始まりの出動指令(前)
はじめまして。
初投稿となります。
昔から自分で何か書きたかったのですが、ようやく決心がつきました。
稚拙な長文ではありますが、読んでいただければ幸いでございます。
屯田町は、物凄く高いビルもないが、かといって周りが田んぼだらけではない。
物件は二十三区より安く、地方よりかは値は張るが、住みやすい穴場である。
そのちょうど良さが、様々な住人たちを呼び込む原因であり、町の一角に黒薔薇と書かれた表札の家の主もその一人であった。
「あ~あ合コン行きてぇな…」
大方女のセリフのには聞こえない発言で、読んでいた新聞を床に投げる黒い長髪と白い肌、大きな乳房を持った美女は家の主、黒薔薇美棘である。
彼女は真昼間から自宅におり、亀のようにゆっくりと進む時間を持て余していた。
普段から割と呑気である。それは仕事がなければの話なのだが。
「時間あるんだから、ごちゃごちゃ言わず行ったらいいじゃないの。」
急に美棘がいるリビングのドアを開け、緩慢な空気に入ってきたのは、長いブロンド髪にモデルのような抜群のスタイルを誇る美女毒牙霊華で、美棘の仕事でバディを組んでいる人物だ。
「おう、うるせぇな。大体なんでお前がここにいるんだよ! それになんで下着オンリーなんだよ!」
「ケチケチしなくたっていいでしょう? 後、お風呂借りたわよ。」
「かーっ! 図々しい奴だぜ。」
「マンションに空きが出るまでたのむわよぉ。」
「ったくよぉ、お前だったら僕だっけか? その男達に頼ればいいだろうに。」
「それはダメよ~。あの子達は私の美や身体、金で動いているんだからぁ。」
「存外その辺は、割り切ってるんだな。」
「本気で惚れさせてくれるなら話は別だけど。」
「いいご身分だ。」
「アナタが男だったらよかったのにね。様になってたわよきっと。」
「あぁぁん? アタシの地雷を踏んだな!? いいか? アタシはこの喋り方がしっくりくる女なんだよ! 喋り方に性別は関係ねぇが、アタシがアタシたる性別は女なんだよ!分かったか?」
「まぁ怖い。冗談よ冗談。私には分かるもの。近いうちに、よく知ってる人と素敵な関係になるわ。」
「なんだいそりゃ?」
女二人で無駄話していると、「ピンポーン」と抑揚のない電子音が来客を知らせた。
「今出るぜ、待ってな。」
美棘は玄関のドアをガチャリと開けると、よく知った顔の男がいるのを見て声を上げた。
「三郎じゃあねぇか。今日はどうした?」
三郎と呼ばれたこの男は、美棘と霊華の仕事上欠かせない存在である。フルネームは剣持三郎
「仕事のお願いだよ。必要な情報は、このフィルムに入ってるから見てね。」
「フィルムぅ? 今時かぁ?」
「これはきっと電子機器ハッキング、その他ウイルス防止でしょう。敢えてアナログ手段を使って、情報の漏洩を防いでいるのね? 三郎くん?」
「そうそう。今時、電子機器に任せっきりだと、サイバー系の攻撃は防ぎきれないところがあってさぁ。本部のコンピューターならまだしも、個人の連絡端末やその他危機にリスクはどうしてもついてくるからね。」
「悪ぃ、アタシが早計だったね。今までメールだったから。」
「気にしないでくれ。それよりも最近はプライベートは大丈夫か? しっかり休んでるか? 身体は問題ないか? 健康診断行ったか?」
「へいへいお節介なヤツだ。お前に心配されなくてもアタシは元気だよ。お前こそ彼女と別れたんだって?どーだ? 慰めてやろうか?」
美棘は両手を開くと意地悪そうに笑い、抱きしめる素振りを見せた。
「バッ!バカにしないでくれ! とにかくさっきのフィルム見とけよ。」
三郎は顔を真っ赤にすると、そそくさと黒薔薇邸を後にした。
「全く、アイツはどこまで本気なんだか。」
三郎が帰った後の家には、顔をトマトのように赤くした黒髪と、これ以上は死ぬという勢いで笑い声を漏らすブロンド髪がいた。」
「アッハッハッハ!抱きしめてやろうか?ってアナタ本気じゃない!」
「うるせぇな! アタシの気持ちだよ!」
「案外純情なのね。」
「そのためには手段を惜しまねぇがな。」
昔、彼女はスール制度があった女子高に通っていたのだが、性分に合わなかったうえに、若い男の教員に恋をしたため、堂々と「彼氏候補がいる」と宣言し、「はしたない。校則守れ、伝統守れ」等と言われては、「カビ臭いもんにしがみついてんじゃねぇ!」と一蹴し、制度で出来た妹には「お姉様と呼んだら〆る」「女の股舐める趣味はねぇから、変なもん寄越すんじゃねぇぞ!」と大暴れ、さらに校風の古さに違和感を覚えていた他の女子生徒から支持を集め、文化祭で合コンを開催し、自身は思い人の教員と肉体関係を伴った恋愛を愉しんでいた。
その教員とは卒業後に別れてしまったのだが、その教員が出世し、上層部に掛け合ったところ共学になったそうだ。
このように彼女は自分の夢を無理やりにでも叶えるという無茶苦茶な人間である。
「で、結局は?」
「ななな何でお前に言うんだよ!」
「隠す必要ないと思うんだけどね。」
「やかましい!アタシも大人なんだ。節度くらいあるさ。所詮は仕事仲間くらいの認識だろうぜ。」
「まぁ頑張ってちょうだいな。それよりそろそろフィルムを再生しましょう。」
「てめぇから振っといてか!?」
いつの日だかに押し付けられた機械類の山に、フィルムの再生機があったことを思い出すと、美棘はそれを引っ張り出した。
「んじゃ始めんぞ。」
「はいは~い。」
このフィルムから黒薔薇美棘と、毒牙霊華の様々な出会いと物語が始まったのである。
いかがだったでしょうか。
いわば前編という形でここまでという形にさせていただきました。
ここからどんどん面白くなるよう頑張っていきます。
ご感想やアドバイス大歓迎です。
ただ、誹謗中傷はご勘弁のほどを。
それではまた次回。