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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第3部 — 賑わう王都の中の天使。
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チャプター18 ― エスター・デ・セレスティア。

私はエリーとヴァイオレットの横をゆったりと歩きながら、移動の喧騒が過ぎ去った後の静けさをまだ楽しんでいた。

そのとき、アカデミーへと続く大通りの数メートル先で、人だかりが目に入った。

少年たちの小さな群れがざわつき、囁き合い、赤面する者や手を挙げて見物する者もいた。


眉をひそめた。

「また、何が起こってるんだ?」


エリーはため息をつく。

「またか…朝からの騒動か。」


ヴァイオレットは、少し楽しげな微笑みを浮かべた。

「ふふ…分かるわ、見てごらんなさい。」


円の中央に、一人の少女が立っていた。あごをわずかに上げ、気取らずとも気品漂う立ち姿。

長い金髪は、太ももまで届く二つのツインテールにまとめられ、後ろ髪は自然に垂れ、緑色の瞳は柔らかさと自信を宿して輝いている。

制服は周囲の者たちよりわずかに整えられており、その立ち姿から王族の矜持を感じさせた。


私は小さく呟く。

「まるでおとぎ話のヒロインみたいだ。」


ヴァイオレットは笑った。

「当然よ。あの子はセレスティアのプリンセス、エスター姫。セレスティア王の次女よ。」


私は驚き、彼女に向き直った。

「第二のプリンセス…ここに?」


エリーは目を上げ、呆れたように言う。

「また昼休みに混乱を巻き起こす子か…」


ヴァイオレットはくすくす笑った。

「その通りよ。月曜日に着任して、もう今週だけで六度も告白を受けているの。」


私は眉を上げ、単調な口調で言った。

「今日は水曜日だろ。」


ヴァイオレットは半ば呆れ、半ば感心したように頷く。

「そうよ。全員、王女らしい毅然とした態度で断られたの。」


私は首をかく。

「面白くなりそうだな。」


円の中で、少年が一歩前に出た。小さな箱を両手に握り、震える手で差し出す。赤く染まった顔から、彼の覚悟が伝わってくる。


大きく息を吸った。

「セレスティアのエスター姫!歓迎式でお目にかかって以来、私は…眠れません!あなたの優雅さ、麗しさ、そして光…私の人生に降り注ぐ太陽のようです!どうか、お願いです!一度だけでもお会いする機会をください!私は姫を学園で一番幸せな女性にすることを誓います!」


群衆の中に沈黙が訪れた。息を呑む少年たち、囁く者、驚嘆の声。

「すごい勇気だ…」

「即、粉砕されるな…」


エスターはそっと瞬きをし、微笑みを浮かべる。ゆっくりと少年に近づくその姿に、少年は一瞬、受け入れてもらえるのではと錯覚する。しかし、彼女の声は柔らかくも鋭く、刃のように響いた。


「あなたのような、愛を利益と混同する男子とは付き合いません。」


群衆の間にざわめきが走る。


彼女は容赦なく続けた。

「そして『おとぎ話の姫』として見ている者ともね。」


一歩後退し、優雅に腕を組む。

「姫との恋を夢見るなら、小説を読めばいいわ。私に近づきたいなら、まず背筋を伸ばし、どもらずに話すことを学びなさい。」


少年は呆然と立ち尽くし、頬を赤らめる。笑い声が飛び交い、やがて群衆の笑いが爆発する。


私はエリーに小声で囁く。

「痛いな…」


エリーは笑い転げる。

「これぞ見事な社会的処刑。たった十秒で公開処刑完了だ。」


ヴァイオレットは軽く溜息をつきながら、微笑を浮かべる。

「彼女はいつもこう。もはや日常の見世物ね。」


私は肩をすくめる。

「典型的だな。プリンセスへの公開告白、冷たく断られる少年、群衆が笑う…まるで恋愛小説の一幕だ。」


エリーはくすくす笑った。

「だが、その小説なら、最後には少年がヒーローになって姫を救う。ここの少年は学期末まで尊厳を失ったままだ。」


ヴァイオレットは考え込むように見つめた。

「月曜日は騎士見習い。火曜日は貴族の息子。今朝は画家。そして今…」


彼女は頭を垂れて逃げる少年を指差す。

「…将来トラウマを抱えるわね。」


私は吹き出した。

「水曜日なのに、もう六回目?」


ヴァイオレットは笑いながら頷く。

「そう。彼女、記録を塗り替えてる。」


プリンセスは優雅に鞄を拾い、群衆に向けて告げる。

「次に告白するなら、せめて個性のある人でお願いしたいわね。」


そして振り返り、長い金髪のツインテールを風にたなびかせながら歩き去った。


エリーは感嘆の声を漏らす。

「おお、度胸があるな。」


私はヴァイオレットを見る。

「彼女、いつもああなのかしら?」


ヴァイオレットは眉を上げる。

「いいえ。演じていると思う。でも、あまりにも楽しんでいる役ね。」


私は微笑む。

「興味深い。皮肉で心を掌握するプリンセス…面白い概念だ。」


エリーはクスクス笑う。

「気をつけろ、エンジェル。聞かれたら、今週の七人目かもな。」


私は目を回す。

「面白い冗談だな。」


ヴァイオレットは笑いを堪える。

「でも、エンジェルくんほどカリスマのある人を侮辱する勇気はないと思う。」


私は半分困り、半分楽しみながら答える。

「お世辞を続けると、私も罠にかけようとしてるんじゃないかと疑いそうだ。」


エリーは再び笑う。

「さあ、行こう。長居するとプリンセスに潰されるぞ。」


私たちがアカデミーに向かって歩き出すと、生徒たちの囁きがまだ聞こえた。

「すごい…」

「また心を折られた…」

「さすがセレスティアの氷のプリンセス…」


私は静かに微笑む。

そう、この世界には色彩豊かな人物が尽きることはない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


午後もかなり進み、私は静かに1-A教室へと続く階段を上っていた。

そこは一年生のトップクラスが集まる教室だ。廊下から聞こえるざわめきが、穏やかな空気のリズムを刻む。

エリーとヴァイオレットはそれぞれ二年生の授業に出ており、私は今日初めて…一人の時間を手に入れた。


教室に入ると、広々として明るく、大きな窓から学園の庭が見える。机はきちんと整列し、ワックスの香りと新しい紙の匂いが混ざり合って漂っていた。

私は一番奥、右側の席に腰を下ろす。

窓際に近く、空を眺めながら、歴史の授業でヴォルタ王国の栄光の過去について長々と語られるのをぼんやり聞くには最適な場所だ。


荷物を置き、窓から差し込む光を眺めていると、突然ドアが開いた。


教室にはほとんど即座に沈黙が訪れた。

高いヒールの音が床を鳴らし、豪華な衣の擦れる音が続く。


私は顔を上げた。


入ってきたのは…エスター。セレスティアの金髪のプリンセスだ。


金色の髪は二本の長いツインテールにまとめられ、歩くたびに優雅に揺れる。

姿勢は真っ直ぐ、歩き方も洗練されている…そのすべてが高貴さを物語っていた。

周囲の生徒たちは自然と目を伏せるか、背筋を伸ばす。

午前中の“パフォーマンス”にまだ魅了されたのか、男子たちは囁き合っている。


彼女は中央の通路で立ち止まり、周囲を見回し、そして緑色の瞳を私に向けた。


その視線が一瞬下に向けられ、また私の顔へ戻る。


かすかな微笑みが唇に浮かぶ。


「ふむ…」と、彼女は軽く声をかけた。

「紫の瞳のエルフね。」


私は眉を上げる。

「…え?」


彼女はゆっくり近づく。その足音が床に軽く響く。


「この席…」と手で私の座席を指しながら言う。

「私の指定席なの。窓際よ。だから…親切にして、譲ってくれない?」


私は冷静に見返す。

「あなたの指定席?」


「そうよ」と自信たっぷりに微笑む。

「セレスティアのプリンセスとしての、ね。」


教室の生徒たちは息を潜める。

囁き声が聞こえる。

「あのエルフ、立つんじゃないか…」

「もちろん!プリンセスには誰も逆らえない…」


私は視線を外し、ノートを取り出す。まるで彼女の存在を無視するかのように。


しばらくの沈黙の後、彼女の微笑みは消えた。

指先で机を軽く叩く。


「ねぇ!分かってないんじゃない?」と、少し強めの声で告げる。

「この席は私のもの。どいてちょうだい。」


私はゆっくりと書き続け、無関心を装う。


「ねぇ、聞いてるの?!」


ちらりと視線を上げる。

「はい。」


「じゃあ、なんで動かないの?」


「ここが心地いいから。」


冷たい沈黙が教室に広がる。咳をする生徒の音が聞こえる。


エスターは拳を握る。

「言ったでしょ、この席を譲るって!命令よ!」


私は小さく息を吐き、振り向く。

「命令?あなたから?」


「もちろんよ!何だと思って—」


私は冷静だが鋭く遮った。

「その席、パパが買ってくれたの?」


彼女の瞳が見開かれる。

「え…何?」


私はわずかに頭を傾け、かすかな笑みを浮かべる。

「その席をパパが買ったのかどうか、聞いてるだけ。」


周囲の生徒たちは驚きの視線を交わす。

「…あのエルフ、あんなふうに話すの?」

「狂ってる…」


エスターは言葉を失い、まるで私の言葉に打たれたかのように固まった。

「違うわ、当然よ!私もみんなと同じく登録してるの!」


私は落ち着いて頷く。

「それなら問題なし。」


ペンを取り、静かに日付を書き込む。


エスターは立ち尽くし、頬を少し赤らめ、口元を震わせながらも言葉が出ない。


「私が誰だか…分かってないのね?」と、ようやく震える声で言った。


「分かってるよ」と私は簡潔に答える。

「王族の肩書きだけで我が物顔に振る舞う、すっかり甘やかされたプリンセスだってこと。」


教室の片隅から小さな笑いが漏れ、すぐに抑えられる。


エスターは急に振り返り、その方向に殺気立った視線を向ける。


私は続ける。

「でもね、ここアカデミーでは、肩書きは意味を持たない。重要なのは実力だけ。だから、この席が欲しいなら…自分の力で勝ち取ってみなさい。」


エスターは答えられず、硬直する。


そして腕を組み、私のすぐ左隣の席にドスンと座り—ほとんど演劇的な仕草で—窓の方を向いてふくれる。


周囲の生徒たちは口をつぐみ、静かに私を見守る。尊敬と少しの不安が入り混じった視線だ。


やがて、教室にささやきが走る。

「彼…エスター・プリンセスに逆らったぞ。」


私は椅子の背もたれに寄りかかり、ため息をつく。


授業はまだ始まっていないのに、すでに外交戦争を引き起こしてしまった。


しかし心の奥で、私は思わず笑みを浮かべていた。

今回だけは、プリンセスが最後の言葉を持たなかったのだから。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


エスターが勢いよく席に腰を下ろした気配が、横から伝わってきた。

木製の椅子がきしむ音がして、教室の空気が一瞬だけ張りつめる。


怒っている——それは見なくてもわかる。

頬の赤み、乱れた呼吸、そして周囲の生徒たちがひそひそと囁く声。

だが彼女にはもう、そのざわめきは届いていないようだった。


彼女は黙ったままだった。

――なのに、その内側の声だけが、はっきりと聞こえた気がした。


(くっ…あの男、何様のつもりなの? あんな取るに足らないエルフが…!)


彼女の心の中に渦巻く苛立ちが、こちらにまで刺さるほど強い。

ノートに線を引きながら、端で拳を握りしめる気配を感じる。


(冷たく拒絶するだって?! 私が…セレスティアのプリンセス、エスターだっていうのに?! ハハハハハ!)


抑えきれない笑いを必死に閉じ込めているのがわかる。

そのかすかな震えは、俺のノートの紙をめくる音でさえ消してしまいそうなほど小さい。


(笑わせないで! この無礼、後悔させてやるわ! アハハハハ! 誰に話しているか教えてあげる!)


右側から、刺すような視線を感じる。

わざと無視して、俺はいつも通り淡々と書き続けた。

ただ光の差しこむ窓を見ていただけなのに、それが彼女をさらに刺激するのだろう。


ふと視線を向けると、彼女の瞳がこちらを射抜いていた。

その瞬間、エスターは小さく息を呑む。


(ちっ…でも…それでも…このエルフは…

 この顔…今まで見たことがない…)


眉がかすかに動いたのを横目で捉える。


(まるで…天使だ。エルフの身体を持つ天使…)


そんなことを思われているとは、さすがに予想できない。

彼女の心臓が跳ねたような気配が、なぜかこちらまで伝わってきた。


(うわあああ! 信じられない! どうして世界のすべての男の中で、彼が私をこんな立場に…!)


ブロンドの髪をいじる癖が出ている。

緊張している証拠だ。


(馬鹿げてる。ただの無口で傲慢なエルフ…そう、ただそれだけ。

 特別なところなんて、何もない。)


そう思い込もうとしているように見えた。

だが何度も俺の方へ視線が戻ってくる。

ページをめくる音に、窓の光に、紫の瞳に——彼女が引き寄せられていく気配。


気付かれないように覗き込んでくるので、顔を上げて視線を合わせた。


エスターの肩が跳ねる。

頬がみるみる赤く染まった。


— 「……君が見ていたんだろ?」


俺がそう言うと、彼女は言葉をもつらせた。


— 「わ、私? ち、違うわ! ただ…窓を見ていただけ! そう、窓を見てただけ!」


その反応に、思わず小さく笑ってしまう。

本当に、素直じゃない。


するとその笑みが、彼女をさらにかき乱す。


(その笑顔! ああ! あの美しい笑顔!

 私を侮辱した後で、よくもあんな笑みを…!

 終わりよ! 絶対にあの笑顔を引っ込めさせてやる!)


怒りの熱がぶつかってくるが、それとは裏腹に——

数秒も経たないうちに、また視線が俺へ吸い寄せられる。


(…不公平だわ。あの笑顔まで完璧なんて…)


腕を机に置き、顔は窓に向けているのに、視線だけは俺に縫いとめられている。


王族としての誇りが彼女を支えているのに、心の奥底では別の声が震えている。


(どうして…どうして私は彼を憎めないの?

 どうして心が、これほどまでに彼を求めるの?)


彼女のその揺れが、ノート越しにでもわかるほど近かった。

……気のせいだ。

そう結論づけて、俺は思考を切り離した。

そして俺は、その乱れた心に触れながら、何も言わずに静かにペンを動かし続けた。

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