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プロローグ アカミネ・レイジ

2XXX年、世界は‘異能‘で溢れていた。


‘異能‘は世界を豊かにした。世界に‘異能‘はなくてはならないものとなった。

しかし、中には異能を用いて犯罪に手を染める人間も、少なくはなかった。


異能により重き犯罪を働いた人間の事を世界は‘異端者‘と呼んだ。


世界は‘異端者‘による秩序の崩壊を恐れ、‘異端者‘のみを収監する監獄島を作った。

島の名前は‘アルブ島‘


今宵もまた‘アルブ島‘に新たな‘異端者‘が訪れる…。


目を開けると、そこは船の上だった。

真っ暗闇のなか、見えるのは目の前で船を漕ぐ船頭のみ。


「…ここは?」


口を開くと、船頭が船を漕ぐ手を止めてこちらを振り返る。


「気が付きなすったか、異端者さんよ」


「…?」


「体は動くか?…動いたら困るのだが、覚醒したということは…もう少しで着くかもしれんな」


腰を屈めて目の前で様子を窺ってくる船頭。頬をぺちぺちと叩いてくる。


「…殺すぞ、じじい」


元々鋭い目つきを更に鋭く尖らせ、船頭を睨みつける。

ぶん殴ってやりたいが───船頭の言う通り、体が動かない。

大柄で筋肉質な体躯、尖った髪の毛、野性的な目元に睨まれれば、大抵の人間は怯むものだが──。


「まだじじいという歳でもないんだが…まあ威勢のいいのは嫌いじゃない」


鼻で笑うようにあしらうと、船頭は船を漕ぐのを再開した。


「(…ここは、海の上か?…ちくしょう、体が動けば今すぐこのじじいを殺して…)」


男は体に力を込める。‘異能‘を使おうとしたが───

何かに阻まれるようにして‘異能‘を使うことはできない。


「やめときなぁ兄ちゃんよ、せっかく助かった命だってのに…無駄にするこたぁねぇ」


「…おい、この船はどこに向かっている」


「…島さ。兄ちゃんみてぇなわりぃ異端者を逃がさねぇようにする、‘アルブ島‘に、向かってんのサ」


「(…聞いたことがある。異端者専用の監獄島…。っち、しくじったってことか…。…ん?待てよ…)」


男はふと気づいた。

自分はどのようにしてこの船に乗せられたのか…?船に乗る前の記憶が…すっぽり抜け落ちていることに。


「おい、じじい」


「話している暇はもうなくなっちまったみてぇだぜ。ほら、あれ見てみな」


船頭に話を遮られ、暗闇の中目を凝らすと───

巨大な島が、目の前にそびえ立っていた。




「ほれ」


全身を縛られている男は船頭によって船着き場に放り投げられた。

乱雑な扱いに苛立ちを覚えるも、体は自由には動かせないため、船着き場に倒れ伏すしかなかった。


「ようこそ、アルブ島へ」


島側から男が一人歩いてきた。…眼鏡に白衣、見るからにインテリといった具合の男が、けだるげな様子で縛られた男に近づいてきた。


「歓迎するよ。君は…阿賀峰 零士、25歳。炎を操る異能で…罪状は…強盗に殺人か。随分とチンケなことだ…」


白衣の男は手元に持っていた資料を読みながら吐き捨てた。


「あぁ…?チンケだぁ…?」


青筋を浮かべながら睨みつけたいところだが…倒れ伏している状態からでは、ただみっともないだけである。


「君の体はすでに動くようになっているはずだよ。異能を使うのにはまだ時間がいると思うがね」


「…なんだと?」


下半身に力を入れる。

かろうじて起き上がることはできた───が、目の前の白衣の男を殴るほどの力は込められなさそうなことを、すぐに理解した。


「そこの椅子に座りたまえよ。まずはゆっくり話をしよう」


白衣の男は船着き場に置いてあるボロボロの椅子に向けて零士と呼ばれた男の肩を軽く押した。自らも胸ポケットから煙草を一本取り出し、煙をくゆらせながら近くの丸太に腰をかけた。


「…」


白衣の男を睨みつける、零士と呼ばれた男は、不服そうにしながらも椅子に座った。


「…まず、先ほども告げた通りだが…ここは‘アルブ島‘。君のような異端者を収監するために作られた島だ」

「ここに連れてこられた異端者というものは…まああまり人間としての快適な生活は望めないと思っていた方がいいと思うよ。最低限の衣食住は保証するが…命の保証はしかねる。この話が終わった後に、居住地まで案内しよう」

「それで、何年この島にいるかについてなんだが…君は殺人を犯している以上、かなり重めになっているはずだ。…ふむ、33年ということになっているな」


「33年だぁ?」


黙って聞いていた零士は、年数を告げられた段階で眉をひそめた。


「ちっ、そりゃあなんだ?テメェが決めた懲役か?…たかだが10人前後殺したぐらいで?」


「誰が決めたかと言われれば…まあ御上が決めたとしか言いようがないが。なんにせよ君がこの島を出るのは33年後ということだ」


「ふぅ~~~~~ん……」


零士はそこで口を閉じた。ボロボロの椅子に体を預け、苛立ちを隠せない表情で白衣の男を睨み続けていると、とあることに気が付いた。

自分の体が段々と自由を取り戻してきていることに───


「………」


零士は誰にも見えないような、小さな、不敵な笑みを浮かべていた。


「それでここからがまあ大事な話にはなるんだが───」

「正直、ここで普通に暮らしていたら君は死ぬだろう」


「…はぁ?」


唐突な話題に、思わず声を返す。


「『島内では異能を使うことができる』からね。まあ変な輩も多いわけでね…」

「というわけで、君は『主の配下』に置かれることをおすすめする」


「…『主の配下』だぁ?」


「そう───この島には、5人の…5人?まぁ、5人でいいか…。5人の『主』がいるんだよ」

「ジャック、クイーン、キング、エース、そしてジョーカー…。彼らはこの島内で強い権力を持っている」

「だから。彼らの配下になり───守ってもらうのが、この島内で賢く生きるコツなのでね。まあ、クイーンのところなら恐らく人が多いだろうし、今更一人増えたところで…」


「…へェ」


零士は苛ついていた。


「守ってもらう、ねェ」


零士はプライドの高い男だった。弱者というふうに決めつけられ、プライドを傷つけられた彼はそこが許せなかったようである。


「守ってもらうといい。君のようなチンケな弱者はね」


白衣の男は零士の苛立ちに対して言葉を選ぶつもりもない素振りで言い放った。


「──────死ねァ!!」


瞬間。


巨大な爆発が白衣の男を襲った。遅れてとてつもない爆発音。

体の自由を取り戻していくうちに、異能を自由に使えるようになっていることにも零士は気がついていた。


「だぁ~~~~れがチンケな弱者だってェ…?」

「もっぺん言ってみろやァ、チンケなインテリメガネがよォ!」


燃え盛る炎を目の前に零士は高笑う。






「ふん、やはりチンケな弱者じゃないか」


「ッ!?」


炎の中から白衣の男が姿を現す。

それも、無傷で。

白衣には焦げひとつさえついていない。


「君のような喧嘩っ早い人間はこの島で生きるのに向いていなさそうだな。早めに『主の配下』に置かれることをおすすめする」


「…ッナ、舐めんなァッ!」


零士は足の裏から炎を噴射させ、白衣の男との距離を詰める。


「そのメガネからブチ割ってやる…ッ!!」


炎を纏った拳を持って白衣の男の顔面に正拳突きを繰り出そうとする───が。


ぱしんっ。


不思議な音と共に、零士の纏っていた炎はすべて消えてしまった。

空中で身動きのとれなくなった零士はそのまま無様に落下してしまう。


「──────ンなァッ!?」


白衣の男はちょうどいい位置に落ちてきた零士の首を踏みつける。


「グガッ…ギッ…!!」


ギリギリまで吸った煙草の吸殻を足元、つまりは零士に放り捨てつつ、もう一本の煙草に火をつけた。


「相変わらず喧嘩を売られることが多いんですなぁ、研究員さん」


事の顛末を黙って見ていた船頭が白衣の男に対して口を開く。


「私は研究員ではない…『ジン』だと何度も言っているだろう、ハゲ」


「あっしもまだまだハゲるような歳じゃないんですけどねぇ…。で、そいつどうするんでさぁ?」


「…まあ、少しのおいたくらいなら、痛めつける程度で済ませてやったが…」


船着き場を超えてすぐの場所は森の入り口。気が生い茂っていた。

そこに炎が燃え移っている。零士の体に纏っていた炎は消えていても、零士から放たれた炎は消えることなくアルブ島の木を燃やしていた。


「…これはまずいな」


もう一度零士を強めに踏みつけたあと、ジンという男は零士から離れた。


「ガハッ…!テメェ…殺す…!殺してやる…!!」


零士は体を起こす。殺意のこもった目でジンを睨みつける。


「まだ実力の差がわからないのか。めでたいこともあったものだな…」


「うるせェ!!オレをコケにしやがって…ブッ潰してやるよ…テメェも!この島も!!」


完全にキレた零士を目の前にしても、ジンは落ち着いていた。というより、呆れていた。

零士を連れてきた船頭も、「あちゃー」というような顔をしている。


「選ぶ言葉にも知性が感じられないな…」


溜息と副流煙を交えながら、続ける。


「この島には君のような人間はたくさんいるんだが…それにも関わらず、この島は少し静かすぎると思わなかったかい?」


「黙れ黙れ黙れ黙れェ!!!!!」


零士は火力を増していく。怒りと比例するかのように。


「すまないが、時間だ」




ばくんっ




「──────はァ…?」


────────────暗闇。

さっきまで目の前にいた二人の男は消え。

零士の周りに広がるのは、暗闇であった。

それは、船の上で見た暗闇よりもはるかに暗く。


「───ンなッ、何しやがった…ッ!!ここはどこだ…ッ!クソが!!出しやがれェ!」


異能を発動し、全力の炎を出そうとする。

しかし、それら全ては暗闇に消えていく。


「~~~~ッ!?」


そして零士は耳にする。

ジュウ、ジュウと何かが焼けるような音を。

否、焼けるではない───‘溶ける‘音を。


「ッ!?ガぁッ!?ッづ…!!」


それは零士の足であった。

履いていたボロボロの靴は既になく───足の皮膚は焼けただれていた。

あまりの痛みに耐えられなくなった零士は前のめりに倒れ伏してしまい───。


「ッあ!?あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘!!!!!!!」


耐えがたい痛みが全身を貫いた。


「ヒィ…ッ、がっぁ…たす…ゲッ…」


ジュウウ───。ジュウウ───。


零士という異端者の男は───。

跡形もなく、溶けて消えてしまった。



【阿賀峰 零士】 死亡




──────────────────



「わざわざ来てくださり申し訳ありません。しかし、少し遅かったのではないですか?」


「でかい口を叩くようになったな、若造。…童どもをあやしておっただけだ」


白衣の男、ジンが話す相手は───。

ジンの背丈をゆうに上回る、巨大な蛇であった。


「そもそも異端者が暴れた時に処理をするのは若造、貴様の仕事であろう。それがなんだ、この有様は」


大蛇は焼け焦げてしまった木々を見ながら、責めるようにジンに問いかける。


「…返す言葉もありません」


私の想像を超えてチンケであったと───。

そう言いたいところではあったが、言葉を飲み込んだ。


「…まあよい。炎が森全体に移る前に儂が間に合った」


「…助かりました。やはりこういう時には頼りになりますね…‘キング‘」


「…儂をからかっているのか?」


「とんでもありません。本当に感謝しているのですよ」


これほどの大蛇に睨みつかれたならば、蛙であろうが獅子であろうがその場に縛り付けられてしまうだろう。それほどまでに威圧感のある姿だ。

だが、ジンは飄々と語る。


「私でも処理しきれないほどの、想定を超えた馬鹿が相手の場合はまた‘キング‘のお力を借りるやもしれません…。どうかご容赦を」


「…フン。この責務は貴様が‘ジョーカー‘から任されたものであろう。貴様が善処せよ」


そう告げると、大蛇は船着き場から離れていく。


「あっけないもんですなぁ~。さすがは‘キング‘といったところ、ですかねぇ」


抜けた雰囲気で船頭が口を開いた。


「チッ…。あの馬鹿が。私が‘ジョーカー‘様に叱られるではないか…」


ジンはブツブツと何か呟いていた。

そこで、船頭が携帯端末を取り出して、何かを確認する。


「おっと、もうこんな時間か…。研究員さんよぉ、次の異端者が来るんで、あっしは迎えに行ってきまさぁ、また後で~」


「『ジン』だと言っているだろうッ!ハゲが!」


珍しく声を張り上げ───。


「クソッ…次は大人しい奴だといいんだが…。名前は……‘神代 白‘…か」




ここは異端者の集まる監獄島、アルブ島──────

今宵もまた、アルブ島に新たな異端者が訪れる…。



プロローグ アカミネ・レイジ END

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