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第17話 新たな稽古

「お兄様のことは気にしないでくださいな」


 稽古場に向かう道中、落ち込んだままのマノンに向かってニーナがそう声をかけてくれた。


「で、でも、わたし、ジーク様に不快な思いをさせてしまったのではないですか……?」


 気にしないでくれ、とは言われても、マノンの頭には先ほどのジークの言葉がこびりついて離れない。


 ――僕、タリス家に剣術は要らないって言ったよね?


 ――むしろ魔法を極めた方が剣術なんかよりももっと強くなれる。


 剣術を否定されるということは、それを教えるためにタリス家に派遣されたマノンの存在を否定されるということだ。

 つまり、ジークに言われてしまったのだ。

 マノンは、タリス家に必要ない、と。


「不快な思いなんて……。そんなことないですわ! 前にも言いましたけれど、お兄様が勝手に言っていることですもの。お父様もお母様も、もちろんわたくしも、マノンに来てほしくてお願いしたのです。マノンがいちいち気に病むことはないですわ」


 ニーナは首を横に振ってあくまでも軽快に言うと、一礼してから稽古場に足を踏み入れた。マノンもそれに倣い、一礼してから稽古場に足を踏み入れる。

 ジークの言葉を受けてずっと不安な気持ちになっていたが、今からはニーナの大事な稽古の時間だ。マノンは首を横に振って不安な気持ちを無理やり払拭し、腰の鞘から剣を抜いた。


「マノン師匠、今日はどんな稽古をしますの?」


 マノンと向き合ったニーナも、剣を構えて尋ねてくる。


「え、えっとですね、今日は……相手の剣撃を受け流してさらに攻撃をするという攻撃方法の練習をします」

「――――」


 マノンがそう告げると、ニーナは大きな瞳を見開いて固まってしまった。まるで時が止まったかのようだ。


「あ、あれ? お嬢様……?」


 そこまで特別驚くようなことをマノンは言っただろうか、と自分の発言を振り返る。

 しかし、マノンは何も驚くようなことは口にしていない。ただ「相手の剣撃を受け流してさらに攻撃をする」という練習をすると言っただけである。

 マノンが困っていると、ぽかんと開いたニーナの口からやっと言葉が漏れ出た。


「……何ですの、それは」


 なるほど、ニーナには「相手の剣撃を受け流して、さらに攻撃をする」という行動のイメージができていないのか。それにそのような練習をしたところでニーナに何の得があるのか、ということも理解できていないようだ。


「これも戦う上ではすごく大事なものなんです。昨日は相手の剣撃を回避する練習をしましたが、実戦においては回避してばかりだと攻めてこられる場合もありますから」


 つまり、今日の練習は昨日の練習の発展系ということだ。

 自衛をしつつ攻めに出る。これが実戦において必要不可欠であると、見習い時代にセラから教えてもらった。

 それを、マノンはニーナにも理解してもらい、身につけてほしいと思ったのだ。


「た、確かにそうですわね……。分かりましたわ、マノン師匠、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

「はい、一緒に頑張りましょう、お嬢様」


 まだ完全に理解はできていないような顔で、それでもニーナはしっかりと練習に向き合う姿勢を見せてくれた。


「まずお手本を見せますので、木刀に持ち替えますね」

「は、はい……」


 ニーナは唾をごくりと飲み込み、マノンが剣から木刀に持ち替えるのを見ている。

 実際、マノンも実戦経験が少ないため、相手の剣撃を受け流してさらに攻撃をするのは初めてに近い。


 ふぅ、と息を吐いてから、マノンはまっすぐニーナを見つめた。


「ではお嬢様、わたしに剣撃してみてください。わたしの方は木刀なので、もちろん手加減はしっかりしますが、当たってもそんなに痛くないと思いますので安心してください」

「え、えぇ……。――いきます!」


 ニーナの瞳に闘志の炎が宿る。

 ニーナが掛け声とともに剣を振りかぶり、マノンの方へ走ってくる。

 振り下ろされる剣筋を素早く見極めたマノンは木刀を斜めに構えて受け止め、軽く上に振り上げる。


「はぁっ!」


 反動で後方によろめき、正面に隙ができたニーナ。マノンは素早く腰を低くして構え直し、ニーナの腹部スレスレのところまで木刀の切っ先を差し込んだ。


「――これが基本的な流れです」


 マノンは木刀を置き、まっすぐ立ち上がった。

 それを合図に、ニーナが地面に尻もちをつく。


「――お嬢様!」


 マノンが素早く駆け寄って手を差し伸べると、ニーナはマノンの手を握り返しながら引きつったような笑いを浮かべた。


「す、すごいですわ、マノン……!」


 汗だくの顔と震えた手。

 それでもニーナの瞳に宿った闘志の炎は消えていなかった。


「すみません、お嬢様。お怪我はございませんか?」

「ええ、びっくりして腰を抜かしたようなものですわ。それにしても、マノンは本当にすごいですわね。確かに戦う上で大事な練習だと、身に沁みて実感しましたわ」


 ニーナは微笑むと、マノンの力を借りて立ち上がり、


「マノン師匠、わたくしに今の流れの稽古をつけてくださいな!」

「かしこまりました、お嬢様」


 マノンは力強く頷き、早速稽古を開始した。

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