。


「そう…またね。今週七度目よ。」


エリーは笑い出す。


「エスター・デ・セレスティア…伝説そのものだ。氷の心、天使の顔。そして拒絶率100%。」


私は苦笑する。


「かわいそうに、もう同情するよ。」


群衆の中心に、エスターは背筋を伸ばして立つ。

長く少しカールした金髪が朝日に輝き、青い瞳は冷たく澄んでいる。


その前に、一人の背の高い男が進み出る。

名前はイヴァン・デ・ルイネス。

整えられた金髪、整った制服、完璧な手袋。

彼のすべてから、練習し準備してきた自信が伝わってくる。


「エスター・デ・セレスティア!」

彼の声は大きく、群衆の全員に届く。


ざわめきが広がる。


「私は…初めてこう言うわけじゃないけど、誰も君に真剣に言ったことはない。初めて見た日から、君が特別だとわかっていた。君の佇まい、優雅さ、視線…ヴォルタにふさわしい女性だ。そして、私、ルイネス家のイヴァンは、心と全てを捧げたい。」


一瞬の沈黙。鳥の声も止まるほど。


エリーは小声で呟く。


「まるで王の前で求婚してるみたいだ…」


「そして断られるんだ、同じ尊厳で。」

私は冷静に返す。


エスターは微動だにせず、ただ冷たく澄んだ視線を送る。


「言葉はありがたいですが、関心ありません。」

彼女の声は平坦で正確。反論の余地はない。


イヴァンは誇りを傷つけられたように、ぎこちなく微笑む。


「君は率直だ…いいことだ。しかし、私の意図がわからなかったのか。真剣だ、エスター。私は—」


彼が一歩近づこうとした瞬間、エスターは鋭く一歩後ろに下がる。


「理解済みです。すでに答えました。」

声はさらに冷たく、鋭さを増す。


しかしイヴァンは諦めず、手をエスターの手に絡めたまま、群衆の中で立ち尽くす。

彼女は静かに耐え、手を握り返すこともせず、微動だにしない。


ヴァイオレットは隣で眉をひそめる。


「やばい…このままだと危険かも。エンジェルくん、君は—」


「…エンジェルくん?」

しかし、私はすでに姿を消していた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


僕はすでにイヴァンの背後に立っていた。

地面に伸びる僕の影は細長く、冷たく、まるで不吉な前触れのようだった。


イヴァンがエスターに拳を振り下ろそうとした瞬間、

僕の手が彼の手首を掴んだ。


「高貴な男っていうのは……女を殴らないんじゃなかったっけ?」


僕の声は……おかしかった。

自分でも分かるほどに。

震えて、歪んで、どこか異界から響くような低い響きを帯びていた。


イヴァンが驚いたように目を見開く。

腕を引こうとするが、僕はわずかに力を込めた。


「離せ。」


彼は歯を食いしばり、さらに引こうとする。

骨がわずかに軋む音が、僕の手の中で伝わった。

周囲から小さなどよめきが起こる。


「聞こえなかったのか。……離せ。」


僕が冷たく言うと、

イヴァンはついにエスターの手を放した。


僕はゆっくりと、イヴァンの手首を解放した。

彼は勢いよく振り返り、怒りに染まった震える手を僕に向ける。


「よくも……よくも俺を脅したな! 貴様、誰に向かって――!」


僕は肩をすくめた。


「いや、それがさ……実はそんなに難しい話じゃなくて――」


「皮肉だ! 馬鹿者!」


「ああ。」


僕はわざとらしく困った顔をしてみせた。


「ごめん。貴族って、言葉をそのまま受け取られるの嫌うんだよな。」


後ろの方で誰かが吹き出した。

一人の生徒が僕を指差す。


「あっ……一年の紫眼エルフじゃん!」


イヴァンが固まった。

信じられないという顔で僕を見つめる。


「な……お前が? お前が一年のガキだと?」


僕は大袈裟に目を見開いて言った。


「違う違う。俺は代々続く漁師なんだ。四十年以上。」


周囲で笑いが爆発する。


「ほら、聞こえなかったのか? さっき言われてただろ?」


イヴァンの顔は真っ赤になり、

今にも湯気が出そうだった。


「もういい! 貴様に決闘を申し込む!! 今この場でだ!!」


僕はため息混じりに言う。


「え、決闘? じゃあついでに釣り勝負でもする?」


だがイヴァンはすでに剣を抜いていた。

研ぎ澄まされた、貴族らしい美しい刃。


空気が一気に張り詰める。


その瞬間、ヴァイオレットが飛び出した。

素早く僕らの間に入り、すでにレイピアを構えていた。


「やめて! イヴァン、いい加減にして!」


「どけ、ヴァイオレット! こいつは俺を侮辱した! 貴族への敬意を叩き込んでやる!」


「相手は一年よ! 本気でやる気?!」


周囲からざわめきが広がる。


僕はそっと手を上げた。


「いいよ、ヴァイオレット。」


彼女は振り返り、震えた声で言う。


「エンジェルくん……やめてよ。まさか受けるつもりじゃ――」


僕は柔らかく笑った。


「ただの訓練みたいなものだよ。貴族様がストレス発散したいって言うなら、付き合うだけ。」


イヴァンは勝ち誇ったように剣を握りしめた。


「では明日の朝、訓練場で――!」


「いや。」


僕は冷たく遮った。


「今日だ。正午。」


その言葉とともに、空気がさらに重くなる。


ヴァイオレットが一歩近づき、声を震わせる。


「エンジェルくん……本気なの……?」


僕は彼女を見なかった。

視線の先には、唇を吊り上げるイヴァンだけがいた。


「正午だ。ここにいる全員、証人になれ。」


僕は身を翻し、その場を離れた。

胸の奥は、不思議なほどに静かだった。


背後から、ヴァイオレットの深いため息と、

エリーの小さなつぶやきが聞こえた。


「あの金髪、終わったな……。」


たぶん、その通りだ。


でも、そのときの僕の頭にあったのはただひとつ。


―貴族ってやつは、弦の張り具合ってものを知らないらしい。

下手に触れば、簡単に“震える”ってことを……。

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