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第20話 壊れた思い

 魔法による攻撃で圧倒され、ジークにとどめを刺されようとしていたマノン。

 マノンの首を握り潰さんとするジークの力を止めたのは、ニーナの声だった。


「マノン!!」

「おじょう……さま……」


 マノンの方へ駆け寄ってくるニーナの金髪が、ふわりふわりと浮かぶのがぼやけた視界の中でも確かに見えた。


「ニーナ……!」


 ニーナはマノンとジークの近くまで走ってくると、ジークを睨みつけた。

 ジークはニーナを見て信じられないと言いたげな表情を浮かべている。


「お兄様、マノンに何をしてますの!? 早くマノンを離してください!!」


 ジークの体を両手で押して突き飛ばし、ニーナはマノンの上からジークを退かせた。


「何で――いや、今はいい。見たらわかるだろ? 制裁を下してるんだ」

「制裁……!?」


 咳き込むマノンの背中をさすりながら、ニーナはマノンの体を抱き起こしてくれる。

 ニーナに突き飛ばされたジークは一歩、二歩とよろめきつつ、前髪をかき上げてニーナを見下ろした。


「ニーナも嫌だっただろ? こいつにいきなり剣術をやらされて」

「何を言ってますの……!? 剣術の稽古は、お父様やお母様のご意志でもあるんですから!」


 訝しげな表情を浮かべるニーナを見て、ジークが片眉を上げる。その表情はまるでニーナを小馬鹿にしているような、自分の方が上の領域にいるのだと豪語しているかのような態度の表れだ。


「お父様とお母様の意志? じゃあ君自身の意志はどうなるんだ?」

「わたくしだって、魔法だけじゃなくて剣術も磨きたいと思ってますわ!」


 ニーナの言葉に、ジークは歯噛みして押し黙った。


 ニーナの言葉は真実である。それは、剣術の師匠であり、ニーナ自身の専属侍女であるマノンが一番よく分かっていることだ。


 タリス家からの依頼により、剣士協会が執り行うことになった侍女実習。

 しかし、本当に両親だけの意志で剣術を磨こうとしているのなら、ニーナはいずれ嫌になって剣術から離れるに違いない。どれだけ両親が無理強いしたとしても、ニーナの剣術を拒む思いは揺るぎないものになっていただろう。


 実際は違った。

 ニーナは両親の願いもしっかりと受け止めた上で、さらに魔法の腕を磨くため、また剣術をしっかりと習得することができるように、自らの意思で侍女実習の対象になっているのだ。


「何だよ、それ……」


 ジークの呟きが、マノンの耳にはしっかりと聞こえた。怒っているような、悲しんでいるような、何とも言えない感情が含まれた声。


 両親の意志だけではなく、何よりニーナ本人の意志なのであれば、たとえジークが唆したとしても覆すことはできない。ジークでも当たり前のように分かっていることだろう。


「とにかく、これ以上マノンに酷いことをしないでください!」


 ニーナはマノンに向き直ると、マノンの頬に手を添えた。


「マノン、大丈夫ですか!?」


 大声で呼ばれたマノンは、重いまぶたを力いっぱい開けようとする。視界も狭いため、実際は少ししか開けることができていないだろうが。


「おじょう……さま……」


 唇を震わせてニーナを呼ぶマノンに、ニーナは申し訳なさそうに首を垂れた。


「こんなに痛々しい傷……申し訳ございません、すぐに医療の者を呼びますわ!」


 マノンを横抱きし、素早く立ち上がったニーナ。


 身体中がじんじんと痛んで悲鳴をあげていて、意識も朦朧としているマノンには、自分の状態がどんなものかあまり分からない。

 だが、ニーナが急いでいるのを感じると、マノンの容体は良くないのだろうか、ということは推測できる。


 ニーナは兄の方には目もくれず、稽古場を出て行こうとする。


「ニーナ、この機会にちゃんと言っておいた方がいいよ。タリス家に……ニーナに剣術は要らないってね」


 ジークの言葉に、ニーナは一度立ち止まる。

 しかし、ジークの方を向かず、口を開くこともなく、その腕にマノンを抱いたまま再び歩き出して稽古場を後にしたのだった。



 * * *



 初めてタリス家の門を叩いた時、マノンの心は不安に満ちていた。剣士としてもまだまだ未熟な自分が、まして他人に教えることなど果たしてできるのだろうか。

 実習で失敗したらどうしよう。タリス家に失礼があったらどうしよう。うまく教えられなかったらどうしよう。


 そんな不安で頭も心もいっぱいで苦しかった。


 だが、そんなマノンを苦しみから解放してくれたのが、ニーナの明るい声と笑顔だった。

 だからマノンは、どれだけこの侍女実習が過酷なものであったとしても、ニーナのために最後まで力を尽くそうと決意することができたのだ。


 ニーナのために。


 ――僕、タリス家に剣術は要らないって言ったよね?


 ニーナのために。


 ――むしろ魔法を極めた方が剣術なんかよりももっと強くなれる。


 ニーナのため。


 ――最初に出会った時から、君のことが気に食わなかったんだ。剣術なんて不要なものをニーナにやらせる君がね。


 ニーナのため。


 ――剣術が不要だってこと、マノンちゃんに身をもって教えてあげるよ。


 ニーナの……。


 何かが、壊れる音がした。

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