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2ー7 情報収集その4

 宿へと戻り一晩明かした後、エレナはひとまず役所へ向かうことにした。


「役所ってどこにあるの?」


 朝食を運んできたサラに尋ねる。


「役所ですか?この宿を出て右に真っ直ぐ進めばありますよ」

「そうなの。ありがとね」

「いえ」


 朝食を食べた後、エレナは言われた通りに役所へと向かった。


「あそこか…」


 エレナの目の前には、ガルドメア王国の紋章を掲げた建物が佇んでいた。王国の紋章を掲げられるのは王国直属の機関のみなので、ここが役所で間違いないだろう。

 エレナがその建物に足を踏み入れる。


「47番の方。どうぞー」


 中は非常に混雑しており、番号札で順番に受付を行っていた。エレナが受け取ったのは85番なので、まだまだだろう。


「なんでここまで混んでるんだろう…」

「嬢ちゃん、知らないのかい?」


 思わずエレナが呟いた言葉を拾ったのか、近くの年老いたおじいさんが話しかけてきた。

 エレナはこれ幸いとおじいさんの問いかけに答えることにした。


「はい…どうしてなのですか?」

「そりゃ保証金が欲しいからさ」

「保証金を…?」

「ああ。嬢ちゃんは違うのかい?まぁそんなにいい服着てたらそりゃそうだな」


 今エレナが身につけている服は、そう高いものではない。だが、スラムに住む人達にとっては高級品であるようだ。実際エレナに話しかけてきたおじいさんの服装は、端切れを繋ぎ合わせたようなものであり、ボロボロであった。


「ええまぁ…でも、保証金は全員に配られるのにここまで慌てる必要が?」

「ほんとに知らないんだねぇ…。それはもう5年前の話さ。今では貰う人が増えすぎたせいで、早い者勝ちになってるのさ」


(そんなことが……)


 エレナはその話を直ぐに信じることは出来なかった。なぜなら、例え保証金を貰う人が増えたとしても、全体に供給する金額を一律にすることで全員に行き渡るようになっているはずだからだ。

 なので1人あたりの金額が減るだけで、早い者勝ちという状態にはならないはずなのだ。


(いやでも…一律にしたことで1人あたりの最低金額より減ってしまったのなら、有り得る…?)


「本日は60番で受付終了です!」


 受付で役所の職員らしき人物が叫ぶ。その声を聞いて落胆する者、諦めた顔をする者、憤る者が現れた。


「おい!こっちは3日連続できて貰えてないんだぞ!」

「こっちは1週間だ!」

「俺だって!」「私だって!」


 と、溢れかえった人が受付へと押し寄せる。


(これは止めたほうが…)


 エレナがそう思った瞬間。


「まぁしゃあねぇか」

「だな。また来ればいいか」

「あーあ。また明日か…」


 そんな言葉を口から零しながら、受付に群がっていた人々が散開した。


(え?どういうこと?)


 エレナは混乱していた。あの一瞬で全員を説得するなど不可能なのは明白であったからだ。それなのに全員が納得して役所を去っている。さらに不気味なのは、周りの人間がそれをおかしいと思っていないようなのだ。


(精神干渉の…魔法?)


 エレナには精神攻撃を無効化する龍神の護りがあるので、効かなかったようだ。

 しかしながら、あれだけの人数の精神に干渉するのは並大抵の実力では不可能だ。役所の職員にできるとも思えなかった。それだけの実力があるのなら、国お抱えの魔術師に任命されるからだ。わざわざこんな役所で一介の職員として働いているなどとは考えられない。


(なら、外部からの、誰か)


 しかし、エレナが見た限りで不審な人物は見当たらない。もう既に出ていった人に紛れて役所を去っているのかも知れない。だが、外部の誰かがそんなことをする利点はなにか。

 誰かからの依頼なのか?

 それとも目的があるのか?


「もう役所を閉めますので、そろそろ出ていただけると…」

「あぁ、すいません」


 職員に追い出されるようにして、エレナは役所を後にした。


「これは確かに一筋縄ではいかないね…」


 ここでエレナは、何故ロンベルグが自分へと依頼を持ってきたのかを理解した。ただの不正ではない。そもそも不正をしているかすら怪しくなってきた。


「精神を操られているなら…有り得るか」


 もし第三者が精神を操っているのなら、その第三者の手に本来配られるはずの保証金が渡っている可能性が高い。


「……潜るしかない、か」


 もともとそのつもりではあった。だが、思ったより情報が錯綜しており、その踏ん切りがつかなかったのだ。


「……夜まで待とう」











 その夜。王都の建物の屋根の上を走るひとつの影があった。エレナだ。


(隠密なんて久しぶりなんだけど…)


 久しぶりと言いながら、音も立てずに走っているのはさすがと言うべきか。


 今のエレナの服装は黒装束であり、宵闇に溶ける。さらに顔も半分ほど覆ってあるため、もし見られたとしてもエレナであるとバレることはまず無いだろう。魔法で姿を隠したほうが確実ではあるのだが……


(魔法を使っちゃうと魔力を感知されそうだからね)


 精神に干渉するほどの腕前。魔法の魔力を感じる感覚も鋭いだろう。なのでエレナは魔法で姿を隠すということが得策でないと考え、黒装束を身につけたのだった。



(さて。役所に忍び込みますか)








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