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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヘイト喰らいの冒険者 〜残飯雑用処理のお前は不要だと言われ追放された俺、すべては俺の傀儡であることを世界は知らない〜

「突然、呼び出して悪いんだけど……。アイト……君はもう要らないんだよね」


 呆然と立ち尽くす俺、何の躊躇いもなく話を始めるクライア。

 聖籠の砦。俺が所属していたギルド、そのリーダーであるクライアに戦力外通告を受けた。

 他のメンバーいない、リーダー直接の言葉であるというのに、俺の心情はいつもより落ち着いている。

 何度もギルドのメンバーを追放へと追い込んだ前歴を持つクライアは、昔からの幼馴染みで、共にギルドを立ち上げ、今では帝国最強の教団に入るギルド。

 これまで、名の知れた冒険者がギルドに加入しては、その数日後には居なくなっていた。原因は不明だが、クライアの様子を見るに対象外だったのだろう。

 そして、次は俺の出番か……。


「理由を聞いてもいいか?」


 チカチカと点滅する電灯。

 沈黙するクライアの表情は、いつもより冷静だ。

 スゥっと軽く息を吸い込むと、クライアは小さな口を空ける。


「理由は……聞かなくてもわかるだろう?」


 と、訝しげに言うクライアに愕然とするが、思い当たる節は幾つか頭に浮かんだ。

 クライアが伝えたい言葉、その真意までもが、今の俺には理解できている。しかし、これまで見て見ぬフリをし続けていたのに対して、何故今さらなのかと疑問が浮かぶ。


「俺の、メンバーとしての在り方か?」


 本音と建前を使い分け、クライアの言葉を待つ。

 長年幼馴染みをやってきた仲だ。

 親友とも兄弟とも、双子なのではないかと思うほどに俺とクライアの外見も特徴も似ていた。


「……クレハとの関係性を、何故僕に相談しなかった?」

「は?」


 質問を質問で返すか。俺の言葉には、何の返しも無いのに、一方的にクライアに返しているだけだ。


「僕に、後ろめたい気持ちでもあったのか?」

「それは……!」


 ジリッと足が動く。

 クライアでさえ知らない関係を知られて焦りを感じたのか?

 いや、俺とクライアの関係性を知っているのは、メンバーの中で誰もいない。

 なぜ、その事を知っている?


「クレハとの関係が、俺を追い出すことと関係があるのか? 答えろクライアッ!!」


 名を呼ぶと、密室の部屋に鳴り響く反響音。

 口を塞ぐクライア。俺に哀れみの目を向け、ククッと喉を鳴らす。


「何がおかしい?」


 俺とクライアは幼馴染みだ。しかし、名前が上がったクレハも、幼馴染みの一人。

 三人でギルドを設立させ、帝国最強の教団にしようと約束した。アレは、嘘だったのか?

 俺にはわからない。今目の前にいるクライアが、どんな思いで笑みを浮かべているのかが……。


「あはっ、あははははは、あひゃははははははっ!!」


 甲高い笑い声が鳴り響く。

 突然の声に思わず身震いする。


「いやぁ、滑稽だな。何も知らず(・・・・・)にいたのが、僕だけだと思ったのかな?」

「……ッ!?」

「今さら謝るつもりはないけどさ、クレハは僕のものだ。僕の部屋で、美しい肌を晒し、綺麗な顔をして、僕に愛撫させてくれたんだ」

「なん……だって……?」

「いいねぇ、その顔が見たかったんだ。幼馴染みである僕とアイトは、本当に双子の様に師匠に育てられた。僕は不器用で、アイトは器用だったよね。だから、僕が今まで感じた劣等感も憎悪も、何も知らなかっただろ?」

「……」


 言葉を無くした。

 産まれて初めて、クライアの本心を聞けた気がした。

 クライアが感じていたものの正体は、劣等感と俺に対する憎悪。

 あの頃は、生きるのに必死で、汚水を飲み、ゴミを漁った。

 足掻いていく事で、生きる事を知り、力を付ける事で師匠に近付けると、そう信じて生きて来た道が、まさか一番の親友に追放される結末だとはな。


「俺が……追放されるのは、お前がそう感じてたからなのか?」

「いや全然?」


 先ほど言った事とは裏腹に、とぼけた表情を浮かべるクライアはそう言う。


「アイトが好きでやってる事に口出しはしないけど、君……弱いんだよね」

「は?」

「聖籠の砦が帝国最強ギルドになれたのは、凄く感謝してる。僕一人じゃここまで来れなかったし、アイトが居なきゃ弱いままだった……」

「俺がやってきた事は、ギルドに貢献するようなものばかりだったはずだ! それを蔑ろにするつもりか!?」

「だからこそ、僕はこのギルドを世界最強にしようと思っている。その前に、アイトの様な残飯雑用処理は要らない」

「……ッ」


 確かに、クライアの言う事には納得がいく。

 ギルドをさらなる上に持っていく為には、無駄な戦力は追放した方がいいだろう。

 しかし、俺が好きでやっている掃除をこんな風に扱われるのは筋違いだ。

 俺はクライアの胸ぐらを掴み、険しい目付きで見つめる。


「……ッ怖い顔するなよ」

「本気で言ってんのかクライア」

「あ、ああ……依頼先からの苦情、ギルドメンバーからの苦情。リーダーの僕に多くの批判が来ていてね、ほら……よく見なよ」


 クイっと顔を動かし、その方向へと目を向けると、テーブルに置かれた数枚の紙切れがあった。

 そこには、ギルドメンバーの名前が書かれている。


「それはね、君を追放する為の書類だ。他のギルドと僕のギルドのメンバーを合わせて二十は集められている。僕の個人的な思いで君を追放なんてできるわけないからね」

「……最近忙しかったのは、そのためか」

「これでわかっただろ。君は僕のギルドにいらない。いいや、冒険者ギルドに不要な存在なんだよっ!」


 パシッと俺の手を振り払う。

 襟を正し、身体に付着した埃を振り払った。


「物語で言えば、僕はアイトを支える脇役、アイトは物語を進める主人公。ずっと……目障りだったんだよお前がッ!!」


 冷静沈着であったクライアが吠える。

 一度も俺に対して怒りをぶつける事が無かったクライアが感情を昂らせている。

 それほどまでに、俺に対して憎悪を抱いていたのか。


「荷物はまとめて置いたよ。もう君の顔を見なくていいと思うと気分がいいよ」

「…………ああ」


 落胆する俺に背を向け一瞥したあと、クライアは階段を上がっていく。

 コツコツと足音が鳴る。静寂した部屋に、残された俺は今後の事を考えていた。


「これで、最後か……」


 クライアが部屋を出て、足音が遠くへなったのを確認した俺は、一人でそう呟いた。

 いいや、正確には一人では無い。


「迫真の演技でしたね。途中、冷や冷やさせられることもありましたけど、手のひらの上だと思うと笑いを堪えるのに必死でしたよ」


 と、物陰から姿を現したのは……。


「ナミア……裏で動いてくれて助かった」

「いいえ、これぐらいお安い御用ですよ師匠」


 水色の長髪に、青色の瞳。

 聖籠の砦の一人。俺が身動き取りやすい様に裏で動いてくれた存在。

 クライアが、俺を出し抜くのにクレハの名を出したものの、ギルド加入直後に一目惚れした女性。

 本人曰く、最強のリーダーになったら婚約を了承してくれる様だが、俺の知るナミアは、世界最強の傀儡師。

 そして、俺を師匠と呼ぶのは、奴隷商に居た頃に拾ったからである。

 最も、俺が敵に回したくない人物でもあるわけだ。


「クレハさん、奪われても良かったんですか?」

「別に、クレハの事は仲間だと思ってたが、クライアに奪われた程度で俺が嘆くとでも思ったのか?」

「あ、それもそうですね。師匠なら、他人を利用してでも今回の追放に一手打ちそうですもんね」


 クスッと笑うナミアの微笑。

 まともに顔を見られないのは、微笑による効果で傀儡になってしまう可能性があるからだが。本当にこの女は食えない。


「建前と義理。本音を常に隠し持っていたクライアが、俺にぶつけた言葉は全部本物だっただろう。今でも驚いてるがな」

「……昔から、今日起こることを予感していた師匠の方が、私は驚きですよ」

「そうか?」

「相変わらず師匠の考えは読めませんが、私以上に傀儡師に向いてますよ」


 最強の傀儡師にそう言われると嬉しいものだ。


「お前こそ、ギルドメンバーや他のギルドに俺の悪評を漏らしたのは良い考えだったぞ」

「……そういう気質があるのかと勘違いしてしまいますが、そうしなければ(・・・・・・・)力を扱えないのですから、変態なのかと思ってました」


 呆れた様子のナミアはつらつらと言葉を並べる。

 想像以上に働いてくれた事を考えると、報酬はいつもより多く渡さなければならないが。

 俺が追放されたという事は、ナミアも自然とギルドから姿を消すのだろう。

 残念だったなクライア。俺を追放して気分が良いだろうが、今回も俺の方が一枚上手だったな。


「文字通り、クライアは俺が思い描く働きをしてくれた。滑稽だよな、全て俺の手のひらの上で動いてたんだからな」

「……気色の悪い笑みやめてくれません?」


 今日で俺の役目も終えた。

 最後の一人である、クライアが俺へ向けるため、幼馴染みであったあの時からヘイトを貯め込んだ。

 そのおかげか、俺の元へ貯め込んだヘイトは強力な力となる。

 わざわざ、残飯雑用処理をやっていたのは、皆が俺に向けるヘイトを集める為に他ならない。

 誰が好き好んでそんな事をする? 全て自分が動きやすい様にしていただけだというのに、勝手に勘違いし、勝手に落胆し、勝手に見捨てた。

 ただ、それだけのこと。

 これで、俺を縛る者もいない。自由も手に入った。


「ここからは、俺の時間だ」


 足を動かしナミアに目線を送り「行くぞ」と言う言葉を吐く。


「はい、師匠」


 こうして、俺の第二の冒険が始まる。

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