第25話 恨みの開戦
セラが抜刀すれば、ジークが正当防衛としてセラを攻撃し、マノンを追い出すことができる。
そんなジークの発言に、セラは思わず眉を寄せた。
「マノンを追い出せる……? マノンは何も悪いことをしていないのに、どうして理不尽に追い出されなくてはならないのですか!」
「申し訳ない。あなたに罪がないのは承知の上だが、僕の心の平穏のために失礼しますよ」
言うが早いか、ジークがセラに向けて腕を伸ばした。手のひらから放たれる魔法を、瞬時のところで体を傾けて避けるセラ。
背後で爆発音がして、セラは弾かれたように振り返った。確か、セラの背後にはいくつもの本が敷き詰められた大きな棚があったはず。
こんなところで容赦なく魔法を撃ってしまえばこの部屋がめちゃくちゃになるではないか。
だが、そんなセラの予想は大きく裏切られた。
後ろを振り返って、セラはハッとした。大きな本棚はジークの魔法攻撃を受けても傷一つ付いておらず、最初にセラが訪れた時と何も変わらない姿でそこに建っていたのだ。
「不思議でしょう? 何でって思ってるでしょう?」
ジークはセラの心の内などお見通しだとばかりに歯を見せて笑ってから、
「もちろん僕だって考えなしに攻撃はしませんよ。予め、この部屋に魔法であらゆる攻撃を無効化する防御結界を張っていたんです」
なるほど、ジークの言う通りなら彼が自分の部屋を微塵も気にせずにセラを攻撃しようとした理由も容易に納得できる。
事前に防御結界を張っていたことから考えても、ジークは最初からセラと話し合う気など微塵もなかったのだ。
ジークが正当防衛を図るつもりなら、先に攻撃を仕掛けられたセラにだって正当防衛をする権利はある。
みすみす倒されるわけにはいかない。
セラは腰の鞘から剣を抜き、構えた。
「やっと戦う気になってくれた。僕の長年の恨み、晴らさせてもらいますよ!」
天井に向かって片手を掲げるジーク。天井には空でもないのに暗雲が立ち込める。
急いで見上げたセラは素早く横に転がる。それと同時にいくつもの雷が落ちてきた。
転がって回避したことで致命傷は免れたものの、ジリッと焼かれるような音がしてセラは慌てて視線を落とした。
見れば、服の裾が小さく焦げてしまっている。きっと雷魔法に打たれてしまったのだろう。
ジークは本気でセラを倒そうとしている。そのことを今更ながらにひしひしと痛感させられた。
「ウォーター・ウェーブ」
その声に、セラが顔を上げると、ジークがセラに向けて手のひらを掲げていた。
攻撃が来る。
そう感じ取った瞬間、ジークの手のひらから水魔法が繰り出された。
咄嗟に剣で防御するセラ。それでもジークが繰り出す魔法の威力の方がわずかに強く、セラはどんどん押されていく。
体重が後ろに持っていかれそうになり、セラは体勢を立て直して後方へ飛び、ジークから距離を取った。
「なぜそこまで、あなたは剣術を嫌うのですか……!」
「ふっ、寝ぼけたことを。僕を剣術嫌いにしたのは、あなた方剣士協会じゃないか!」
ジークが掲げた手の平から、炎魔法が繰り出される。セラは今度も咄嗟に剣で防御するが、魔力の勢いに押されて後ずさってしまう。
セラの防御力とジークの攻撃力。互いに拮抗していたその力は限界を迎え、両者の間で爆発した。
その拍子に剣がセラの手を離れて宙を舞い、床に音を立てて落下する。
爆発の勢いで、セラはよろめきたまらず膝をついた。
「ジークさ――っ!!」
顔を上げた瞬間、目と鼻の先に鋭く光る切先が見えたセラは思わず息を呑んだ。
ジークがいつの間にかセラの剣を拾い上げ、セラの方に向けていたのだ。
「マノンちゃんが思った以上の強さだったから期待してたけど、その師匠は別に大したことないね」
その言葉に唇を噛みしめるセラ。
マノンの心身の傷を癒すどころか、自分が追い込まれてしまっているこの状況が、セラにとっては非常に情けない。
「何だっけ。僕が傷ついたらニーナが悲しんで、ニーナが悲しんだらマノンちゃんが悲しむ、だっけ?」
ジークはそう言うや否や、自分の肩にセラの剣を勢いよく突き刺した。
肩から赤黒い血がほとばしり、ジークが呻き声をあげる。
「ジーク様……!? 何を……!!」
「お兄様! セラさん!」
咄嗟のことにセラは驚くことしかできない。
それとほぼ同じタイミングで、勢いよく扉を開けて駆けつけてきたのはニーナだった。心配そうにしていたニーナの表情が、ジークを見た瞬間に驚きを宿す。
ニーナの目にも、実兄の肩に刺さったセラの剣がしっかりと見えたのだろう。
「うっ……ニーナ……!!」
ジークは痛そうに肩を押さえたまま、ニーナの方を振り返った。
「お兄様、その肩……! それにこの防御結界……。一体、お二人は何をなさってましたの!?」
「ニーナ、ごめん。話し合いはできなかったよ」
「……え?」
「僕がマノンちゃんのことを傷つけたばかりに、セラさんが怒ってしまって……。僕に剣術で攻撃してきたんだ」
ニーナが信じられないと言いたげな顔で、ジークからセラへと視線を移す。
「本当、なのですか? セラさん」
「いえ、違いま――」
セラがジークの言葉を否定しようと口を開いた時。ジークが肩を押さえて叫び声をあげた。
「お兄様!?」
「痛い……痛い……!! 僕は話し合いで解決させるつもりだったのに……。急いで防御結界を張って正解だった……っ!」
先程は「予め防御結界を張っておいた」と言っていたジーク。今の発言とは真逆だ。
これではセラが先に攻撃を仕掛け、ジークが慌てて結界を張って応戦したことになってしまう。
だがセラがいくら反論しようとしても、ジークが痛みに声をあげ続けるせいでその声がかき消される一方だ。
「お父様のところに一緒に来てもらうよ、セラさんん。悪いけど、僕を攻撃してきたことを見逃すわけにはいかない」
ジークはそう言うと、剣を刺していない方の肩にセラを担ぎ、自分の部屋を後にした。
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