チャプター20 ― 活気あふれる街への散策。
授業のチャイムが鳴り、講義の終了を告げた。
時計を見ると、まだ16時で、予定より少し早い。
私は荷物をまとめ、本やノートを鞄にしまいながら、ただこれから何を食べようかと考えていた。
教室を出ようとしたその瞬間、慌ただしい足音が私の視線を引いた。
そこにはエスターが立っていた。
腕を組み、頬をわずかに赤らめ、緑の瞳でじっと私を見つめている。
「紫の瞳のエルフ…」彼女は少し震える声で、しかし毅然とした口調で言った。
「あの、さっきのこと…謝りたくて!」
私は肩をすくめ、冷たく無関心な視線を返す。
「分かった。どうでもいい。」私は淡々と答えた。
「ただピザを食べに行きたいだけだ。」
その言葉を聞いた途端、彼女の目が一瞬で輝いた。まるで魔法の言葉を聞いたかのように。
「ピザ?!あの…ビギー・ピザズ’のこと?」彼女は喜びのあまり跳ね上がりそうになった。
私は無表情で頷く。
「ああ。」
エスターは一歩前に出て、両手を合わせてほとんど懇願するようにして、目を輝かせた。
「じゃあ…お願い、一緒に連れて行って!お金は私が払うから!」
私は疑いの目で彼女を見つめる。
小さく震える声と決意の混ざった態度、誇り高くも可愛らしいそのしつこさが、少しだけ心を揺さぶった。
「本当に払うのか?」私は眉を上げて尋ねる。
「もちろん!絶対に!」彼女は元気よく跳ねる。
「ただあの有名なピザを一緒に食べたいだけなの!」
私は軽くため息をつき、唇の端にかすかな笑みを浮かべる。
「分かった。でも、もし文句を言ったら倍払ってもらうぞ。」
エスターは楽しそうに頭を下げ、目を輝かせる。
「約束!ああ、ありがとう、ありがとう!」
私は鞄を手に取り、出口へ向かう。
エスターは笑顔を浮かべながら私の後を小走りでついてきた。
まるで天使のように輝くその姿。
階段を下りながら、私は彼女の眩しいほどのエネルギーと、自分の冷静さとの対比に気づかずにはいられなかった。
だが、奇妙なことに…それが不快ではなかった。
「ねぇ、」エスターが私の横で歩きながら言う。
「さっき、私…あなたの隣に座れるなんて思わなかった…」
彼女は少し言葉を詰まらせ、顔を赤らめる。
「…問題なく座れるなんて。」
私は目を上に向ける。
「じゃあ、ピザの間はおとなしくしてろ。」
「一番おとなしくするわ!」彼女は跳ねるように答えた。
エリーなら、きっとこの光景を見て笑うだろう。
しかし今は、私とエスターの二人だけで、午後の爽やかな空気の中、ビギー・ピザズ’へ向かって歩いていた。
アカデミーの門を出ると、後ろから聞き慣れた笑い声が響く。
振り向くと、ヴァイオレットとエリーが、いたずらっぽい足取りで歩いてきた。
先ほど教室での出来事を知っているのは明らかだ。
「で…」エリーが口元に笑みを浮かべて言った。
「紫の瞳のエルフ、またやったか?」
外見は冷静なヴァイオレットだが、内心では沸き立つ気持ちを抑えつつ腕を組み、氷のような視線を私に向けた…その唇は少しだけ微笑んでいた。
「大胆ね、まったく…」彼女の声は穏やかだが、好奇心と楽しみが滲んでいた。
私は思わず、乾いた笑いを漏らす。
—「まあ…俺の席が欲しいなら、奪ってみろ。」肩をすくめ、無関心を装った。
エスターは隣で真っ赤になり、手を少し強く握る。
「な…なによ…」彼女は言葉にならず、うまく口にできなかった。
エリーは手を叩き、大笑いする。
「よし!これで全てクリアだな。街に行く準備はできたか?」
列車は穏やかに動き出し、巨大な鉄道用水道橋の上を慎重に渡っていく。
橋の下には深い谷と小川が広がり、街並みは遠くまで見渡せる。
窓の外に広がる町は、近代建築とオスマン様式の建物が調和して並び、その先には午後四時三十分の陽光を浴びてきらめく海が広がっていた。
僕は左の窓際の席に座り、いつものように街の景色をじっと見つめる。
鉄道用水道橋の鉄骨が影を落とし、下を流れる川の水面に光が反射するさまが、まるで生きているかのように揺れている。
遠くの丘陵や建物の屋根、そして列車の影が織りなす風景を、一瞬一瞬、心に刻むように眺めていた。
「お腹空いてるでしょ!」エリーが茶目っ気たっぷりに言い、エスターに意味ありげな視線を送る。
「すごくお腹空いてる!」少し恥ずかしそうに答えるエスター。
私は微笑みを浮かべ、騒がしい中の楽しさをひそかに味わった。
ヴァイオレットは静かに私を観察し続ける。
その目の動きは微細だが誰も見抜けない。
列車は街と海を見下ろしながら進む。
私は窓側の左席に座り、いつものように景色に目を吸い込まれる。
ヴァイオレットは前に座り、時折私を気にする視線を送る。
エスターは右側に座り、腕を組み、景色を見ながら少し苛立ちと好奇心を混ぜた表情を浮かべる。
エリーはヴァイオレットの隣に座り、いたずらの準備を始める。
「ねぇ、エンジェル、ずっと街を眺めるつもり?少し話さない?」エスターがいたずらっぽく言う。
「眺めてるだけさ。景色が面白い。」私は無関心を装い、淡々と答える。
ヴァイオレットは私を直接見ずに、後ろから低く言った。
「面白い?ヴォルタの全てが面白いけど、紫の瞳ほどじゃないわ…」
エリーは笑い、エスターにウィンクする。
「ああ、やっぱり彼女、俺の紫の瞳のエルフを狙ってるな。」
エスターは顔を真っ赤にして、肩を軽く叩く。
「ちょ、違うんだから!」
「ああ、本当か?」私は眉を上げ、微笑みを浮かべる。「ヴァイオレットがここ数日してることにそっくりだな。」
ヴァイオレットは座席で少し体をひねり、冷たい視線と柔らかい微笑みを同時に向ける。
「勘違いしないで、私は大切なエルフの安全を守ってるだけよ…」内心の興奮を隠しつつ柔らかく言う。
エリーはさらに大笑いする。
「エンジェルに夢中だな?やっぱりお前たちをペアにして正解だった!」
エスターは首を振りつつも頬は真っ赤。
「違う…でも…少しは…でも簡単には逃がさない!」
私は外の景色、街と海を見つめ、周囲の騒がしさを楽しませておいた。奇妙だが…少し面白いのだ。
ヴァイオレットは低めの声で、しかし毅然と続ける。
「エンジェルくん、このあたりの街は市場が一番賑やかよ。希望なら最高のカフェも案内するわ…」
「最高のカフェか…」私は考え込みながら繰り返す。
「今朝のブラウニーと同じくらい美味しいか見てみよう。」
エスターは興奮して叫ぶ。
「ねぇ!ピザのあとにアイス食べに行こうよ!」
エリーは皮肉っぽく笑う。
「アイスとブラウニーで、完全に骨抜きにするつもりか?」
ヴァイオレットは何も言わないが、微笑みを浮かべ、心の中で思いを巡らせる。
列車は街と海を見下ろしながら進む。
私はその景色を静かに楽しみつつ、仲間たちの会話と茶目っ気を聞きながら座っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
列車はついに中心街の停車駅で静かに止まった。
扉が開き、密集した人々が流れ込むが、通行に十分な空間は残されていた。
目の前には三本の巨大な塔がそびえ立ち、それぞれ高さ百五十メートル近くあり、まるで無言の守護者のように中心街を見下ろしている。
陽光が塔の金属とガラスの反射を照らし、下の賑やかな広場には影と光の美しい模様が広がっていた。
「わあ…本当に高い…」
エスターは口を開けたまま呟き、その瞳は塔の頂上まで吸い込まれるように追いかけていた。
「見事ね」
ヴァイオレットは落ち着いた声で付け加え、目を塔の頂上に据えたまま言った。
「しかも、塔と塔の間隔も完璧…今朝立った市場のためにあるようね」
いたずらっぽくエリーが笑った。
「そうだな、紫の瞳を持つエルフの目がなければ、迷子になるぞ!」
僕は眉をわずかに寄せたが、沈黙を守りつつ市場の様子を観察した。
まだ設置途中の露店、朝の混雑の後に商品を整理する商人たち。色鮮やかな布、果物や野菜のかご、手作りの装飾品、さまざまな薬草のポーションが陽光を受けて輝く。
香辛料や焼きたてのパンの匂いが街の空気に混ざって漂っていた。
エスターは興奮した様子で一歩前に出た。
「ピザの前に全部の店を見て回りたい!ぜーんぶ味見するの!」
「待って、プリンセス。あちこちに散らばらないように気をつけないと」
ヴァイオレットは落ち着いた声で注意しつつ、目を僕から離さなかった。
エリーは笑い声を上げる。
「いつでも自分の天使を見守る準備万端だな?」
ヴァイオレットは彼に向かって顔を向け、眉をひそめつつも微笑みを浮かべる。
「誤解しないで…」
だが僕には彼女の考えが手に取るように分かった。
僕は制服のポケットに手を入れ、のんびりと歩きながら露店を眺める。
通行人はヴァイオレットやエスターに興味を持ちつつも、僕の天使のような存在感に目を奪われ、ちらりとしか見ない。
「エンジェルくん、この店見て!」
エスターが赤い果物のかごを指さして叫ぶ。
「すごく美味しそう!」
「ふむ…」
僕は立ち止まらず、ただ眺める。
ヴァイオレットは柔らかくも厳しく言った。
「味見するなら、手早く、目立たないように」
エリーは後ろでくすくす笑う。
「本当に手に負えないな…」
三本の塔は威厳に満ちてそびえ、僕たちが市場の広場を進むたびに見守るかのようだ。
活気、色彩、香りが相まって、ほとんど魔法のような雰囲気を醸し出している。
僕は現代的な塔と市場の素朴な露店との対比に、しばし目を奪われた。
「エンジェル、こっちのポーションも見て!」
エスターが僕の腕を軽く引く。
僕は静かにため息をつき、数メートル引きずられる。
ヴァイオレットは黙ったまま僕を観察し、その存在に完全に引き込まれている。
エリーは相変わらず僕たちをからかい、散歩をさらに賑やかにした。
市場、塔、人々の喧騒が生きた絵画のように広がる中、僕は前方の道に集中し、この散歩を楽しんだ。
とはいえ、ヴァイオレットもエスターも一瞬たりとも僕を放してはくれないだろう。
塔の頂上、風が七つの黒いフードをほんのり揺らす。
遠くからでも、何か視線を感じる気がした。だが、気のせいだろう。
細いマントが足に軽く当たり、かすかに音を立てる。
七人の女性の影が、市場の広場を見下ろしていた。
人ひとり、動き、人物を、すべてを監視するように。
その中でも最も威厳のある、いわゆるリーダーがゆっくりと黒手袋の手を胸にあて、震える声で口を開いた。
「あああ…見て!あの白髪のエルフを!」
指を差し、広場を歩くエルフに目を輝かせる。
その声が遠くから届いたような気がしたが、振り向くことはなかった。
「完璧じゃない?」
残りの六人も前かがみに視線を送る。
目が光っていた。
「本当に…人間の中の天使ね!」
リーダーはほとんど恍惚に近い笑みを浮かべ、囁く。
「こんな美しい存在、見たことない…」
別の一人は手を合わせ、頬をほんのり赤く染めて続ける。
リーダーはうなずき、抑えた笑いを漏らす。
「完璧、完璧、完璧!」
また強調するように繰り返し、まだ歩くエルフを見つめる。
「夢に描いた通り…いや、それ以上ね!」
「仕草さえも…」
人が囁き、興奮を抑えきれない。
「どうしてこんなに自然で優雅なの?」
別の一人は軽く笑いながら言う。
「歩き方、髪、紫の瞳…もう…とろけちゃう!」
リーダーは片方の眉を上げ、部下たちの感情の昂ぶりに微笑む。
「皆、集中しなさい!」
厳格な口調で、しかし視線はまだエルフに釘付け。
「この広場の危険は待ってくれない。守るべき人々がいる…でも…」
声が柔らかくなり、ため息をつく。
「少し、この景色を楽しんでもいいわね。」
「はい…少しだけ…」
別の一人が胸に手を当て、静かに答える。
「完璧すぎる…」
また一人がエルフを見つめて呟く。
リーダーは小さく首を振り、皮肉な笑みを浮かべる。
「真剣な状況でも、彼は私たちを夢中にさせる…」
「夢中?!」
人が神経質に笑う。
「もう私たちは完全に夢中…!」
「気を散らさないこと!」
リーダーは念を押すが、目には楽しげな光が宿る。
「でも…そこにいるだけで…」
別の一人が言葉を詰まらせる。
「そう…あそこに…」
リーダーが小さくため息をつく。
「エンジェル…私たちの小さな天使…」
その名前に、遠くから自分が見られていることを、かすかに感じた。
七人全員がうなずく。
軍人のような真剣さと、全幅の崇拝心が混ざった表情。
塔の頂上で、危険は迫るものの、
エンジェルの姿はその距離にもかかわらず、完全に彼女たちの心を捕えていた。
「介入の準備を…」
リーダーが断固とした口調で告げる。
「だが忘れるな…彼は完璧。いかなるものも、絶対に――我らの崇拝を乱してはならないのだ。」
小さな笑い声が、厳しさと混ざり合い、
塔の上に奇妙で魅惑的な雰囲気を作り出していた。




