第24話 大事な後輩のために
セラは沸いた怒りをなんとか押さえつつ、再びジークに問いかけた。
「魔法と剣術だと、戦法的に難しくありませんでしたか? お恥ずかしながら、私は魔法使いと戦ったことがございませんのでよく知らないのです。マノンに聞いてもちゃんと教えてくれなくて」
「そうですか。僕がいろんな魔法使っちゃったからなぁ。怖がらせちゃったかもしれませんね」
「……ええ、そうですね」
申し訳ないという感情を顔に貼り付け、後頭部をかいていたジークの眉が訝しげに寄った。
彼はおそらくセラが「いえ、そんなことないですよ」とでも言って気を使うものだと思っていたのだろう。
だが、セラはジークに忖度したりはしない。ジークのせいで、大事な後輩が、マノンが傷ついたのだから。
「マノン、とても怖がっていました。水魔法や草魔法や雷魔法……。たくさん使われて、手も足も出なかった、と」
ジークに攻撃をされたことを話してくれたマノンは泣いていた。手を震わせ、唇を震わせ、声を震わせて泣いていた。
そんな姿がセラの脳裏にありありと蘇る。
「いやぁ、申し訳ない。僕も彼女をそこまで怖がらせるつもりはなかったんですけど」
頬をピクピクと引き攣らせながらも、何とか笑みを貼り付けているジーク。だがそれは、怒りをなんとか抑えたものだとすぐに分かるほど、脆いものだった。
これ以上、うわべだけの話し合いは続けていられない。セラはジークに切り込んだ。
「なぜ、マノンに魔法攻撃を仕掛けたのですか?」
「じゃあ僕も単刀直入に言いますね。剣術はこのタリス家に不要なものなんですよ。マノンちゃんはそんな不要なものを教えにくる。これ以上迷惑なことはないです」
セラの質問に答えることなく、ジークは淡々と続ける。
「初めて会った時から、オドオドして頼りなさげで。剣術を教えに来るのであれば、剣士としてもっと堂々とした佇まいであるべきではないですか?」
「それは私の指導不足です。大変申し訳ございません」
セラが素直に頭を下げれば、ジークは嫌味ありげに不敵な笑みを浮かべた。
「僕がちょっと牽制すれば、マノンちゃんはもううちにいられなくなって、剣術を教えに来ることはなくなるんじゃないかと思いまして。予想通り、今はうちを出て行ってもらってるみたいですけど」
* * *
――セラ先輩。
マノンは自室のベッドに腰をかけ、太ももに置いた拳を強く握りしめた。
マノンがジークから攻撃を受けた一部始終を話した時、セラは体を震わせて、必死に怒りに耐えていた。
ジークのことは自分が引き受けると言って、マノンのためにタリス家へ向かってくれた。今だって、きっとジークと話し合っているところだろう。
自分のことなのに、マノンはこうして部屋に閉じこもるしかできない。ジークに攻撃を受けてみすみす剣士協会に帰ってきて、先輩であるセラに任せてしまっている。
そんな自分の不甲斐なさが、マノンの胸を詰まらせる。
「……ごめんなさい。ごめんなさい……」
そしてもう一つ、マノンにはどうしても謝らなければならない相手がいた。タリス家の長女であり、マノンの剣術稽古の弟子、魔法稽古の師匠である少女――ニーナである。
マノンが久しぶりの剣術の稽古であろうことか倒れてしまった時のことだ。
ニーナはマノンのことを誰よりも心配して、夜まで付き添ってくれた。そして一緒に買い物に行こうと外に連れ出してくれた。
そこでマノンは知ったのだ。過去にもニーナは剣士協会の剣士に剣術を教えてもらっていたが、ニーナが自由気ままに振る舞った結果、剣士たちを振り回してしまい辞表を出されたことを。
その時のニーナは強く自分を責めていた。自分のせいで剣士たちを振り回してしまったことを悔いていた。
魔法の稽古も剣術の稽古も一生懸命に頑張っているニーナを見ていたからこそ、マノンは誓った。
マノンは、二度とニーナのそばから離れない。ずっとそばにいる、と。
だが、剣士協会に帰ってきてしまった今では、そんな約束を簡単に破ってしまっていることになる。
きっと今もニーナは一人で剣術と魔法の稽古に励んでいることだろう。
それなのにマノンはジークに傷つけられたことでみすみす剣士協会に戻ってきて引きこもっている。
こんな体たらくでは、ニーナに顔向けできない。
何より、
――もう、ニーナお嬢様に剣術は教えられない。
「わたし……お嬢様の師匠失格だ……」
マノンは拳を握りしめて、自分を責めることしかできなかった。
* * *
セラの脳裏には、剣士協会に帰ってきたマノンの姿が思い浮かんだ。セラの前では涙こそ見せなかったものの、酷く傷ついたのだろうと感じ取れるほどの衰弱ぶりだった。
気に食わないという自分勝手な理由だけで魔法攻撃を使ってマノンを追い詰めたジークには、マノンの心身の傷がどれほどのものかは想像もできないだろう。
「剣を抜いたらどうですか?」
「……え?」
セラの心中など知る由もなく、ジークが呆れたような笑みを浮かべながらセラの手を指差してくる。
ジークの指差す先に視線を移して、セラは初めて気づいた。
「あなたの手、驚くくらい震えています。僕を仕留めたくてウズウズしているくらいに」
「いえ、私は剣士の誇りを汚すわけにはいきませんので」
「僕を仕留めたいっていうのは否定しないんだ」
ジークは面白がるのを少しも隠さず笑った。セラにとって彼の言葉が真実だったことが、よりセラの罪悪感を募らせる。
だが、思いと行動は少し違う。ここでセラが怒りの衝動を抑えることができればいいのだ。
「あなたを傷つければニーナお嬢様が悲しみます。ニーナお嬢様が悲しめば、マノンを悲しませることになる。……自分の剣で大事な後輩を悲しませるようなことは絶対にいたしません」
セラの言葉に、ジークが片眉を上げた。
「へぇ、すごいお方だ。正直、僕は剣を抜かれた方がいいんですけどね」
セラが思わず自分の耳を疑っていると、それも気に留めずにジークは言葉を紡いだ。
「そうすれば、正当防衛で僕があんたを仕留めて、完全にマノンちゃんを追い出せる」
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