1ー8 依頼書作成
エレナは領主邸を去った後、ギルドへと向かった。その理由は、今回の盗賊の討伐のための依頼書を作るためだ。
まっすぐとギルドに戻ったエレナは、自身の席へと向かう。
「あ、エレナ!」
その途中でカーラが声をかける。
「冒険者のほうは確認できたよ。はい、これが一覧ね」
そう言って、エレナに冒険者の名前が記入された紙を手渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
その紙を持ち、エレナはカウンターへと向かう。
そして自身の席に座ると作業を始めた。
「えっと、まずは冒険者の確認…」
今回生存が確認された冒険者を、事細かに記録していく。カーラから渡された紙はどちらかというとメモに近い。そのため、改めて記録する必要があるのだ。
「…今回確認できたのは、行方不明になった人の八割、か…」
なにも不思議はない。全員が無事だという保証はどこにもないのだから。
残り二割がどこにいるのか、果たして無事なのかは分からない。だが、捜索されることはない。冒険者とは常に危険と隣り合わせだ。いつ死ぬか分からない。そのため、いつの間にか消えた冒険者は数知れない。
冒険者に渡される証明証は、そういった事態に備えてのものでもある。死体の身元確認だ。なので、何処かで落ちている証明証を見つけた場合はギルドに届けなくてはならないという決まりが存在する。
「…よし。確認完了っと」
全ての記録が終了し、エレナはその紙をファイルにしまう。そしてそのファイルを持ち、席を立ってカウンターの奥の扉へと向かう。
そして扉の隣りにある石版にギルド職員の証明証をかざした。すると、ガチャという音とともに扉が開かれ、エレナはその中へと足を踏み入れた。
そこには棚に所狭しと並んだファイルがあった。ここはギルドの資料庫。今までの依頼書やここで登録、又は引退した冒険者の記録、無論他方から来た冒険者の記録もここに収蔵されている。その全てが綺麗に整理され、見やすいように工夫されている。これはエレナが整理した。
「ほんとにここまで整理するの大変だったよ…」
エレナが来るまでは、そこかしこに資料が点在し、全くもって整理されていなかったのだ。それを1から整理し直したのも、今ではいい思い出である。
エレナはそんなことを思い出しながらファイルを決められた場所へ仕舞うと、資料庫を出て、席へと戻った。
ちなみに、先程エレナが扉を開けたように、この資料庫はギルド職員の証明証がなくては入れないようになっている。以前、勝手に記録の改竄が行われたことがあったからである。まぁそれは、資料が整理されていなかったということも理由の1つではあるのだが…
それ故に、資料庫はギルド職員でなくては入れないようになったのだ。
さらに、それだけではなく、物理的にも厳重である。
この資料庫の扉は一見すると木の扉にしか見えない。だが、特殊な金属でできた扉である。故に魔法でもビクともしない。さらに、資料庫自体がその金属で覆われている。それだけ厳重な守りが必要な程の、ギルドにとって重要な資料が保管されているのだ。
「さてと、さっさと終わらせよう」
エレナは自身の席の引き出しから、1枚の紙を取り出した。これは依頼書専用の紙。偽造されることを防ぐ為に、特殊な処理が施されている。
エレナはそれに今回の依頼内容を記入していく。こんな時に、役に立つスキルをエレナは持っている。
スキル【美字】Lv.10
スキル【速記】Lv.10
読んで字のごとくのスキルである。そしてこれは、ギルドに勤務するならば必須のスキルだったりする。なのでカーラもシリルも、ギルマスであるガルドも持っている。
…………エレナのように、Lv.10ではないが。
この2つのスキルを駆使し、エレナは依頼書を書き上げていく。書く内容としては、今回の目的が盗賊団の討伐であること。その盗賊団の規模。受けられる階級。達成条件。そして報酬などだ。
今回の盗賊団は、洞窟内ならばかなりの手練がいるようなのだが、森にいる下っ端はそう強くない。エレナはそう考え、最低階級を第3階級に設定する。無論、第3階級は洞窟内には入らず、後方支援であることを明記しておくことも忘れない。
そうした情報を書き入れ、エレナはペンを置いた。
「ふぅー…」
「それは新しい依頼かい?」
少々お疲れ気味のエレナに話しかけたのはシモンだ。
「はい、そうです。依頼の報酬の見積もりを出していただけますか?」
「分かった」
こうした依頼の報酬の見積もりは、シモンが主に担当している。エレナはシモンに依頼書を預けた。
「報酬は領主様からかい?」
「はい。ギルドに預けられているはずです」
「分かった。確認して見積もりを出しておくよ。それが終わったら貼り出してもいいかい?」
「はい。お願いします」
そう言ってシモンは去っていった。今回の報酬がどれくらいになるのかは分からない。だが、領主からの依頼扱いなので、相当多いものであることは間違いないだろう。
エレナの今回の実地調査は、あくまでギルドの受付嬢としての仕事として扱われる。そのため、報酬はない。それも込みでの給料なのだ。
……もっとも、エレナにとっては、そんなことどうでもいいくらいに貯まっているのだが。
エレナはお金をあまり使わないのだ。それはギルドが忙しくて買いに行けないというのもあるし、エレナがオシャレなどには興味を持たないからでもある。
「そろそろ食材を買わなきゃかな?」
給料を使うのは、たかだかその程度であった。
「さてと、じゃあ後はよろしくね」
「もちろん!」
後の業務をカーラに任せ、エレナは一旦自身の部屋に向かう。
……だが、エレナが部屋に向かう為に上へ上がろうとした瞬間、バァンッ!という音と共にギルドの扉が勢い良く開かれた。
…………そして、その向こうには真っ黒な鳥が佇んでいた。
「あ…」
そう。エレナの従魔、クロであった。