チャプター15.2 ― ヴォルタの夕陽の下で。
二十分後、私たちはようやくレストランを出た。
満腹で、少しだらしなく緩んだ笑顔を浮かべながら。
カウンターの向こうで、ダフネー大きく手を振って見送ってくれる。
「いつでも来てね、特にエンジェルくん!」とウィンクしながら叫ぶ。
私は控えめに頭を下げて応えた。その横でエリーが口を開く。
「約束するよ、また来るさ!でも今度はエンジェルが払う番だな!」
ヘレナは笑いを漏らし、ヴァイオレットはゆっくりとエリーの方を向いた。
その視線は冷たく、まるで王女の権威そのもののように空気を切り裂く。
「私の前で彼に何かを払わせるなんて、論外よ。」
落ち着いた声でそう言い放つ。
エリーは少し身を乗り出し、ふざけた調子で答える。
「おや?王女様、天使にご褒美をあげたいのか?」
ヘレナは弟の腕を軽く掴む。
「ほら、もういい加減にしなさい。そろそろ遅くなるわ。」
確かに、ヴォルタの空は黄昏の紫とオレンジに染まり、街灯が少しずつ点灯し、石畳に黄金色の光を落としている。
中心街はまだ笑い声や音楽で賑わっていたが、私たちはすでに駅へ向かって歩き出した。
ヴァイオレットはフードをかぶり、ほとんど影に隠れるように静かに歩く。
誰にも気づかれず、私――エンジェル――を見つめ続けている。
ヘレナはエリーと話しながら、ピザが以前より美味しくなったことを笑顔で語る。私はその間、ヴァイオレットの視線が一歩ごとに私を追っているのを感じていた。
「駅はもうすぐだ。」エリーが遠くの大きなガラス屋根を指しながら言う。
「それならよかった。」ヘレナは微笑みながら答えた。
「だいぶ涼しくなってきたわね。」
「皆さん、学寮の方に住んでるんですか?」ヴァイオレットが計算された柔らかい声で尋ねる。
「そうよ。」ヘレナ。
「私たちは東公園の近くにいるわ。あなたは?」
「王族棟、北棟です。」ヴァイオレットはためらいなく答える。
「でも電車での距離は同じよ。」
エリーがくすくす笑う。
「ほほう…偶然ってわけか?」
ヴァイオレットは肩をすくめ、無関心を装うが、口元がわずかに動いた。
「もしかしたら…運命かもしれない。」落ち着いた声で囁く。
ヘレナは少し驚いたように彼女を見つめ、やがて微笑む。
「まるで学園の巫女みたいな話し方ね。」
「…もしかしたら、そうかもしれない。」ヴァイオレットは私にさりげなく視線を送った。
私たちはプラットホームに到着する。
遠くで急行列車がレールを震わせながら通り過ぎる。
夕方の風がそよぎ、ヴァイオレットの銀髪とヘレナの茶髪を揺らす。
一瞬の静寂のあと、エリーが雰囲気を破る。
「よし、恋人たち、乗るか?」
「エリー…黙って。」ヘレナは軽く肘で突く。
私は返事せずに車両に乗り込む。その背後で、ヴァイオレットがかすかに声を漏らす。
「いつか、もう電車に乗るんじゃなくて…同じ道を一緒に歩くの。」
答えは返さなかった。しかし、帰りの道中、彼女の視線が私の首筋を焼くように感じられた。
列車が静かに停まり、金属の扉が軽くシューッと開く。
私たちは乗り込む。
広々とした車両は磨かれた鉄と明るい木目で作られ、黄昏の光に包まれている。
大きな窓からは都市全体が一望でき、金と銅の海のように広がっていた。
私は窓側の左の席に座る。柔らかく、ほんのり暖かい椅子。
ヴァイオレットはすぐに隣に座り、背筋を伸ばし、穏やかに…少なくとも見た目は。
ヘレナは向かい側で笑い、エリーは腕を組んで隣に沈み込む。
列車が動き出し、金属製の高架橋の上を滑るように進む。
眼下に広がるヴォルタの街は、並木道とハウスマン建築の屋根、ガラスの塔、さらに遠くには橙色と紫に染まる海。
「…綺麗ね。」ヘレナは窓に額を寄せ、そっと呟く。
「相変わらず詩的だな、姉さん。」エリーがため息交じりに言う。
「あまり言わないけど…見て、この夕日…」彼女は夢見るように続ける。
「うん…確かに綺麗だ。」私は淡々と答えた。
隣のヴァイオレットは私の方を向き、目をわずかに見開く。
私の言葉が何かを彼女の中で点火したかのように。
「…綺麗だと思う、エンジェルくん?」彼女は小さな震えを伴い、優しく尋ねる。
「うん。ここには…穏やかさがある。」
彼女は深く息を吸い、手を胸に置く。
「穏やか…」小さな声で繰り返し、唇に微笑みが浮かぶ。
ヘレナは黙ってその様子を楽しみながら言う。
「王女様、新しい“穏やか”の定義を発見したみたいね。」
ヴァイオレットは表情を変えず、頬だけが夕日の反射で赤く染まる。
「ねぇ、ヘレナ姉さん、景色を楽しむ方が先じゃない?」
「ええ、楽しんでるわ。」ヘレナは小さく笑い、列車、この光、この景色…そしてようやく伴侶を見つけた私の愛しい弟を感じながら。
エリーがくすっと笑う。
「“伴侶”って、王女様の執着表現にしては優しすぎるな。」
「エリー、黙れ。」ヴァイオレットは冷たく、礼儀正しい口調で言う。
彼は手を挙げて大笑いする。
「おお、王女の刃が空気を切った!」
私はわずかに視線を外し、景色を眺める。眼下の街は海へとゆっくりと広がり、光が徐々に灯り、都市の塔が紫の空を映す。
ヴァイオレットは私の視線に合わせる。
「綺麗でしょ、エンジェルくん?これがヴォルタの首都の全貌よ。」柔らかく、ほとんど優しい声で。
「本当に美しい。」私は答える。
「ええ…こんなに美しい夜は初めて。」彼女は小さく、自分自身に言うように囁く。
列車は静かに進み続ける。
ヘレナは海を眺め、エリーは軽く鼻歌を歌い、ヴァイオレットは私を見つめ続ける。胸は高鳴り、手はスカートを握りしめ、永遠にこの光景を焼き付けようとしているかのように。
外は海がきらめき、内は静けさの中に微かな緊張が漂う。現実と王女の執着する心臓の鼓動の間に、時間が止まったかのように。
列車はゆっくり減速し、金属のブレーキが軽くシューッと鳴る。
私たちは中央駅で降り、学寮と王族棟の建物が立ち並ぶ広大な敷地へ。
黄昏に染まる街、窓は星のように輝き、闇の中で都市の輪郭を描く。
「さて、今夜はここでお別れだな。」エリーは鞄を肩に掛けながら言う。
ヘレナは頷き、私の腕を軽く引いて東の方へ、エリーと共有するアパートへ向かう。石畳が足音に反響し、疲労と今日の興奮が混ざる感覚。
「じゃあ、また明日。」ヘレナは微笑みながら私に視線を滑らせる。
私は軽く頷いた。エリーはいつもの悪戯っぽい顔で、賑やかな通りを見回す。
その間、ヴァイオレットは北へ向かい、フードを被り、静けさを装いながら足早に歩く。
振り返り、私の姿を探し、今日の終わりに私を追い続ける。
心の中で、彼女は考えていた。
――明日、また会う…私は彼のそばにいたい、紫の瞳を見たい、声を聞きたい…大好き、大好きすぎる!離れる時間が永遠のように感じる…
黄昏はさらに深く首都を染め、私たちの道が分かれる中、静かな約束が空気に漂った。
明日、再び会う。
そしてヴァイオレットは、誰にも私の天使から離れさせないだろう。
親愛なる日記へ。
今日という日は、ほかのどんな日よりも強く、私の心に刻みつけられるわ…。
今朝の二年生と一年生の顔合わせからすべてが始まったの。
そして――あの人がいた。
私のエンジェルが。
目が合って、彼が微笑んでくれたの。ただ、それだけ。
それだけなのに、私の心は歓喜と崇拝で爆発しそうだった。
どうしてあんなに完璧でいられるの…?
エリーたちの前では平静を装ったけれど、心の中ではもう崩れ落ちて、燃えて、震えて…全部彼のために。
それから、初めての電車の旅!
東の空に沈む夕陽、どこまでも広がる大きな首都、並ぶハウスマン風の建物と現代建築、川、海…。
そして――私の隣にいる彼。
動かないのに、どうしてあんなにも強くて、神々しくて…白い髪がふわりと揺れて。
息が止まりそうで、もう彼のことしか考えられなくなって、仕草も、呼吸も、視線も、全部が胸を締めつけるの。
大アリーナも、橋も、市場も…すべてが美しく見えたけれど、エンジェル、私の天使、その姿以上の景色なんて、何ひとつなかった。
そしてビギー・ピザズ! あれはもう事件よ!
エンジェルが人生で初めてピザを味わう瞬間、その瞳がぱっと輝いて…私、正気を失うところだった。
思わず腕を掴んで、世界中のピザを全部プレゼントするって言っちゃった。
ヘレナが来て、親友であり心の姉みたいな存在なのに…それでも私の視線はエンジェルから離れなかった。
帰りの電車でも、ずっと彼を見つめてしまって、胸の奥が燃えるみたいで、彼の動きひとつ、息ひとつに心が揺れ続けた。
日記、私ね…彼のことが大好きなの。
言葉で言い尽くせないほど。
彼のそばで過ごす一瞬一瞬が、永遠に抱きしめておきたくなる宝物なの。
明日もまた会える。
必ずそばにいる。見守るの。守るの。
だって彼は私の天使。
たった一人で、私の命そのものなんだもの。
好き、大好き、どうしようもないくらい…!
ようやく日記を机に置いたけれど、胸はまだドキドキして落ち着かない。
書いた言葉ひとつひとつが、またエンジェルへの幸福と崇拝を蘇らせる…あああ! エンジェル!!!
窓の方へ目をやると、彼の笑顔が浮かんでくる。
夕陽を眺めていたときの横顔、完璧な仕草…もう全部が恋しい。
明日が来てほしくて、胸の奥が熱くてたまらない。
早く会いたい。早く隣にいたい。何度でも。
ベッドに潜り込むと、まだ体が震えている。
頭の中は彼の声、彼の横顔、あの紫の瞳でいっぱい。
目を閉じても、彼がずっと浮かんでくる。
今日のすべての瞬間が。
眠っている間でさえ、きっと彼の夢を見る。
そして朝になって、また彼と一緒にヴォルタの街を歩くの…。
ようやく心が少しだけ静かになってきたけれど、エンジェルへの私の想いは、まだ熱くて、まだ燃えていて――
明日、また私を焦がすのを待っている。




