神絵師、デスマーチを予感しました。
「康太君…」
「それははらがたつのです!」
すまんて。なんか耐えられんのだって。
いや、三人ともジト目で見てくるんだもの、どうすりゃいいのさ。
俺は悪くねぇ。
あと水鳥さん、ジト目で見てるだけなのか軽蔑してるのか判断できない目はやめてください。謝りますし、なんでもしますから…。
「で、康太君がどうしたのですか?」
「えっと、明日には外注が終わっちゃいそうなのです…」
「え? だって納品までまだ2週間以上ありますよ?」
「そうなのですが…かぎやさんの手が想像以上に早くて」
「あっ、あー…そうでした…。康太君の手を完全に見誤ってましたね」
あちゃー、って頭を抑えながら困惑顔を浮かべる
「でもこれでチーフも時間に余裕ができましたね」
「はいなのです♪ かぎやさんには感謝なのです!」
「ふふ、康太君、助かりました」
ふわりと花が咲くような、柔らかい笑みのななみさん。
「久々のグラフィックなので楽しかったですよ。それに俺が仕事しやすいのはななみさんのおかげでもありますから」
うん、ほんとその通りなんだよ。
「ぇへへ…。康太君が楽しくしてくれるのでしたら、私も頑張った甲斐がありました」
「あれぇ~? ボクは違うんですか~?」
恥ずかしそうに、でも誇らしく頬をポリポリするななみさん。の隣で輝かんばかりに笑顔が眩しい来宮さん。別名、にやけ面とも言う。
…こやつ、謀ったな! って言えばいいのかね。
「わかってるよ。来宮さんのおかげでもあるって。今日はホント助かったよ」
「にひひ、どういたしましてなのです♪」
「ん…? んー…?」
ななみさんは何が引っ掛かってるんだろう?
「あ、話は戻るんですけど…。康太君…一つ相談って可能ですか?」
あ、引っ掛かってるのはいいんだ?
「なんです?」
「いえ、サマコミの話に戻るんですけど、企業参戦はある条件次第になったんですよ」
サマコミ自体は参戦できるのね。
でもなんの条件を出されたんだろう。真剣な表情だから結構厄介なラインだったりするのか? ハロー、キチィ?
「えっと、弊社制作ゲームのマスターアップがいつかは覚えてますよね?」
唐突になんでホワイ?
「今年の7月末ですよね? それが一体…」
さすがにさっきの話は忘れないけどなぁ…。
うーん…。
ん? もしかして…。
「サマコミ参加条件って、マスターアップ厳守ですか?」
「あはは…そう思いますよね~」
「ってことは違う?」
「うーん、遠くて近い、ってところですね」
「正解は新作ゲームの『体験版を公開する』、でした」
クイズなの?
って…。
「体験版…?」
「えぇ、そうなんです。出資を受けている流通元から、サマコミの一企業として出展するなら、製品情報はあらかじめ流してほしいっていうオーダーがありまして」
「でも今って3月ですよね?」
…どう考えても…総力戦どころか…。
「えぇ、今康太君が考えてるとおりで…」
「体験版を6月にかや先生の力に頼りきりになりそうなんです」
「デスマーチ再来じゃないですかー」
マジキチハローキチィ。
グッバイ! 僕の! 運命の作業は確定らしい! 辛いけど否めない! でも、離れられないのさ!!!!!!!
あぁ…じゃあな、平穏。
ってそういえば。
連絡するの忘れてたな…。スマホを取り出して一つの連絡先を呼び出して…。
「…あ、石野さん? お久しぶりです、鍵谷です」
伝手を辿ってちょちょいのちょいってね。
「…助かりました、はい、では後日に資料と見積お送りしますので、はい、はい。よろしくお願いします!」
よっし、これでコミディアの番宣は大丈夫だ。
「ん? 康太君どこに?」
「あー、コミディアの販促映像依頼でしたね」
フッ、これしきのこと。
…ついでに俺の個人的な頼みもぶち込めたから、一石二鳥ってね。
ところで……。
…来宮さんのマグカップには「たべのこし」って達筆で描かれてるんだけど、好きなん? そういうの。
俺もそういうのセンスあって好きだけどさ。




