神絵師、引っ越しを決意しました。
前回はましろと萌衣菜をお持ち帰りするところで終わったようですね。
お持ち帰りしたところで無事に済むわけもなく…、続きはノクターンで!()
翌日は頭痛で目が覚めた…くっそ痛い。
自分の家にちゃんと帰ってきてたのは良いんだが…問題がひとつ。
「こぉちゃん…頭痛だよぉ…」
「俺だって頭痛いんだから我慢しろ…」
「ぐぇぇ…」
俺は布団で寝ていてましろも布団で寝ていた。そして俺の家には布団はひとつしかなく予備なんてものはない。お互いの衣服はやや乱れているどころか、上半身はほぼ脱ぎ掛けでましろの胸元のジッパーは開いていておおきな胸の谷間がおはようとあいさつをしていた。あと俺の唇がちょっと湿っぽいんだが…ましろはのんきによだれを垂らしているが唇が嫌にテラテラしているのが目につく。
以上が寝起きの俺が把握できた現状。
…………認めたくない、認めたくないぞ…。あっ、これはきっと夢なんだな。うむ、きっとそうに違いない。眠いからそうだよな、うん。もう一度寝れば本当の俺は目を覚ますに違いない。
「あっ、先輩起きました?」
軽く現実逃避をしていると玄関の方から萌衣菜が顔をだしていた。
「あ、あぁ…起きたけど…」
「全くもう…調子に乗ってお酒をたくさん飲むからですよ?」
「そんな飲んでないはずなんだけどなぁ…」
どうしてこいつは平気そうな顔をして…いやなんでキミはツヤツヤしているんだい?
視線を向けられないので目をつむる。
「それなら早く身体の方もおっきしましょうね?」
なぜ子供に言い聞かせるような言い回しをする? 朝なんだからそんなに飛ばさないでくれよ。
……うむ、おっきはしてないからギリセーフだと思いたい。
「ところで…なんで裸なの?」
「いやん先輩のえってぃ」
「お前の方がえってぃだろうが」
俺が視線を向けずに朝の生理現象を確認したのはそういう理由。
さすがに頭が追いつかないんだわ。
「起きてからお風呂に入ってないことに気付いたので、先輩のお風呂借りちゃいました」
「そういえばそうだな…俺も入りたいわ」
「いやですねぇ先輩♪ あたしと一緒に入りたいだなんて」
「いやですねぇ、言ってないんですわ」
「イってないんですか?」
「強調すんなはっ倒すぞ」
「押し倒されるほうが嬉しいです!」
「もうこれ以上しゃべらないでくれ……つか服着ろ服を」
「ニシシ♪ はーい!」
なんでお前朝からシモなの? もういやや…こっちは疲れてんのよ萌衣菜ッシュ。
足音が遠くに離れたみたいでやっと目を開けられたよ…。そして真横で寝てたもちもちしたまん丸モチモチの生物はまた丸くなっていたみたいだ。
「くかー、ちゅぴー…」
「おめーは早く起きろ」
「しゅこー…」
萌衣菜と喋ってる間にまた寝だしたぽっちゃり…ではなくましろを揺り起こした。こいつの平和そうなツラを拝んでるとこっちまで眠くなってくる…あ、だめだ眠気が…。
「ふぁ…ふぁぁ…ぁふん…ぉぁょ…」
「ん…おはようましろ、起きたらシャワー浴びてこい…」
「ふぁぁぃ…」
大きなあくびと共に起きだしたましろはそのまま陽の光を浴びながら体を伸ばしていた。ふかーっ、と声を出しながらもにゅもにゅと口を開ける姿は猫にしか見えない。
そしておもむろにパーカーのジッパーを下して服を脱ぎ始めた。
「……ここで脱ぐな、俺が脱ぐぞ…」
「んぇ? あー、はーい…」
もぞもぞとゆっくりした動きで洗面所に向かうましろ。トテトテではなくぽてぽてという足音がするが…聞き間違いだろうか? 俺が寝ぼけてるだけか? 眠い。
「ましろさん!? 人前では脱いじゃだめだって言ったじゃないのっ!?」
「んぁー、ごーめーんー…ぐぅ…」
「起ーきーなーさーいー!!」
「ぐぇぇ…」
朝から萌衣菜は元気だな…。
「先輩もっ! 急に服を脱がないでくださいよ! 絶対起きてないですよね!?」
「起きてるよ…ぐぅ…」
ここ俺んちなんだけどなぁ…。
まぁいいか…ふぁふ…。
「起―きーてーくーだーさーいー! 起きないと襲っちゃいますからねっ!」
「あいあいー…」
さっきよりも目がしょぼしょぼするな…。
つか今何時? 朝の8時じゃねぇか…ならもうちょっとだけ寝させてほしいよ。できればあと5時間くらい。
っと、誰かから連絡だ…あん?
「どうした航…」
「声めっちゃ響いてるんだけど…」
「……すまん…」
……引っ越ししなきゃなぁ…すぅ…。
そろそろ起きるか…。
☆★☆★☆★
「康太君、引っ越しするんですか!?」
「えぇっ! かぎやさん、遠くに行っちゃうんですか!?」
昼過ぎに職場に到着してななみさんに引っ越しの相談をすると叫ばれた。そしてその声につられて来宮さんも大声をあげた。
「どこですか!? 私たちも一緒に着いてく方がいいですか!?」
「かっ、かぎやさんはボクたちを見捨てるんですかっ!?」
「落ち着いてください二人とも。彼はまだ引っ越しするしか言ってませんよ」
「へぇ~! ここが先輩の職場ですかー! ほへー」
そして二人をなだめる水鳥さんと、それに無関心で室内を見渡す部外者改め今日から関係者の萌衣菜。
一応だがあの後はなんとか全員が目を覚まして気まずい朝食を食べた後にましろを送り届けてからここにきている。余談だが、ましろを届けた際におばさんから「あのあとふたりも持ち帰っちゃうなんて…今日の晩御飯は赤飯ね!」と言われたがきっと気のせいだと思いたい。
「そ、そうでした…」
「あぅぅ。ごめんなさいなのです…」
恥ずかしそうに顔を赤らめる二人。カワイイので許しましょうかね。
「流石に今の家だと狭いですしね、あとは防音仕様の広めの部屋にしようかなと」
と希望の条件を言ってみたところ反応が割れた。
「こ、康太君…ま、まさかメイちゃんと…」
「さすがにこれは…ボクの想定外なのです…手が早すぎるのです…」
青い顔をしながら後ずさりをしているななみさんと、なにやら絶望をして膝をついて…ではなく四つん這いをしている来宮さん。
萌衣菜がなんですかななみさん? あと来宮さん、ぶん殴りそうになっただけで手はだしてないですからね。
「ふふ、流石はかや先生。期待を裏切らない」
楽しそうに目を伏せて口元を隠す水鳥さん。何も応えるようなことはしてないはずなんですけどねぇ。
「いやんもう恥ずかちぃ…(*/ω\*)///」
くねくねと身体をくねらせている萌衣菜。お前はなぜ照れてんだよ。
「では、おふたりはお付き合いをしてるんですか?」
「はい?」
「はいっ♪」
「はぁ?」
「そっ、そんな…おめでとうございます…」
「違いますが?」
「お、お似合い…なのです…」
「違いますが??」
ツッコミ不在の恐怖を味わった気分だ。ボケる人間がたくさんいるとツッコミがむなしい気持ちになるのは本当だった。これ俺の話聴いてくれてるんだろうか。
「いえ私ずっと思ってたんですよ。お二人が同伴出勤をなされてたのと先日お逢いしたときから雰囲気が違うなと」
「その考えが違いますね」
「よっ、水鳥っち! できる女はお目も高い!」
「誰だお前は。お目が高いんじゃなくて頭がおめでたいって言いてぇよ」
そんなコール聞いたことねぇわ。
「うぅ…アピールが足りませんでしたか…」
「それを言ったらボクのほうがいろいろ足りてないのです…」
「さくらちゃんは小さくてかわいらしいじゃないですか…私なんて魅力のないまるでダメな女…略してマダオ…」
「ななみさんは誰よりも女の子らしいじゃないですか…ボクはただのちんちくりんなのです…略してチン〇ンなのです」
「「はぁぁぁ……」」
すんげぇ鬱な雰囲気を漂わせる二人。すげぇ近づきたくない。
えっ、これ俺が悪いの? 引っ越ししたいって言っただけでこれなんだけど、俺が悪いの!? 頼むオーディエンス! この答えを教えてほしい! うーん、だめみたいだ。俺にオーディエンスを沸かすだけの能力はないみたい。
「さて、茶番も済んだところで」
「茶番で他人の人生狂わすんじゃぁないよ」
「人生に茶番はつきものです。代表、チーフ。お仕事の時間ですよ」
さらっと流したなこの人。
「はぁぁい…」
「な゛の゛で゛ず゛ぅ゛…」
ゾンビみたいな生気のない顔と歩き方で自分の席まで歩いていく二人。あとで何かした方がいいのだろうか…?
「あのー、あたしはどうしましょう?」
「鍵谷さんと話をしたあとで業務内容と面接をしますので…少しだけ待ってて頂ければと」
「あざっす!」
「よかったらあの二人からいろいろと教えてもらってください。萌衣菜さんであればあのふたりも無下にすることはないでしょうから」
「わっかりました~」
そう言って萌衣菜は二人を追うように部屋を出ていった。
「さて鍵谷さん、引っ越しについてもう一度教えてもらえませんか? 書類とか用意しなければなりませんので」
「あっ、はい。わかりました」
一瞬で切り替わったなぁ。表情が死んでるから切り替わったと言えるかは怪しいけど。
「切り替わっているんですよ、これでも」
「心の中を読まないでください」
「鍵谷さんはそれほど顔に出やすいってことです。さくらと同じくらいポーカーフェイスは向いてませんよ」
「なかなかに言いますね、水鳥さん」
「ものは言い様ですが、裏表の苦手な人間はだいたいの表現がストレートなので私あなたたちは好きですよ」
好きと言われても水鳥さんの言い分は「人間性」の意味なので大してドキッとはしない。
ななみさんを好きの対象からサラッと省いたのはツッコミを入れないようにしようね。じゃないと藪蛇。
「ななみはそれ以上なので」
「だから心の中を読まないでくださいって…」
「ふふっ。で、引っ越し先はどこあたりですか?」
…………。
「場所までは特に考えてませんでしたけど…さっきの条件に合う場所で探そうかなと」
「あくまで広くて防音が優先と。場所はこだわりがない感じで?」
「ですかね。会社から遠くなければ…遠いとさすがにここまで来るのも大学に通うのもつらいですし」
らくがきそふとの住所は大学から近いので来ようと思えばすぐ来れる。かなり近くて知ったときはびっくりしたな。あとは前のブラック企業もそこまで遠くはなかったから続けてしまったのは皮肉なんだろうか。
そう思うと職場も大学も近い方が良いと思った。
「なるほど…なるほどなるほど…」
目を閉じてすこし考える。確かに防音が最優先、と言ったけど金で迷惑を回避できるならしておくに越したことはないからね。あとは…なんだろう? 全部に近い場所以外で条件は…ないか? しいて言うならコンビニが近いくらい。案外と思いつくのがないですね、と伝える。
「それなら実は、その条件に合う賃貸アパートがあるのですが…紹介しましょうか?」
「それはなんとも偶然ですね」
だが俺は見逃してなかった。目に入ったのはたまたまだろうけど、水鳥さんの口元が微妙に上がったのだ。きっと何か企んでいるに違いない…! 俺は騙されないぞ!
「で? 今度は何を企んでるんですか?」
「企んでいるとは人聞きの悪い。単に親の伝手で空きのあるアパートを知ってるってだけですよ」
なんだ親か。それならまだわかるけど…。
「両親がそこの大家で、空いてるって話を聞いただけで」
「あー、そういうことですか」
「なので、もしよろしければ私から伝えておきましょうか? 鍵谷さんなら信用の面でも問題なさそうですし、すぐにでも内見できると思いますから」
ううむ…。不自然な話ではないんだけど…なんだろうね。話が美味すぎる気がするんだけど?
「えっと…話をするにあたって条件とかは…?」
「特にないですね。強いて言うならかや先生として両親と少し話をしてほしいくらい、でしょうかね…?」
ん? えっと…?
「仕事の仲介ですか?」
「あぁいえ、先生のファンなだけですよ」
「おん。そういうことなら…」
なら大丈夫か…?
「一回部屋を見させてほしいです。引っ越しの検討はそれからで…」
「かしこまりました。では両親に伝えておきますので、内見の日時が決まったらまたお教えいたしますね」
「よろしくお願します」
これで部屋は一旦は大丈夫かな? ちょっと楽しみになってきた…あっ、航にも伝えておかないと。
俺も引っ越ししたらアイツも越すだろうしな。
そして内見の日。水鳥さんの両親へ挨拶は特に問題も起きず、部屋も問題なさそうだから俺はすんなりとその部屋に引っ越すことに決めた。
6度目の地球を防衛するバイトに忙しくて投稿が遅れました。




