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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第3部 — 賑わう王都の中の天使。
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チャプター12 — 王女の秘めたる策略…

列車がようやく学園の駅に停まった。

扉が開いた瞬間、ひんやりとした朝の風が吹き込み、頬を撫でていく。


僕――エンジェルは静かにホームへ降り立った。

白銀の髪がふわりと揺れ、コートの裾をかすめる。


周囲では学生たちが一斉に降りてきて、

笑い声や足音があちこちから響いた。

誰もが急いでいる。けれど僕だけは、ゆっくりと歩く。

この喧騒が始まる前の、一瞬の静けさが好きだった。


……そして、いつものように感じる。

視線を。

――強く、重く、熱いほどの視線を。


振り返るまでもない。

彼女だ。

……ヴァイオレット・ヴォルタ。


僕はいつも通り、無視する。

だが当然のように――


「――エンジェルっ!」


……静寂は長くは続かない。


顔を上げると、見慣れた笑顔が目に入る。

エリー。いつも通り、うるさい兄貴だ。


人混みをかき分けながら、片手を上げて走ってくる。

黒髪が揺れ、光を弾いていた。


「おっそいぞ! まだ鏡の前で自分に見惚れてたのかと思った!」

と、悪戯っぽく笑う。


僕はため息をつき、淡々と返す。

「おはよう、エリー。相変わらずうるさいね、兄さん。」


「おいおい、“闇の大精霊様”が今日も塩対応かよ!」

エリーは笑いながら肩をすくめた。

「少しくらい笑ってみろよ、エンジェル。朝の光も眩しがるかもしれねぇぞ。」


「……君もその“光”の中の一人だと思うけど。」


「ははっ! それでも俺は輝いてるんだよ。」


僕は苦笑を漏らす。

「そういうことにしておこう。」


エリーは僕の肩を軽く叩く。

「さ、行くぞ。遅刻したら先生たちに“神様は時間を超える”とか言い訳するつもりか?」


「それも悪くないかもね。」


「ははっ、じゃあ神様には掃除当番でもしてもらうか。」


僕は思わず笑った。

「似合ってるよ、君には。」


二人で歩き出す。

すれ違う生徒たちの視線が、自然と僕に集まる。

でも、そんなことにはもう慣れていた。

――ただ、その中に、ひとつだけ異質な視線が混じっている。

燃えるように、震えるように、僕を追い続ける視線。


それでも、僕は歩く。

手をポケットに入れ、何事もないように。


石畳を進み、陽の光に照らされたヴォルタの街が目を覚ます。

鐘の音が遠くで響き、学生たちの声と溶け合う。


エリーの顔に、あの「何かを企んでいる」笑みが浮かんだ。

……嫌な予感しかしない。


「何?」

「ん? 別に~。」


「エリー。」


「ははっ、バレたか。実はな、今日ちょっと面白いことがあるんだ。」


「面白いこと?」


「そう。二年生の恒例行事、“新入生激励ラウンド”。」

「つまり、“指導役ごっこ”だね。」


「そうそう! でな、俺が担当するのは――お前のクラスだ!」


「……は?」

「マジだって! しかも、もう一人一緒に回る子がいるんだ。」


彼はもったいぶるように間を置いて、ニヤリと笑った。

「――ヴァイオレット・ヴォルタ嬢だ。」


僕は眉をひそめた。

「王女様が?」


「そう。しかもな、自分で“あのクラス”を希望したんだと。」


「……偶然だろう。」


「偶然? あははっ、お前マジでそう思ってんのか? どのクラスでも良かったのに、わざわざお前のところを選んだんだぞ? それ、もう恋文レベルだろ!」


「バカ言うな。選択肢がなかっただけだ。」


「いや~、どう見てもあの目は“恋”だ。お前が息するたびに拝んでそうだぞ。」


「くだらない。」


「ふふっ、賭けるか? 俺が正しい方に。」


「くだらない賭けはしない。」


「でも俺、だいたい当たるんだよなぁ。」


僕は小さく笑って首を振る。

「じゃあ、好きに信じればいい。」


「了解、“恋に鈍感な弟”殿。」


彼は笑いながら僕の背を叩いた。

「ほら、今日も注目の的になりそうだぞ。」


――そう言われた矢先。

僕は視線を感じた。

彼女だ。


ヴァイオレット・ヴォルタ。

完璧な微笑みを浮かべ、まっすぐこちらを見る。


「おはようございます、エンジェルくん。」


「……ああ、おはよう。」


「ヴァイオレット、今日も優雅だねぇ~。」とエリーが茶化す。

「“偶然”同じクラス担当なんだって? ねぇ、わざとだろ?」


ヴァイオレットは微笑みを崩さず、静かに言った。

「残念ながら偶然ですわ。他に空いているクラスがなかっただけです。」


僕は無言で目を細める。

――明らかな嘘だ。


心の奥で、彼女の声が響く。


(あははははっ! 嘘よ、嘘っ! 空いてたクラスなんていくらでもあった!

でも私はエンジェルのクラスを選んだの! だって、私の“天使”がそこにいるから!)


エリーは吹き出しそうになりながら、僕に囁いた。

「な? 嘘つくの下手だろ。」


僕は静かに答えた。

「君は本当に騒がしいね。」


「俺は真実を語ってるだけさ。」


「……なら、真実は静かに語るべきだ。」


「ははっ、名言だな。」


ヴァイオレットは軽やかに微笑み、優雅に一礼する。

だがその瞳の奥には、狂おしいほどの執着が宿っていた。


(エンジェル……私の天使……今度こそ、逃がさない。)


僕はため息をつき、空を仰ぐ。

エリーの笑い声が遠くで響く中、僕は歩き出した。

――いつも通り。

何も知らないふりをして。

……今のところは。

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