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真夜中の山中でも賑やかに

剣士ライフと女騎士アベリア、そして女剣豪ルシの三人が居た洞窟が崩落して、半日は経過していた。

未だ三人とも脱出できていない状態だったが、やがて一つの大岩が地面の下から盛り上がり出す。

それは非常に奇妙な現象であり、大岩が離れた場所へ弾き飛ばされた後、そこからはアベリアを背負うライフが現れるのだった。


「……まだ暗いな。もしかして、まだ地上に出られて無いのか?」


絶えず元気な様子を見せていた彼でも疲れ果てているようで、うまく状況把握できて無いのが伺える。

遅れてルシが同じ脱出口から自力で這い上がってきて、衣服についた汚れを手で払いながら話した。


「そりゃあ暗いでしょ。もう真夜中だし。でも、地中に埋まっているよりはだいぶ明るいよー」


「あぁ、やっぱり外だよな。良かった。今回ばかりは本気で死ぬかと思ったぜ」


「アベリアちゃんは気絶したままだけど、とりあえず一安心かな?というか、ライ君は本当に凄いね。つくづく驚かせてくれるよ」


「褒めてくれて嬉しいが、全力を出すことになったのが後悔だ。これは不合格扱いになるのか?」


「あっははは、変なことを心配するねー!全力うんぬんは手合わせに限定した話だよ。それに多分、師匠はこうなると分かっていただろうしさ。いわば計画通りってね!」


いつも以上に頭が回らない状態のため、ルシが何のことを言っているのかライフは理解できていなかった。

とにかく一息つきたい思いであって、安全そうな場所へアベリアを運んだ。

その間もルシだけは出会った時と同じ調子のままで、明るく話し続けていた。


「あと何より、この目で見るまで半信半疑だったけど、本当に師匠が言っていた通りの体質なんだね。もしかしたら、世界で一番不思議で未知な存在なんじゃないの?」


「そう言われるほど俺って変な感じなのか?」


「ううん、変では無いよ。ライ君は絶対に良い人!それは僕とアベリアちゃんが保障するよ!ただ未知だからこそ、いわば可能性の塊だなぁって思ったの」


彼女の言葉選びが独特なのか、はたまた頭がぼんやりしているせいなのか。

結局アベリアが何を伝えたいのか、ライフは分かりかねていた。

なんなら言葉が右から左へと抜けていく感覚で、頭の中でうまく認識できていない気すらしていた。


「まぁ俺については、全部師匠が言っていた通りだ。それよりアベリアには悪い事をしたな……」


「うーん、災難だったのは間違い無いね。さすがに彼女のことは、師匠も想定していなかった要素でしょ」


「だろうな。…しかし、外へ出られる頃には更に汚れることになったな。しかも結局転んだせいで汚れたのが、残念感を増している」


実はアベリアが気絶したのは洞窟の崩落が直接的な原因では無く、途中で一人転んだのが原因だった。

その際に(すす)まで付着させていて、仮に崩落が無くても汚れを増やしていたのが想像できる。

そんなドジばかりの彼女だが、せっかくの休日に多大な労力を()いらせてしまった。

まして命懸けの被害に遭っているわけだから、ライフは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


きっとアベリアは、自分が望んだ好意の結果に過ぎないと笑って応えるかもしれない。

だが、やはり必ず何らかの形で恩を返したい所だ。

そう考えていると、草木の隙間から流れる風の匂いに誘われて、彼女は目を覚ました。


「…んぁ……、なんか(かぐわ)しい匂い…」


「よかった、アベリア。無事に起きれたか。どうだ?どこか体は痛かったりしないのか?」


「ふぇ…?ライフ、さん?……あれ、ここどこですか…?」


目覚めた直後だからなのか彼女の呂律(ろれつ)は回り切らず、状況を把握するのに相応の時間が必要そうだった。

そのためライフとルシの二人は彼女を看護しつつ、ゆっくりと落ち着いて話すことで理解を求めた。

そして一通り説明をした後、改めて彼は謝罪する。


「今日は酷い目に遭わせて悪かったな。それに出会ったばかりで、ここまで色々と尽くしてくれたって言うのに」


ライフからしたら、彼女は付き添ってくれた気前の良い人だ。

しかも良心の塊であって、愚痴や文句を何一つ口にしていない。

そんな人の良さをアベリアは意識していないはずなのに、やはり彼女は自然な振る舞いで愛想笑いを浮かべてみせた。


「えへへっ、そんな謝ることじゃないですよ。こうして無事に生きているだけ、騎士としては良い経験となりました。それに苦労なんて、誰もが味わうことです」


「そう言ってくれるのはありがたいが、どんな苦労でも身の危険が迫るとなったら別問題だ。何より、もしもの事を考えるとな…」


「もう~、無事だから気にしなくて良いんですよ!むしろ私がお礼を言いたいくらいです!いつもドジ踏む私を、ライフさんは身を(てい)して守ってくれたのですから!」


「アベリアを守ったのは、最低限の責任を果たしただけに過ぎない話だ。好意だけで付き添ってくれたわけだからな」


「そういう責任感を持って実行してくれたのですから、尚更(なおさら)お礼を言いたいのです!今でも、私は感謝の気持ちでいっぱいですよ!」


重ねて感謝を口にし続ける姿は、ライフから見ても眩しいものがある。

そして、そこまで本気で気持ちを伝えようとしている姿勢から、どうして彼女が騎士になったのか分かりやすい。


アベリアはひたすら善人で、周りが示す小さな善意にすら全力で応えたい性根なのだ。

だから仕事に実直であり、自分の危険を(かえり)みず、他者の努力を応援できる。

そんな真っ直ぐな性格は、ライフが見習いたいものだった。


「……凄いな。アベリアは、きっと誰よりも人格者だ。そして皆が尊敬すべき、本物の騎士だ」


「うへへ~、急になんですか~?私、いきなり褒められると照れちゃうので、それだけは控えて下さいよ~」


「褒め言葉も、今みたいに素直に受け止められるくらいだからな。いつの日か、誰しもが頼る騎士になれるのは間違い無いだろうぜ」


気が付けば、両者は優しい表情となっていて二人だけの世界みたくなっていた。

そのため、ほんの少しだけ疎外感を覚えていたルシは言葉をかける。


「それでアベリアちゃんはどうするの?僕とライ君は、お師匠さんの所へ戻らないといけないんだけど」


「あ、えっと………はい、そうですね。実は私、明日も休養日になっておりますので、お邪魔で無ければライフさんが剣豪に認められる所を見届けたいです」


「まさしく旅は道連れだね。でも、本当に良いの?けっこう疲れが溜まっているだろうし、このままだと本職に悪影響を及ぼしたりしない?」


「休みも大切ですが、その……何と言えば良いのでしょうか。なんだか、もう少し一緒に居たい気分でもあるんです。こうして剣士の人と渡り歩くのが楽しいというか…」


なぜかアベリアは乙女らしい眼差しで、ライフに視線を向けた。

その仕草は本人からしたら何気ないものなのかもしれないが、こういう反応に敏感なルシは察するものがあった。


「あー、もしかしてライ君のこと好きになった?なんだかんだ、僕との手合わせで格好いい所を()せたもんねー!」


「う、うーん?確かにライフさんのことは好きですよ。ただその、尊敬する人に向けるような好きって気持ちですが」


「じゃあ憧れかな。まぁ憧れの人と、なるべく一緒に居たいってのも真っ当な理由だね。ちょっと献身的過ぎる気は(いな)めないけどさ」


「えっと……、やはり部外者の私が居てはご迷惑ですか?」


「ううん、そんなこと無いよ!どうせ祝福されるなら、人が多いほど良い事だしね!それに影の功労者なわけだし!ライ君も賛成でしょ?」


そんな勢い任せな言い方で、ルシは少しばかり強引な賛同を彼に求めた。

ただ彼女から向けられる同調圧力に関係無く、ライフはアベリアの同行を心から受け入れる。


「あぁ。アベリアが望むなら、反対する理由なんて何もない。むしろ俺から誘いたいくらいだ」


ライフは相手に気兼ねない思いを与えるための言い回しをしたが、それは返って妙な誤解を生んだ。

特に愉快な事が好きなルシは、率先して突っ掛かる。


「えぇ~?ライ君、もしかしてアベリアちゃんを狙っているの~?別に良いけど、僕のことを(ないがし)ろにしたりしないよね~?」


「早とちりが凄いな。たった一言であれこれ追求されても困るぜ」


「でもさ、正直アベリアちゃんのことは好きでしょ?」


「そうだな」


まったく躊躇(ためら)う素振り無く、ライフは即座に答えた。

これは先程の人格者だから好きという意味合いで、アベリアと同じく尊敬するから好意的な想いを持っていると答えたに過ぎない。

しかし質問したルシは当然の勘違いを抱き、かなり焦った雰囲気で言い出した。


「本当に好きなの!?じゃ、じゃあ僕は!?姉弟子の僕はどう思っているの!?」


「なんで驚いているんだ?ルシちゃんは、剣術のみならず体術も見惚れるほど練度が高いからな。そう考えると尊敬できる部分が多いし、好きだな」


「おぉぉ!?なんか僕が求めている答えと違う気がするけど、全然良い返答だね!さりげなく期待に応えられるなんて男の中の男!これは将来、剣聖になること間違いなし!」


「素晴らしい賑やかさだな。まだまだ元気があり余っているとは、さすが俺の姉弟子だ。ますます見惚れるぜ」


「その調子で僕の魅力に惹かれて、もっともっと惚れていいよー!というか、本当にお師匠の所へ行かないとね!師匠も今頃、一人で用も足せなくて困っているかもしれないし!」


「いや、まだ師匠もそこまで耄碌(もうろく)してないぜ。たまに飯を食べたかどうか忘れるけどな!」


そんな彼なりの冗談が飛び出す中、三人はライフの認定試験が一段落終えたことを報告するため、師匠がいる場所へ向かい始めた。

それから無事に着いたのは、更に夜が更けた後のことであって、全員が眠気に襲われながらの到着だった。

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