表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Alchemist Fantasy Ø  作者:
2/4

 熱風が吹き荒れ、土煙の向こうから、彼らの姿が浮かび上がる。

シノノメの指に嵌められた細身のリングが、微かに震えた。


 錬成展開――イノベルム、起動


 エイジスコアの光柱が弾ける。」

空間が裂け、そこから無数の金属片が解き放たれ、宙を奔る。

それは分解と再構築を繰り返しながら、瞬く間に装甲の形を取っていく。

白銀を基調とし、青白いラインが全身を走るその錬金装甲――

滑らかな曲線と鋭利なエッジが共存する、美しくも禍々しい姿。


「さあ、踊ろうか!」


 シノノメの笑顔と共に、雷光が双剣に纏う。


「また派手に始めやがって……」


 その隣、ソーマのイノベルムが重々しい駆動音と共に起動した。

分厚い金属装甲で全身が覆われ、関節部には回転式のリングギア。

太くたくましい四肢、背部には大型スラスターと冷却フィン、そして脈動するコアブースター。

兜は鋭く閉じ、装飾も虚飾もない、純粋な力である。


「相変わらずむさ苦しいな。見てるだけで肩こりそうだ」

「軽いお前とは違うんだ。本質の違いってやつだろ」


 すると、風を切るように飛来する無音の閃光が走る。


「軌道に入るな。邪魔」


 崖上から発射した高密度の粒子弾が、シノノメの肩を掠める。


「カリンちょっ……狙ってるよね!?」

「動くほうが悪い。計算済みだ」

「俺の命の計算に入ってないよね!」


 彼女のイノベルムは背部にアーク状の長距離ユニット、両肩に長射程の狙撃ブレードライフル。

腕部は細身の可変式ユニットに覆われ、両手には複雑なデータラインが絡みつく照準装置。


「……位置固定。射界確保。干渉率、零」


 カリンの声音は冷ややか。

その瞬間、空間が音もなく震え、エーテルを纏った「氷光の弾丸」が形成される。


バシュッ――ッ!


閃光一閃。


弾道はぶれることなく、ヴァジュタスの外殻の隙間へと突き刺さった。


「よそ見するな」

「……死ぬかと思った」


 黒煙が、橙色の体内から蒸気のように噴き出す。背後から無数の根――いや、触手のようなものが蠢きながら地表を這い出てくる。


「ベルリア、一掃して」

「ええ。でも私、数で頼られるのはあまり好きじゃないの」


 カリンの静かな声に応じ、ベルリアの装甲がぬめるように動く。

サブアームが空中に式図を描き、漆黒の金属膜を展開する。

それはまるで、布のように波打ち、触れたヴァジュタスを斬り裂いていく。


「あら、もうおしまい?」


 ベルリアは曲刀を妖艶に揺らしながら、肩をすくめる。

その刹那、地面を突き破って現れた。

その表面には赤錆のような苔がまとわりつき、獣の頭蓋を思わせる部位には、赤い結晶のような瞳がずらりと並んでいた。口元からは黒い粒子が煙のように立ちのぼり、まるで「生きた瘴気」そのもの。


「ドコニ……イルノ」


 低く唸るような声が大地を伝う。


「ねぇ……何を求めてるの?」


 ベルリアは静かに呟き、眼の群れを見据える。

返答はない。ただ、空間を歪ませる圧倒的な気配。

触手の一撃が彼女を狙い、風を裂いて襲いかかる――

だが、ヴェールアゼルの裾が滑らかにその衝撃を受け流した。


「その女に手を出すなよ? デートの先約をしているんだ」


 稲妻が走り、触手を弾く。ベルリアはくすりと微笑んだ。


「ごめんなさい。今夜は……踊る気分じゃないの」


 その瞬間、曲刀が赤黒い弧を描き、ヴァジュタスの装甲を斜めに深く抉る。

斬撃の余韻と共に、瘴気が爆ぜた。


『地表のエネルギー反応が急上昇中! 今すぐ散開を──』

「遅いっての……!」


 斬撃の余韻が消えるより早く、地の奥から――低く唸る震動音が湧き上がった。

瘴気がざわつき、熱を帯びた風が鉄を焼くように流れる。

視界の隅で、土壌がわずかに波打ち、亀裂が蜘蛛の巣のように広がっていく。

押しのけ、地の奥底から――複眼の巨獣が現れた。


「防衛陣形――フェイズβ!」


 ソーマが叫ぶと、即座にE.Aが応答する。


『敵コア体の鼓動増幅を検知。臨界接近』


 瘴気が広がり、退路を塗り潰すように周囲を呑んでいく。


『作戦目標の確認』


 衝撃音が地中から突き上がり、瓦礫が宙を舞い、熱を帯びた風が肌を焼く。

腐蝕した唾液が滴り落ち、足元の岩盤をジュウと溶かした。

鉄臭さと焦げた臭気が、肺を満たす。


「いつまでも、喰われる側だと思うなよ」


 シノノメが双剣を逆手に構え、唇の端を釣り上げる。

その目に宿るのは、恐怖ではなく狩人の光。触手を逆巻かせながら巨躯を揺らし、四人の前に全身を叩きつけるような勢いで突撃してくるヴァジュタス。


 咆哮と金属音が交錯する。

鋼がぶつかり、世界が軋む。死線の幕が、いま、音を立てて引かれた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ