紅い天使。
深夜の繁華街のネオンはどこか懐かしい。
懐かしくて、寂しくて、切なくて、侘しい。
バーとキャバクラが入ったビルの下で1人タバコを吸う。ビル備え付けの灰皿は様々なタバコで一杯だ。
そして、吸いながら思う。
いつまで待っても来るはずがないのだ。
それでも待っている自分がバカみたいだった。
帰ろう。
独りの、あの部屋へ。
繁華街を抜けた道は闇を溶かしたように暗い。
赤く塗った爪が妙に目立った。
こうやって夜の繁華街に出掛けるようになったのはいつからだろうか。
あの繁華街のあのビルの下で、あたしは来ないことを悟りつつも待っている。
部屋は散らかっていて、それでいて居心地が良かった。
ラベンダーの香りがするアロマキャンドルは赤いステンドグラスの入れ物の中で小さく揺れている。
ステンドグラス越しに見る火は赤く透き通っていて、この上なく清楚だ。
例えるなら、紅い天使。
白くないと天使と呼べないのなら、紅い堕天使といったところか。
とにかく、その光があたしを浄化してくれている。
テーブル散らばった、たくさんのクスリたちはあたしの友達だ。
あたしの高まったダークな考えを緩和し、楽にしてくれる上、ちゃんと眠りの世界に堕としてくれる。
今日は少し飲みすぎてしまったが、まぁいい。
ちょっとイライラしていたから。
タバコに火をつけて一口吸うと、もうすでに自分がこの汚い世界の住人であることすら忘れてしまう。
行こう。
あの紅い光のもとへ。
この世にはない綺麗な紅い世界へ。
カッターを手に取ると、左腕に突き刺しスッと切る。
すると、黒くて綺麗でも何でもない血液が流れ出て、そこでハッとする。
あたしはこの汚い世界の住人で、そんな綺麗な所
になんか行けないことを。
紅い堕天使ではなく、ただの人間であることを。
台所で腕を洗い、クスリがもたらす浮遊感でふらふらになりながら、ベッドに倒れ込む。
あぁ。きっと深夜の繁華街で待っているものは死なんだ。
そして、あの紅い光は死への憧れに似ている。
死ねないことは分かっているのに、夢見てしまう。
昼間の、いい子で明るいあたしはただの偽造だ。
本当はただ死を追い求めているだけの汚い動物。
紅い天使になりたい。
天国に行けばなれるのかな。
あたしは紅い羽で空を舞う姿を妄想しながら、夢の世界に墜ちていく。