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剣豪との手合わせ

「無双剣・突駆(とっく)


手合わせで先制攻撃を仕掛けたのはライフの方だった。

彼は直進するのに適した構えで突撃し、女剣豪ルシに強烈な一撃を与えようとする。

しかし彼の剣撃が間近に迫った瞬間、彼女は軽やかな足取りで紙一重の回避を披露した。

それに続けて、ルシは剣の柄でライフの背中を鋭く突く。


「いたっ!?」


「う~ん。無双剣を体現できているけど、まだ惜しい感じだね。それに私も無双剣を使えるということは、その剣筋を熟知している事を忘れずに」


「……つまり、初動から技を見透かされているわけか。凄いな。多くの剣術を使えるからこそ、臨機応変な対処まで可能にするなんて」


そう言いながらライフは一歩分の距離を取り、気を引き締め直した。

比べてルシは余裕を崩さず、今度は戦闘態勢を欠片も示さないまま話し続ける。


「そもそも相手の動きを見極められないと、たった一つの剣術すら活かしきることは不可能だよ。ライ君みたく、センス頼りの剣術は赤子同然ってね」


「これでも俺なりに、相手の動きに合わせて技を使っているつもりだ。とにかく試験を続けようぜ」


「うんうん。姉弟子としての指導は一旦おいて、今の役目を終えてからにするかな。物知りだと、つい教えたくなる先輩癖が…」


「無双剣・滝登り!」


話している途中だとかは関係無く、ライフは強く踏み込むと共に大胆な切り上げを放つ。

唐突で素早い斬撃は、下手したら相手を殺しかねないだろう。

だがルシは意表を突かれた様子を見せず、ほんの少し身を逸らすだけで危なげなく(かわ)した。


「くっ、走鉄砕(そうてっさい)雲薙(くもな)ぎ!突駆(とっく)!」


ライフは次々と剣技を振るうものの、回避に徹したルシの服には刃が(かす)りもしなかった。

離れた場所で応援している騎士アベリアから見れば、彼がひたすら追い詰めている光景だ。

なのに、(はた)から見ても何かが届ききれていないのを感じ取れる。

ただ彼の組み合わせた数々の剣技は文句つけるべき要素が見当たらず、どこに差が生まれているのか分からなかった。


「な、なんて身軽さだ。俺も動きなら自信があるのに、ありえない差を感じる…!」


「ほらほら、もうこれだと剣術以前の問題だよ。とりあえず僕に剣を振るわせてよ」


「………仕方ないな。あまり小細工は好きじゃないんだが、手も足も出せずに負ける方がもっと嫌いだ」


ライフは戦い方を考え直したらしく、剣を足元の地面へ深く突き刺した。

一見、誰が見ても不可解な行動だ。

だが次の瞬間、彼は畳みかける攻撃へ一転する。


「無双剣・滝登り」


この技は、力強い踏み込みと同時に大胆な切り上げが特徴だ。

よって剣を地面に刺したまま振るえば、それは足元の土砂を巻き上げ、広く放射する形となる。

だから相手の視界は、その濃い土砂により遮られていた。


「おっ、これは変則的かも…」


まだルシが呑気にしているとき、土砂に紛れて一筋の光りが迫り来ることを彼女は察知した。

その僅かな輝きは刃によるもので、結局は一直線に突撃してきたものだと判断する。


「甘いね」


そのためルシは悠然(ゆうぜん)と回避行動に移るが、実は彼女が避けようとしたのは刃では無い。

光りの正体は光源石と呼ばれる錬金道具で、彼女を(あざむ)くために投石されたものだった。


「なゃっ…!?」


ルシは思わず素っ頓狂な声を漏らす。

それから絶えず迫る二つ目の光り。

それこそが本物の刃であり、ライフによる強力無比な刺突だった。


砂塵突駆(さじんとっく)!」


「烈火剣・陽炎(かげろう)の舞い」


ついにルシは剣術を放つ。

それは咄嗟ながらも剣豪の呼び名に相応しい剣筋で、いとも簡単に彼の剣撃を打ち逸らしていた。


「烈火剣・原初の大火(たいか)


続けて彼女が振るう技は、激しくありながらも可憐な横回転切り。

この剣撃は凄まじい鍛錬が垣間見えるものだ。

だが、それ以上に足のつま先から頭部に至るまでの全身を最大限活用した動作は、非常に洗練とされていた。


「うっぐぅ…!」


ルシからの攻撃を受ける寸前、ライフは強引に身を(よじ)らせることで避けていた。

しかし、避けた後の足元はふらついているのみならず、剣の構えと姿勢は崩れきっている。

ここから更なる追撃があったら、確実に避けきれない事だろう。

そのことは互いに分かっていたが、あえてルシはライフに構え直す余裕を与えて待っていた。


「さて、どうかな?ちょっとだけ攻防を繰り広げてみたけど、僕との実力差を実感してくれた?」


「無双剣は……、どちらかと言えば対猛獣だと聞いていた。だけど、それだけでは済まされない差だ。ルシちゃんの剣術は、自身が持つ全てを使いこなしている」


「使っている、だけじゃあ弱いかな。あらゆる全てを流麗(りゅうれい)に繋げ、閃光のように鋭く、そして神の如く凄まじく。それが剣術の祖だよ」


「それは師匠に教えられている。だけど、俺は自分が思っている以上に、剣でしか実践できていなかった。体の扱い方は、ルシちゃんに比べたら未熟らしい」


「うんうん。体の芯から理解し始めてくれているようで嬉しいよ。剣術とは、いわば心技体が必要不可欠ってね」


「あぁ、理解し始めた。だからあとは……、実践するだけだ」


「へっ?」


ルシが彼の発言で面をくらいかけた直後、ライフは距離を取りつつ剣を鞘に納めた。

それから深く腰を落とし、新しい構えを取る。


「無双剣・幻想式雲薙(くもな)ぎ」


すぐさまライフは前へ飛び出すことで、改めてルシへの急接近を試みた。

そこまでなら突撃特化の剣技と変わりなく、最初と同じように回避して攻撃を打ちこむのみだ。

それでもルシは寸前まで細心の警戒を心掛けつつ、ライフからの正面攻撃を対処しようとする。


だが、彼は今まで以上に更なる接近をしていた。

もはやライフの肩がルシに衝突する直前で、ここに来て彼女は慌てる。


「やばぁ……!」


彼女が慌てた理由は明白で、自分の対処方法を見抜かれたと気づいたからだ。

手合わせ開始時からルシは受け身の姿勢であって、常にライフの攻撃に合わせた動きをしていた。

つまり後手を意識したカウンター戦術。

しかも、彼が剣術を仕掛けることを前提にしていたせいで、ライフからの体当たりを防ぎきることは困難だった。


「うっ!」


見事ライフは、肩からの体当たりをルシの胸元に直撃させる。

だが、本命は次の剣撃で、すかさず鞘に納めた剣を引き抜いた。

わざわざ剣を鞘へ納めたのは、限界までカウンター戦術に固執させる事に加え、ゼロ距離での抜刀を目的としていたからだ。

対してルシは急ぎ、無駄のない初動によって彼より早く剣技を振るう。


「烈火剣・(ほむら)しぶき!」


姿勢が崩れていても、変わらず隙が無い剣撃は芸術的ですらあった。

ただ彼女の素晴らしい高速攻撃は、ライフの体に触れることは無い。

その頃にはルシの側面へ回り込んでいて、既に彼は薙ぎ払う動作へ入っていたからだ。


「……くぅ、この…このこのぉ~!」


ルシは悔しそうな気持ちを吐き出す。

それからライフが薙ぎ払うとき、甲高い音の発生と共に剣が弾け飛ぶ。

宙を舞ったのは彼が振るっていた剣であり、同じくしてルシの手元からも剣が手放されていた。

恐らく彼女が、何らかの剣技によって互いの武器を手放す結果をもたらしたのだろう。


ここまでなら、まだ手合わせの試験が続きそうだ。

しかし二人は臨戦態勢を揃って解いており、先にルシが溜め息をこぼした後に喋り出した。


「ふぅー……、やれやれ。上手くやられたみたいで釈然としないけど、こればかしは認めざるを得ないね。いわば合格だよ」


「上手くいって良かったぜ。これでも駄目だったら素直に諦めるか、あとは全力を出すかの二択に迫られる所だった」


「君の場合、全力を出した時点で不合格だけどね。……それにしても、最後の剣技は心から尊敬するよ。先手を取りつつ、カウンターをカウンターで返す二段構え。いわば、僕と君の戦い方を組み合わせたものだ」


「ルシちゃんの剣撃に合わせようとし過ぎて、少し切れちまったけどな。カウンター技術に関しては、まだまだ付け焼刃だ」


「それでも、この僕に通用しただけ充分過ぎるよ。……というか最後、なんで僕は無双剣の技で防いじゃったのかなぁ。他の剣技なら、まだ君を誤魔化せたかもしれないのに」


あのタイミングで二人が揃って構えを解いたのは、これが(もっと)もたる理由だ。

お互いに知っている技であり、合格条件である二種目の流派を使わせたのは一目瞭然だった。

そんな事よりも、彼女の素直過ぎる言葉にライフは戸惑いを覚えていた。


「試験官なのに勝敗を誤魔化すつもりだったのか……。それは、さすがの俺でも文句を言いたくなりそうだ」


「お互いに制限ありの手合わせだったとは言え、僕が負けるのは普通に嫌だし。……ただ、そうだね。いざ負けたのにも関わらず、嬉しい気持ちが強いかな。いわば感慨(かんがい)無量」


「ん?じゃあ、一応は祝福してくれているんだよな?」


「同門だし、新たな芽吹きを見られるのは楽しいからね。あと僕と違って、君なら無双剣の神髄(しんずい)へ至れそうだ。そう思うと期待しちゃうよ」


どうやら本音らしく、彼女は自然な振る舞いでライフに握手を求めていた。

これからの成長と健闘を称える握手。

そんな彼女からの握手に応えながら、ようやくライフも緊張を緩めた。


「神髄へ至れるかどうかはともかく、自分に足りないものを得られたのは確かだ。ありがとうな、ルシちゃん!」


「うんうん、お礼を言えて良い子だね!だけど、まだ肝心の認定試験は終わりじゃないから!」


そう言われてライフは一瞬疑問に感じたが、思い返せば二日以内に戻らないといけない決まりだ。

よって、そういう意味だと思って彼は話した。


「そうだった!いやぁ正直、半分くらいは忘れていたなぁ。そういえば師匠から証を取って来いと言われていたけど、どういうのなんだ?」


「んー…、多分それは僕自身のことだね。僕を連れて行けば無事合格って話」


「まさかだけど………、途中で逃げるとかしないよな?」


「ぷっ、あっはっはははは!大丈夫、それは無いよ!そこまで意地悪しろとは言われて無いから、ひとまず安心して!僕が行くのは、ただ単に手合わせ内容の報告も兼ねているだけだから!」


嘘を吐いている様子は無く、彼女も騙そうとする気が無いのは明らかだ。

まして変に疑った方が失礼かとライフは思い、すぐに言葉を訂正する。


「いや、今のは俺が勘繰(かんぐ)り過ぎたな。心無い言葉をかけて申し訳ない。未熟な俺を許してくれ」


「別に気にしてないよー。それより、応援してくれた子にも報告してあげないとね。今すぐ祝福してあげたい雰囲気で、落ち着きないみたいだしさ!」


ルシに指摘されてから、ライフは後方で見守ってくれていたアベリアの方に顔を向けた。

すると彼女は元気よく手を振っていて、まるで親友からの吉報を心待ちにしている姿だった。

そんな祝福したくて待ちきれないアベリアの期待に応えるため、彼は早足で向かう。

それから二人が仲良しこよしに話す一方で、なぜかこのタイミングでルシは自分の頭に違和感を覚えた。


「……んんー?なんか今、この麗しき乙女の頭に砂のようなものが……」


彼女が何気なく真上を見上げると、天井にはライフの剣が突き刺さっていた。

そこまで勢いよく飛んだのは予想外であったが、女剣豪ルシが心底から驚くことになるのは次の瞬間だ。

ゆっくりと剣が抜け落ちるとき、まったく別の天井部位から砂が流れ始めたのだ。


「あ、これ……やば。きっと崩落しちゃうなぁ。いわば絶体絶命…、かも?」


まだ余裕たっぷりに彼女が呟いた直後、次第に流れ落ちる砂の量は増していく。

あとは短い猶予しか残されていなかった。

数秒後、ついには大きな瓦解を起こしてしまい、洞窟の出入り口からは盛大な土煙が噴出されていた。

それは遠方からも確認できるほど凄まじい影響をもたらし、少なくとも一人の老人と見知らぬ男性剣士が観測していた。

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