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神絵師、デヱトの事後処理をします。

「………と、いうわけで、今あそこで寝てるななみさんにも言った通り、なにかあれば手伝いますし、流石にOUTになれば俺も強制介入させてもらいますので、よろしくお願いします」


 言った通り、泣きつかれてそのまま寝てしまったななみさんを会社まで送り届けてみどりさんに連絡し、事情を説明したうえで迎えにきてもらったのだが…。


「はいはい。惚気ごちそうさまでした」


 詳しく今日のななみの状況を教えて、なんて言われたから話したらこれですわ。


「別に惚気てなんていませんが…?」


 キレそう。鍵っ子のキレるオスとは俺のことやぞ? 冗談だけども。


「そうですか」


 素っ気ない反応だけども? 事情聴取されてから顔を変えずに自分から言ったんだから、せめて何か別の反応してくれよ。

 と思ったが、なんか言ったらアウトだから止めておく。


「……ま、及第点ってところでしょうか」

「何がですか?」

「こっちの話です。それよりも、先生は今日楽しめましたか?」

「……? えぇもちろん。ななみさんを楽しませて自分が楽しんでないなんてななみさんに失礼ですから」

「……無自覚かこの人?」

「何か言いました?」

「いいえ、何も言ってないです」


 嘘つけぇ。絶対何か言ったろ?


「それよりも今後の方針ことをお話ししましょう」


 露骨に話題を逸らしてきやがったぜこの人。


「社の方針としては変わらず、私と代表で企画とシナリオを進めさせていただきます。とは言っても明日の代表がダメそうなら一度社内緊急ミーティングを開くつもりですので、先生はいつでも打ち合わせできる準備をしておいてください」

「わかりました。準備とかは?」

「不要ですね。いつか打ち合わせがある、と心構え頂ければ」


 安置はないぜ、怯えて震えながら寝な! みたいな言い方をしますね水鳥さん。それとも俺が穿ちすぎなのか? ちょっとわからなくなってきた。


「どちらにせよ、もうしばらくは時間がかかりそうなので。今は外注に着手しつながらコミディアやスキルアップなどに務めて頂ければと」

「いつも通りですね。わかりました」

「代表も一度決めれば手は早いほうですから…おそらくもう大丈夫だと思いますので…」

「あ、それは心配してないです」

「ほう?」

「今のななみさんなら、きっとやってくれますからね」


 という確信がある。具体性もない直感のようなものだけど、きっとななみさんなら。


「それにもしだめなら、今度こそななみさんがちゃんと話してくれますから」


 ……形容しがたいニチャァとした顔を浮かべている水鳥さん。なんだなんだ?


「なるほど。そこまでですか」

「……? だってななみさんと約束しましたから」


 ニチャァっと悪意のありそうな笑い顔をしていた水鳥さんが、今度は一転して苦虫を嚙んだような顔をしているが…ワタシニハワカリマセン。

 いやほんとに。


「わかりました、とりあえず今日はもう上がっていただいて結構ですので、また明日からもよろしくお願いしますね、かや先生」

「ん? はい、こちらこそよろしくお願いします」


 なんか強引に話を切り上げられたが……何か準備でもあるんか?

 いまいち見当がつかないぞ? ……ま、いっか。帰って寝てまた明日から頑張ろう。

 玄関から出てエレベータで降り、オートロックの扉をでたところでななみさんの叫び声が聞こえたが……あれだけ泣いた後に大声をだせるなら、きっと明日からも大丈夫だと、そう信じてる。


(ありがとうななみさん。また明日からもよろしくお願いしますね)


 ……近所迷惑になってないよね?








-- side. ななみ--


「……鍵谷さんは帰りましたよ、ななみ」

「あぅぅぅ……」


 恥ずかしすぎて掛けられた毛布の外に顔をだせません…。


「あそこまで惚気ているのに、当の本人は無自覚ですって。どう思います?」

「い、いわないでくだしゃい……」


 毛布の外ではきっとにこにこしているに違いない聖ちゃん。今外に出たら完っ全におもちゃにされちゃいます! 断固として毛布は死守します!

 とはいえ……。


「康太君、気付いてくれるんでしょうか……」

「さて。それはななみ次第じゃないかと」


 ここにいない誰かに聞いても、答えを返してくれるのはこの場にいる聖ちゃんだけ…。


「そう、だよね…」


 その聖ちゃんからは早く行動しろ、って急かされているような気がします。


「とにかく今日はもう帰って、また明日から企画の話を進めましょうか」

「そう…だね、うん」


 がんばります。明日から…。


「ねぇ……聖ちゃん?」

「はい? なんですか急に?」

「女の子って、すごく難しいね」


 思わず言っちゃいましたが…私のなかではずっとぐるぐるしています。もやもやもしています。乙女思考と言いますか。自分には縁がなかったことなので、全然わかりません。


「ななみは十分に女の子ですよ」


 でも答えてくれた聖ちゃんは、優しく答えてくれました。


「ほ、ほんとうですか…? 私、女の子できてますか?」

「えぇ、もちろんですよ。今のななみはどこからどう見ても等身大の恋する女の子ですから。少なくとも私にはそう見えます」

「…そうなんですね、よかった…」


 その言葉にちょっとだけ安心しました。たまに意地悪をしますが聖ちゃんは嘘を言いませんから、私は康太君に少しずつ見せられているのでしょう。きっと。

 ……いい時間なのでそろそろ帰りましょう。もぞもぞ……。


「あ、やっと顔を見せてくれましたね。では帰りましょうか」

「びぁ!? はっ、はめられましたっ!?」

「私はハメてません、ハメるのは鍵谷さんのほうで……おっと失礼」

「聖ちゃーーーんっ!」


 やっぱり聖ちゃんは意地悪ですーーーっ!!!!


-- side. ななみ End.--










 翌日からの日々は変わらず…けどゲームは順調に動き始めた。


 らくがきそふとが受けている外注も順調に減って社内の体制が整い始める。ななみさんが音や収録周りなどを調整しながら企画を進め、企画をもとにプロットと台本を書き起こしていく傍らで事務作業に勤しむ水鳥さん。……いやこの二人おかしくないか?


 事務って普通専任だと思うんだけど。ひとがいないとかならアレだけど…さすがにこれはまずいのでは?


「ななみさん、水鳥さん、ちょっと良いですか?」

「ひゃいっ! どどうしましたかっ?」

「なんでしょう?」


 書類らしきものに目を通していたななみさんと企画のテキストを起こしていた水鳥さんが手を止める。唐突すぎてどもっちゃったななみさん、すまん…。


「あー…急にすみません。気になったんですけど、らくがきそふとの事務スタッフって誰かいたりします?」

「事務ですか? 基本的に私と聖ちゃんが兼任してますが…」

「えぇ、事務を雇おうにも募集をしている余裕がいまはないですから」


 切実な問題だなぁ…。


「なら一人事務を雇うとしたら…その分二人の余裕がでますよね。今から求人をだすのってどうなんでしょう?」

「確かにいてくれるとありがたいですが……」


 ちょっと悩ましそうな顔をするななみさんだが…どちらかと言えばよろしそうな雰囲気じゃなさげ。


「代表とディレクターを兼任してるななみさんが一番忙しいのは凄いわかりますし、水鳥さんもシナリオに着手するならライター専でいてもらったほうが効率もよさそうですよね。あとは追い込みが始まる前に少しでも制作スケジュールの余裕は作っておきたいのもありますけど…」

「かや先生」

「はい?」


 疑問点を並べてみたけど…そこでとめてくる水鳥さんは凄く真剣な表情だった。


「素直に言っていいんですよ? ななみのからだが心配だって」

「べっ!?」

「……? 確かにななみさんも心配ですけど」

「ぼっ!?」


 うん? ななみさんが撃墜されたみたいだ。あれ、俺なにかやっちゃいました?


「ななみさんを弄るのはそれまでとして、ななみさんだけじゃなくて水鳥さんもですよ。流石にひとが足りないのをどうこう言えるレベルを超えそうなので……」

「そうなんですよね。先生の言いたいこともわかります。わかるのですが……」


 そこでななみさんを……ではなく来宮さんを見ている。

 来宮さんは集中しすぎてこっちを見ていない。耳にイヤホンをさして音楽を聴いてるため、余計に声が届いてなさそう。


「来宮さんが…どうかしました?」

「あぁいえ、チーフもそうですが…。基本的に弊社のスタッフは内輪で完結させていますので、事務が務まる人種と偏見を持たない人は、案外少ないのですよ」


 あーね。なるほどね。

 確かにコミュ障問題もあったわ。そりゃどうしようもないわ…。


「ってことはあれですか。身内にあたるような関係で、なるべくなら来宮さんでも対応できそうな物腰が柔らかそうなコミュ強、そのうえヘホゲ業界に偏見や忌避がない事務に向いてるような人間が居れば考えなくもない、みたいな?」

「まあありていに言えばそうですね。ただ条件に当てはまる人が…業界のことでどうしても良い顔をする方が多いので、こちらも相談しにくいと言いますか…」


 そうだよなぁ。確かに住めば都の業界だけど、窓口狭いもんな。男は知らんけど、女性にとってはハードル高いから。あと、この職場に男をぶち込むのはちょっと気が引ける、特に来宮さんが危ない。

 確かに求人だと危なそうだ…さすがに書類選考とか面接の問題もあるだろうけど。一番は身内スタッフなら信用問題は最重視しなきゃならない。


「うーん、俺の場合は事務ができそうな知り合いが周りにいるか思い出すところからですかね…」

「えぇ。もし良い人がいればでいいですし、無理に誘って関係を崩してしまうのは私としてもしのびないですから」

「わかりました。とりあえず探すだけ探してみますが…もし俺にもできそうな事務業があれば言ってくださいね」

「ふふ、お気持ちだけ受け取らせて頂きます。シナリオは一応目途が立ってますし、大学中でも作業中でも私の場合は変わりませんので」


 おぅ、この人もハイスペックか? 一般人がいないスタッフ陣だこと。

 事務できそうな知り合い。そんな奴いるか? 航やましろは当たり前だが除外だ。前者は物理的に、後者は保護者的に。孝宏は…今は難しいだろうな…。一年前ならワンチャンあったかもだけど…あとは誰だ? 身内がだいたい業界人でアレは忙しすぎて捕まらなさそう。…うむ、いねぇな!


 はい終了~~~~。意外と業界絡まない知り合いがいない俺、大学ぼっち説。

 ……おとなしく作業に戻るか…。

 ちなみにななみさんはずっと顔を赤くしてショートしていた。


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