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不意に声がする。
ばっと声がした方を見るとそこには宍戸君が本棚に背中をあずけて立っていた。
しかもニヤッとした顔をしている。
まるでこの状況を楽しんでいるようだ。
「……イギリスでね。よく当たる占い師からあるおまじないを教えてもらったことがあってね」
急に話し出す宍戸君。何だか怖くなって抜け出そうと周りを見たが生憎ここは端っこ。
しかも、あまり生徒が読まなそうな部類の本がある棚だから、その一角だけ囲むようにしてあって出入口は今、宍戸君が塞いでいる。
で、でれない。
「好きな子の名前を書いた紙とともに満月の夜に花を飾っていくんだ。それを5回やり紙と花はそのあと燃やして川に流すと願いは成就されるってヤツ」
「へ、へぇ、なんかロマンチックなおまじないだね」
何とかしてここを脱するために話を合わせる。
「そうだね。でも、このおまじないの面白いのはその相手がその花たちを見つけていくっていう夢を見るんだって」
「………はい?」
あれ、なんだろうか。私が見た夢って宍戸君が今話しているおまじないの内容とよく似てない?
「でね、俺もやってみたんだ。そのおまじない」
「へ、へぇ、意外だね」
「うん。だって、好きな子が目の前に居るのにまったく興味を持ってくれないんだもの」
……………はい?
「イギリスに行く前に告白しようとしたのに全く興味持ってないんだもの。君」
「え、うん?」
「……覚えてない?君のファーストキス奪ったんだけど?」
…………あ、思い出した。小学校5年生のころ、クラスメイトで泣き虫だった男子を慰めていた時に不意に他の男子が押して間違ってキスしたんだっけ。
「……ま、まさか」
「あれからずっと君のこと好きでたまらなかった。だから、編入のことが決まって君のことを想ってまじないをしたんだ。まあ、その様子だとかなりホラーチックだったみたいだね」
あ、私のこと読まれてますね。これ。
「まじないは半信半疑だったよ?でも、君が意識してもらえたらって思ったら」
あ、だからあんなホラゲーっぽかったのかな?
「まあ、いいや。これからもっとアピールしていけばいいし」
「……ん?」
「『わたしのものになって』って最後にしたけどやっぱり自分から言ったほうがいいなって思ってね」
すっと本棚から背中を離して近づいてくる。え、怖い。
後ずさりをするがすぐに後ろの本棚にぶつかる。
あ、詰んだと思っていると顔の横に手が付けられる。
正面を見ると宍戸君の顔がドアップ。
「これからどんどんアピールしていくから早く『俺のものになって』?沙希ちゃん?」
「………イイエ、ケッコウデス」