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藤川菜乃花は喋れない 。  作者: 白咲 名誉
第一章 君の声が届く距離
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第六話 【フラジール】

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  ひとしきり消し終えると17時をまわってしまっていた。いつもなら帰宅していた時間だった。


雨風の勢いに衰えが窺えた。


 綾瀬と玄関で解散した記憶が昨日の出来事のようで達成感が身体中を巡っている。



「さて、消せたことだしそろそろ帰る?」


 唯一の質問に藤川さんは荷物をカバンに詰め込んで、こくんと頷いた。


 たぶんこの人はみんなと話そうとしないのではなくて〝話せない”のかもしれないんだななんて気がついた。


 俺が後に出る旨を伝える。追加で準備に対して焦る必要はない旨を足した。空を眺め、ゆっくりと待った。


 ちょっと古い高校だからか、木製の床からギシギシと音が響いた。静かな空気を紛らわせたくなり、俺が「この学校もそろそろ寿命だね」なんて意味のないことを言う。藤川さんはこくんと頷いた。


 彼女の支度は済んだようで、ドア付近まで近づいてくる。帰ろうと思っている矢先、階段がある方向から女子特有の甲高い笑い声がこの教室まで届いた。


 親御さんの迎えが遅いとこの時間になるまで待たされていたんだろう。どうでもいいから何処か遠くへ行ってもらえないだろうか。


 笑い声は鳴り止まない。俺にとってハエの羽音のように誰なのか判別がつかなくてノイズのように耳障りだ。


気を取り直して、一歩前へ足を運ぶが


 「さっ行こっ・・・・・・」言おうとしていたら藤川さんは硬直している姿を目の当たりにする。


 手先が小刻みに震え、過呼吸のような息の吐き方をしている。


来たんだ。藤川さんの挙動から直感的に推察した。


 俺は深く息を吸う。肩の力を抜いて俺はスマホをポケットから取り出す。




 大きな声で笑う女生徒たちの話す内容がだんだん明示される。私らが帰った後に残っているんだって絶対っ!興奮気味で高らかに言っており、もう1人が賛同していた。



 すぐには消せないようにしてあるし、ほら、電灯もついてあるしさまだいるって。楽しみ〜と述べられる感想。



藤川さんを苦しめているのはこの人なのか。



 俺は拳を握る。爪がめり込んで痛みが走る。あいつら2人は確実でここに向かって来る。それなら今が好機なはずだ。



 2人が教室にとうとうやって来た。一林が犯人だった。こいつは愉快そうに口を釣り上げ、歪んだ表情で教室に登場する。これがこいつの本性なんだな。




「うわっなんであんたがここにいるのよ」



一林にとって俺がこの場に居るのが大誤算なようで一歩下がる。



「別に。ここにいるのが何か問題か?」



「ねぇ加奈あれ」



取り巻きが藤川さんの机へ視線が向いている。あいつは一瞥をして鼻で笑った。



「だから?別にこいつらが結束したってなにができんのよ。文句あってもなんにもできないじゃない。てか高杉はこの女のこと助けたんだ。へー。はぁ、頭悪いんだから寝たふりだけしていればよかったのに」



俺は強く睨む。一林は捲し立てて更に言葉を吐く。



「えぇもちろん、私がこれをやったわ。それで?証拠なんてないじゃない。だから、私のいじめはないのと同じよ。クラスの流れは私が掴んでるんだもの。アンタらが良いふらしたって誰も信じてくれない。私が藤川さんで楽しむ度に高杉はそんな眼をして火消し活動をするのよこれからも」



そんな事をまかり通そうと持っているのか、あいつは。そう思っていると空を切り裂く音が鳴る。



ついカッときて一林を俺は平手で叩いてしまっていた。



「ねぇ見た?」



 一林の頬は赤くなり、後ろにいる取り巻きに同意を求める。俺はスマホの画面をタッチした。一林の音声が再生される。



「もう2度と関わらないでくれ」



「・・・・・・叩いたのだって音源に残ってるし証人だっているんだから誰に渡そうとしても意味なんかないわよ!」




「そんなの編集でどうにかなるだろ。こんな学校で1人のいじめ如きで動くやつはいないさ。でももっと上ならどうだ。動かざる負えないでしょ」




「さっ藤川さん、行こっか」俺たち2人は教室を後にする。この学校で藤川さんは初めて俯かないで廊下を闊歩していた。




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