七
七
とある街中。
相馬唯は同じ三須科都肉大学の小柳晃と一緒に歩いていた。
晃は普通の大学生でゼミが唯と一緒だった。
「ねぇ、小柳君。この間公開された例の映画、もう観に行った?」
「え?ああ、観に行ったよ。あんなにすごい宣伝や口コミがあったのに内容はすごくつまんなかった」
「そ、そう?私ちょっと期待してたのになー」
「やっぱりステマだったのかなぁ」
「ステマ?何それ?専門用語?」
「アンダーカバー・マーケティングとも呼ばれるけど、正式にはステルス・マーケティングのことだよ」
「ステルスって確かレーダーに写らない軍用機の名前よね?そこから来てるの?」
「そうだよ。ゲリラ・マーケティングの一種で、低コストで慣例に囚われない手段での広告戦略のことさ」
「それがステマなの?」
「ああ。印刷物や出版物、放送、口コミなんかであたかも売れてますという印象を消費者に思わせることで売り込む経営戦略だね。ネットのウィキペディアでさえステルス・マーケティングの影響下にあるとされているんだよ」
「へー、小柳君ってそんなこと詳しいんだ!」
「輪廻の匠」店内
輪廻は昨日からの依頼の疲れで椅子にもたれかかっていた。
昨日のお客がオリハルコンを持って鑑定依頼をしてきたのだ。
オリハルコンとは古代アトランティス王朝の銅系の合金で、なぜか「輪廻の匠」に持って来た男がいたのだ。
輪廻は大慌てで文献を探して相手に説明したのだ。
輪廻は休憩にコーラを飲んでいた。メーカーは秘密。
そこへ唯がやって来た。引き戸を開けて中に入ってくる。
「どうしたの、唯?」
「ちょっと聞いてよ!」
「何?態度悪いわね」
「ゴメン。でも聞いてよ。私の同級生に小柳君って人がいるんだけど」
「小柳君?誰よそれ。あなたの彼氏か好きな人?」
「べっ、別に好きじゃないわよ!」
「そんなに怒鳴らないでよ、怖いわね!」
「ちょっと好きだったけど、今はもう……」
「え?」
そう言うと、コーラを一気飲みする輪廻。
唯は立ったまま腰に手を当てた。
「バス停で小柳君の落とした小銭を拾おうとして、いきなり怒鳴られたのよ」
「怒鳴られたって?」
「〝それは俺のカネだ。勝手に拾わないでくれる?〟ってね」
「アラアラ。フフッ」
「笑わないでくれる?お金に汚い人って嫌い!」
「人間はお金に弱いからね」
「大体何でこの世にはお金なんてものがあるんだろう?」
それを聞いて輪廻はコーラの缶を置いた。
「そうね。普段私たちは何気なくお金を使ってるけど、効率の良さがあり、経済を回して人類の将来を形作っている。それが本来のお金の本質。お金が存在しなかった頃は、人間同士は物々交換をしていた」
「ふ~ん、物々交換ね」
「でもそれもだんだんと不便さが出てきて、お金という媒体で品物の価値を決めるようになったの」
唯は腰に当ててた手を降ろした。
「その頃から硬貨や紙幣があったの?」
「まさか!」
輪廻は言う。
「お金が出てきた当時は貝殻を使っていたのよ」
「貝殻……。ああ、なるほど。貝殻ね!」
「そう。より良くモノの流れが良くなったのはお金のおかげなんだけどね。それはいつしか人が富と権力を表す欲望の産物へと変わっていったの」
「それは分かる気がする」
「そうね。それにより、お金自体が大きな価値を産むことになったのよ」
「ふ~ん、人って卑しい生き物ね」
輪廻はプッと笑って、
「それは私たちだって例外ではないでしょ?唯の彼氏だってそうだったんだし」
「だから、彼氏なんかじゃないってば!」
「それでお金はやがて、主に金、銀、銅のような金属製のものに変わっていったの」
「金属製ってことは硬貨のことね?やっと現代に近づいた。あれ、でも紙幣は?」
「中世の後半には金製のコインが一番の価値を持った。まぁ、当然ね」
「金製かぁ」
「そういうコインの価値を量った受領書を受け渡ししていた長方形の紙が、現在の紙幣となったの。これがお札の登場」
「でも、お金のせいで時の権力者たちは、だんだんと多くのお金を所有することで、貧富の差が激しくなったんでしょ?」
と聞く唯。
「その通りよ。実はお金というものには目に見えない魔力が備わっているの。人の邪心が生み出したものね。お金は他者を支配下に置く道具としても意味を持ち始めたの。お金を権力の証にしたりね」
「そうね。それに人によってはお金をギャンブルにつぎ込んだりとか、金銭トラブルで人殺しが起きたりとか……」
「まぁ、ね。それで歴史に関して言えば、お金を取引するなど、お金を管理する場所として銀行が出てきた。二〇世紀初頭の世界大恐慌が起こるまで、銀行も大きくなり過ぎたのよ」
「へー」
「その後、二度もの世界大戦により、金本位制は一度崩壊した。現在はいまだ多くの負債を抱えつつも、お金は再び世界を回り始めたけど、それも不安定なものよね」
「まぁね」
「本来はお金も人間の生命を保つものだから、収入と消費のバランスをよく考えてみることだね。人間はお金で間違いや矛盾したことを起こすものだし」
「そうだね。『お金は天下の回りもの』なのにね」
「そうそう。その通りよ。あなたの彼氏にもちゃんと伝えないとね!」
「だから、小柳君は彼氏なんかじゃないって言ってるじゃん!」
「いいじゃん。もう付き合っちゃえ付き合っちゃえ!」
唯はアッカンベーをした。
「ぜーったいイヤ!」
これからもお金は世界を回っていく。




