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神絵師、始動しました。

 もちもちした生物と朝から格闘し防衛に成功した後、航と孝宏を除く同じ学科の奴らと様々な私闘を繰り広げた俺は疲労困憊だった。

 前者は精神的に、後者は体力的に。


 あいつら()賄賂を贈る(学食を一食分奢る)ことで事なきを得た。正面切って戦えば圧倒的物量の前になすすべなく敗北していたことだろう。

 なんの話をしているんだ?

 そうだった。


「……と、いうことで私たちの目標は8月に発売予定なので、7月末週でマスターアップ予定でゲームを作っていきたいと思います」


 「目標:7月31日にマスターアップ!」って書かれた会議室のホワイトボードをパンパン叩きながらななみさんが主張する。

 音がしょぼい…。ななみさん、めっちゃ非力…。


「今まではロープライス版で制作にあたってましたが、今回は…」


 …ん? 水鳥さんが俺をみたけど…、ってあぁそういうことね。


「かや先生の知名度が及ぼす影響を考慮し、流通元などとも協議した結果、らくがきそふと初フルプライス版として出すことに決定いたしました」


 初、という挑戦に対してななみさんと来宮さんたちにミニ気合が入る。

 身に、ではなくミニと言ったのは間違ってない。


「ということで、私たちの今後のスケジュールはこちらを主に進めていく予定になりますので」


 …ふむ……。

 …グラフィックの力が結構…。


「あ、今回の原画はチーフとも話をして決めましたが、初のフルプライス版は康太君にお願いしようと思ってます」


 ……。


「来宮さんは?」

「大丈夫なのです! ボクもななみさんやひじりさんとすでに話をして納得済みなのです! それに…」

「それに…?」

「……ボクは、かや。様に勉強をさせてほしいのです」


 それは悔しさを含んでもいたが、本心も見えた。

 ということは…ななみさんからの話を飲み込めたんだな…。年下なのにすげぇわ…。なら、断っちゃいかんでしょう。


「わかりました。らくがきそふとの専属イラストレーターとして、全力を尽くさせて頂きます」

「はいっ!」

「えぇ」

「よろしくなのです!!!」


 一つ頷いて了承。

 ゲームの原画作業は久々だからなぁ…。ん? あれ…?


「ところで、ゲームの企画ってどうなってます?」


 大事な中身の話をしたところで、ななみさんと水鳥さんの表情が暗くなる。

 え、まだ決まってない?

 嘘だるぉヲイ…。


「そうですね…。早ければ今月末までに…」

「企画案を通して制作ラインに入れればと…」


 あっ、これ案出しで止まってるところだ。

 本格的に入れるのって…どこだ? 来月かなぁ…。あー…大丈夫かぁ? 下手したら納期一か月前で発注レベルになりそうだけど…。シナリオ…。あっ、シナリオ…。Oh…。

 まぁブラック時みたいに忙しくならなきゃいいんだけども…。


「なる。なら俺たちは…」


 来宮さんは…顔を横に振ってお手上げ。


「ボクたちが基本外注作業なのです!」

「ん、了解」


 前にやってたことと同じかな?


「はい、現状私たちが進めないと康太君やさくらちゃんは発注とかも進められないので…」

「手を貸してもらうと豪語したのに詰まってしまって申し訳ない、かや先生。今はチーフと一緒に外注を進めてもらえるとありがたいですので、そちらをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「わかりました、こちらは気にせず、俺たちが納得のいく企画をもってきてもらえれば」

「そうなのです! すっごく楽しみにしているのです!」


 >ω</ こんな感じの表情でエール(プレッシャー)を送る来宮さん。

 いや、俺も似たようなことを言ったしな。


「ふふ、任せてください」


 ななみさんがそう断言した。

 ということであれば、俺たちは…。


「ではかぎやさん! 私たちもお仕事に行きましょう!」

「……わかった」


 ちょっと後ろ髪は引かれるけど…声が掛からないってことは…、まだ俺たちには声を掛ける段階じゃない、ってことかな。


(……。まぁ、いいか)


 ちょっとどころじゃなくてかなり引っ掛かるけど…。










-- Another View--


「ななみ、いいんですか?」

「あ、あはは…。やっぱりバレてますよね…」

「一応私も打ち合わせの場にはいましたから」

「そう…ですよね…」

「彼には何も伝えなくていいんですか?」

「本当は伝えた方がいいんでしょうけども…。今の段階じゃ、企画のままじゃ康太君に伝えられないですから」

「…ふぅ…、わかりました。ただ…取返しが付かないことだけはやめてくださいね」

「わかってますよ…公私は、ちゃんと分けますから…」


-- Another View End.--


--side. 来宮さくら--


 戸を閉めた後、かぎやさんがずっと扉の前から離れようとしないのです。


「かぎやさんかぎやさん」


 ちょいちょい、とかぎやさんの袖を引っ張って扉から視線をそらすのです。


「気にしちゃだめなのですよ?」

「と、いうと?」

「ボクも企画、したいのです…でも…ボクはななみさんの気持ちがわかるのです」


 ……ななみさん。

 あそこまで思えるような感情を別のベクトルでしか持ち合わせていないのです。

 私も…ななみさんよりもはやく同じ道を通ったのですから、痛いほどにわかるのです。そして手を借りなきゃいけない、でも自分の力で好きな人に認めてもらいたいっていうココロ。


 言ってしまえば、女のプライドというやつなのです。

 わかるのです、私も同じ気持ちを味わったのですから。


「かぎやさんのお仕事は、ななみさんのお手伝いなのです。ななみさんのお手伝いは別の仕事をしてほしいって話なので、そちらを一緒に終わらせちゃうのです!」


 あと単に…私がそういうことに全く向いてないっていうのも、あるのです。

 いえ、本当に…。同人誌ならわかるのですが…。

 メモ程度しかとれないなら、別のことをしていた方が時間は有効なのです。


「…そう、ですね。では終わらせちゃいましょうか」

「はいなのです! あ、あとかぎやさん、敬語は似合わないので止めた方が身のためなのです」

「…えっ?」


 きょとんとしてるのですが、そんなに不思議な事なのですか?


「さ、いくのですー!」


 よーし! ボク(・・)もこれからも頑張りますよー!


--side. 来宮さくら fin.—


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