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そして戦場へ

 「おい、そこ。ぼさっとするな!」


 遠くから激しい怒声が聞こえた。

 その方向を見る。

 どうやら怒声の主は馬に跨っている人物だ。

 隣の人物が声をかけてくる。


 「なんだ、怖気づいたのか? しっかりしろよ。」


 声の主を見る。

 年齢は20代半ば、金髪碧眼、美形ではないが醜男でもない。

 黒い三角帽子をかぶり、青と白のアクセントが入った赤い上着、その下には白いシャツが見える。

 白いズボンに黒の長靴、腰には湾曲した剣をぶら下げ、両手でライフル銃のようなものを持っている。

 幕末物のドラマで見たことがある。確か銃身の先から火薬と丸い弾丸を込めて火打石で着火する銃だったような気がする。火縄がついていないから恐らくそうだろう。

 ちなみにライフル銃ではなくマスケット銃と呼ばれていたはずだ。カリビアンな海賊が使っていたのと同じタイプだと思う。

 金髪碧眼が、私を心配する表情でのぞき込んでくる。


 「横一列で敵に向かって前進し、号令に合わせて銃を撃つだけの簡単なお仕事だ。訓練通りにやれば問題ないさ」


 金髪碧眼の話す言語は理解できるが、何を言っているのか、意味が全く分からない。


 前進? 射撃? 戦争中なの? そもそも帰宅途中にトラックに轢かれたはずでは?


 次々と疑問が浮かんでは消えていく。


 あぁ、きっと夢だな、最近、疲れていたからなぁ・・・


 号令が掛かる。


 「全軍、突撃ぃぃぃぃ」

 

 号令を出したのは、先ほど自分に怒声を浴びせた馬上の人だ。

 周囲が一斉に歩き出す。


 あれ? 走らないの?


 横一列に並んだ赤い上着たちが銃を腰に構え、ゆっくりと進み始める。

 後ろを見ると、私が並んでいる一列目と同じ装備の二列目、三列目がいる。

 前進しながら進行方向を見る。

 前方には集団がいるのは分かったが、詳しいことは何一つ分からない。

 自分の視界には、両手で持っている銃剣の付いたマスケット銃、赤い袖、白いズボン、黒の長靴がある。おそらく隣の金髪碧眼と同じ装備なのだろう。

 腰のベルトには革製の箱が2個ついていて、中には紙で作られた筒状の包が20本程確認できた。

 ドラマの受け売りだが、紙製の包の中身は弾丸と黒色火薬だ。銃身の下に差し込まれている棒で包ごと銃身に押し込むと紙が破れ、火薬と弾丸が装填される仕組みになっている。確か信長公も早合という包を採用していたらしいが、暴発する確率が高かったそうだ。

 火打石式のマスケット銃を持っていて戦列歩兵の隊形であることから、時代は17~19世紀、宝塚的かつアンドレ的な軍服で金髪碧眼がいることからヨーロッパ、おそらくフランス。

 であれば、前方にいるのはイギリスか、それともドイツか、はたまたナポレオンのロシア侵攻か。もう少し世界史の授業を真剣に聞いておくべきだったと激しく後悔する。


 オオニシ先生、ごめんなさい。

 

 自身の浅い知識を恨みつつ、脳内でかつての担任教師に謝罪していると、後方から発射音が聞こえ、前方の集団付近で着弾し爆発した。

 その後も、次々と発射音と爆発が起こり、その間も前進は続いていく。

 前方の集団との距離が縮まったが、まだ集団の詳細が見えてこない。


 よくできた夢だなぁ・・・


 普段から2次元世界に慣れ親しんでいるせいか、この状況に冷静というか悠長に構えていられる。


 金髪碧眼が声をかけてくる。


 「そろそろだぞ。」


 何が?


 馬上の人から号令が発せられる。


 「構えぇ!」


 金髪碧眼の動作を真似て、銃を腰に構え、撃鉄を起こす。


 しかし、隣の青年は何故あんなにも落ち着いているのだろう? あの若さで歴戦の勇者なのか? それとも経験者ぶってマウントをとっているのか? まあ、いいや、暫くは頼りにするとしよう。


 「撃てぇぇぇ!」


 1列目が一斉に発砲する。

 自分も少し遅れて発砲する。

 100名程が一斉に発砲したが、対する集団は1人も倒れていない。


 ん? 空砲だったの?


 金髪碧眼に聞いてみる。


 「なんで発砲したのに、誰も倒れないんだ?」

 「小銃の命中精度は、この程度なのさ。確実に命中させるには、相手の目の色が分かる距離じゃないとな。だから敵が有効射程に入っていないうちに発砲して、敵の進軍を遅らせるのさ。そんなことより移動するぞ。」


 金髪碧眼の後に続き、後列の人間の隙間を通って3列目の後方に移動する。

 1列目全員が移動し片膝をついて銃に弾薬を装填する。

 この動作も金髪碧眼に倣って装填した。装填が終わると横隊の最後尾、つまり前進開始時の3列目の後方に移動する。


 「撃てぇぇぇ!」


 号令が発せられ、突撃開始時の2列目が発砲する。自分たちの発砲とは違い、敵集団の一部が倒れていく。

 発砲後、2列目が自分の横をすり抜けていく。

 全列でこの動作を繰り返しながら、横隊は前進していく。

 大砲による攻撃も敵集団に直撃し始めていて、砲撃により敵兵が吹き飛ばされている。

 自分が再度1列目になった時には、距離が更に縮まっており、自分にも敵が構えている盾らしきものを視認することはできたが、敵兵は盾に隠れているらしく、その姿を確認することはできなかった。

 砲撃により次々と敵兵が吹き飛ばされていくが、その人影には何か違和感を覚えた。


 敵は毛皮でも着ているのか? なにか、こう、ふさふさ感があるんだが・・・


 1列目に号令が発せられる。


 「構えぇぇ!」


 さっきと同じことをするばいいんでしょ。

 でも何故、敵は攻撃してこないのだろう? こちらと装備が違うのだろうか? 同じ装備であれば戦い方は似てくるはずだが、こちらの武器の方が射程が長いのだろうか?


 自分だけでは解決できない疑問が次々と湧いてくる。発砲が終わったら金髪碧眼に聞いてみよう。


 銃を構え、発砲の号令を待つ。


 その時、不思議なことが起こった。

 目の前の地面が突然隆起し、壁になったのだ。


 なんだ? いきなり、壁が・・・


 最後まで疑問を思い浮かべる間もなく、壁が爆発四散し、後方に飛ばされた。


 「なんだよ、これ?」


 隣にいる金髪碧眼に問いかけるが、答えは返ってこなかった。

 そこには、彼のものと思われる腕と小銃が転がっていた。

 他人の死を悼んでいる余裕はなかった。


 チョッ、おいおいおい、何だよ、何だよ、一体何が起こっているんだ?


 半身を起こし周囲を見ると、同じことが他の壁でも起こっている。どうやら、壁が爆発しているのではなく、敵陣から打ち出された火球が壁に当たって爆発し、壁が四散しているようだ。


 火の玉が降っている、って、火の玉?


 馬上で号令を発していた者の姿は見当たらず馬もいない。

 1列目は既に壊滅状態で、2列目3列目も損害を出しながらも各兵士が発砲しながら後退している。


 逃げなきゃ。


 周囲の行動に合わせ逃げようしたが、敵が突撃を開始したらしく、目前に迫っている。


 人型の獣?


 鎧を着用し、剣と盾を装備した狼の様な獣が迫ってくる。

 今までの経験にない状況の連続に思考が追いつかず、処理することができない。


 あははは、なにこれ。ケモミミじゃん。


 私の混乱に関係なく、火球が降り注ぎ続け、ケモミミが迫ってきている。

 赤い炎、黒い煙、高熱、爆発音そして左足に激しい痛みを感じ、全ての感覚が途絶えていく。


 この痛み、やっぱり、夢じゃなかったんだ。


 全てが途絶えていく中で声が聞こえた。随分と人をイラつかせる声だ。

 

【死んでしまうとは・・・ えっ? あっ、よし、作戦変更!】


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