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藤川菜乃花は喋れない 。  作者: 白咲 名誉
第四章 学校祭と憤怒
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第十六話【偽愛】


あまりに稚拙な文章ですか読んでもらえたら光栄です。全力は注いだ気がしますが至らない点があれば全て教えてくださると光栄です。




 朝十時キッカリ、暗い体育館にスポットライトが一筋の灯りを照射する。光の先には壇上に立つ女子生徒が一人、マイクを握っていた。


「本日は我が校の生徒一人一人が学業と日々の友情で培った成果、芸術的感覚を皆で共有し作り上げた物の披露の場です。見に来られたご親族のみなさま。私達は————」



 生徒会長が深々と頭を下げ、開会宣言が終わる。文化祭が始まる。





腫れた眼がしばしばとして、疲労を感じる。



 昨日は何時に寝たのか覚えていない。しかし静かに泣いていたのは覚えている。




 気持ちが晴れないまま起きているとスマートフォンのアラームが鳴っていた。



 頭を回そうとするも重たくてすぐにまた意識が離れてしまいそうになった。




 気持ちを伝える。それは好意を伝える、ということだ。女子が男子に想いを伝えるという行為はいつの時代もテンプレートとしてそうなっている。



 辞書で書かれているような意味を照らし合わせたところで事象に変化は現れない。



 いっそのこと泣いて懇願でもしてみるか?無意味に足掻いたって効果を成さないのに。



 いつもより二十分早く登校するよう学校から伝達されている。



 普段より早く始まるホームルーム。クラスは一段と騒然としていた。だが皆が緊張を隠していて、和らげるために言葉を交わしている。背筋がいつもは丸いお調子者の奴が今日に限って奇麗に座っている。



面白かった。




 教室で一人で机につっぷして寝ていると時折、俺が鬱陶しそうな視線が飛んでくる。普段からクラスの人間と関わらず、文化祭の出し物の作成を手伝っていない。



 今日この日を楽しむ権利もこの日だけは学校に来ていい存在ですらない。それが総意なんだ。



でも俺は菜乃花の幸せを見届けてみたい。



 この先の人生を目を瞑って思い描いてみた。俺は友人をこの先は作れず不服だが警察官が宣言した通りの生き方をするんだろう。



 卒後は大きな感情の起伏はないままに目的も向上心もなく生きる。平たい床を歩くような現実。仕事と休日の繰り返し。ちょっと苦しむがいつかは慣れる。死ぬまでを生きるだけ。



 逆に菜乃花はこれ以上も以下の不幸も起きずに和山とハッピーエンド。



今日シンデレラになるんだ。





 肝心の菜乃花は和山と話していた。演劇で主人公の役をするのに顔が強張っていない。暴風の中を楽しく進む詩人のようだ。



 いいよなアイツは。自分を疑った。今のが心の声か自分の声なのかわからない。



羨ましいよ。何でも満点を叩きせて性格は誰にでも優しい。



 だから厚い信頼が周りから注がれる。積み上げた信頼と実績があると心根の折れない。



「これ以上考えるのは良くない」独り言が増えてしまう。



ホームルームの時間になると先生が来た。



 黒板に近い側の引き戸が大きく引かれる。折角の一張羅のスーツなのにお腹に大きい膨らみがある。見栄えを悪いな。



 その姿に笑いが起きた。これがきっかけで周りの緊張感が拭われた。



 恒例通りのホームルームが始まった。最後にいつもはやらない先生からの激励の一言によって締められる。



 二年の演劇を発表する時間が迫ってきた。廊下にクラスが整列する。二組が先に並んでいた。



 両者、クラスの人間をみると顔が強張っていて、クスっと笑い、心配をかき消した。自分だけが緊張していないんだと認識したら一気に安心するらしい。



肩の力が自然と抜けた人がちらほらいた。



 狭い廊下をクラス合同で並んで二列になる。体育館へと進む様は軍隊の足並みの揃え方だ。



全員の意志の固さが窺える。そういう息を呑む静けさ。



 あと数分で本番だ。機材も練習も万全を期しているはずだ。あと必要なのは心の微調整。



不安があったらいままで築いてきた時間が水の泡になる。



 演者も裏方も失敗は許されない。一人一人の重圧感は一歩踏みと重くなる。だが跳ね上がる期待は数倍になって大きくなる。



 あぁ、おれもこうなりたいな。俺も皆の一員になれば疎外感を抱かずに済む。



 目の前にあるやり取りを純粋に青春だと言い張れるんだろうから。十年後も高校の友達と変わらずに場所や身分が変わっただけで記憶が錆びることもない。



酒でも飲みながら今までの失敗を肴にできる。



 心が急激に乾いていく感覚があった。こんな想像をしていると体が焼けそうになる。



視界が滲む。唯一の目からは並々に溢れそうだった。


 


 こんなところで泣いていたって誰も気にも留められない事は分かりきっている。ダサいだろそんなの。



さっさと行かなきゃ。列の足並みを止めてしまう。



 俯いて行列に並ぶ。なのにいきなり後ろから服の首周りを引っ張られる。じたばたと抵抗すると余計に力が強くなって息が苦しくなった。



 強引に列から外される。一部始終を目撃されているのに、誰も止めに入らない。



行進は中断されず体育館へ行った。



 周辺視野で誰がこんな真似をしてきたのか確認すると、綾瀬だった。



「何すんだよこの野郎」



「話があるんだよ」



 俺の首をロックして連れて行く。そんなことでこんな事をされたのか。



俺がいる教室に入ってから綾瀬は手を離す。



「いいだろ。俺たちが抜けたって誰も気にしない」



本音では肩の荷が降りて安心している。



クラスメイト達に溶け込む風をしている自分に無理があった。



ただし、それと俺の首を強引に引っ張ったのは別だ。



「こんな真似しなくったって良かっただろ!もう殴り合うのはごめんだぞ」



距離を開けてファイティングポーズをとる。



「しねえよ。それをする経緯がないでしょ」



「やり方を選んで呼んでくれれば立ち会うのになんの真似だよ」



「あ?こんな真似でもしないと話し合いに応じねえじゃねえか」



「じゃあなんだよ」



折れた襟首を正す。



「特ダネがあるんだよ」



「記者にでもなったつもりか。何様だよっ、たく」



 綾瀬は鼻の穴を広げる。意気揚々にカバンからスマホを取り出す。



 写真フォルダを開くと動画の再生ボタンを押した。録画した映像には見慣れない部室に知らない細身の男がパイプ椅子に座っていた。周りにはサッカーボールが収容されているカゴがあった。



画面の中の男は小刻みに震え、項垂れている。



 フレーム外から〈君が誰か教えて欲しい〉。綾瀬の声がした。



撮影者は綾瀬らしい。



〈・・・・・・津田つだ 恵太けいたです〉



 手足が細くて顔に生気が感じられない真っ白な肌。それが短パンと指定Tシャツからハミ出ていた。



 常に左右どちらかの手が顔や頭を触っていて落ち着かない様子が映る。



 誘拐現場でも見せられているのかと思った。いかがわしいことをするにはぴったりの個室だ。




 映画の中の知識だけでの判断だが見た感じ苦悶の表情はしていなければ腕も縛られていない。どうやらリンチをする光景を見届ける訳ではなかった。



「いや何者?」



「中学の頃、中学で和山と同じ部活でクラスメイトだったやつ」



「ふーん」



綾瀬をちらっと見ると



「余所見すんなよ。津田くんの証言は驚くぞ」



俺は動画を見ることに意識を集中させる。



 一言も口を開かずにいる。両手の爪と爪をくっつけている。あぁいじめられる体質なんだなこの人。



彼の挙動の弱々しさについ見下してしまう。



〈君は誰に過去、何をされたのか話してほしいんだ。津田くんの意見で今助けて欲しい人を助けられるんだ〉



津田は一度、頷く。



〈単刀直入に聞くけど君をいじめていた人は誰かな?〉



〈和山・・・・・・匠、です・・・・・・〉



俺は目が丸くなった。



「うそっだろ?」



 綾瀬が和山について黒い噂があると俺に話してきたことがあった。まさか本当にあったなんて。思ってもいない事実。



 彼は和山にされたいじめの数々を明かす。先程までの話し方とは打って変わって饒舌な津田の目には怒りがあった。




 それは菜乃花や癸の比にならないくらい酷い話の数々だった。



「唯一、もうやめるか」



動画を停止させられる。しかし手を振り解いた。




「全部観せてくれ」



 辛い体験が誰の目にも留まらずに彼だけで完結させられてしまう。だから受け止めていたい。



 この動画の話す内容には脚本があって、演者がいるんじゃないか。俺は疑っていた。



 カメラに映る津田の目はこちら側を覗くように正面に顔を向ける。彼の瞳から怒りの感情が伝わってくる。



 嘘はない。そう思わせてしまう真実が彼の過去の話から汲み取れた。



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