どうする⁉ 誰も見てないカネ
その時ジョージは、人ごみの中で財布が落ちていることに気がついた。
(おっ⁉ 財布が落ちてるぞ!)
周囲を見回すジョージ。
人は多いが、そそくさと急いで歩いていく人ばかりだ。誰も財布には気がついていない。
いや、例え財布が目に入った人がいたとしても、財布にはお構いなしに歩いていってしまうような――そんな、冷たい都会の人ごみである。
(どうやら、まだ誰も財布には気がついてないようだ。結構、厚く膨らんでるように見えるが……)
財布を見ないフリをしながら、さりげなく財布の元に近づくジョージ。
そして、靴ヒモを結ぶような自然体で体をかがめる。
(とっ、とりあえずだ、拾うべきだよ……な?)
一応、誰も見ていないタイミングを見計らって『サッ!』と財布を拾うジョージ。
そのまま間髪入れず――ハンカチでもしまうかのように、とりあえずポケットへ――流れるように財布を突っ込むのであった。
そして人ごみから離れ、人のいないビルの隙間へ迅速に移動するジョージ。
財布と取り出すと――その厚さに一瞬、魔がさしてしまい――顔がニヤけてしまう。
(いっ、いやいや! イカン、イカン! これを落とした人は、大変に困っているだろう。もし自分が落とした側だったら……やっぱり、ちゃんと届けないとダメだ)
翌日――。
近所の交番内には、ジョージの姿があった。そして、掲示板に落とし物として『その財布を、今撮影したばかりの写真』を警官が張り出している。
ただし写真に写っている財布は、ジョージが拾った直後のように厚く膨らんだ状態ではなく――中身が抜き取られた、ペラペラの薄い状態のものであった。
ジョージはその作業をするお巡りさんの姿を、横目でチラチラと見つつ会釈し――静けさの中を、無表情で淡々と交番を後にするのであった。