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『夢遊病者の話』

『夢遊病者の話』

 

㈠ 


布団から起きて、まだ暗い明日を放浪する。屋外は物静かに闇が支配する。明日は実に暗い。光がない。この暗い世界が明日だとするなら、なんと世界は物悲しく切ないものか。ふと、道の先に目をやると、黒い猫が一匹、こちらを向いて目を光らせている。あの目は、この暗い明日を何と不吉に照らすのか。猫の頭のどの神経が、暗闇の私を直視するのか。ああ、もしもここに大きな光があったならば、猫の色はまた違って私に写るかも知れぬ。そして私は何やらこの黒猫との遭遇というますます不吉な運命に嫌気が差し、薄暗い道をとぼとぼと屋内に戻った。



私は布団へと入り、まるで全身の霊力を奪われた人間のように心細く肌寒く、眠りについた。まだ、明日の光を見ずに、である。こんな生活は、例の医学書に記してあった、夢遊病者の話のようだ。そして、他者がこの私の生活をどう判断しようと、何やら私にはまるっきり、これは夢遊病者の生活である気がしてならない。布団に入った私は、目が覚めたとき、今見た夢を思い出すことに必至であった。何やら現実と地続きのような心持に、身体が反応していたからだ。思い出した夢は、薄暗い通りを、猫に会いに出かける夢であった。外はもう薄暗い。



とうに、明日の夕陽は落ちてしまい、私は明後日にあと五時間ほどであることに気づく。ああ、明日ももう光を見ずじまいであった。明後日は光を見ることができるであろうか。そもそも、私の観念が信じる光とは、天上で私を照らす蛍光灯でなくて、本物の、自然の太陽のことだった。ああ、何と私の人生は滑稽か。こんな闇の世界、夢の闇の世界、やはり、私は医学的にも真実としても夢遊病者だと判断された訳ではないが、私には私の人生は夢遊病者の人生のように感じられてならない。そして何処の読者が、私の話を、夢遊病者の話ではないと断言できるだろうか、どうか教えてくれ給え。そしてまた、此処にその証を明滅させる私を安心させてくれ給え。

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