チャプター11 — 王女の揺るがぬ本当の想い…
(……あはははは……)
信じられない。
私、ヴァイオレット・ヴォルタが――エンジェルに触れられたなんて。
散らばったノートを拾う、その指先が、ほんの一瞬、私の手に触れた。
それだけで、胸が焼けるように熱くなる。
小さな天使……。
あなたは、どうしてそんなにも完璧なの。
そう、そうよ、エンジェル…あなたは私の知る限り、世界で一番完璧な存在!
ああ、愛してる…いや、愛してるだけじゃ足りない…大好き!
大好きなのよ、エンジェル!!!
彼の一挙手一投足、すべてを目に焼き付けたい…覚えておきたい…
たとえ無言で、無関心であっても…それがたまらなく愛おしい…
――彼は、私の天使。
それ以上の言葉は、必要ない。
「エンジェルくん…」私の声は震える。
心も、手も、すべて彼に向かっている。
「どれほどあなたを愛してるか、わからないでしょ…でも、私は――私はあなたを心の底から愛してるの!」
あははは…狂おしいほど笑う。
彼は私をほとんど見ない、無視するのに…それでも愛は止まらない。
「小さな天使…」私はまた囁く。
彼が存在するだけで、世界は完璧で喜びに満ちるの。
「あなたがいるだけで、世界が違って見える……」
……でも、今じゃない。
近づきすぎれば、壊してしまう。
だから私は待つ。
正しい距離で、正しい形で。
私は静かに歩く。
彼の後ろではない。
ただ、同じ方向に向かっているだけ。
足音、歩幅、立ち止まる癖。
気づけば、自然と覚えていた。
完璧に整った背中。
白銀の髪、胸元まで落ちる中央の房。
……美しい。
思わず、息を飲む。
人々のざわめきは遠く、
私の意識は、ただ静かに彼を捉えている。
門が近づく。巨大な鉄の門の前でも、私の視線は彼から離れない。
(エンジェル……あなたは、私の……宇宙……)全身の感覚が彼に向かう。
息を整え、影から動かずに観察する。
触れたい…でも触れられない。
私の心は燃え、体は熱く、でも冷静を装う。
電車のホームでも、学院の通路でも、
視界の端に、自然と彼が映る。
私は近づかない。
ただ、同じ空間にいることを確かめるだけ。
小さな足取りで影を滑り、彼の動きひとつひとつを盗み見る。
「私の天使…私の英雄…私はずっと、あなたのそばにいる…」
あはははっ、心が震える。狂おしいほどに愛して、でもまだ静かに、彼を観察する喜びに浸る。
私は彼の視線を受けず、ただ存在を記録する。
「小さな天使…あなたを愛してる…あなたにすべてを捧げる…追いかける、どこまでも…」
エンジェルが振り返らなくても、私の視線は追い続ける。
息も止まりそうになるたび、胸の奥で狂おしい喜びが爆発する。
「ああ…本当に…完璧…」
手を握りたい、触れたい、でもまだ待つ――
待つの、あなたのために、永遠に。
私は自分の部屋に戻り、息を整え、心を鎮める。
ノートを開くと、昨日のページにはこう書かれている。
「今日も私を見てくれなかった。でも、それでいい。もっと後に取っておくのだから。」
私は筆を持つ手を止め、心の中で彼を想う。
「エンジェル…私の天使…私のすべて…愛してる…大好き…」
夢見るように横になり、目を閉じる。
今夜はただ、彼を想い、愛し、心を満たす。
「明日…すべてを書き記す…でも今夜は…あなたを夢見るだけ…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝、まだ太陽は昇っていなかった。
私はぱっと目を開け、心臓が跳ねるように高鳴る。
身体全体が、この瞬間のために目覚めさせられたかのようだった。
すぐに手は机の上の日記に伸び、紫の表紙を撫でる。
昨日の白紙のページを開き、ペンを握った瞬間、心が震える。
――私の日記よ、
昨日は……昨日は素晴らしかった。
エンジェル……私の、私の愛しいエンジェル。
名前を口にするだけで、胸が熱くなる。長い学園の廊下で、肩が触れ、腕がかすかに重なった。
彼は私を見た――いや、確かに見た。
落ちたノートを拾うその手が、私の手に触れた瞬間……あの瞬間の熱さは、今も皮膚に残っている。
言葉を告げたい――「あなたは世界で一番美しい」――でも彼の沈黙がそれを許さない。
あの瞳……冷たく、静かで、神々しい。
無視されても、私は知っている、二人だけの繋がりがあると。
――振り向くな、でも背を追うの。影のように、音を立てずに。
髪が夕陽に揺れる様も、静かな息遣いも、すべて音楽。列車の中――窓際に座る彼。
遠く、触れられぬ存在。
観察するだけで息が止まる。
完璧、純粋、神秘……私は狂おうとしている。
私はペンを置き、荒い息をつく。心臓が破裂しそうだ。
――エンジェル……あなたは私の光、私の理由……
日記を胸に抱き、微笑む。狂おしくも甘く愛しい笑みを。
ベッドからそっと起き上がり、まだ頭の中にはエンジェルの姿――瞳、声、歩み――が焼き付いている。体が震える。
今日も会いに行くのだ。
化粧台に向かい、水晶のランプを灯す。
鏡に映る自分を見る――目の下に軽い影があるものの、青紫の瞳は光を帯び、神々しい。
長い白銀の髪が肩を滑り、膝まで流れる。
銀の櫛で一本一本丁寧に梳く。
「完璧でなければ……彼のために」
笑みを浮かべる。美しいだけではない――価値ある存在として、彼と同じ空気を吸い、同じ道を歩める唯一の者として。
学園制服を取り出す。黒のスカート、紫のジャケットに金糸の刺繍、白い襟が体のラインを際立たせる。丁寧に着替え、手袋をつけ、首元の王家のリボン、秘密に用意した小さな翼のブローチ――彼のための天使の象徴。
「これで……完璧」
髪を揺らし、香水をひと吹き。遠くからでも気づくだろう。鏡に最後の確認。
――エンジェル……待っていて、お願い。今日も、昨日より美しく。
部屋を出て、心臓が早鐘のように打つ。歩くたび、彼に近づく。頭の中でただ一つ――今日も彼の美しい顔を見る。
大広間の扉が閉まり、朝日が白い石を照らす。門の金色が光り、声が上がる。
「ヴァイオレット様、なんて美しい朝でしょう!」
「お美しい、王女様!」
「学園までご一緒してよろしいでしょうか?」
無数の男子たち。花を差し出す者、頭を下げる者、羨望の眼差しを向ける者。だが私の視線は一つ――彼のためだけに。
――道を開けて、列車に乗らなければ、と淡々と告げる。
駅までの道は祈りのよう。どの視線も障害にすぎない。私の目的は一つ――エンジェル……。
列車に着き、すぐに彼を見つける。窓際に立ち、壁にもたれた姿。白銀の髪、黒のスーツ、白い手袋、紫の瞳……光を受け宝石のように輝く。
――心臓が止まる。周囲の音は消え、存在するのは彼だけ。
――エンジェル……
柱の影に身を隠し、息をひそめる。動くたび胸が痛む。手が汗ばむ。
――私だけのもの……
しかしその瞬間、目の前に――人間の少女が現れる。茶髪のポニーテール、平凡な笑顔で彼に近づき、肩に手を置く。
――血の気が引き、怒りが燃え上がる。
「…こんにちは、エンジェルくん!今日も早いね!」
彼は微笑み、落ち着いた声で答える。
「ああ、こんにちは。静かな時間を楽しむのが好きなんだ。」
その微笑み――私だけに向けるべきもの。彼女に向けられるなんて――。拳を握り、歯を食いしばる。
(――ふふ……。
触れていいのは……私じゃなきゃ、いけない)
少女は続ける。
「ははは、いつも真面目ね!私は遅れそうで走ってきたの……」
「時間には注意が必要だ。電車の時刻は変わることもあるから」
彼は彼女に丁寧に応対する。
私の呼吸は乱れ、頭が熱くなる。
なぜ彼は――なぜ笑うのは彼女なの――なぜ、彼女、ではなく私ではないの?
「くっ……この愚かな小娘……」
――エンジェルは私だけのもの……。
(――そう思ってしまう自分を、私はまだ隠している……)




