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1ー9 ギルドにて

 

「カァァァ!!((あるじ)!!)」


 ギルドの入口でクロが叫んだ。だが、エレナ以外からすれば、ただの鳴き声にしか聞こえない。というのも、従魔の鳴き声は、その主にしか理解できないからだ。


「あー…ごめんって」


 エレナは何故クロが怒っているのかを瞬時に理解していた。


「カァァ!(報酬を忘れてないか!)」


 そう。報酬、つまりエレナのブラッシングを求めていたのだ。

 だが、正直言ってせっかちすぎるというものである。なにせ、エレナは先程帰ってきたばかりなのだから。


「忘れてないって」


 そもそもエレナはクロがそういう性格であることをよく知っている。だからこそ、今から自分の部屋にいって召喚しようとしていたのだ。


「ほら、おいで」


 エレナが手招きをすると、クロは音も立てずに飛び、エレナの肩へと乗っかった。

 そしてそのままエレナは自分の部屋へと向かっていった。


「お、おい…あれって…」

「エレナちゃんの…従魔な、のか?」




 ───ギルドの混乱はそのままに…





「クワァァ……(おぉ……)」

「ふふっ。ほんとに好きだねぇ」


 エレナは自分の部屋に入ると、早速クロをブラッシングしていた。ブラッシングすること自体、エレナは嫌いではなく、寧ろ好きだった。

 クロはエレナの膝の上でブラッシングされ、言葉にならない声を、否、鳴き声をあげている。


「クワワ!(そこ!そこ!)」

「はいはい」


 時々ブラッシングする所を指定される。


「クォォ…」

「もう、何言ってるのよ」


 これはさすがにエレナにも意味が分からなかった。


「ふふっ。……はぁ…」


 笑っていたと思ったら、唐突にエレナは溜息をつき、ブラッシングの手を止めた。


 『…む。どうしたのだ?』


 ようやくブラッシングの余韻から帰ってきたのか、クロが念話で尋ねてきた。


「…明日は行く日(・・・)だなぁーって」


 そう吹くエレナの顔はどこか寂しそうで……苦しそうだった。だが、エレナは自分がそんな表情を浮かべていることに気づいていない。どうやら、無意識にそんな表情になっているようだ。


 『…そんな顔をするくらいなら行かなければいい。主も何故そこに行くのか、分からないのだろう?』


 確かにね、とエレナは答えた。


「だけど、どうしても行かなきゃ行けないって思うんだよね」


 実はエレナ自身にも、よく分かっていないのだ。何故かある決まった日に、ある決まった場所に行かなきゃ行けないという気持ちになるのだ。


 『そうか……主よ。我は何時でも助けになろうぞ』

「ふふっ。ありがとね。うん、頼りにしてるよ」


 エレナはクロに笑いかけると、ブラッシングをまた始めた。


「クォォ…」


 そしてまたしてもクロは言葉にならない鳴き声をあげるのだった……







「…はい。おしまい」

 『……む。もうか?』


 そう聞くクロはまだもの足りなそうな表情を浮かべていた。いや、そう見えるというだけだが…


「そうだよ。まだやらなきゃいけない事があるんだから」

 『それならば仕方ない…そうだ。明日()()()へ行くのだろう?』


 クロはエレナが明日行く場所に以前訪れたことがあり、その場所を知っていた。


「そうだよ?」

 『ならば久しぶりに【ヴェレナ】を喚んではどうだ?』

「ヴェレナを?」


 ヴェレナもエレナの従魔の内の1匹だ。


 『そうだ。彼女(・・)なら主の気持ちの助けになるだろう?』

「……ありがとね」


 流石はエレナの従魔と言うべきか。エレナの精神が不安定になっていることを看破し、その上でどうすれば安定するのかを理解していた。


「分かった。明日はヴェレナを喚ぶよ」

 『それがいい』


 エレナはクロの頭をひとなでして送還し、ふぅ、と溜息をついた。まるで自身の気持ちの整理をつけるように…


「よし、と」


 パチンと自身の頬を叩き、エレナは不安定な気持ちを入れ替える。

 そして下へと降りていった。



「あ!エレナ!」


 下に降りた瞬間、カーラがまるでエレナの身を心配するかのように駆け寄ってきた。


「大丈夫なの?」


 ……いや、本当に心配していた。

 心配されている当の本人はキョトンとしていたが。


「なにが?」

「あの鳥よ!あれ魔物でしょ!?」

「そうだけど…なにかおかしい?」

「おかしいって…あれって【ブラックオウル】でしょ!?」


 ブラックオウルとは、もちろんクロの種族だ。

 ブラックオウルはランクとしては、単体でBランク。そして、()()では……Aランクに匹敵する。


「そ、そうだけど…」


 しかし、エレナはそんなことはすっかり忘れていた。なにせ戦ったことすらないのだから。

 というのも、クロは群れから追い出されたブラックオウルなのだ。追い出され、傷付き飛べなくなっていたクロを保護したのが、エレナだった。

 何故クロが群れから追い出されたのか。それはクロが変異体だったからに他ならない。


 変異体とは、他とは異なる体、性質をもつ個体のことだ。クロの場合、体は変わらないが、風景に同化する力を持っている。


 そして変異体は性質などが謎に包まれており、そのため種族に関わらず、クラスはA以上に設定されている。

 なのでエレナの従魔、クロのランクはAランクオーバーということになる。つまり、クロ一体で、ブラックオウルの群れの強さに相当するということである。

  ──知らぬが仏とはよく言ったものだ……


「襲われなかった?」

「なんで?」


 理解できないと言いたげにエレナは聞き返した。

 その様子を見て、カーラは1つの可能性に行き当たった。いや、寧ろ何故その考えが浮かばなかったのか疑問でしかないのだが……


「まさか…従魔、なの?」

「そうだよ?」


 エレナが何を今更といった感じでそう答えると、カーラは目を見開いた。それ以外なにがあるというのか……


「エ、エレナって従魔いたのね…」

「あー。そういえば、言ってなかったね」


 エレナにとって別に言わなくても問題ないことだったので、仕方がないと言える。


 ……言っていたら、それはそれでかなりの騒ぎになっただろうが。


「そ、それなら心配しなくても大丈夫だったわね…」


 心配して損した、とまでは言わないが、どこか恥ずかしそうにカーラは自身の受付へと戻っていった。周りの野次馬も然りだ。

 そんなカーラの様子を不思議に思いながらも、エレナは今日までに終えておきたい仕事をし始めるのだった。





 

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