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Alchemist Fantasy Ø  作者:
1/4

 薄闇の雲を割って空母「サンクトム」が滑るように侵攻する。その甲板に、選ばれし者たちの影が揺れていた。


「E.A、降下軌道を再確認しろ。粒子濃度、通常域を逸脱してる」


 ヘッドセット越しに響く通信士の声が硬質に鳴る。

周囲を飛び交う戦術インジケーターが、降下地点の汚染レベルを警告色で染め上げた。


『ジャッジ……確認完了。ヴァジュタスの活動反応、地表フレアと共鳴中。推定侵蝕率、84.7%』


「大歓迎だな」


 シノノメ・クーロンが笑いながらホロ画面をくるくると回す。


「あれ、花火とかないの? せっかくの花道なんだし もっと盛大にお披露目しないと」

「命張る時に冗談を混ぜるな」


 ソーマ・ナギが鋭く言い返す。彼の声には一切の無駄がない。


「規定ルートを外してるぞ。地熱反応が不安定だろ」

「大したことないない」

「……無駄口。着地のタイミングだけ合わせてくれればいいわ」


 カリン・フォンテーヌが冷ややかに言う。彼女の瞳はモニターの深部を読み取りながら、一瞬たりとも揺るがない。


「いいじゃない、怖がってるのを誤魔化してるだけかもよ、ねえ」


 ベルリア・ハングが艶やかな声で笑った。片膝に乗せた端末をいじりつつ、表情は退屈そうに揺れている。


 すると、甲高いアラートが鳴り響く。隊員たちは重い装備に身を包み、次々にリフトポッドへと駆け込んでいった。


「アンダーネスト境圏に入ります──『フォーサイス』!」


 耳を劈くような通信音に、「フォーサイス」と乗組員たちが呼応する。

金属の床が震える。甲板の裂け目が開き、リフトポッドが次々と姿を消していく。


 視界に広がるのは、異形に侵食された地表。ねじれ、うねり、都市の廃墟に絡みつき、まるで呼吸しているかのように脈動していた。かつての人類の文明は、すでに「それら」に呑まれている。


 「地獄だな」


 ヘルメット越しに誰かが呟く。それに応じるように、風が空を裂いた。

そこはもう、かつての都市ではなかった。

ビル群は崩れ、鋼鉄交じりの蔦が地表を這って脈動している。空は青と黒が溶け合い、時折光る稲妻がヴァジュタスの存在を示していた。

警告ラインがカウントダウンを始める。


 3……


 深呼吸。カリンが軽く頬を叩いて気合を入れる。となりでは、ベルリアが無言のまま、愛用のブレードのロックを確認している。


 2……


 ソーマは淡々と戦術端末を指で弾き、


 1……


 シノノメは目を閉じていた。小さな息を吐く。


 ゼロ。


 轟音とともに、リフトポッドが射出された。

重力が喉を締め付け、視界が一瞬、反転する。


 そして――空が燃え上がった。


降下の衝撃が腹に突き刺さる。風圧で全身がきしむ。


視界の先には、赤黒く爛れた大地。


ゆがむ空気。


風も声も、その存在の前では意味を失う。空気が震え、時が少し遅れて流れるような感覚が、周囲を支配していく。光に包まれた輪郭は夢の残響のように淡く、しかし、誰もがそこに確かな意志を感じ取れる。


 イノベルム。守る者か、裁く者か――それとも、遥かな祈りの残響が今ここで形を得たものなのか。ただ、そこに在るというだけで、世界の輪郭が変わっていく。



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