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1ー1 ギルドの受付嬢

「ふわぁー…」


 ある部屋で欠伸をしながら体を伸ばしたのは、彼女こと、エレナだ。

 薄らとルビーのような紅い瞳が開かれ、腰まであろうかという長く美しい金髪が、窓から射し込む朝日によって、まるで黄金の如く煌々と輝いていた。


 彼女が寝ていたのは、あるギルドの3階にある居住スペースだった。


 ギルドとは、商業、冒険者、傭兵、探偵などを統括する組合のことである。


「よし、今日も頑張ろ!」


 エレナは慣れた手つきで制服に着替えると、手櫛で髪を整えながら下に降りていった。


「あ、おはよう!エレナ」


 リリヤに声を掛けてきたのは、同じギルドで働く猫の獣人の女の子、カーラだ。


「おはよう」


 エレナはカーラに軽く挨拶をすると、自身の持ち場へと向かった。彼女はギルドにおいて受付を担当する受付嬢として働いている。


「おう、嬢ちゃん。この依頼受けるぜ!」


 そんな彼女のもとにきたのは男4人組。彼らは俗に言う冒険者である。冒険者はギルド内のボードに貼ってある依頼書をココ、受付に持っていき受注。その後依頼を達成したらまたココに来て、成功報酬を受け取る。それが冒険者のシステムであり、それで冒険者は収入を得ている。


「かしこまりました。では証明証を」

「おう、これだ!」


 証明証とは、ギルドの一員であることを証明するもの。魔道具の1種であり、金属製のカードのような見た目をしている。魔物の討伐ならば、その討伐数まで記録される優れもの。


 魔物とはこの世界のあらゆる所に生息する生物である。人を襲うが、なかには人と共存する魔物もいる。


 エレナは男たちから証明証を受け取ると、男たちの持ってきた依頼書とともに機械にセットした。この機械も魔道具であり、証明証に依頼内容を記録するのだ。


 しばらくして、機械から証明証が出てくる。


「受注完了しました。証明証をお返し致します。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「おう!行ってくるぜ!」


 そう言って男たちは去っていった。依頼内容は魔物である、ファットベア三体の討伐。

 ファットベアは体長3メートルを超える大型の魔物だ。クラスとしてはBに当たる。


 クラスとは、その魔物の強さを数値として表したものである。段階としてはD~Sまでの5段階存在する。1番高いのはSだ。


 そして冒険者にもランクが存在する。こちらは~階級という呼び方で、第1階級から第6階級まで存在する。1番高いのは第6階級だ。第6階級の冒険者はほぼ存在しない。

 Dランクの魔物を倒すためには第2階級以上が必要とされている。そのため、第1階級は雑用の依頼などしか受けられない。

 また、その基準で考えるならば、Sランクの魔物を倒すためには第6階級が必要…なのだが、1人だけでは不可能であり、最低でも5人以上が必要だと言われている。そのためSランクは別名、厄災級と呼ばれている。


 先程依頼を受けた彼らは第4階級なので、今回の依頼は達成可能と判断された。もし実力に見合わなければ、依頼を受けることは出来ない。その判断は受付嬢、そして依頼を記録する機械が行う。

 手順としては、受付嬢がまず冒険者の階級を確認し、問題無ければ機械に通す。そして機械は証明証に記録されている犯罪歴や依頼達成率などを確認し、見合わないと判断すると、ブーっという音とともに証明証が出てくるようになっている。


「エレナー!ちょっと来てー!」

「はーい!」


 カーラから呼ばれたので、エレナは受付に休憩中の札を置いて、席を立った。


「どうしたの?」

「ガルドさんが呼んでるの」

「ギルマスが?」


 ギルマス…ギルドマスターと呼ばれる役職者はギルドの、正確にはギルド支部の最高責任者である。


「どうして?」

「分かんない。けど、早く来てって」

「うーん…分かった。じゃあ受付よろしくね」

「まっかせて!」


 エレナは自身の担当場所をカーラに任せて、ギルマスである、ガルドのいる2階に上がった。


 そして扉をコンコンとノックする。


「誰だ?」


 中から低い渋い声が聞こえた。


「エレナです」

「入れ」


 エレナはその言葉を聞き、扉を開け、足を踏み入れた。


「失礼します。お呼びだと聞きましたが」

「ああ、まずは座ってくれ」


 エレナは勧められた通り、ソファに腰掛ける。そしてすぐさま呼び出した理由を尋ねる。


「それで、話というのは?」

「せっかちだねぇ。ちょっとはゆっくりしたらどうだい」

「仕事を同僚に任せていますので」


 エレナのキッパリとした口調に苦笑しつつも、ガルドが前で腕を組みながら、その口を開いた。


「うーん…まぁ簡単な要件なんだがな。実地調査をしてきて欲しいんだ」


 実地調査とは、依頼された内容が本当に正しいのかを確認する作業のことである。その役目は受付嬢が請け負っており、そのためそう簡単には受付嬢にはなれない。それ相応の実力が必要だからだ。


「実地調査ですか…内容は?」

「森の環境調査」

「…それはもはや依頼なのでは?」

「確かにな。だが、この依頼は領主から出されてるものでな…なかなか受けてくれないのが問題になっているんだよ」


 このギルド支部があるのは、キュリソーネ領と呼ばれる領地で、なかなかに活気がある。特産はないが、魔物が生息する森が近くにあるため、冒険者が多いのだ。それがこの領地を支えている要因なので、森の環境調査はとても大事なことなのだ。


「それならば報酬を上げてみては?」

「もうしたよ。で、受けてくれた冒険者はいた」

「…その冒険者は?」

「帰ってこなかったよ」


 それはつまり、死んだ、ということだ。


「つまり、森でなにか起きていると?」

「そういうことだ。だから、第6階級(・・・・)である君に行ってもらいたいんだ」


 そう、彼女は最高階級である第6階級の冒険者なのだ。その理由は5年間姿をくらましていた間に冒険者として活動していたから…だが、それは彼女の黒歴史であり、その事を知っているギルド員は、ギルマスのみである。


「…そういう理由で任せられても困るのですが?」

「じゃあこう言った方がいいか?吸血鬼(・・・)の賢者様?」


 実はギルマスは、彼女が元賢者であることを知っている。そして…彼女の正体も。


「…どこで聞かれてるかも分からないのに止めてください」


 彼女の種族は吸血鬼。それはもう既に絶滅したとされている種族である。さらに言えば、彼女は先祖返りの吸血鬼である。そのため陽の光に当たっても、血を飲まなくても問題ない。そして魔力も一段と多い。


 ……そのせいで賢者と呼ばれるようになった訳だが。


 吸血鬼は普通の人間と容姿が変わらないため、自分から言う、鑑定されるなどが無ければ、バレることはない。


「じゃあ受けてくれるかい?」

「はぁ…分かりました。日数は?」

「明日から3日の休暇は確保しておいた」

「3日ですか…」

「できるだろ?」

「過大評価しないでください。できる限りのことはしますが、3日後にはなにも収穫がなくても戻ります。よろしいですか?」

「ああ、こちらとしても君ほどの有能な部下を失いたくないからね」

「それでは失礼します」


 エレナはそう言ってギルマスの部屋を後にした。


「はぁ…面倒なことになったなぁ…」


 彼女自身はいたってやる気ではあるが、どうもきな臭いようだ。


「領主様の依頼…ねぇ?」


 恐らくこれは領主からエレナへの指名依頼。そうでなければ、ただでさえ人員不足のギルドなのに休みを3日も取れるわけがない。


「…まぁ明日からできる限り頑張りましょうかね」


 そう呟き、エレナは自身の持ち場に戻っていった。




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