忘れかけた日々
「おーい、こっちこっち」
伊東さんが塩水をかき分けて砂浜を駆ける
ボクは見てるだけで十分。だって寒いし、冬だし、靴濡らしたくないし
「でもよく休みなんてとれたね~」
「運が良かっただけだよ」
そう、運が良かった
「ゆうく~ん、こっち来なよ」
なんだかマリオネット。つーか季節感ないの?
「あっ雨だ~」
天気予報見たはずなんだけどな。平日だからか混んでいなかったのに
・・・台無しだ・・・
「桟橋だ~」
近くのコンビニで買ったビニール傘を片手に少し風のつよくなった
水滴の中を歩いていく
「写真とろ~」
ここが【映えスポット】だと知ったのはいつだったか
大潮だからな、今日は
「水が押し寄せてくる~」
たのしそう、こういう姿が似合っていると思う
ずーっと仕事ばっかだったからたまにはいいかも、たまには
「社長さん、飲みません?」
缶コーヒーはありがたいと思う
「最近休みないですよねぇ」
そういえばあんまり休んでない。
ベンチャー企業だからか?
大きな仕事がきたからか?
「疲れた顔してますよ、すぐに老けますよ」
最後のは不要だと思うけど疲れてるのも事実
「どっかいきませんか?いい友達知ってるんで」
あっ自分はいかないのね、
何やってるんだろう…
あんな動物みたいな奴呼んで、ビニール傘買ってずぶぬれになって…
まあ、いいか。
「というわけでずぶぬれになりましたー」
だめだこいつ、酔ってやがる
「どーだった、海、楽しんだの?」
「まあまあ、楽しんできたってことでカンパーイ」
はなしも通じねぇ
「もう少し有効に使ってください・・・」
「あ、いいっていいって、おごるから」
あ、あざーす
どっか行きたそうだったから叶えたはずなんだけどな…
まあ、自立型AIが正常に動いて良かった、
海に入ったりするのは流石にハラハラしたけど
「実験は成功」
彼はそう書いてパソコンを閉じた
缶コーヒー片手に
「やっぱり大学からの奴といるほうが楽しいわ」
「そーですか」
「ああいうやつ二度と紹介しないで、」
「面倒」
「なんかいったか?」
「まあ、たまにはああいうのもいいな、たまには」
大学時代、同じようなことをしたことがある
冬なのに海に飛び込むやつも、雨を持ってくるやつもいたから。
あの桟橋、久しぶりだったな