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藤川菜乃花は喋れない 。  作者: 白咲 名誉
第四章 学校祭と憤怒
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第十話【物臭】


枕元にいる綾瀬。



「は?」



寝ぼけた頭だと現状の把握ができなかった。



「事情は追い追い説明するから、とりあえずシャワーでも浴びて来いよ」



綾瀬は俺の汚い部屋を見回して苦い顔をする。渋い顔をして鼻を押さえていた。



風呂なんてろくに入っていない。意識したら体がかゆくなった。のびっきた首ひげがくすぐったい。




手で擦って痒みを抑えつつ「なんで菜乃花まで連れてきたんだよ。……なんて言ってあの娘を学校を休ませたんだ」



悪態をつく。



 俺は綾瀬に出かけるぞとしか教えられていない。もちろん何をするのかも不明だ。だが菜乃花がなんでここにいるのかが一番に興味があった。




綾瀬がズカズカと押し入ってカーテンに手を伸ばす。部屋に光が舞い込んだ。



「藤川さんには癸が今どうしているのか気にならないか?って訊いてみただけだよ。そしたら即答で着いてきたいって言うから一緒に来た。あとはまあ俺と藤川さんの2人で行動をするなんてお前が後から知ったら良い気しないだろ。だからついでに唯一にも着いてきて欲しかったんだ。だから今は外で待ってもらってる」




「それってお前がおれを外に出す口実に藤川さんを連れ出しただけだろ」




だって友達なんだし癸の所在が気になる筈だろ。



「嘘はついてねーから」



「得しないだろあの子がよ」



窓の方を指を指して声を荒げる。




「お前は自分が、自分がってばっかりだな」



「誰が言ってんだよ。お前が今している事の行動方針だってそうさ」



「目的を持って動いているし誰も傷つけちゃいない」




「どうだか」


 綾瀬の喋り口調が、キザな人を演じている風な話し方だったからムカついた。思考や予測では俺の方が上だと思われているんだろうなと言葉のチョイスや間の取り方で察した。




「かもしんないな。でも、真実はもう俺にも分からないんだ。もうここまで来たんだしお前も行こうぜ?自分の感情を突っ張ねんなよ。らしくないから。だから俺たちを帰させようとすんな」



ふん、と鼻でため息して俺は、




「・・・・・・あーー、分かったよ。レンタルビデオの返却しないといけないし」




菜乃花に来てもらってかえってもらうのは良心が痛んだ。




「うぃーす」



綾瀬はしおらしく部屋から出て行った。


 

不思議だな。おれは、いつも菜乃花の毎日は和山一色だと思っていた。ずる休みなんて考える人だとは思っていなかった。



今は仲良くなって楽しい時期なんだから、和山との時間に一日一日を使って欲しかった。こんな俺の事なんて二の次にして欲しい、そう心から願った。内心、気にかけてくれてたんだ嬉しいなと思ってもいるがかぶりをふって蓋に栓をした。


 


 シャワーヘッドからぬるめのお湯が流れる。前髪をかき上げてみると固まったフケが何個かカリっと音立てて落ちた。引きこもり生活も、汚いと思わなければ風呂なんては不必要と思えたなんて重症だな俺。きちんと頭を洗って、清潔にしよう。



「よう、待たせたな」



俺は家を出て、外で待っている綾瀬と菜乃花に挨拶をした。外の空気が爽快としていて美味しかった。空気が変わった事で何かが体で変わる訳は無いが、気持ちが引き締まった。



 久々に会う菜乃花は、少しだけ可愛くなっていた。外見は全く変わっていないのだがどこか仕草や表情が女の子ぽくなっていた。表情も前よりも俄に柔らかくなったような気がした。



「久しぶりだな、菜乃花」



菜乃花は頷いた。




俺たちは久しぶりに会話をした。まだ会話してくれるんだなって思うと嬉しかった。




「おっせーんだよ」




綾瀬が食い気味に愚痴った。




「さてと、んじゃあ今から都会に行きます」




「え?」




「まずは自転車乗って駅行こうぜ」




「俺自転車無くしたんだよね。歩きたいな」




「しょうがないなぁ」




自転車を棄てたなんて言いづらくて、綾瀬に嘘をついてその場をやり過ごした。駅に着くまでは皆静かに歩いていた。




 駅に着いてから、何分か待って都会行きの電車が来た。駅のホームで、これ食えと綾瀬からコンビニで買ったであろうおにぎりを三つカバンから出して渡された。




一つはぺちゃんこになっていた。



電車で三十分揺られる。森しかない路面からビル群に変わった。



改札を通って、駅の自動ドアを開けると田舎の空気じゃなくて心拍数が上がった。



「ここからどうすんだよ綾瀬」

 


「着いてきて」



 何も聞かされずゲームセンターに連れて来られた。菜乃花はお祭りの時のように顔が青ざめているのか不安だったが全然そうでもなかった。




つらくない?大丈夫?」



菜乃花は一つ頷いた。



「なら良かった」



俺は久しぶりに笑顔を作ってみた。努めて明るい笑顔が出来たと思う。がやってみてガタガタ顎が震えていた。




 周りがスーツを着る人、観光に来ている人達はオシャレな身なりをしている。俺はというと田舎のスーパーに売られている安っぽい生地のデニムとパーカーを愛用している対比され、ここで行き交う人達に不釣り合いな場所だと恥ずかしかった。




「とりあえずこれ」



綾瀬が握るのは映画館の無料招待券だった。それを俺に手渡して



「んじゃ、あとは頑張れ」言い残すと綾瀬は颯爽と背中を俺に向けて走って出て行った。



「は?おい」



「四時に駅前に集合なーー」




このチケットで時間を潰せってことなんだろうな。



「菜乃花は綾瀬から何するのか聞かされていたりする?」



菜乃花は即答で首を振った。目も見開いている。嘘をついているようには見えず、本当に知らないみたいだった。





 綾瀬のやりたいことはなんとなく掴めたけれど、三人でなんかするのだと思っていた。投げられるとは思っていなかった。




騒がしいゲームコーナーから鮮やかな光。流行りの音楽が天井から聴こえる。




こんな平日にも人がいた。それにびっくりした。暇な人もいるんだな。




チケットの上映時間が差し迫っていた。




「とりあえず、映画みよっか」




戸惑っていてもこんな音の大きいところにいてもなにも始まらない。




菜乃花もうなずいた。




映画に関してはアイドル俳優と売り出し中の女優の恋愛映画だった。面白かったけれど迫力がなくて物足りない。




 幼馴染の男子と物語のヒロインがいて、お金持ちがヒロインに言い寄る。最初はぎくしゃくとする二人が最後、大切なものに気が付いて、結婚式場をドアを叩く。



 「俺気づいたんだ・・・お前の事が大事だってことを」まあ甘い表面的な独白をして感動のラスト。矢鱈とここで泣いてくださいと言わんばかりの表現にあくびが止まらなかった。



菜乃花の顔を見た。



—————「映画面白かった?」



菜乃花は頷く。そう言われただけで綾瀬に感謝した。



そのあとはゲームコーナーで遊んだ。



 プリクラやシューティングゲームに音楽ゲーム。連携を取ったり2人で点を稼いだりと時間が許す限り沢山の筐体に触れた。お互い初めてするゲームが多くて息が合わない。何度も失点したのにそこも込みで楽しめた。


 


お昼はゲームコーナーの下に併設されているお好み焼き屋へ出向いた。



 平日に皆が学祭の準備や勉強をしているのに休んでデートらしい事をしている。こんな状況に優越感が湧いた。



「さてと何を食べる?」俺はお手拭きで顔を拭う。




メニュー表で菜乃花が指さしたのはモンジャ焼きだった。



 2人前のタネが届く。俺はキャベツの土手にタネを注ぐ。食べられるようになって、ソースをかけたら完成。



熱した鉄板の上だ香ばしさが際立つ。




ゆっくり食べている彼女に俺は



「今日はさ楽しかったね」



彼女はこちらに目配せをして手を止めて頷いた。



「菜乃花はさこんな風に休むのに抵抗はないの?」




 菜乃花には悪いことをしたような気がした。自分の時間をこんな事に消費させてしまった事に罪悪感はあった。



和山は彼女が休む事で気を悪くしていないかどうか、気を遣ってしまう。



彼女は左右に首を振る。



休めばきっとそれが理由になってもっと過激な方法で襲われる。でもそんなことを考える必要はないのが彼女はいじめられていない証拠だ。




 好きな人と一緒にいたいと彼女が望むなら、こんな事に時間を割いてはいけないような気がする。



「今日はありがとね。友達のよしみでさ俺と遊んでくれて」



 菜乃花は椅子から腰を浮かす。鉄板から身を乗り出して頬を叩かれた。ぱちんと音が響く。




 女性の非力な力では痛くはない。だが痛かった。小さくて細い手を頬を張るために使われた。




 菜乃花はその姿勢で俺を睨みつける。やっぱり菜乃花は大きな瞳をしている。そこには裏表のない信念があった。



あぁ、やっぱり彼女はかわいいなぁ。



「あ・・・。あぁ・・・・・・」




すっと手を戻す。彼女の白い肌の方が少しだけ赤かった。



「あ、私は、私のいじめを止めてくれたのは凄い嬉しかっった。でも。ね、唯一がいじめられるのはおかしいよ。不登校にならないでちゃんと来てよ。唯一が、また学校に来てくれるなら私はいくらでも学校休む。綾瀬君に頼まれたんじゃなくて私が、したかったから、なの・・・・・・」




 

 しばらくして菜乃花からrainが送られてきた。文字を打つ間にもんじゃが焦げそうだ。



焦げないようにコンロのガスを止める。




 彼女から、ありのままの気持ちのが送られる。俺は待っている間に一回だけごめんと謝った。



  俺の勘違いで怒られた。頬の熱は引いた。心は暖かった。久しぶりにこちらを見てもらえた。そんな些細な喜びが胸をホワホワとさせる。




 文字を読む間は菜乃花が俯いた。彼女なりにらしくない事をびっくりしているのだろうか?






 食べ終わったあと、ベンチで時間を過ごす。14時に駅で集合するまで何も話さなかった。



 綾瀬は時間に遅れてやって来た。待たされている時になにか挽回できたらと周りを見回した。



「ちょっと待っててね」



俺は走って購買へ行き、即席カメラを買った。




「菜乃花あのさ、ごめんな。俺、少し保身的だったね。菜乃花さえ良ければそれでいいと思っていたんだ。ちゃんと学校に行くよ。心配してくれてありがとう。



・・・なんの取返しにはならないんだけれどさ今日の記念に一枚、一緒に写真を撮らない?」



 誘い文句にしては適当だった気がする。本当は菜乃花の笑顔を写真に収めたかっただけだ。



 スマホで写真を保存するのは簡単で良い。削除をすることは無いけれど、形として保存させておきたかった。それに一番の理由はロマンチックだったから。



 俺は映画を観てて全然楽しめなかったが菜乃花は最後の主人公の独白シーンで静かに泣いていた。俺もそういう事ができる人間になりたいなぁなんて思う



頷いてくれた。




 封を開けて丸いレバーを回して撮れる準備をする。上から自撮りをする構図で撮った。きちんと撮れているか分からない。




写真で彼女が見切れるのが嫌で、菜乃花の肩を支えて俺の方に寄せた。彼女にあげる時のことを考え、フィルムに俺の手を写らないようにする。




我ながら何しているのだろうかとみじめな気持ちだ。




「まあまた撮らせてね」





菜乃花は頷いた。こんなことも和山との方が楽しいんだろうけれどね。



そして、綾瀬と合流した。「いやー待たせたねぇ」



平謝りに俺は「やっと帰れるよ」と改札で切符を買った。



 だが肝心なことは俺は結局綾瀬の手の平で踊らされていたに過ぎなかった。がまぁ外に出る口実を作ってくれたのには感謝だ。



地元の駅で三人が解散する頃にはもう日が暮れていた。




皆様お久しぶりです


面白かったらブックマください。ポイント評価くっださい。

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