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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第2部 — 天使とその崇拝者たち。
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チャプター8 — 久々の温もりに包まれて。

僕――エンジェル――は、心臓の早鐘を打つのを感じながら、その場の入り口を踏み越えた。

だが、目に飛び込んできた光景に、僕はその場で凍りついた。


目の前でアンジェリーナが、腰と胸の両方から僕の体を支えていた。

視線は無意識に自分の身体へ落ちる。

乾いた血に覆われた肌、刻まれた傷跡の一つひとつが、この場所で味わった暴力と恐怖、そして苦痛を呼び起こす。


「エンジェルくん…」

震えた声だが、確かな強さが宿っていた。


言葉を発しようとしても声は出ない。

混乱の中、彼女に抱きかかえられるその安心だけが、かろうじて僕を支えていた。


目を閉じ、深く息を吸い込む。

その瞬間、アンジェリーナの抱擁の温もりが、ほんのわずかに心を落ち着かせる。


後ろを振り返ると、ステラ、ローザ、オーレリア、ルナ、クララ、そしてミアが立っていた。

皆、疲労と敬愛が入り混じった奇妙な表情を浮かべ、僕の体を見つめ、そっと支え、触れながら、心配と静かな献身を瞳に宿している。


胸の奥が重くなって――それでも、どこか安らいでいた。

言葉は出ない。ただアンジェリーナの手を握り、その体温に身を委ねる。


「エンジェルくん…大丈夫?」

ステラがかすかな声で問う。


かろうじて視線を向け、弱くうなずく。

世界はこの瞬間へと縮まり、彼女たちの存在と声だけが僕を包んでいた。


血にまみれ、疲れ果てた体でありながら、愛する者たち、守るべき者たちに囲まれている――それを実感する。


「ここにいるよ…」

ローザが肩にそっと手を置き、ささやいた。


胸に温かい熱が流れ、恐怖も痛みも死の影も、今はもう傍にはない。

久しぶりに、孤独ではないことを思い出した。


「ありがとう…」

声にならない声が漏れる。


アンジェリーナと視線が交わる。

その瞬間、身体を震わせるほどの感情が貫いた。

沈黙が続き、風のざわめきと呼吸だけがそれを破る。


深く息を吸い、アンジェリーナに支えられながら体を起こす。

少女たち一人ひとりを見つめると、言葉がなくても理解できた――これからの試練を共に超えるのだと。


石を踏む足音が響く。視界の奥に、険しい表情をしたエリーが見えた。

だが、どんな時も安心させてくれたあの微笑みが、その微笑みは、彼の顔に確かにあった。


「エンジェル!」

駆け寄りながら叫ぶ。

「大丈夫か? 何があった?」


喉が乾き、唇が震える。

「僕…僕は…」

言葉がつまる。


「落ち着け、リトルエンジェル…」

膝をつき、目を合わせながら言う。

「生きている。それだけで十分なんだ」


アンジェリーナが僕の手を握り直す。

彼女の静かな力がじわりと染み渡り、弱くうなずく。

エリーは周囲を見渡し、少女たちと混乱した状況を確かめた。


「ここで…みんな、何をしている?」

驚きと感嘆の混じった声。


「見つけたの…私が見つけたの…」

アンジェリーナは僕を抱きしめたまま言う。

「こんなに血が…放っておけなかった」


「そうだ!」

ステラが続く。

「助けずにはいられなかった。エンジェルを救ったのは私たち全員。」


エリーは眉を寄せ、やさしく微笑む。

「なるほど…君たちは本当に素晴らしい。七人揃って彼を守ったんだな。」


「エリー…」

ルナが震える声でつぶやく。

「ただ、無事か確かめたかっただけ…」


「そして君はすごい、エンジェル…」

エリーが肩に手を置く。

「こんな状態でも立っている。…本当に感動的だ」


「ふぅ…」

顔が赤くなり、疲れで反論もできず、ただ息を吐く。


「急がないと」

エリーの目が鋭くなる。

「よくやった。でも今すぐここを離れる必要がある」


「同感…」

アンジェリーナが手を握り直す。

「でも…一人で歩かせられない」


「絶対ダメだ!!」

ローザが叫ぶ。

「もう一度触れようものなら……ぶった斬る!」


「君たち…全員、狂ってる…」

苦笑しつつ、小さく微笑む。


エリーはため息をつき、安堵と呆れをにじませて頭を振った。


「さて…準備はいいか? 前へ進むぞ。油断するな」


人の温もりと力を感じ、恐怖と疲労を抱えながらも前へ進む覚悟が生まれる。

僕は、もう一人ではない。


「一緒だ」

エリーの声には希望が宿っていた。

この悪夢を、本当に乗り越えられる気がした。


僕は彼の隣を歩く。

一歩ごとに体は重いが、家に帰る思いが知らぬ力を与えてくれる。

静かな道。

砂利の音と、揺れる木々の風だけが響いた。


体はまだ痛い。

傷は地獄の記憶を呼び起こす。

それでも心の奥には、かすかな光が差し込んでいた。


ついに家の前にたどり着く。

胸の鼓動が高鳴る。

扉をくぐるたび、僕は――少しずつ自分に戻っていく。


エリーが肩に手を置き、共に歩むことを思い出させる。

二人で静かにノックした。


扉はほぼ即座に開き、母が瞳を見開いたまま言葉を失い、強く抱きしめてきた。

温かさに包まれ、膝が折れそうになる。


「ああ、エンジェル! 神様…エンジェル…」

震える声で抱きしめ続ける。


喉が詰まり、言葉は出ない。

ただ腕を回し、胸の鼓動と馴染みの香りを感じる。

幼い頃の安心感が一気に蘇る。


ヘレナが現れる。冷静で強い姉の瞳にも涙が光っていた。

言葉なく抱きしめるその腕は強く、守る力に満ちていた。


「あはは! ようやく…来たね! 僕の小さな天使!!」

笑いは震え、そこに緊張が滲んでいた。


目を閉じ、二人に包まれる。安堵と温もりが満ちていく。

この瞬間の尊さを、初めて深く理解した。


母が少し離れ、涙に濡れた瞳で僕を見つめる。

「失うかと思った…もう二度と会えないかと…」


「僕…ここにいる…」

どうにか言葉を絞り出す。


ヘレナがもう一度抱きしめ、額にキスを落とす。

少しずつ力が戻ってくる。


「ああ、愛してる…なんて愛してるんだ、僕の優しい小さな天使…もう二度と目を離さないっ、あははっ、ははっ、あははっ!」

左頬に熱いキスが落ちる。


弱くうなずく。

言葉はなくとも、愛と安堵を受け取った。

痛みは残るが、人の温もりの前で薄れていく。


エリーが静かにそばに立ち、微笑む。

ようやく息ができる。家族と家…今はそれだけで十分だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


家の空気は変わり、涙と恐怖の後には穏やかな平穏だけが残った。

暖炉の火が揺れ、壁に黄金色の光を落とす。


エリーの母は頬を拭いながら微笑む。

「みんな、まずは力を取り戻して…特別なものを用意するわ。ケーキよ」


「ケーキ? あの蜂蜜とクリームのブラウニーのことか?」

エリーの目が輝く。


「そうよ。その通り。あなたのために…もちろん、エンジェルのためにも」


思わず胸が熱くなる。

「僕のためにも?」


「もちろんよ」

頬に手を添え、やさしく微笑む。

「あなたは私たちの小さな宝物だから…」


暖炉のそばでヘレナがそっと身を起こす。

「ママ…私も手伝いたい」


「ヘレナ、疲れているでしょ。心配で眠れなかったんだから…休んでいいのよ」


だがヘレナは首を振る。

「いいの。私がやりたいの。みんなに私の愛を届けたい…私の小さな天使たちに!」


視線が重なり、思わず目を逸らす。


「必要ないよ、本当に。」


「いいの。必要なの」

優しく笑いながら言う。

「あなたはこんなに苦しんだんだから…

この包帯を見るだけで……永遠に消えてしまうかと思うだけで胸が張り裂けるの。

だから…私に愛させて。私の大切な天使!」


エリーが腕を組んで笑う。

「なるほど…君はただ彼に近づきたいだけだな?」


「エリーっ!みんなの前で言わないで!」

顔を真っ赤にして睨む。


「ははは、冗談だよ」

エリーは楽しそうに笑った。


僕もつられて笑う。

この家の温かさ、シンプルで優しい空気――ほとんど知らなかった“家族のぬくもり”を、ようやく感じていた。


やがてキッチンでブラウニー作りが始まり、蜂蜜とバニラの香りが家中に満ちていく。


エリーがテーブル越しに意味ありげに笑いかける。

「エンジェル…君、一生のファンを作ったんじゃないか?」


「まあ…複雑だけどね」


「君らしいな」

くすっと笑う。


ヘレナが粉を鼻につけたまま僕を見上げる。

「エンジェルくん!できたら真っ先に食べてね?」


「うん。約束する」


甘い香りと笑い声に包まれながら、心の奥で確信する。

――影のあとには、必ず光があるのだと、そう思えた。

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