引き込まれた先の世界で
境野咲夜は御年19歳。
幼子の時に両親の行方が分からなくなり、児童/孤児養護施設で育ってきた。
中学までは社会のレールに乗って努力し勉強してきたが、高校で挫折、現代日本において底辺フリーターを満喫していた。
運よく県内トップの高校に入学できたものの、周りの勉強大好きパワーについていけず、一生に一度の人生をこんな窮屈で終わらせてたまるか!と周囲の反対も押し切って退学届けを校長にたたきつけてからはや数年。
「楽な道を~選んじゃいけないの~」
適当な歌詞をメロディにしながら、深夜のコンビニバイトで一人時間が過ぎるのを待つ。
底辺といえども衣食住にはさして困らず、最低限の労働をして趣味の読書を生きがいにする生活。帰ったら次はどんな本を読もうかな、などとひとり妄想していた矢先のこと。
背後からシャランと鈴の音がして、振り返るとなぜかコンビニにあるはずのない両開きの襖が開いていた。
「は、、、、?」
もはや意味が分からない。
客の来ない田舎コンビニの夜勤帯である。周囲に人などいるはずもなく唖然とするしかない咲夜であったが、さらに違和感が襲う。
周囲の音という音がまるで引き剝がされたように無くなっているのである。
恐怖を感じ、逃げ出そうとしたその瞬間
「引き摺り込め、和蒼龍門」
という低く轟くような声とともに、咲夜は抵抗むなしく吸い込まれていった、、、、
さて、この世には「因果応報」という言葉がある。己が行ったことの報いは己に返ってくるという意味の言葉であるが、それは正しくない。
いや、正確には正しいが説明しきれていないのである。
あまりにも大きな因縁を動かした者がいる場合、その報いは末裔にまで影響を及ぼす。決して逃れることのできないその因縁に、咲夜はまだ気づくことすらできていなかった。