プロローグ
坂神弥生…短髪の女子高生。クール系だが時々キャラを崩す。誰にも言えない秘密がある。
高坂魁…身長低めで小動物のような男子高校生。意外とモテる。
多井あざみ…高坂の小学校からの幼馴染。活発な女子で運動が好き。
荒谷誠也…高坂の中学からの友達。むちゃくちゃ適当な奴。
西園寺晄…1年3組の担任。新任なのに貫禄があって怖い。
錦田…文芸部の顧問。出番少な目。
高校受験、卒業式が終わる3月中頃。合格発表のボードには私の受験番号と氏名が書かれていて、私は鷹尾高校に入学することができた。受験勉強はあまりしなかった。というより、自分の実力よりも下の高校を選んだので勉強をする必要がなかった。模擬試験では、地域トップクラスの高校でもA判定が出ていたし有名私立高校の過去問でも合格ラインを余裕で越えていた。
では、なぜ自分の実力よりも下の鷹尾高校を選んだのか?答えは簡単だ。大学の推薦を楽に狙う。ただそれだけだ。
「弥生~。起きてる~?朝ご飯食べないの~?今日入学式だよね?」
ああ、うるさいな!朝から気分悪い!
「起きてる!ご飯食べる!」
本当は二度寝したかったが、それも後々面倒くさそうなので一階に降りる。休み明けはどうしてこんなに身体がだるくなるのだろうか。冬場にお布団から出たくない感覚と似ている。
「今日は入学式なんだからシャキッとしなさい。第一印象が大事なんだからね」
そんなの知らんよ。入学式?なんの特別感もない。ただの学校行事だ。でもまぁ、第一印象が大事ってところは理解している。
「いただきます」
食卓に準備されていた朝食を摂る。
そういえば、鷹尾高校はまあまあ遠いんだった。少し早めに家を出ておいた方がいいかもな。大体ここから5キロくらいあるし、坂も多い。特に学校前の坂はきつすぎて受験の時は絶望を感じたほどだ。学校説明会などは行かなかったから、あんなにきつい坂があるとは知らなかったのだ。
「ごちそうさま」
速やかに朝食を食べて学校に行く準備をする。
ニュース番組では曇りのち雨とキャスターさんが言っている。本当は公共交通手段を使いたかったのだが、あいにく家の近くにバス停も駅もないからな。消去法で自転車しかない。カッパでも持っていくか。
歯を磨いて制服に着替える。この高校を選んで唯一正解だと思ったことは制服のデザインが他の高校よりはマシにまとまっているという事だと思っている。まぁ、それも事前情報なしに、合格発表の日に知ったんだけどね。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。入学式、見に行ってやろうか?」
「来んな!」
なぜか親はこういった行事に積極的に参加しようとする?娘の晴れ姿が見たいという事か?私にはわからない世界だ。
「バレないようにね」
「……わかってるよ」
駄々をこねる母を無視して家を出て自転車で学校に向かう。
先ほど、家から5キロ離れていると言ったが、私の家周辺から通っている奴は意外にも多くてびっくりしている。例えば、今私の目の前を走っている男子学生も同じ制服を着ているので同じ学校だろう。男子生徒自体は見たことがないので、私とは校区が違ったのだろうな。この辺りって校区の分け方が複雑だからわかりずらいんだよな。
目の前にいた男子は程よいスピードで走っていたので、抜かすことなく風よけとして使わせてもらった。これはスリップストリームという技だが、今はそんな事どうでもいいか。
自転車置き場にチャリを置いてホームルーム教室に向かう。時間は8時20分。集合時間は8時半なのでちょうどいい感じだな。
自分が教室に入った時、既にある程度の人数が来ていたが、登校初日という事もありみんな静かだ。個人的にはこの静寂を保ってほしい所ではあるが、1か月後にはきっとうるさくなってるんだろうな。友達ができたり恋人ができたり……はぁ、考えただけでも騒々しい。
黒板に掲示されていた座席表を見て自分の席に着く。座席は出席番号順で私の席は廊下側から2列目の一番後ろだった。本当は窓側の一番後ろが良かったがあいにく私の出席番号は12番。まぁいい。あの席は席替えで勝ち取る。
集合時間5分前になった時、一人の女性教師が入ってきた。
結構若いな。まだ教師として勤めたばっかりという雰囲気がある……がなぜか貫禄もある。
「はい、おはよう。このクラスの担任の西園寺晄だ。さっそくだが、あと10分したら体育館に移動する。大体10時に終わる予定だ。その後は教室に戻って自己紹介かなんかをしてもらう。以上だ」
先生は気だるげに教卓付近に置いてあったパイプ椅子に座ってクラス名簿を見始めた。
それから特にすることもなく、きっかり10分経過したとき。
「じゃあ今から体育館に向かう。貴重品は自己責任で持っておけ。教室に置いていってもいいが盗難があっても責任はとれんぞ」
貴重品か。財布だけ持っていけばいいか。スマホは……あ、家に忘れた。まぁいいか。普段からあんま使ってないし。
「それでは今から入学式を行います。まずは校長の挨拶です」
せっかく疲れる思いをして学校に来て、階段を上り下りしたのに、校長の話がまったく面白くない。面白くない話を聞くのはとても苦痛な事だ。暇つぶしの便利アイテム「すまーとふぉん」も家に忘れてきたし、地獄だな。
こんな時は寝るのが一番だな。面白くない校長の話を聞かずに済むし、睡眠をとることによって私もリラックスできる。まさに一石二鳥ではないか!はっはっはっ。
と、いうことでおやすみ。
「……の……あの!」
「ん?」
誰だ。私の眠りを妨げる不届き者は……
「もうすぐ移動するので起きておいた方がいいですよ」
隣の席に座っていた男子が忠告をしてきた。別に忠告してくれなくても起きれたのだが、一応感謝の言葉を言っておこう。
「あ、ども」
これが私なりの感謝の言葉だ。もちろん想いは込めていない。
「はい。では、クラスごとに移動を開始してください」
うん。このくらいの音量で言ってくれているのだから、起きれるに決まっているだろう。一応言っておくが、これは別に強がりではない。事実だ。
「はい、では1年3組。ホームルーム教室に戻れ」
行きはみんなでならんで体育館に入ってきたのに、出るときはバラバラなのか。ずいぶんと適当だな。
みんなそれぞれ教室に戻る。私も寄り道せずに教室に帰る。それにしても、1年生の教室が4階にあるなんて。上るのが面倒くさい。頼むからエスカレーターを設置してくれ。
なんとか教室にもどって自分の席に着く。ここは一番後ろの席だから寝れるな。
「じゃあ、春休み中に配った宿題を提出してもらう」
春休みの宿題か。確か10ページくらいの冊子だったな。中学卒業レベルくらい簡単だったから、配られた当日に終わらせたな。
この中でもやってない奴とか居るんだろうな~、などと思いつつ前の席を意識していると、あれ~?無い!とか小声で言っている奴がいた。さっき私に入学式終了を知らせてくれた男子だ。どうやら宿題を入れ忘れたらしい。
「一番後ろの席から集めて来てくれ」
は?なんで一番後ろが回収せにゃならんのだ。面倒くさい。これでは休んでいられないではないか。
面倒くさいのはやまやまだが、回収しないとクラスメイトからの印象が悪くなるから、回収しないとな。
「宿題忘れたの?」
本当は無視しようと思ったが、体育館での事も合わせると印象が悪すぎるので一応声をかけることにした。
「あ、うん。家に忘れてきちゃったみたいだから、飛ばしていいよ」
と、いう事で。前の男子を飛ばして他の人の宿題を回収していく。
私の列も他の列も回収し終わった。
「はい。後ろの人ありがと。今日忘れた者は明日必ず提出するように」
先生が今日宿題を忘れた人に対して警告をする。なんか怖い。こっち……というか前の席の男子を睨んでいる気がする。
「さて、では予定通り自己紹介してもらう。私は人の名前を覚えるのが苦手だ。はっきりと大声で言うように」
自己紹介……何も紹介することが無いんだが……
「じゃあ出席番号1番から順だ。立ってどうぞ」
「出席番号一番の……」
出席番号一番の奴は自分の名前、出身中学、趣味、入る予定の部活などを話していたので、それ以降の者もそれに準じてみんなも自己紹介していた。
出身中学はともかく、趣味と入部したい部活なんて何を言えばいいんだ。紹介できるほどの趣味なんて私にはないし、この学校にどんな部活があるかも知らない。
部活は……ともかく、趣味はなにか考えないと。そうだな……最近何かやっている事……そういえば大学の下調べでよく図書館に行ってたな。図書館に行くのが趣味と言っておけばいいか。
「そうだ。言い忘れていたが、この学校は部活動ほぼ強制だからな。何か特別な理由があるのならば配慮はするが」
はぁ?!部活動強制?!勘弁してくれよ。プライベートの時間が無くなるじゃねぇか!
「はい、じゃあ次は出席番号11番の人」
と、考え事をしている間にいつの間にか私の前の男子まで順番が回ってきていた。ちゃんと何を言うか考えないと……
「えーと……出席番号11番の高坂魁です。出身中学校は新奈1中です。趣味は読書で、文芸部に入ろうと思ってます」
文芸部なんてあったのか。もうその部活に入っておいて幽霊部員になるか。
「はい。ありがとう。次は出席番号12番の人」
「出席番号12番の坂神弥生です。中学は茨野5中です。図書館に行くことが趣味で文芸部に入る予定です」
面倒くさいので、つい無気力で言ってしま……って、なんか前の席の男子……確か高坂とかいったな。なんかとても目を輝かせてこっちを見ているんだが。まるで期待を向けているような……
「はい。ありがとう。次は……」
なんか地雷を踏んでしまったような気がするんだが、気のせいだといいけど。
その後もクラスメイトが自己紹介をして、最後の人の番が終わった頃にチャイムが鳴った。
ちなみに、クラスメイトの自己紹介はほとんど覚えていない。興味もないし、わざわざ覚える必要もないからな。
「では、今日はこれで終わる。明日から部活の仮入部期間が始まるから、運動系に行く予定の奴は水分補給のために水筒など持ってくるように。みんななるべく多くの部活に行ってみるといい。この学校は比較的部活動が盛んだからな。それでは解散」
先生の適当な解散宣言でSHRが終わった。さて、早く帰って勉強でも―――
「あの……坂神さん!」
「ん?」
小動物……じゃなくて高坂が話しかけてきた。なんだ急に。こっちは忙しいんだ。
「文芸部に入るって本当?!嬉しいなぁ。僕もなんだ」
あっそ。だからなんだ。
「ふーん」
「あの……これからよろしくね!」
と、言いたいことだけ言って帰っていきやがった。というか、私は部活に行くつもりは無いんだが。幽霊希望だし。
まぁいい。今はともかく、早く家に帰るか……すごい雨だな。
次の日
「今日から仮入部期間が始まる。活動場所や持ち物などは昨日配布した紙に書いてあるので個人で確認しておけ」
昨日配られた紙……これか。
その紙には、まず運動部の紹介と今までの成績、次いで文化部の紹介と活動内容が載っていて、集合場所は一番後ろのページに載っていた。
えーと、文芸部は……茶道室2か…ってどこだよ。
「昨日も説明したと思いますが、今日はクラスで集合写真があります。一時間目が終わったら一階の中庭に出ろ。ちなみに一時間目は校外学習についてのプリントを配布する」
校外学習か。どうせクラスの親睦を深めるとかだろう。面倒くさい。
先生が宿題を配布して、プリントが回ってくる。
B5サイズのプリントには「校外学習 BBQ!!!」と書かれていた。説明を読むと、県外の広大なキャンプ場でバーベキューをすると書いてあった。
あ~、これマジで面倒くさいやつだわ。
「今日は特に決め事はしないが、次回のLHRでバスの座席と班を決めたいと思う。じゃあ早速バーベキューの説明をするが……」
先生の話を要約すると、男女二人ずつで班分けしてみんなで楽しもう!的な感じだ。最後は班ごとで写真を撮って終わりらしい。
「で、班とバスの座席は先に話し合っておいてくれ。私も仕事はちゃっちゃと片づけたいからな」
と、先生が言ったところで一時間目終了のチャイムが鳴った。
「あ、もう終わりか。じゃあまた次のLHRで説明の続きをする。この休憩時間の間に中庭に行っておいてくれ。写真撮影もさっさと終わらせるぞ」
先生が教室から出ていく。
特にすることもない私はスマホを手に取り―――
「坂神さん」
昨日のように、またまた高坂が話しかけてきた。なんでこんなに話しかけてくるんだ?もしかして、気に入られてる?いや、そんな事は無いか。
「なにか?」
「あの……やっぱり何でもないです」
なんだそれ。用がないんだったら呼ぶなよ。
もういいや。先に中庭に出ておくか。
教室にいると色々面倒くさそうなので一足先に外に出てきた……が!なんでお前が付いてくるんだよ!高坂ぁ!
もういいや。さっき何か私に言いたそうだったから、私から聞き出さないと話が進まなそうだ。もう本当に面倒くさい。
「何か用かな?言いたいことあるんだったら早く言いなよ」
「あ、あの……えっと」
早く!要件を!言え!
「バーベキューの班の事なんですけど……」
バーベキューの班?話の話題にしては弱いぞ。そんな事を話したいがために付いてきたのか?
「僕と一緒の班になってください!」
「え?」
なんか告白みたいなトーンで言われたんだが。っていうか、わざわざ付いてきてまで言う事じゃないだろう。班決めするときに言ってくれればいいと思うのだが。
まぁ、そんな事はともかく、断る理由もないし一応了承しておくか。
「別にいいけど」
そう言った瞬間、高坂はとても笑顔になった。
「ありがとうございます!」
なんでそんなに笑顔なんだよ。私なんて愛想よくないし、なんでそんな事で喜べるんだ?謎だな。
高坂からバーベキューの班に誘われてから5分くらい経過してから、他のクラスメイトも降りてきた。
今更だが、こいつは一緒に行動するような友達はいないのだろうか。まぁ、私にかまってる時点で友達はいないか。きっと入学式から誰ともコミュニケーションが取れてないんだろうな。可哀そうに……って私が人の事言える立場じゃねぇか。
「高坂君!ちょっといい?」
?!
友達がいないと思っていた高坂が女子に話しかけられてるだと?!意外とやり手だな……
「バーベキューの班、一緒にならない?」
「僕はいいんだけど……坂神さん。多井と一緒でもいい?」
多井?ああ、この女子の事か。見た感じは活力に満ちている感じの元気な女の子って感じだな。
「いいよ」
なんか多井さんにめっちゃ睨まれている気がするんだが、気のせいか?
「多井。この方は坂神さん」
「よろしくね」
無表情であいさつしてきた。なんで高坂と話してるときは笑っていたのに、私にはこんなに無表情なんだ?愛想のないやつだな。まったく。
「よろしく」
私と関わる気のない人とはとことん関わらないのが私のモットーなので、私も無表情で挨拶をし返す。
「坂神さん。こいつは多井。ちょっとうるさい奴だけど、許してやってね」
私に対しては全然うるさくないから気にしてないぞ。
「多井、もう一人の男子はどうするつもり?」
「ああ、それならもう決めてるよ。荒谷誘ったらオッケーもらったから」
荒谷。また知らない名前が出てきたな。出席番号的には1番っぽい感じがするが、どんな奴か全く記憶にない。一番だから自己紹介も一番最初にやってるよな……やっぱりわからんわ。
と、思っていると、担任の先生がやってきた。
「みんな集まってるか?はやく写真撮りたいから、朝に配布したプリントに掲載した通りに並べ」
そういえば朝にプリント配られたな。確かそのプリントには、一列目1番~13番、二列目14番~26番、三列目27番~40番だったはずだ。
なので、私は一列目の端の方だな。で、その隣は高坂か。いや、これは特にいらない情報だったな。
「はい、じゃあ撮るぞ。3・2・1はい」
なんだその適当な合図は。大体「はいチーズ」とかだろ。なぜカウントダウンなんだ。
「はい、撮り終わったので解散!教室に戻っておいてくれ。終礼も早く済ませるぞ」
いや、まじで適当過ぎやぞ。もし逆の立場だったら、私でもそこまで適当じゃないと思うぞ。
「なんか、すごく適当だったね」
どうやら高坂も同意見のようだ。
「せやな」
「坂神さん。今日は仮入部一日目だけど、文芸部行く?それとも別の部活?」
そういえば仮入部の期間は三日くらいあったな。でも、私は特に行く部活ないから、今日文芸部に行っておいて入部申請して幽霊になるか。いや、でも三日あるんだったら今日明日は行かずに、三日目に少しだけ顔を出して入部申請した方が楽だな。
「わからん。今迷ってる」
一応濁した返しをしておく。特に理由はない。
「そうか。わかった」
しっかし、なんで高坂はここまで私と関わろうとするんだろう。正直、私は静かに学校生活を送りたい。やさしさで関わってきているのであれば、それは私にとってはありがた迷惑でしかないんだがなぁ。まぁきっと、私の意思は通じないかもだけどな。
その後は教室に戻って速やかに終礼が終わった。
教室では既に複数のグループが構成されていて「今日はこの部活行ってみようぜー」などという話声が聞こえてくる。そんな中、私は一人で帰る準備をしていた。少し悩んだ結果、今日は仮入部しないという結論に至ったので、今日はおとなしく帰宅することにした。
「高坂君」
「ん?どうした多井」
「今日どっかの部活行くの?」
「ああ、文芸部行こうと思ってるけど」
さーて、そろそろ帰るか。
「じゃあ私も行こうかな」
「そうなんだ。坂神さんは今日行く?」
「行く」
なぜかわからないが、急に行く気になった。理由はない気がする。
「じゃあ一緒に行こう!」
「う、うん。いいけど」
なんか睨まれてる気がするが、気にしないでもいいだろう。
荷物を全て持っていき、文芸部の部室がある特別棟に行く。
特別棟は一階まで降りて、渡り廊下を渡ったところにある。教室棟とはちょうど反対のところで、主に文化部の部室が集まっているらしい。普段はあまり日の目を浴びることはないが、文化祭の時にはメインの舞台になる、と学校紹介のプリントに書かれていた。
ちなみに、運動部の部室はグラウンドの端にある。外観はちょっとしたアパートみたいな感じだ。
「多井は他にどっか部活行く予定とかあるの?」
「あー……私は陸上部か女子ソフトボールに行こうかなって思ってるんだ。でも、陸上は今日しかやってないんだけど……」
そういえば、部活によって行ける日と行けない日があったな。陸上部とか結構人気そうなのに、一日しか行けないってキャパオーバーになったりしないのかな。
「じゃあ途中で抜けても全然いいけど……今日は陸上の方に行っておいたら?文芸部はいつでも空いてるし」
「え~……でも……」
なんで「でも」とか言いながら私をチラ見してくるんだよ。私が高坂と何かするとか思ってんのか?ばかばかしい。
「いいからいいから。今日は陸上部の方に行ってきなよ」
「わかった。じゃあ陸上行ってくるけど……何かあったら言いなさいよね」
だからなんで私を睨んでくるんだよ。もし、私が高坂を狙ってるって思ってるんだとしたら、高坂となんて絶対関係を持つ事なんて無いし、心配する必要なんて全くないんだぞ。
多井が部室棟の廊下をダッシュしてグラウンドに向かっていく。
「じゃあ行こうか」
「お、おう」
なんか切り替え早いな。
そんな事はどうでもよく、私たちは部室棟の3階にある文芸部部室にたどり着いた。
本校舎も不便ではあったが、こちらの方が不便だな。まず、1年生の教室がある4階から1階に降りて、渡り廊下を歩いて部室棟に入り、今度は3階まで上がらなくてはいけない。今思ったんだが、なぜ本校舎と部室棟は繋がってないんだ?普通は渡り廊下がどのフロアにでもあるものだろう。なんでこの学校にはないんだ?まったく。
「お邪魔しまーす」
高坂が部室のドアをノックして部室に入る。
「仮入部に来ました……って、誰もいない……?」
高坂に続いて部室に入ってみると、確かに誰もいなかった。部屋はきれいに片付いていて、文芸部部室という感じは全然なかった。
「ああ、そういえば部活紹介の時に今年部員が入らなかったら廃部になるって言ってたな」
「先輩とかいないの?」
「あ~……顧問はいるって言ってたけど、先輩はどうだろうね」
まぁ、廃部の危機に陥っている時点で先輩が居ても居なくても意味無いだろうけどな。
「う~ん。入部届は後で顧問の先生に出せばいいか」
え?それって来た意味なくね?最初から職員室に行って入部届出しておけば済んだ話じゃね?
「ふぅ、疲れた」
高坂は部室に置かれていた椅子に座り込んだ。
私はすることがないので帰りたいのだが……いつの間にか椅子に座ってリラックスしていた。
「先輩とかいないけど高坂はこの部活入んの?」
「うん。入るよ」
正直に思う事を言うと、先輩もいない、他の部員もいない、部活動の実態もわからない所に居ても青春を謳歌することはできないと思うのだが。そんなところに居ても意味はないだろうし。一応心意を聞いてみるか。
「なんで?」
「う~ん、そうだな……やっぱり学校にプライベートの空間があるって良くない?どんな事をするも自由、っていう場所って限られてるじゃん。みんなで遊んだりしたらきっと楽しいよ」
いや、そりゃ遊ぶ相手がいる場合の話だろう。今この部活には高坂しかいないではないか。
「でも、遊ぶ相手いないじゃん。他の部員も先輩もいないんだし」
「坂神さんがいるじゃん」
「え?」
「え?」
わ、私?!確かに入部はするつもりはあるけど部活動に参加するつもりは……
「もしかして、幽霊部員になるつもりだった?」
「う、う~ん……」
幽霊部員になるつもりではあるのだが、できればその事は隠しておきたい。いや、そもそも同じクラスだから隠すのは無理か。
「勉強とかするから行けるかどうかわからないんだよね。この部活なら忙しい日とか休めそうだから」
まぁ、忙しい日に限らず毎日休むつもりなのだが。
「そ、そっか。なんか安心したよ」
何について安心したかはさておいて。部活に行くのもありなのかなぁ、と今思っている。せっかく部活に入るんだし、高坂も楽しそうだし。って、それは関係ない!
「そ、そういえば、多井とはどういう関係なの?」
少し何を話そうか迷ったが、結局今一番気になっていることを聞いてみる事にした。
「ああ、多井は小学校から一緒なんだ。でも、急になんで?」
「いや、別に。どういう関係なのかなぁって気になっただけだから」
小学校から一緒という事は大体9年くらいの付き合いという事か。幼馴染みたいなものなのかな。
「ところでさ。バーベキューの班、なんで私を誘ってくれたの?多井とか他の友達とかも誘えたんじゃないの?」
最初に高坂を見たときは、友達が全然いないタイプの人間だと思っていたのだが、昨日と言い今日と言いやたらクラスの奴らとしゃべってる気がする。私の考察とは違い、世渡りが上手いなと感じたほどだ。
だからこそ、私をバーベキューに誘ってくれたことが不思議でしょうがない。
「それは……坂神さん。僕―――」
「はぁぁぁぁあああ!疲れた~!!」
高坂が何か言いかけたその瞬間に多井が帰ってきた。
おい!貴様のせいで何を言おうとしたかわからなくなったではないか!
「あ、ああ。多井か。帰ってきたのか。」
「何よ。悪い?」
悪いよ!なにか重要な事を話そうとしてたのに、君が遮ったんだよ!
「いや、悪くないよ。そういえば陸上部はどうだった?多井に合ってる部活だった?」
高坂が話題を多井が行った部活の話に切り替えた。もう今からさっき言いかけた事を話す雰囲気もないし、また今度聞き出してみるか。
「まぁ、微妙かな。大会成績微妙だし先輩もあまり結束してなかったし。なんというか……試合で勝つような感じの部活では無かったかな」
「へぇーそうなんだ。じゃあ入部はしないんだね」
「いや、もう入部届出したよ」
いやなんでやねん。この流れは入部しない流れだったよな?なんの目的があって入部すんだよ。
「え?話がかみ合ってないような……何か理由あるの?」
「まぁ、あのレベルならすぐにレギュラーなれるからね。私は陸上で大会出たいし、そのためには部活に入らないとじゃん?」
「強豪の高校行けばよかったんじゃ?」
おっと口が滑った。しかし、心の底から出た言葉で間違いはなかった。
「あぁん?」
おお怖い。急ににらんできやがったぞ。
「本当だ……多井頭いいのに、なんでこの高校選んだの?確か強豪の私立からスポーツでお誘いがあったって言ってたよね。そうでなくても頭いいから選択肢いっぱいあったんじゃない?」
へー。多井って頭いいのか。私に及ぶかはわからんが、一応警戒しておいた方がいいかもな。
「まぁ確かに選択肢はあったけど……でも、この高校じゃなきゃダメだったの」
「ほー。この高校好きなんだな」
「そ、そういうわけじゃ……」
それにしても多井は不憫なやつだな。きっとこいつは高坂に合わせて高校を選んだのだろう。こいつが高坂の事が好きというのは何となく伝わってくるからな。まぁ高坂には伝わってないようだが。
「あ、そういえば僕たちまだ入部届出してなかったよね。顧問の先生は多分職員室に居るから出しに行かない?」
確か顧問の先生は国語の担当の先生だったはずだ。名前は確か……なんだっけ。まぁ高坂についていけばいいか。
「わかった。ちょっと待って」
入部届を出して自分の名前と親の名前を記入する。
「ちょ、ちょい待ち!」
「ん?」
なんだ急に呼び止めて。
「もしかして、どんな部活に入るとか話してないの?」
「してないけど……なんで?」
「いや、親の名前を坂神さんが書いてるから」
なんだそんな事か。こんな事を指摘されたことがないので、一瞬何について言っているのかわからなかったぞ。でも、親の名前を私が書くのはダメな事なのか?別に先生が見てるわけでもないし、いいと思うのだが。
「大丈夫でしょ。私の親も別に気にしてないし」
「それならいいんだけど」
親の名前を私が書いたとばれないように偽造して、印鑑を押す。
「判子も持ってきたんだ……」
入部届を書いていると毎回思うのだが、親の了承を得る必要はあるのだろうか。学校で何をするか、という事なんだから自分で決めてもいいのではないか?などと思いつつも入部届を完成させる。我ながらレベルの高い偽造だ。すばらしい。
「じゃあ届出しに行くか」
カバンを背負って高坂と一緒に部室から出ると多井に呼び止められた。
「ちょっと待って。私も入部届出しに行くから」
多井が部室内に置いていた荷物を持ってきて付いてきた。
「え?さっき入部届出したって言ってたじゃん」
「それは陸上部に出したって言ったの。まだ文芸部の入部届は出してないのよ」
部活を掛け持ちするって事か。部活に対してずいぶんと意欲的だな。
「よし。じゃあ行くか」
部室から出て職員室に向かう。
職員室に向かう間、ずっと後ろから付いてきている多井に睨まれている気がしたが、これは気にしないでいいよな?
「失礼します。1年3組の高坂です。錦田先生はいらっしゃいますか?」
行儀よく高坂が職員室に入って、目的の文芸部の顧問の錦田先生を呼ぶ。すると、職員室の端の方から眼鏡をかけた中肉中背の男性が歩いてきた。
「何か、用かな?」
「あの、僕たち文芸部に入部したいので入部届を持ってきたのですが」
高坂がそう言うと、眼鏡の先生は意外そうな顔をした。なんだ、文芸部に入部するのはそんなに珍しい事なのか?確かに去年の入部者はゼロと言っていたし、実際に部室に行っても誰もいなかったが。
「おお、そうかい!いやー、実は今年の部員数がゼロのままだったら廃部だったんだよ。これでなんとか廃部は回避できるな」
「そ、そうですか。じゃあこれ、入部届です」
そう言って高坂は3人分の入部届を先生に提出した。それを先生が受け取って名前を確認し始めた。
「えーっと……高坂魁君に坂神弥生さん、多井あざみさんね。ちょっとここだけの話なんだが、実は私、吹奏楽部の顧問もやっていてね。そっちの部活の方が忙しいから文芸部に行けるかどうかは……」
「あ、それなら全然大丈夫ですよ。文芸部には必要なことを教えていただければ、こっちの部の事は気になさらないでも構いませんよ」
「それは助かるよ。じゃ、後の入部の手続きはこっちでやっておくから」
「わかりました。失礼しました」
と、言って職員室を出ようとしたとき
「あ!そうだ。言い忘れてた。部室のカギは職員室に置いてあるから。部室に入る前にカギを持っていくのを忘れないようにね」
「はい」
高坂が短く返事をして、職員室から出てくる。
「今からどうするか」
急にそんな事を尋ねてきた。どうするも何も、私は家に帰りたいのだが。こいつは何か物足りなさを感じているのだろうか。
「そういえば、私今日は塾行かないとダメなんだよね。だから私は帰ろうかな」
と、どうやら多井は塾に行っているらしい。一定の学力を保つために塾に入っているのだろうな。
「そうか……じゃあ今日は解散って事でいいか」
「うん。ごめんね。じゃ、私急いでるから。また明日」
「おう、じゃあな」
多井が小走りで下駄箱の方へ走っていった。
「じゃあ僕たちも帰るか」
「わかった。また明日ね」
「また明日。坂神さん」
私も下駄箱に向かう。
そういえば、高坂は帰らないのだろうか。さっき「今日は解散って事で」と言っていたが、まだ何か学校に残ってやることでもあるのだろうか。深く考えてみても何も思いつかないのでなんだか気になってきた。
ふと後ろを振り返ってみても、高坂が付いてきていないという事は、まだ部室棟に残っているという事になる。
少し待ってみるか。今は家に帰る事よりも、高坂が何をしているのかがとっても気になっているからな。
……っと、噂をすればなんとやらだ。高坂が部室棟から出てきたぞ。女と一緒に?!
「高坂君。急に呼び出してごめんね」
「ああ、うん。それは全然いいよ。それより、さっき何か話があるって言ってたけど、どうしたの?」
ま、まさか。この雰囲気は、この緊張感は……告白?!なんか相手の女子の顔も頬を赤く染めているし、なぜかソワソワしている。絶対そうだ。これは告白だー!
「あ、あのね……実は……私……」
ああ、完全にこりゃあ告白だ。まさかとは思うが告白を了承するとかないよな。なぜだかわからないが、もやもやする。なんか、こう……うまく言い表せない。
「あ、そうだ。その前にさ」
さっきまでの楽しそうな表情は消え失せ、急にシリアスな表情に変わった。ま、まさか、ここで断るというのか……?ずいぶんと唐突だな。しかし、私は高坂を応援するぞ!
「ぇえ?」
相手の声がひっくり返った。ナイス!高坂!そのまま振ってしまえ!
「トイレ行ってもいい?今日、一回も行ってないんだ」
おぉぉぉい高坂ぁ!そんなしょうもない理由で中断させるんじゃねぇよ!相手の女子は勇気を出して貴様に話しかけたんだぞ!……って、私はどっちの味方なんだよ。もちろん高坂の味方だが。その中断の仕方はちょっとないだろう。相手の女子が可哀そうだ。
あ、でも待てよ。さすがに高坂でもこれには気づくか。多分高坂は唐突な告白に耐えかねてトイレに行くんだ。きっとそうだ。
「あ、うん。いいよ。じゃあ私ここで待ってるから」
「すまん!すぐ戻ってくるから」
おっとマズい。こっちに向かって走ってきた。ひとまず物陰に隠れよう。
階段の裏に回って高坂をやり過ごすことができた。高坂はこっちに一切気づくことなく職員用トイレに入っていくのだった……って、職員用トイレって生徒が入っていいものなのか?
そんな疑問を持つ事3分。高坂がトイレから出てきた。
「あれ……?坂神さん?」
!
何?!バレただと?!幼稚園の頃はかくれんぼマスターと言われた私が見つかっただと?!隠れるのが上手すぎてみんなが先に帰ってしまった歴史を持つ私が見つかっただとぉぉおおお?!!
ま、まぁ見つかってしまったのなら仕方がない。いったん冷静になろう。まずはなぜ私が見つかってしまったか原因を探そう。
っと、原因は一瞬で判明した。高坂がトイレに行ったときは確かに隠れていたのだが、高坂がトイレに行っている間に気が緩んだのかわからないが、完全に姿が露出するところまで出ていた。さぁてここからどう立ち回ればよいのか……誰か模範解答を教えてくれ!
「お、おう!高坂じゃねぇか!まだ学校に居たんだな!」
クソぅ。なんて返せばいいかわからなくて、ついキャラが変わってしまった。こんな状況に遭遇したことがないから、どんな感じで対応すればいいのかわからん……
「あ、うん。そうなんだ。同じクラスの人に呼ばれてね。何か用事でもあるのかな」
えええぇぇぇぇえ!!!なんで呼び出されたのか気づいてなかったのかよ!てっきり私は告白を断る気持ちを整えるためにトイレに行ったのかと思った。本当にただ用を足したかったがけなのかよ。
「知らん!」
ああ、なんかムカついてきた。もう帰る。
「あ、おかえり弥生。てっきり早く帰ってくると思ったけど、今日は遅かったわね。何かあったの?」
高坂の鈍感さがあまりにもムカついたので、結末を見届けずに家に帰ってきてしまった。結局あの後どうなったのか。結局あれは告白だったのか。高坂は了承したのか。なんにもわからない。明日学校に行ったら確かめてみよう。
「部活に入ったから。あと色々あった」
でも、告白だった場合は教室じゃ話しにくいだろうから、部室で聞くのもありだな。
「え……?あんたが、部活に?」
急に顔を真っ青にして母が私の事を心配そうに見つめていた。
な、なんだよ。私、何かおかしいこと言ったか?
「あんたが部活に入るなんて……ありえない!」
は、はぁ?
「頭打ってない?もしかして、新手の病気?!」
「そんな訳ないだろ!」
なんで私が部活に入ったくらいで頭を打っただとか病気だとか言われるんだ。仮にも私は高校生だぞ。部活に入るなんぞそこらの高校生と同じことをしただけではないか。それよりも私が部活に入ることが異常だとでも言いたいのかこの親は。
「なんていう部活に入ったの?」
「文芸部。あの学校、部活動が強制って事だったから一番楽そうな部に入ったの」
まぁ一番のきっかけは、高坂が自己紹介してるときに出てきた部活だって事なんだけどな。変な意味じゃなくて「そんな部活あるのか―楽そうダナー」って思っただけなんだけど。いや、本当に。
「わかったー。男でしょ。どうせ自己紹介の時に気に入った男が「文芸部に入るんです」とか言ってたから弥生も入部した、とかそんなんでしょ」
「そ、そそ……そんなわけ!」
あるわけ……ないだろ。あいつはただの同じクラスメイトってだけだ。恋愛感情なんてモノはそれこそ病みたいなもんだ。私が恋愛なんて……
「あるんでしょー」
「あー!もううるさい!」
このまま親と話していても、なにも得るものがない。さっさとこの空間から立ち去って独りになりたい。
親と離れるためにリビングを出て自分の部屋に行く。
「あー……」
別に私は高坂の事を気にしているとかそんな事は絶対にない……ないったらない!
恋愛というものは周りの青春してる奴らにあてられた人間が陥る病のようなものなのだ。一応言っておくがこれは持論だ。もちろん意見反論はあるだろうが、私はそう思っている。だから私は今周りの奴らにあてられてるという事に……って!違うそうじゃない。
はぁ、もう今日は調子に乗らんなぁ……。いったん寝てリフレッシュするか。
次の日
ああ、しくじった。昨日はリフレッシュするために午後5時に仮睡眠をとったつもりだったのだが、目覚めてみると電波時計の針は午前6時を指していたのだ。
夜ご飯食べれなかったじゃん。っていうか夜ご飯の時間になったら起こしてくれよママ氏。シャワーも浴びてないではないか。まったく。
シャワーを浴びたいのは山々だが、寝起きは喉が渇いて仕方がないので、着替えを持ってリビングに行く。
リビングに入ると、既に母は起きており、朝食の準備をしていた。どうやら今日の朝食は目玉焼きにベーコン、それにトーストっぽい。
うん。いつもと同じだな。
「あらおはよう、やっと起きたのね」
と、起こしてくれなかった張本人が他人事のように呟いた。
「なんで晩御飯のときに起こしてくれなかったのさー」
コップにお茶を注ぎながら不満げに放つ。あんたのせいで私は一食分のエネルギーを摂れなかったではないか、と。
「えー?だってすごく気持ち良さそうに寝言言いながら寝てたんだもーん。起こしちゃ悪いと思って」
「寝言?」
寝言だと?私の記憶ではいままで寝言を言った事はないんだが。まぁ寝ている間の記憶そのものもないんだがな。
「そうよー。なんて言ってたかな......たしか高なんとか、って言ってたよ。多分人の名前じゃないかな」
高なんとかって、高坂以外思い当たらないんだが。逆に高坂以外で高という字がつく奴を覚えていない。
「で、なんていう名前なの?その男は?」
「......ふぁ?!」
な、なぜ男だとわかった?ヒントは高だけだぞ。それだけじゃ性別なんてわからないだろう。そもそも、高なんとかだけで名前だと決めつけている時点でおかしい。
「し、しらん!風呂入る!」
だ、ダメだ。このまま魔術師と話していても、私の精神が擦り切れるだけだ。さっさと風呂に入って朝ごはん食べて学校行こう。とにかく今は母と離れたい!
脱衣所で服を脱いで風呂場に入る。朝シャンってなんだか久しぶりな気がするな。なんか普段の風呂よりも気持ちいい気がするんだよね。朝シャン。
ふぅ......1日ぶりのシャワーは最高だぜ。一気に心体がリフレッシュされる気分だ。
......それにしても、なんで私は寝言を言っていたのだろうか。恐らく高坂と言っていたようであるが、ただひたすら疑問だ。私は高坂に対して何か未練があるという事か?いや、お母さんによると「気持ち良さそう」という事だったので未練があるとか、そういう事ではないだろう。という事は......恋愛とか......って!絶対そんな事はないはずだ。辺な方向に考えるな。冷静になれ。
「朝ごはんできたから早く出てきなさーい」
「わかった」
短く返事をして、風呂から上がる。体をふいて頭を乾かして着替えて準備完了だ。女子にとって髪を乾かすというのは面倒なものだが、私はショートカットにしているのでロングの女子たちよりかは比較的楽な方だと思う。化粧もしないしな。
風呂から上がってリビングに入ると、テーブルには朝食が並べられていた。内容は普段と変わらないというのはさっき言った通りだが、晩御飯を(結果的に)抜いてしまった私にとってこの量はまったく足りない。多分2時間目くらいにお腹が空くやつだ。
「いただきます」
食卓に並べられた料理をスピーディにマナーを守って平らげる。
朝食を摂ってすぐに学校に来た。靴を学校指定の上履きに履き替えて、教室に向かう。
「あ、高坂さん。おはよう」
と、教室に入ったら既に高坂がいた。ずいぶんと早く登校してきているんだな。関心はしないが。
「おはよう。朝早いんだね」
「うん。毎朝早起きしてるから。早く学校に行くのは気分次第なんだけどね」
そうか。しかし、私にはこいつに聞かなくてはいけない事がある。そう、それは……昨日の結果だ!
昨日は少しムカついて出ていってしまったが、あの後すっっごく気になってしょうがなかったんだ。夜も眠れなかった……って事はまったくないんだが。夜ご飯も抜かしたくらいしっかり寝れたんだからな。
でも、本当に気になっているんだ。どんな返答をされても私の今後に関わるような重大な事案出ない事は理解しているが、それでも気になる。
「そ、そそ、そういえばさ」
「ん?坂神さんがどもるなんて珍しいね」
ああ、そんな事で会話の流れを崩すな!
「い、いや。気にするでない」
「なんかキャラが……」
「ああもう!そういうんじゃなくて!」
少し深呼吸をして心を落ち着ける。何とか落ち着いたので、高坂を見据える。
「……昨日ってあの後何かあったの?」
「あ、あの後って?」
あぁん?!とぼけてんのかこの野郎は!
「私が帰った後!一緒に居た女子と!何があったのか!聞いてんの!」
少しキャラが崩れてしまったが、気にせず大きめの声で聞いてみた。
「あ、ああ。そういう事か」
やっと理解してくれたようだ。しかし「なんでそんな事聞くんだ?」という顔でこちらを見てくる。なんかムカつくな。
「まぁ……何もなかったと言えば何もなかったんだけど。ちょっと言いにくいかな。相手側のプライバシーも考えると」
「告白……みたいな感じなんじゃないの?」
と、昨日から思っていた事を言ってみると……
「は、ははは。急にどうしたの?お水飲む?」
なんときれいな動揺だろうか。ペットボトルを持っている手が震えているぞ。
「当たってんじゃん」
すると、高坂は「まぁね」と言って切り替えしてきた。
「でも、断っちゃったから」
「ふ、ふーん。そうなんだ。なんで断ったの?」
一応理由を聞いてみる事にした。突然だが、高坂って彼女いるのかな。
「なんでって、まぁ色々だよ。3年生の人だったから」
上級生という事だけで断るのか。何か理由でもあるのだろうか。
「もしかして彼女いるの?」
あ、質問間違えた。
「え?ああ、僕に彼女はいないよ」
「へー。じゃあなんで」
「そ、それは―――」
なんだ?早く教えてくれ!
「おはよー。あれ?もう高坂君……と坂神来てたんだ」
あ、ああ。ああぁぁぁぁあ!!!!またお前か多井!昨日の今日だぞ!こいつは何度邪魔すれば気が済むんダァぁぁぁぁあ!
「おお、ビックリした。おはよう多井」
「う、うん。おはよ。何話してたの?」
「なんでもない。気にするな」
なんか恥ずかしいのでさっきまでの会話は黙秘することにした。私の意図は高坂も察したようで、「世間話だよ」と言って誤魔化してくれた。
「あっそう。まあいいけど」
もしかして、好きな人って多井なのかな。何の根拠もないけど、幼馴染って言ってたし、付き合い長そうだから全然あり得る話だと思うんだよな。
「そういえば、今日から授業始まるんだよね?」
ああ、そうだった。今日から授業が始まるんだったな。めんどくせぇな。ま、4時間目までしかないというのは救いだが。
「そうだよ。まぁ、今日は先生の自己紹介とかで終わるだろうけどな」
「教科なんだっけ」
「今日は芸術が2時間、化学基礎、生物基礎だったはずだよ」
え、全部副教科みたいなものではないか。しかも、ほとんどが自己紹介で終わると考えると……今日は睡眠時間たっぷりじゃねぇか!
昨日はいっぱい寝たから今日寝れるかはわからないが、横になれると考えたらうれしい。
キュゥー……
「「ん?」」
「~~~!」
や、やばい。お腹鳴っちゃった……。
「坂神さん。もしかしてお腹空いてるの?」
「あ、うん。実は昨日晩御飯食べ損ねて……」
耐え難いレベルで、とは言わないが結構お腹が空いてきた。やっぱり晩御飯ってすごいな。一食抜いただけでこんなにもお腹が空くんだから。
「はいこれ」
「ん?」
高坂が何かを私に差し出してきた。外観は茶色の紙袋で、中に何かが入っているようだ。
紙袋を開けてみると、メロンパンとクリームパンが入っていた。
「お腹空いてるんでしょ?気にせず食べていいよ」
「……ありがと」
とても悔しいことに、高坂がカッコよく見える。菓子パンの力、おそるべし。
紙袋からメロンパンを取り出して一口食べる。
……なぜだろうか。このメロンパンはどう見てもそこらへんに売っているもののように見えるが、今まで食べたメロンパンで一番おいしい気がする。
「ねぇ高坂君。なんでパン持ってきてたの?今日って4時間目までしかないのに」
「実は今日も文芸部に行こうと思っててさ。ほら、2日目の仮入部に参加する人は昼ご飯持ってこいってプリントに書いてあっただろ?」
「あー。そういえばそんな事書いてあったかもね」
え?でも、そういう事なら私がこのパン食べちゃってよかったのか?
「このパン、部室で食べる用だったの?」
「うん」
いや、うんって。私が食べちゃダメなやつじゃないか。昼の部活動用に持ってきたものなんだろ?それなら渡してくれなくてもよかったのに。というか、こっちが逆に気を遣ってしまう。
「まだ私クリームパン食べてないから、これは返すよ。メロンパンは……もう半分食べちゃったから返せないけど、その分のお金は―――」
「いいって。お腹空いてるんでしょ?僕はそのパンを坂神さんにあげて、もうそのパンは坂神さんのものだから」
「じゃあ昼ご飯はどうするの?パン以外に何か持ってきてるの?」
「お金はあるから学食で何か食べるよ」
う~ん……なんかそれだと私が納得いかないな。ものをもらってる立場からじゃ偉そうに言えないんだけども。
「じ、じゃあ頂くけど……」
「お、すまん。少しトイレ行ってくる」
わざわざ宣言しないでいいって。
高坂が教室から出てトイレの方面へ走っていった。
「しっかし、高坂君も優しいよね。私なら昼用に買ったパン渡さないと思うな。渡しても半分だし」
言っている内容はケチっぽいが、正直私も同じ対応だと思う。他人のために自分の昼ご飯は削りたくないし、自分で購入したものなら尚更だ。
「高坂っていつもあんなに優しいの?」
「ん?まぁ大体ね。でも」
まぁそんなに優しい奴だったら好いてくれる人も出てくるだろうな。昨日のアレも原因はそうだったのかな。
「買ったパンを全部渡すってのは初めて見たかな。私でもメロンパン半分しかもらってないし。もらってる立場でこんなことを言うのもなんだけどね」
メロンパンは外せないのな。
「まぁでも、いろんな人にやさしく接してたら告白されるってのも当たり前か……あ」
つい口が滑ってしまった。もちろんわざとではない。
「んー?今なんてー?」
多井が陰のある笑みを浮かべてこちらを睨んでいた。
怖い怖い。顔の表情、情報量パンクしてるって。
「いや、なんでもない。気にしないで」
「そんな事言われても無理なんだよなー。で、どんな奴に告白されてたって?」
ウッ……完全に見透かされてやがる。すまん高坂!パン貰っておいてこれはひどいと思うだろうが、私もこの魔性の女狐に騙されたんだ(そんなことはない)!許してくれ!
と、そういうわけでかくかくしかじか、私の知っている情報は全てげろった。ちなみせめてもの償いとして文末に「絶対に本人には言うなよ!」と念を押しておいたので、高坂本人にばらすという事はないだろう。
「なるほどねぇ。高坂君がまた告白されたかー」
また?という事は何回も告白された経験があるって事か。
「確か小学校の頃から一緒だったんだよね?高坂ってそんなにモテてたの?」
高坂の外見のアドバンテージと言ったら、童顔ってところくらいしかないと思う。身長も低めだし。まぁ愛玩動物というか小動物みたいな可愛らしはあるが。
「まぁね。私が知る限りだと中学の頃に5回ってとこかな。全部断ってたけど」
5回?!結構告白受けてるんだな。しかも全部断ってると来た。あいつ、想像以上にやり手だな。
「断ってたって、理由とかあんの?」
告白を受けずにすべて断ったという事は何かしらの理由があると思う。例えば、相手の顔がタイプじゃなかったとか、性格が悪いとかな。まぁ、理由なく断っているというパターンもある可能性もない事もないと思うが……
「さぁね。私は高坂君じゃないからわかんないよ」
「ふーん。そう」
まぁそうか。告白を断った理由なんて本人しかわからない話だもんな。私たちがそれについて語るのは憶測にしかならない。
と、話に一段落がついたところでちょうど高坂が帰ってきた。
「ねー高坂君。また告白されたんだってー?」
おい!何言ってやがる!絶対に言うなよと強く念を押したのに聞いてなかったのか?!それともわざとか?!
「え……坂神さん。もしかして話しちゃったの?」
「ご、ごめん。つい口が滑って」
いやー。これは本当に私が悪かった。口が滑っても固く口を閉ざしておけばよかったな。
「まぁ、口が滑ったんならしょうがないかもね。多井、追求激しいし」
あ、普段からそんなに追求されるのか。それなら私が隠し通すのは無理だったかもな。どっちにしても誠に申し訳ない。
高坂は「ハハハ……」と空しく笑って「この話はもうやめよう」という意を多井に向けているようだが、当の本人はまったく意をくみ取れていないようだ。とても関心を持ったような表情をしている。
「で、高坂君。今回はどんな子に告白されたの?」
「先輩だよ」
「だから、どんな感じの子かって聞いてんの」
チラッと高坂を見ると、どう返答しようか困ってるように見えた。ここはさっきのパンのお礼って事で私がフォローしてやろう。
私が高坂に向かってグッドサインをすると、高坂は安心したような表情をした。どうやら私の意図は伝わったらしい。安心しろ高坂。私がフォローしてやるんだから大船に乗った気分で待っていてくれ。
「可愛い感じだった。胸が大きかった。身長低かった」
私が持っているすべての情報を出してみた……が、これってフォローになってなくね?高坂もポカーンと口を開けて魂が完全に抜けていた。
「坂神には聞いてないんだけど……まぁいいや。なんで断ったの?理由は?」
私のフォローもむなしく次の話題へ飛んでしまった。高坂はなんだか……表現しにくい表情をしている。どうやら私が高坂に乗せた船は泥船の方だったらしい。
「理由は……好きな人が居るからに決まってるじゃないか」
多少の沈黙。体感30秒は続いた気がする。そして……
「「?!」」
私も多井も一斉に驚いてしまった。いや、もちろんその方向も考えはしたが、私の中では早めに除外した項目だったんだよな、好きな人がいるって。でも、今考えたら当たり前の事かもな。
「こ、高坂君って好きな人いたの?!」
私よりも驚いていた多井が、これまた驚いたような感じで高坂に問うた。
「そ、そりゃね。僕だって一応男子高校生なんだよ?好きな人くらいいるって」
少し顔を赤らめ、耳を澄まさないと聞き取れないレベルの小さな声で発言した。
「告白しないの?」
「え?!」
多井の問いに対して高坂は少し驚いた後に、私をチラチラと窺ってきた。
え?どうして私の方を見てくるの?もしかして、私に……その、気があるとか?いや、無いかさすがに。
「ん?なんで高坂君と坂神が見つめあってるの?え?もしかしてそうゆう感じなの?」
「ち、違う!」
つい、大声で言ってしまった。
「えぇ?ホントかなぁ?」
「本当に何もないって。そうでしょ、高坂」
「え……ああ、うん。何もないよ」
私と高坂の間にはそういう関係はない。私はそもそも恋愛とかそういうの興味ないし、恋愛をするために学校に来たわけでもない。ただ……高校生活が始まって、高坂に興味が湧いたというのは紛れもない事実だ。でも、それが恋愛感情なのかというのは……自分でもわかっていない。
私は今まで異性に対して興味を持ったことがなかった。なぜだかはわからないのだが、1ミリも興味を持てなかった。だから、なぜ私が高坂に興味が出てきたのか知りたいのだ。
と、話が煮詰まったところで他のクラスメイトが登校してきたので、この会話は自然に終了することになった。
話が終わったことだし、次の時間の準備でもしておくか。えっと確か、1時間目は美術だったな。持っていくものは教科書と筆箱だけでいいだろう。
「高坂。一緒に行こう」
「美術室?ごめん。僕は選択科目音楽だから」
「あ、そうなんだ」
「ごめんね。せっかく誘ってくれたのに」
「いや、いいよ。気にしないで」
少し勇気を出してみて高坂を誘ったけど、まさか高坂が音楽を選択しているとは。こういうお誘いでも断られたらなんか恥ずかしいな。
と、いう事で一人で美術室に行くことにした。
一時間目 美術
「ねぇ。あの時はそう言ってたけど、本心はどうなの?」
一時間目は芸術選択で、私は美術を選んだので特別棟にある美術室に来ている。特別棟の場合は、部室棟と違って渡り廊下が各階にあるので、楽に行き来することができそうだ。
と、そんな事はともかく。高坂はもう一つの教科である音楽を選択していたのでこの場にはいないのだが、多井は美術を選択していたらしく、ペアを組めとの先生の指示で私のところにやってきていた。
「本心って……」
そして、私は多井から高坂への私の想いについて追及されている最中である。高坂が警戒していた理由がいまハッキリわかった。
「決まってるでしょ。高坂についてどう思ってるかって事よ」
「そ、それはさっき何もないって言ったじゃん。ただ少し興味出てきたってだけで」
「それってさ。もう好きって事なんじゃないの?」
「違う……と思う……」
1時間目が始まるまで、高坂に対して私がどのような感情を持っているかと整理しようと試みたが、考えれば考えるほど高坂に対してよくわからない感情が募ってくる。これが恋心というものなのか私にはわからない。
「じゃあ今から私が言うことを頭の中で想像してみてよ」
何か良からぬことを企んでいそうで怖いが、まぁここは従っておこう。
「高坂君と手をつないで」
「?!」
い、いきなり何を言い出すんだコイツは!そ、そんなの無理に決まって―――
「高坂君と抱き合って」
「~~~!!」
や、やめろ!クソ、どいつもこいつも私の精神を乱しやがって!
「高坂君と……その、キスして」
「も、もうやめて……くれ」
ギブアップだ。さすがにそこまで行くと……ちょっと気にするだろ。
「顔真っ赤っかだよ?やっぱりそうなんだね」
「で、でも!私には……その、恋愛とか全然わからないんだ。いままでそういう感情を他人に抱いたことはないし……」
「ふ~ん。高坂君が初恋の相手って感じなのね」
「だから、まだ好きかどうかは……」
でも、やっぱり高坂の事が気になってるっていう事はやっぱり好きって事になるのか。確かに、そう思えば今までの高坂と関わってきて不思議というか気になる、といった感情にも説明がつくな。
「私、高坂の事好きかも。ってか好きだ」
「そ、ちゃんと自分で認められるんならそれでよいよい。私が力になってあげよう」
「いや、それはいい」
「えー?!」
この恋……と言ってもまだ確信を持てている訳ではないが……ああ!もういい!自棄だ!
絶対に成功してやんよ!
「はぁ……流石にあそこまで全否定されると少し落ち込むな……」
好きな人に振られるっていうのはこんなにもショックな事なのか。今まで誰とも付き合った事がなかったから、そういう気持ちは全く分からないんだよな。というか、どちらかというと今までの僕は逆の立場に立っていた側かもしれない。
「高坂?何か落ち込んでるのか?」
と、一人で考え事をしていると友達の荒谷誠也が話しかけてきた。こいつは中学からの知り合いで、成績以外は完璧な男だ、と友人の僕でも胸を張って言えるような奴だ。ちなみに彼女持ちだ。
「わかったー。女だな?」
「は、はぁ?ち、ちがうよ。バーベキュー楽しみだなーって」
ハハハと笑って誤魔化そうとしたが、自分でも顔が引きつっているとわかった。ポーカーフェイスは苦手です。
「嘘つくのが下手だな。女で何か迷ってるんだったら誰かに告っちゃえよ。お前なら行けんだろ」
「何言ってんだよ。そんな気持ちで告白しても長続きしないだろ?そんなの僕は嫌だよ。それより荒谷はどうなんだよ。彼女と付き合い始めて2年は経つだろ?」
「まぁそれはいいとしてもな。お前もそろそろ男女交際とかしてみれば?」
そんな簡単そうに言われても困るんだがなぁ。というか、僕の話も聞いてよ!
「好きな人とかいないのか?」
「……」
「いるんだな」
なぜバレた。黙秘権を行使したはずなのだが。こいつは相手の思考を読み取る能力でもあるのか?
「多井か!」
「ちげぇよ!」
おっと、大声で言ってしまった。少し気持ちを抑えよう……ふぅ……よし。
「多井はただの幼馴染なんだよ。好きな相手じゃない。昔からの知り合いって確かに仲が良いケースもあるけど腐れ縁みたいなものもあるだろ?僕と多井の関係は後者なんだよ」
まぁ別に多井が嫌いな訳ではないんだが。あいつは少しお節介がすぎる。
「まぁお前がそう言うんだったらいいんだけどよ。多井はそうでもなさそうだが」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもない。それより」
なんだよ。聞き取れなかったんだからもう一回言ってくれてもいいだろう。
「お前が気にかけてるのは坂神ってやつだろ?」
「なぜバレた?!」
「そりゃわかるさ。お前の行動パターンは中学時代の3年間を費やして研究してきたんだから」
「怖いわ!」
3年間そんなしょうもない事してたのかよ。だから頭悪いんじゃないか?
「で、どうなんだ?坂神さんって」
なにニヤニヤしてるんだよ。どうせ興味なんてないくせに。
「どうと言われてもなぁ……。ちょっとキツめの性格っぽいけどたまにキャラ崩れるし、最初はちょっと怖い感じの人なのかなって思ったんだけど意外と優しくて、しっかりしてそうなんだけど抜けてる部分ももあって、それから」
「もういい。お前の坂神に対する気持ちはよぉーくわかった」
つい話を伸ばしてしまったが、坂神さんに対する印象はいいというのが端的に済ました結果である。
「ま、頑張れよ。俺は応援してるからさ」
「なんだよそれ……で、お前はどうなんだって。彼女と上手く行ってるの?」
さっきはかわされたが、今度は俺のターンだ!
「秘密だ」
「はぁ?!ずるいぞ荒谷!」
僕だけ秘密の話して、お前は話さないっていうのか?!このクソガキがぁ!