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そして2度目の転生(?)

 私は自身の体の痙攣で目が覚めた。

 鉄格子が見える。

 視界はモザイクがかかったように不鮮明だ。

 体を起こそうとするが動かない。

 可能な範囲で周囲を見る。

 椅子に座っている男と目が合った。

 男は、もう1人の男に話しかける。


 「おい、こっちを見ているぞ。」

 「気のせいじゃ・・・ 見ていますね。明らかに見ていますね。」


 私と目が合った男が指示を出す。


 「至急、イルゼ様にご報告しろ。」

 「了解しました。」


 指示を受けた男が走り去っていく。


 イルゼ? 聞いたことがある。


 再び起き上がろうとするが、やはり動かない。しかし、腕はかろうじて動かすことができた。

 自分の腕を見るとタールのように黒く、ドロドロとしていて腕を上げていくとゆっくりと流れ落ち、体に吸収されていく。

 またしても思考が追いつかず、緊迫感を失っていく。


 スライムに転生したんだなぁ、きっと。これからモンスターの連邦国家を作っていくんだろうなぁ・・・


 にしても、あつぃ、体がふるぇてる。


 徹夜勤務の後のように、意識が落ちていく。

  ・

  ・

  ・

  ・

  ・

 闇の中に、まばゆい黄金の光が揺らいでいる。


 なんだっ? 揺蕩(たゆた)いし金色か?


 声が聞こえる。

 やけに軽薄な声だ。

 聞いているだけでイライラする。


 【えーと、なんかごめんなぁ。あはっ。小さな手違いが重なっちゃってさぁ、お前さんを英雄にし損ねちゃった。てへっ。でもでも、そういうことってあるじゃん! 誰も間違っていないのに状況が悪化していくことって・・・ あっ、事後の件なんだけどね、魔族になれたら、きちんと代償は払うから、それでゆっくりのんびり魔界ライフをエンジョイしてくれたまえ! あばよっ!】


 光が消え、辺りは闇に包まれた。

  ・

  ・

  ・

  ・

  ・

 周囲で声がする。

 艶のある声と包容力のある声が聞こえる。


 「随分と崩れているな。」

 「こちらに運び込んだ時より酷くなっています。痙攣と熱も止まる気配がありません。あと時折、目を覚ましますが、意識や思考の有無については確認できていません。」


 うぅるーさぁぁ・・・ あつぃ。ふるぅぇる。はらへた。


 「なんだ、あれは?」


 艶のある声が怪訝そうに尋ねる。


 「自分の腕を喰っているのか? 見るに堪えんな。これ以上、崩れるようなら処分しろ。」


 包容力のある声がそれに答える。


 「分かりました。そのように致します。」


 あつい、うま

  ・

  ・

  ・

  ・

  ・

 周囲の雑音や体調不良によってではなく自然と目が覚めた。脳と体が活動を開始して目が覚めたような感覚だ。

 頭を動かし周囲を見る。


 知らない天井だっ!


 レースのカーテンが付いた天蓋が見え、やけにフカフカの上質なベッドに横たわっている。

 私が使っていたお値段以上のパイプベッドと布団とは大違いだ。

 随分と広い部屋のようだ。

 ゆっくり体を起こすと、両手と両足が視界に入ったが、骨と皮だけの状態だった。


 なんだ、これ。確か戦場にいて、左足は無かったような・・・ それに腕を食べた記憶があるが・・・ 悪い夢でも見ていたのか? 一体何だったのだろう?


 「お目覚めですか?」


 声の主を見る。

 20歳代前半だろうか、いわゆるメイド服を着た白い肌、黒い髪そして赤い瞳の女性がベッドのそばに歩み寄ってきた。


 「あの、ここは?」

 「獣王様の居城です。あなた様が目覚めたことを報告させて頂きますので、しばらくの間お待ち下さい。あと、何か、ご要望はございますか?」


 落ち着いた声と高い知性を伺わせる表情、そして冷静な対応。優秀な秘書を見ているようだ。


 「喉が乾いています。あと腹も減っています。」

 「かしこまりました。準備致します。それでは失礼します。」


 落ち着いた佇まいで退室していく。

 しばらくして、赤い瞳のメイドと黒を基調とした軍服らしき服装の女性が入ってきた。

 女性の年齢は20歳代後半ぐらいで、凛々しい顔立ちと表情をしている。髪は狐色で頭部に狐のような耳が付いており、下半身には尻尾が見える。


 って、尻尾? 狐耳?

 どういうこと? ケモ耳でモフモフって・・・ フレンズなの?


 普段から2次元世界を嗜んでいるため、この状況には特に混乱しなかった。


 どうやら異世界耐性が付いているらしい・・・ 毒されてるなぁ・・・ って、これは夢じゃない、異世界転生だ!


 軍服に身を包んだフレンズが話しかけてくる。


 「私は獣騎士イルゼ。無事のお目覚め、おめでとうございます。」


 すごく物腰が穏やかで気持ちがいい。この包容力のある声、たまらん。それにすごく美人だ。スタイルもいいなぁ。でも、この声、どこかで聞いたことがあるような、ないような?


 イルゼが私に話しかけている中、メイドがさりげなく水の入ったグラスを差し出してくる。

 グラスの水を凝視し、生唾を飲み込みながら質問する。


 「あの、何がどうなって、ここにいるのか、教えて欲しいのですが?」


 イルゼは笑みを湛えて答えてくれたが、私が思っていた回答ではなかった。


 「まずは、渇きと空腹を満たして下さい。今、説明してもご理解が進まないと思います。説明は、後ほど、ゆっくりとさせて頂きます。」


 今すぐ説明して欲しかったのだが、イルゼの言うとおり今聞いても理解はできないだろう。

 まずは、欲求を満たすことにし、お言葉に甘えてグラスの水を一気に飲み干す。


 「あの、お代わりを頂けますか?」


 赤い瞳が答える


 「かしこまりました。」


 グラスに水が注がれる。再び一気に飲み干す。結局20杯以上の水を飲んでしまった。

 イルゼが嬉しそうにこちらを見ている。


 「ありがとうございました。おかげで少し落ち着きました。」


 思い出した! 私を切り捨てた奴だ。でも、今の体では何もできないし、しばらく様子を見てみよう。


 考えを巡らせていると、メイドが話しかけてくる。


 「お食事になさいますか?」


 即答する。


 「是非、お願いします。」


 そう回答するや否や、食事が運び込まれてきた。


 なんて、仕事のできる人なんだ。


 タイミングを外さず飲食物を提供するのは、接遇の中で最も難しい業務だ。

 生まれつきのセンスといっても過言ではない。できない奴はいくら経験を積んでもできないのだ。だって、私がそうだったから。


 イルゼが話しかけてくる。


 「では、私は上司に報告がありますので、これで失礼します。食事が終わりましたら、ご説明に参ります。」


 そう言って、イルゼは退室したが、退室する際、私を見てにっこりと微笑んだ。


 美人だなぁ・・・ スタイルも良かったし・・・ スカートも短かったし・・・それにフレンズだったし・・・ 


 下種なシーン回想に浸っていると、ベッドに置かれたテーブルに食事が次々と運ばれてきた。


 ベッドで食事するなんて、どこのお貴族様だよ。しかも、美人メイドの給仕付きって・・・


 詳しい名称や種類は全く分からないが、私の目の前に柔らかそうな白いパン、とろみのありそうな野菜スープ、魚の塩焼き、鹿肉の香草焼き、チーズ、バター、赤ワインが並ぶ。

 フルコース料理のように前菜から順番に提供するのではなく、すべての料理を並べる形式のようだ。並べられた料理も豪華というよりも、どこか温かみのある料理だ。


 かしこまった料理で、委縮したり気を遣わないようにしてくれているのか?

 まぁ、なんでもいいや。とりあえず、いただくとしよう。


 念のため、メイドに許可をもらう。


 「食べてもいいのかな?」

 「どうぞ、温かいうちにお召し上がり下さい。」


 その答えを合図にして、Zの戦士やゴムの海賊のように料理に食らいつく。

 あっという間に完食してしまったが、満腹を感じない。

 メイドが訊ねてくる。


 「まだ、お召しになりますか?」

 「お願いします。」


 再び運ばれてくる料理を平らげていく。

 食事の合間に、メイドに質問する。


 「すごく美味しい料理ですね。それに手際もいいですね。」

 「獣将軍ハイデ様より失礼がないよう、仰せつかっております。」


 なんだろう、丁寧な対応だけど、事務的というか、素っ気ないというか・・・


 メイドの名はハンナといい、ハイデから私の世話をするよう命じられた獣将軍付きのメイドだそうだ。


 獣騎士の上官が獣将軍で、この城は獣王の居城? 獣王は、この世界の支配者なのか? それとも、この世界の一部の支配者なのか?


 頭の中で様々な疑問が浮かんでは消えていくが、食欲を満たすことを優先させる。


 後で法外な料金を請求されたりしないだろうか? 明細にチャーム料金が記載されているとか本当にやめて欲しい。


 しばらくの間、ハンナとの会話と食事そして無駄な思考が続き、彼女によれば30人分の食事を平らげ、ようやく満腹感を得た。


 「ありがとうございました。大変美味しかったです。」

 「どういたしまして。」


 やはり、少し素っ気ない。しかし料金を請求される雰囲気はない。

 良かった、非常に良かった。


 さて、これからどうしようか? イルゼさんから説明を聞こうか? 

 あれっ、視界が暗くなっていく。世界が揺れている。頭が重い。


 世の中の恋人同士は、テレビ電話なるもので会話しながら寝落ちするのが定番の行為だそうだが、私にそんな経験はもちろんない。

 しかし、素材集めのため深夜まで狩りを続け寝落ちした経験ならたくさんある。そんな感覚で意識が落ちていく。

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