チャプター21 ― あなたは誰ですか?!
僕はエリー、エスター、そしてヴァイオレットと一緒に歩いていた。
午後の日差しが、柔らかく僕の顔を撫でる。
街の景色が、ゆっくりと目の前を流れていく。
一つひとつの建物、路地は、どこか見覚えがありながらも新鮮で、緩やかな坂道、オスマン風のファサード、そして現代的な構造物が美しく調和して混ざり合っていた。
通行人のざわめき、子どもたちの笑い声、商人たちの呼び声――それら全てが、奇妙なほど僕を落ち着かせる街の交響曲のようだった。
「エンジェル!」
エスターが軽く僕の腕を引きながら、いたずらっぽい笑みを浮かべて声をかける。
「見て、この市場!こんなに色と香りが一緒にあるの、見たことある?絶対ないでしょ!」
僕は片方の眉を軽く上げる。
半ば面白がり、半ば無関心な表情で答えた。
「かもしれない…でも、今は静かに見ていたい。」
人混みと露店の間に目を走らせながら、そう答える。
後ろでエリーが笑いながら肩を叩いた。
「相変わらずだな、エンジェル!賑やかな市場の真ん中でも、君は動じない。たまには少し微笑んでみたらどうだ?」
僕は小さく乾いた笑いを漏らし、顔を彼の方に向ける。
「もう、心の中では笑っている。」
少し後方を歩くヴァイオレットは、僕の言葉に微かに笑みを浮かべた。
彼女の視線は、僕の一言一言、仕草のすべてを逃さなかった。
微かな気まずさを感じつつも、僕は何も言わず、落ち着いた足取りで歩き続けた。
「エンジェル!」
再びエスターが叫び、色とりどりの果物の籠を指差す。
「これ、食べてみようよ!街で一番美味しいんだって!」
「うーん…」
僕は軽く肩をすくめる。
「こういうの、食べたことないんだ。」
「わっ!」
左にいるヴァイオレットが、まるで僕の答えを予測していたかのように声を上げる。
「試してみるべきよ!これもヴォルタを体験する一部なの。」
後ろでエリーがくすくす笑う。
「なあ、エンジェル、ここで食べさせたらハマるぞ…そしてヴァイオレット、絶対全部食べさせたいんだろ?」
ヴァイオレットは軽く赤くなり、鞄をぎゅっと抱えながら、冷たくも柔らかい声で答えた。
「戦ったりはしない。ただ、彼が良いものをちゃんと味わえるようにするだけ。」
僕は空を見上げ、微かな笑みを口元に浮かべる。
その冷たい表情と、内に秘めた温かさの対比が面白い。
僕たちは歩き続ける。
ヴォルタの街路が足元を流れるように過ぎていく。
鮮やかな看板、焼きたてのパンと香辛料の匂い、風船を追いかける子どもたちの笑い声――すべてが生きた絵のように僕たちの周囲を彩る。
「エンジェル、あの塔見て!」
エスターが指差すのは、中心街にそびえる三つの大きな塔だった。
「もしよければ、後で頂上からの景色も見せてあげる!すごく綺麗なんだから!」
僕は少しだけ視線を向け、堂々たる塔の姿を見つめる。
「…うん、後で。」
人混みに長く留まるつもりはないが、静かにその景色を楽しむ。
再びエリーが笑い、頭を振る。
「相変わらず謎めいてるな、エンジェル…でも、楽しんでるだろ?」
僕はしばらく黙ったまま、行き交う人々、建物に反射する陽光、遠くに輝く海を目で追う。
そして、ほとんど自分に向かってささやくように言った。
「…うん、面白い。」
ヴァイオレットは再び微かに笑みを浮かべ、エスターは待ちきれない様子で、あらゆる露店、店、街の珍しいものを僕に見せ続ける。
僕たちは穏やかに歩き、次の冒険までの短い安らぎを楽しんでいた。
そして僕は、街の一つひとつの細部、動き、そしてこの稀に訪れる不思議な軽やかさに注意を払いながら歩き続けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その時までは、ただ穏やかな午後だった。
――その瞬間、足元の地面が震えた。
鈍く、暴力的な振動。通行人がよろめき、露店が倒れる。
僕は少し前かがみになり、広場を見渡した。
黒と紫のマナがゆっくりと地面から立ち上り、うねるように漂う。
圧迫感のある異様な気配。
人々は恐怖に駆られ、後ずさりしながら囁き、叫び、時にはつまずいて逃げる者もいる。
ヴァイオレットは瞬時に身を硬くし、手を長いレイピアの柄へ滑らせた。
すぐに飛びかかれる構えだ。
僕とエリーは目を合わせ、互いに少し冷やかすような笑みを浮かべる。
二十秒も経たぬうちに、地面が文字通り裂けた。
巨大な怪物が轟音とともに姿を現す。
朝、列車から見えた黒灰色の煙をまとい、まるで悪夢から飛び出したかのような姿。
一つ目の光が邪悪に輝き、暗い鱗が覆う、サイクロプスとドラゴンを混ぜたような巨体。
思わず口をついた。
「うわあ…ひどい見た目だな!」
後ろでエリーが笑いながら指をさす。
「なんてこった…子ども向けのサイクロプスより、さらにひどい!」
エスターは固まって動けない。目を見開き、言葉も出ない。
ヴァイオレットは弓のように体を張り、太陽に反射するレイピアがきらめく。
僕はそっと包帯を巻いた手を彼女の肩に置き、穏やかに微笑む。
瞬間、彼女の内心は溶け、頬が赤らむ。
小さな緊張した笑いが漏れる。
「はは…はい、エンジェルくん!手が…熱い…!」
息を切らすように、ヴァイオレットはささやく。
僕は微かに首を傾げ、神秘的な笑みを浮かべた。
「もうすぐ来る。」
ヴァイオレットは眉をひそめ、レイピアを握る手を強めながら、興味と期待を滲ませる。
「誰が…来るの?」
僕は軽く笑い、三つの塔を見上げる。
「すぐにわかるさ。」
広場は混乱し、人々は四方八方に逃げる。
だが僕は静かに立ち、怪物が地面から出現する様を見守る。
ヴァイオレットは傍らで、跳びかかる準備をしつつも、その目には溶けるような感情が宿っていた。
恐怖と魅惑、嵐の前の静けさ。
そして、三つの塔から十人ずつ、計三十の女性の姿が優雅に降りてきた。
黒いコートが風になびき、フードが神秘的な顔を縁取る。
その中の一人、明らかに威厳を放つ女性――チーフ――が、僕に目を据える。
その視線は、心臓を跳ね上がらせるほど鋭く、かつ美しい。
「第一陣形、配置!市民を避難させろ!」
彼女の声が広場に響く。
「了解!!!」
他の全員が一斉に応え、目を見張る正確さで市民を安全な距離に押しやる。
チーフはさらに権威ある声で続ける。
「完璧。第二段階、モンスターを包囲せよ!」
七人の女性が瞬時に動き、魔法のバリアを形成する。
黒灰色の煙が怪物の中心に集中し、紫のマナアークが周囲に光を描く。
隣でヴァイオレットは震え、チーフの動きを目で追う。
エスターは手を組み、目を輝かせる。
エリーと僕は笑みを交わし、目の前で展開された力を理解する。
チーフが僕を見つめ、紫の目が不思議な光を放ち、ほのかな悪戯心を帯びて言う。
「さあ、次は私の番…ああ、私のエンジェル、よく見て。」
長剣が紫に光り、流れるような動きで怪物に攻撃を繰り出す。
爆発するマナが大地を揺らし、紫と黒の光が空中に渦を巻く。
三十の女性たちは整列したまま、静かに、しかし堂々と立つ。
市民は拍手し、一部は口を開けたまま。
ヴァイオレットは驚嘆の吐息を漏らす。
「す…すごい…」
エスターは目を見開き、
「素晴らしい…こんな力、初めて見た…!」
エリーと僕はただ微笑む。
言葉はいらない。目の前の光景は、どの学院や兵士でもなし得ない、並外れた力の証明だった。
煙が晴れ、怪物は消え、三十人は広場の中心で静かに集まる。
黒いコートが夕暮れの風に揺れ、まるで空に溶け込むかのようだ。
だがその瞬間、ヴァイオレットが一歩前に出る。
手を差し伸べ、明確で力強い声で叫ぶ。
「待って!あなたたちは誰?!なぜ戦う?!そして…誰のために?!」
広場は凍りつき、ささやきも止む。
チーフ、最も優雅で堂々たる女性が立ち止まる。
ゆっくりと顔を上げ、紫の瞳が夕日を映す。
一歩踏み出し、ヒールの音が響き、フードを上げ、金の髪を少し見せる。
「私たちが誰か…」
声は柔らかく、ほとんど旋律のように響き、だが自然な権威を帯びている。
「今は…あまり重要ではない。」
風が塔の間を吹き抜ける。
彼女の視線が僕に向かい、長く、ほとんど長すぎるほど見つめる。
優しくも熱い眼差しに、僕は一瞬目をそらす。
「ただ…」
声は震え、計り知れない感情を含む。
「私たちは…一種の…集団。」
口元に秘密を隠す微笑み。
「世界を漂う集団だ。」
その言葉とともにフードを閉じ、手を空に上げる。
三十の女性たちは一斉に宙へ飛び立った。
黒と銀のコートが夕日に照らされ、完璧なハーモニーで舞う。
市民は見上げ、祈り、または驚きの声を漏らす。
僕は目を離せず、ヴァイオレットは小声で繰り返す。
「世界を漂う…集団?」
エリーは笑みを浮かべ、
「今日から世界が、もっと面白くなる気がするな。」
エスターはうっとりとささやく。
「力強くて…美しい…」
僕は心の中で微笑む。
誰だか、正確にわかっていた。
水曜日の夜、21時
月は柔らかくヴォルタの空に輝き、そして私…ヴァイオレット・デ・ヴォルタは、眠れずにいる。
いつものように、この静かなページに逃げ込む。私の秘密、私の唯一の相談相手――日記。
今日…今日という一日は、狂おしいほど非日常だった。
そう、“狂おしい”――その言葉以外に適切なものはない。
朝の薄明かりとともに始まった。胸の奥が熱く、早く彼に会いたくてたまらなかった。
エンジェル――名前を書くたびに、胸が締めつけられ、同時に光で満たされる。
朝食の準備に一時間も費やした――チョコレートミルク、パン、シリアル、そして…彼が愛してやまないブラウニー。
口にした瞬間、あの瞳の輝き――柔らかな光――忘れられない。
時間を止め、この瞬間を永遠にしたいと心から願った。
もちろん言わなかったけれど、ひとつひとつの材料、ひとつひとつの手の動き…すべて、彼を想って、彼のために。
午前中…あの不気味な煙。
黒と赤の柱が空に伸び、まるで予兆のように。
恐怖もあった。でも、私は頭を高く保った――プリンセスとして、決して震えてはいけない。
その瞬間、何か重大なことが起ころうとしているのを、肌で感じた。
空から舞い降りた女性たち――煙を瞬く間に制するため、完璧な調和で動く神々のような姿。
その存在感…馴染み深い気配。まるで、エンジェルやエリーに縁のある者たちのようだった。
そして…エスター。セレスティアのプリンセス。
ああ、この子は嵐そのもの。自分が世界の中心だと信じて疑わない。
あの少年を辱める様子…私でさえ恥ずかしくなるほど。でも、認めざるを得ない。彼女は強烈な個性の持ち主。
エンジェルは平然としていた。授業中でも、彼は彼女をきちんと正した。思わず笑いそうになった。
そしてエリー…ああ、エリー。
憎らしいほど自由奔放。でも、そのおかげで場の空気は和らぐ。
剣術の授業中、彼は愚かな冗談ばかりで、ついには教師まで微笑んだ。
そのせいで私の心は軽やかに――そして、またエンジェルを思い出させられた。
午後が訪れる。
最も狂おしく、最も恐ろしく、でも――最も美しい瞬間。
あの怪物――サイクロプスと竜が混ざった異形が市場に現れる。
人々は恐怖で叫び、逃げ惑う。
でもエンジェルは…微動だにせず、ただ微笑み、私の肩に手を置く。
その温もりに、全身が溶けるようだった。永遠にこの瞬間が続けばいいと願った。
そして…あの姿たちが現れた。
天から降りる黒い天使の群れ、三十の女性たち。
その統率者…ああ、その存在感、視線、声…眩しく、威厳に満ち、女神のよう。
心がざわめく――純粋な憧れ。私がいつかなりたい姿そのもの。
強く、優雅で、尊敬され、そして…自由。
しかし、彼女がエンジェルを見る瞬間、私は理解した。
あの瞳に映るものは…崇拝。燃える忠誠心。
「放浪のグループ」と名乗るその集団…その名はまだ頭から離れない。
彼女たちは一体何者?なぜエンジェルは、知りすぎているのに黙っている?
ともかく、私は彼女のようになりたい。
自分のためだけではなく、あの小さな紫の瞳の少年のために。
八歳の頃、私を救い、ひと目で全ての恐怖を消してくれたあの子のために。
今日も、知らず知らず、私の心を照らしている。
どこへ向かうのかはわからない。
でも確かなこと――今日という日が、私の人生の分岐点になった。
そして、ヴァイオレット・デ・ヴォルタとして、私はその光に従う。
たとえ、焦げつくような痛みが待っていようとも。
記録終了。




