チャプター14 ― ただの街歩きのひととき。
教室の扉を押し開ける。僕――エンジェル、エルフの僕――廊下に響く授業終わりの生徒たちの喧騒を耳にしながら、ほとんど衝突しそうになって目の前にいたのは、既に出口に立っているエリーだった。あの口元の片方だけ上がった笑み。――いつも、僕の考えていることを完璧に見抜いていることを示す笑み。たとえ僕が認めたくなくても。
「今日の授業はどうだった?」と、軽やかに、まるで何の重要性もないかのように、彼は言った。
僕は天を仰ぎ、頭を振る。しかし、つい微かに口元が緩む。
「昨日と同じさ…」少し冷たく答える。
「授業は退屈だ。で、ヴァイオレットは……僕を、まるで――神の奇跡でも見るかのように見つめ続ける。」
エリーは大きく笑った。
「ああ?姫様?それは光栄だろう?もうすでに一番のファンがいるんじゃないか……ヘレナや他の女子たちの後でな」
僕は少し不機嫌そうに唸る。
「ファンだろうと関係ない。僕は自分に集中するだけだ」
エリーは肩をすくめ、僕の冷淡な態度を面白がる。
「好きにしろ、小さな天使。でも分かってるだろう、彼女はどこにでもついてくる…完全に君に取り憑かれているんだ」
僕はため息をつき、長い白銀の髪を手で払い、夕暮れの風が顔を撫でるのを感じる。返す言葉などない。彼の言葉は正しかった。しかし、それでも歩みを止めず、エリーは無言で僕の後を追う。石畳に足音が柔らかく響き、黄昏の光がヴォルタの街を黄金色に染めていく。
学園の扉を押す。途端に夜風が僕の髪を揺らす。
エリーは既に前に立ち、あの悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「さあ、来いよ。首都を案内してやる!」と、彼は軽快に言った。
僕は眉をひそめ、疲れを押し隠す。
「まじで?一日中授業聞いて疲れきってるんだ。」
エリーは笑い、僕の返答など全く意に介さない様子だ。
「だからこそ!一日中閉じこもってられないだろ!周りを見ろ、街は素晴らしい。まだ何も見ていないに違いない」
僕は目を転がすが、彼は諦めない。
「わかった……でも、ゆっくり行くこと。な?」と呟く。
エリーは笑い、肩を軽く叩く。
「ゆっくり?君にとっては穏やかな散歩だろうな……まあ、俺ができる限りのな。さあ、ついて来い!」
僕はため息をつき、渋々、活気あるヴォルタの街を歩く。
建物はオスマン様式と近未来的な構造が混ざり、夕陽に黄金色に染まる。
学園を出ようとした瞬間、背後から鋭く透き通る女性の叫び声が響いた。
「エンジェルくん!」
振り返ると、白銀の髪を揺らし、全力で走るヴァイオレットの姿があった。
「え……ヴァイオレットさん?」と、エリーは半分驚き、半分呆れた声で言う。
「お願い!私も一緒に行ってもいいですか?エンジェル、街を…首都を案内したいの!見せたいの!」と、息を切らしながらも決意に満ちて、彼女は懇願した。
エリーは笑い、首を振る。
「なんという偶然だ!まさにそれをやろうと思っていたんだ、エンジェル!完璧だ」
僕はいつも通り無言で立っていた。しかしその沈黙には意味がある――承諾のサイン。
「聞いたか、ヴァイオレット?」と、エリーはいたずらっぽく言う。
「君の天使は黙っているが、イエスを意味しているぞ」
ヴァイオレットは激しく赤面し、顔全体に輝く笑顔を浮かべる。小さく、緊張混じりの笑いが続く。
「あははは!ありがとう!本当にありがとう!」と、彼女は身を跳ねさせながら叫ぶ。
「絶対に……絶対に裏切らない!」
「わかった、でも街で迷子になるなよ。」と、僕は少し冷たく言う。内心では微笑んでいたが。
「絶対に!絶対に迷子になんてならない!」と、彼女は溢れんばかりの熱意で答える。
エリーは笑いながら首を振り、先頭に立って駅へと向かう。
「さあ行こう、エンジェル。ヴァイオレットと一緒にヴォルタの最高を見せてやる」
僕たちは列車に乗り込む。ヴァイオレットは僕の隣にすぐ座り、その瞳は興奮で輝いている。僕の一挙手一投足が彼女を捕らえ、彼女の視線は絶えず僕に向けられている。
「エンジェルくん…」と、彼女は小さな声で、ほとんど独り言のように呟く。
「ここで一緒にいられて…本当に嬉しい…」
僕は視線をわずかにそらし、窓の外の街並みを見続ける。エリーは向かいに座り、ヴァイオレットにいたずらっぽく視線を送る。
「さあ、姫様。君の大好きな天使と首都を見に行く準備はいいか?」
「はい!」と、彼女はほとんど狂気じみた熱量で答える。
「全部見せたいの、全部知ってほしいの!」
僕は静かにため息をつく。しかし彼女の表情とその熱意は無視できなかった。列車が動き出し、僕たち三人をヴォルタの中心部へ運ぶ。僕はいつも通り、流れに身を任せる――ヴァイオレットの揺るぎない決意と共に。
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列車はゆっくりと街を見下ろす高架鉄道を進んでいた。僕――エンジェル――は窓の左側、街の東側に広がる景色に目を奪われ、視線を流れる景色に委ねていた。夕日がヴォルタの大都市を橙色と黄金色に染め、起伏や建物の輪郭をまるで神秘的な精度で際立たせている。街路は上り下りを繰り返し、都市全体が生きて呼吸しているかのようだった。
まず目に飛び込んできたのは、整然とした外観に鍛鉄の装飾が施されたバルコニーと、大きな窓を備えたハウスマン様式の建物だった。現代的で巨大な建築物やガラス張りの超高層ビルと対照を成しながら、さまざまな建築様式が絶妙に入り混じっている。その融合は、古典と近代が織りなすほとんど完璧な調和を生み出し、目を奪う景観を作り上げていた。
首都の中心には三つの大塔がそびえ立ち、それぞれ高さはおよそ百〜百五十メートル。頂上は夕日の光を反射し、街を見下ろすかのように堂々たる存在感を放っていた。権威と力の象徴――都市を見守る巨大な目のようだ。
東からは川がのんびりと蛇行し、都市を縫うように流れ、西へ向かって二つの支流に分かれる。橋や埠頭が連なり、商業活動と人々の営みを彩る。首都は果てしなく広がり、その規模と建築の多様性に圧倒される。
心の中で静かに記録する――この都市は大きく美しいだけでなく、独自のアイデンティティを持っていると。古きと新しき、クラシックと現代の微妙なバランス、そして深く生き生きとした息吹。列車の窓を通して、ヴォルタの魂が夕日に呼吸しているのを感じるほどだ。
僕はわずかにヴァイオレットの方に顔を向け、建物や起伏に反射する夕日の光を視界に収めた。
「ヴァイオレットさん…ヴォルタが大きいって言ってたけど…正確にはこの街の面積、知ってる?」僕は落ち着いた声で尋ねたが、好奇心が隠せなかった。
彼女は優しく微笑み、視線は地平線に固定されたまま。
「ああ、エンジェルくん…ヴォルタ王都の面積はおよそ六百五十平方キロメートルよ。広大すぎて…その規模を考えると圧倒されるほど…」
僕は思わず小さく感嘆の声を漏らす。
「六百五十平方キロメートル?!…すごい…想像もつかない、この規模がここから見えるなんて」
ヴァイオレットは小さく笑った、僕の驚きが面白いらしい。
「でも、まだ最高の景色は見せていないわ、エンジェル…」
僕は首をかしげる。
「最高の景色?つまり、この列車からはまだ隠された素晴らしさがあるってこと?」
彼女は神秘的な微笑みで頷く。
「その通りよ。近代的な高層ビル、学園の塔、貴族街…そしてもちろん、川や海がこの街を縁取っているの。もっと近づくと、その迫力はさらに増すわ」
右手側に視線を移すと、海が広がっていた。太陽に照らされ、果てしなく光る水面。下のビーチは混雑していないが、まだ人々が初夏の夕暮れを楽しんでいるのがわかる。
「…美しい…」僕はほとんど独り言のように呟いた。
ヴァイオレットは少し首を傾げ、目にいたずらな光を宿す。
「見て、エンジェル…ここでも海は素晴らしいでしょ。ビーチ、小さな入り江…街と自然が調和しているの」
砂浜を歩く人々、遊ぶ子供たち、ゆったりとくつろぐ人々の姿に目をやる。
「まるで住人たちが自由に安全に過ごせるように設計されているみたいだ…でも、それだけじゃないよね?」
彼女は微笑み、視線を僕に向ける。
「いいえ、全部じゃないわ…もっと近くに行けば、街の秘密がまだたくさんあるの。全部、エンジェルに見せたいの」
僕はゆっくり頷き、彼女の熱意と眼下に広がる景色に見入る。
「なるほど…まだまだヴォルタに圧倒されることになるな…」
ヴァイオレットは柔らかく笑う。
「ああ、まだ何も見ていないわ、天使くん。」
列車の右側に視線を向けると、広がる街の中に、黄金と紫に彩られた巨大な建物が目に入る。ヴォルタ大アリーナだ。
「わあ…」思わず息を漏らす。「…巨大だ。観客席は、数千人を収容できそうだ」
ヴァイオレットは誇らしげで、しかし敬意を込めた微笑みを浮かべる。
「そうよ、エンジェルくん…これがヴォルタの大アリーナ。大規模なイベント、戦闘、学園や王族の競技…すべてここで行われるの。そして、すぐにその理由がわかるわ。」
僕は眉を寄せて建築を見つめる。
「ここからでも、塔や構造の巨大さがわかる…すごいな…で、中は人でいっぱい?」
彼女はゆっくり首を振る。
「今はまだ。でも、大きな大会が始まれば…観客席は満員になり、街全体に熱気が広がるわ」
僕は頷き、東の煌めく海とこの巨大アリーナを交互に見つめる。
「信じられない…街は広大なのに、建物や構造物ひとつひとつが独自の存在感を持っている」
ヴァイオレットは少し身を乗り出し、神秘的な光を目に宿す。
「そして、まだ首都が見せる全ては見ていないわ、私の天使…アリーナは始まりに過ぎないの。広場、市場、古い街区…すべてが印象的で、感嘆させるために作られている」
僕はしばし無言でアリーナを見つめ、その壮大さと緻密な構造に感心する。
「わかった…次が楽しみだ。でも、ヴォルタは街角ごとに驚かせてくれそうだ」
ヴァイオレットは悪戯っぽく微笑む。
「ああ、エンジェルくん…これが始まりに過ぎないわ」
列車を降りると、街の中心部は活動と規模に目を奪われる。エリーはリラックスした様子で僕の隣を歩き、手をポケットに入れている。ヴァイオレットはフードを被り、ほぼ群衆に溶け込むようにして後ろをついてくる。
「わあ…」僕は驚きを隠せず息を漏らす。
「中心部だけでも…百平方キロ以上ありそうだ」
ヴァイオレットは素早く頷き、声に笑みをのせる。
「その通りよ、エンジェルくん…まだ何も見ていないわ。各区画には独自のスタイル、独自の市場、住人がいるの。王国のすべてが集まる場所なの」
エリーは笑いながら僕を見つめる。
「初めて街を見るように周りを見てるな。もっと野生な場所で育ったくせに…」
「そうだけど、これほど整理され、…生き生きした街は初めてだ」僕は歩行者や市場の色彩豊かな屋台を見つめる。「果物、香辛料…そして巨大な建物の数々!」
ヴァイオレットは身を乗り出し、興奮して言う。
「大規模なショッピングモールも見るのよ、エンジェルくん。川沿いに建てられた巨大なモールで、各階の店舗が王国内外の最高を競っているの」
僕たちは川に架かる橋を渡り、僕は思わず足を止め、水面に映る夕日と対岸の活気ある街を見つめた。子供たちが屋台の間を駆け回り、商人が呼び声を上げ、笑い声が荷車や馬車の音と混ざる。
「すごい…」僕は小さく呟く。
「ここだけで何時間も過ごせそうだ」
ヴァイオレットはほとんど狂気じみた笑顔で微笑む。
「そして、全部見せてあげるわ、エンジェルくん。ヴォルタの最高の景色…隅々まで、路地まで、店まで。なぜこの街が特別か、わかるはず」
エリーは笑い、首を振る。
「本当に彼女のペースに合わせるのか、エンジェル?ヴァイオレットはどこへでも連れて行く…夕食前に君は疲れ果てるぞ」
僕は肩をすくめ、微笑みを浮かべる。
「いいさ…でも警戒は怠らない。フード越しでも、見逃すことはない」
ヴァイオレットは柔らかく笑い、興奮でうめくように言う。
「私と一緒なら、ヴォルタの一瞬一瞬が冒険になるわ」
僕たちは中心部を歩き続け、賑やかな広場、市場、広い石畳の大通りを通り、左手に川、右手に壮麗な建物。街角のひとつひとつが物語を語るようで、この一日が始まったばかりであることを実感する。
「エンジェルくん…」ヴァイオレットはフード越しに僕を見上げる。
「すべてを見てほしい…一歩ごとに驚いてほしい…私と一緒に」
僕は眉を上げ、興味と好奇心を混ぜた微笑みを浮かべる。
「仕方ないな、逃げられないか」
彼女は澄んだ笑い声をあげ、街の喧騒に溶け込む。
「もちろんないわ!」
そして僕たちは橋を渡り、中心部の最も賑やかな場所へ――この広大で魅力的な王国を探検する準備を整えた。




