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02 料理できねぇ


 それから俺は雫に質問攻めをしていた。

「なんで隣なんだよ!」

 一番聞きたいところであったことを聞く。俺が住んでいるマンションは7階建てで1階層では12部屋ある。その中で俺の部屋の305号室の隣はとても偶然とは思えなかった。

「え〜それプライバシー()()()()?だから答えられませーん」

「プライバシーの侵害と言うならば、俺が知らない間に部屋に入ってるお前が言うな」

「てか、なんだよプライバシー()()()()ってお前は海に深く潜るのかよ!」

「どーいうこと?とにかく言いません!」

 俺の渾身のツッコミを華麗に避けるとはなかなかやるな。そんなどうでもいいことをさておきなぜこいつは、すぐに言おうとしないんだ。

 そんなことを考えていると――

「そんな言うけどさぁ、私1ヶ月ぐらい前から引越し終わってたよ」

 これまた変なことを言う。俺がそんな嘘に騙されるわけがないだろう。

「潤ってさぁ朝遅すぎじゃない?同じ登校時間なのに一向に合わないよね」

 続けて

「それで遅刻しないの?大丈夫?」

 と言ってきた。

 これは誤算だった。俺は遅寝遅起きを志しているため学校に登校する時間は遅刻ギリギリを攻めている。休日も部屋で読書やゲーム、それからアニメ鑑賞と、これまた家出完結してしまいがちになってしまっていた。それならば俺が知らないのにも合点がいく。

「俺は人生にスリルを求めて止まないだけだ」

 そんな正当な意見が口からこぼれ落ちた。

「また意味わからんこといってるし、嫌われるよ?てか話す相手いないから嫌われるもないも無いかぁ」

 そんな悪魔のようなことを言いながら、ニマニマと笑ってやがる。

 俺の心はガラスで出来てると言っても過言ではないがそのガラスを木っ端微塵にしてきやがった。

「よいしょっと」

 そんな可愛らしい声で起き上がった。

「どうした」

 俺がそう聞くと

「美沙さんから頼まれてる事だし潤に私の手料理をご馳走してあげようと思って」

 続けて「喜べ、美少女の手料理だぞ」と可愛らしい小悪魔のような顔で言いながらキッチンへと向かった。

 てか、こいつの言動何やっても可愛いがつきそうだな――――とそんなどうでもいいことを考えているだけの余裕はあるようだ。

「こんなやってあげるからなんか欲しいなぁ」

 独り言のように言っているが明らかに横目で俺を捉えている。

 それでも欲しいと言われても俺にはあげられるものがないので、冗談で煙に巻くことにした。

「下僕にでもなりましょうか?」

 何も入ってないはずの冷蔵庫を漁っている雫が「ふ〜ん」と言っている気がする。そんな聞き取れるか怪しい声を聞きながら

「冷蔵庫何も入ってないぞ」

世間一般的な常識を教えてやった。冷蔵庫とは中のものを買わなければ効率の悪いエアコンなのだから。

「そんなことだろうと思って買い物してきた。」

「準備がいいことで」

 よく見るとスーパーの袋が冷蔵庫の近くに置かれている。

「よいしょっと」

 次はイケメンの声が出てしまった。そんなことはどうでも良くてそのままキッチンへと向かった。

「なんか手伝うことある?」

 なんてできる男なのだろう。

「よく出来ました」

 俺の言動が気に入ったのかそんなことを言ってきた。

「言っとくと包丁を握るのは中学の調理実習以来だぞ」

 雫の顔が曇っていく。さっきまでの顔はどこへやら。

「それ本当に言って――」

「当たり前だ」

 我ながらなかなか早い返事だった。相手も言い返せないぐらいには俺の即答が効いたようだ。

「それでよく今まで生きてこれたね」

 雫が意味のわからないことを言っている。

 人間は包丁を握って生きているわけではない、冷凍食品という人類の叡智の結晶やカップにお湯を入れるだけでラーメンが出来る時代なので死ぬことはあまりないと思うのだが。

「そんなんだと潤の将来が心配だから私が料理を教えてあげる」

「いや、大丈――」

()()()()()?」

 言葉が詰まるほどには圧が凄かった。今なら、熊の圧にもビクともしない自信がある。

「お願いします」

「はい、お願いされちゃいました」

 人生で初めての料理を幼なじみに教えて貰うという奇妙なことになってしまった。




「――だから、そうじゃない!」

 俺は今とても後悔している。さっき雫の圧に負けたせいで料理の専門学校並みのレッスンを受けている。雫先生から見ればニンジンを切ってる俺が危なっかしく見えているのだろう。

 だが、俺は真面目にやっている大真面目だ。俺の人生で包丁というものは誰かをキルするぐらいしか使用方法が見つからない

 そんな男がたかが10分なんかで上手くなるわけがないのだ。自分なりに試行錯誤しながらやっていると――

「これはやばい」

 見たこともないような雫の青ざめた顔。俺はそんなにやばいのだろうか。

「雫的には今日パッパと教えて自立を促す方向で行こうと思ってたけど…………無理だ」

 「…………無理なの?」

 「絶対無理、言えるこれだけは言える…………無理」

「まず最初に」

 ゴホンと可愛らしい咳払いをして続けた。それからは凄かった。

「なんでその持ち方なの!それは人を殺める時以外使わないよ!あとなぜ包丁を両手で持つの固定させて切ってよ!ニンジンがどっか行っちゃうよ!潤はどこかのお侍さんだったの?!」

 そんな根も葉もない事を言われてしまったがここは乗ってやるのがいい男だろう。

「バレたなら仕方がこの俺が――」

「そーいうのいいから」

 すぐに断ち切られてしまった。こいつこそ本物の侍なのではないかと疑いたくなる。

 正直自分でもここまで酷いとは思っていなかった、料理なんてクックなんたらを見れば余裕と思っていたが実際には包丁もまともに扱えない侍であったようだ。

「これは酷い」

 さっきまでの可愛い顔はどこへやら。まあ可愛いままなんだけど。

 その顔でとてもやばいことだけは自覚できた。

「やっぱ潤今日は、雫一人でやる」

「いやそれは申し訳――」

「包丁も使えない人が近くにいる方が怖いかな」

「全くその通りで」

 包丁も使えないような奴が近くにいるだけで料理が著しく難しくなる。例えば地図を読めないような奴に道案内させるようなものだろう。それは相当な時間ロス、非効率的だ。

『なぜ俺はこの歳にもなって料理をやってこなかった』と後悔と自傷の念に駆られている俺を横目に――

「今日は雫一人でやるけど、潤は明日から特訓だよ」

「…………?」

 何を言っているのだろうこいつは、もう十分ではないか。俺は後悔をし俺に料理をさせない選択をした神にも怒ってやった。これで十分ではないか。別に料理をしたくないからという訳ではないが、それでも俺は頑張ったこれでいいじゃないか――

「よくありませーん」

 なんだこいつエスパーか?

 俺の心を完全に読み切ってきやがった。

「潤はさぁ自分はポーカーフェイスしてるつもりでもでかでか顔に書いてあるよ」

 そういうことか。ならば納得だ。

 早急に対応せねばいかん。俺は洗面所へと駆け込み顔を洗った。それを見兼ねて雫は――

「なにやってんの?」

「いや、顔に書いてあるだろう、洗い流してやろうかと」

 普通のことを言ってやったがそれでも雫は呆れ顔をやめてはくれなかった。

「潤ってさぁネタなのガチなの?」

 言っている意味が分からなかった。顔が汚れているならば誰でも顔を洗うと思うが。

「時々怖いんだよね、雫が見てないといつ暴走するか分からないから」

「別に俺は普通だ」

 至極真っ当な意見を口にした。

「ほらやっぱり雫が見てないとダメじゃん」

 何故だ。何故俺は幼なじみに見られていないとダメなのか。どれだけ考えてみても正解にはたどり着きそうにない。

「もう顔を洗うのはいいから、座って座って」

「いやでも顔に書いて――」

「もう取れたから()()()

「……はい」

 また雫の圧に負けてしまった。こいつの圧はどうにも俺には効果抜群のようだ。




「――――はい、できた」

「え?もう?」

 時計を見ると俺が座ってから40分も経っていない。

「料理しない潤には分からないかもしれないけどそんな凝った料理じゃなければ1時間もかからないよ」

 そういうことなのか。だが、それも雫の料理の手際の良さがなせるものではないだろうか。

「持ってくるの手伝って」と言われたので待っている間やっていたゲームでモンスター狩りを辞めた。

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