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藤川菜乃花は喋れない 。  作者: 白咲 名誉
第三章 やりきれない程の切ない秋祭りと二人の温度。
27/55

第八話 【ハルジオン】

ここ最近小説を書いていなかったせいか、執筆の技術が落ち、あまり面白い作りではないかもしれませんが楽しく読んでもらえたら光栄です。


駄文で申し訳ございません。



朝早くに綾瀬に菜乃花が参加してくれる旨をrainで伝えた。



幸太:まじか、あの子来るんだ(笑) おっけー



軽いテンションの字面で対応する綾瀬。改めて心の重荷を引きずっていないっぽくてよかった。



唯一:そうなんだよね 綾瀬は大丈夫か?



幸太:任せんしゃい、メンタルの管理できないで明日の仕事が務まらないんだから




日差しが肌を刺す9時半頃。自転車のロックを外してまたがった。待ち合わせ場所の駄菓子屋へ行く。



「あっ」


 

 そういえば彼女の移動手段については訊いてなかった。菜乃花はひとりで先に行くのかもしれない。もう遅いかもしれないが、rainで聞いた。





唯一: おはよう 実はさ俺昨日、菜乃花はどうやって行くのか聞いてなくてさw よかったらなんだけど俺と自転車で一緒に乗って行かない? 



そう送ると、すぐに既読が付いた。



早っ!!



菜乃花: 私もそれを今聞こうと思ってたところなんだよねwwお父さんに送ってもらおうと思ってたけど一緒にどう?



唯一: 申し訳ないから遠慮しとくね




菜乃花: じゃあせっかくだし、唯一に乗せてってもらおうかな




唯一:いいの?車の方が安全だよ



菜乃花:いいんですよ。お父さん心配性で車の中で色々言ってくるの避けたいし


 

俺を選んでくれたことの嬉しさと恥ずかしさで顔が熱くなる。



唯一:わかった なら外で待っててすぐ迎えに行くよ



俺は急いで自転車のペダルを漕ぐ。心が弾んで自転車が加速してぐんぐん住宅街を駆け抜けた。




 菜乃花の家までいつもより早く着いた。彼女は既に外で待っていてくれた。イアホンを耳に入れてスマホを眺めている。



「よっおはよう」



 俺は首に手を置いて彼女の足先に視線を向ける。Rainで送ってくれた文面が嬉しくて顔を見るのが恥ずかしかった。



慎重に顔をあげた。ヘアピンで前髪を分けてあってやっぱり瞳は大きい。




 今日の菜乃花の服装はチェックのボトムスに薄い水色のパーカーを着ていた。細い体格が隠れる服装でも自分に何が似合うのか知っているセンスがあった。それに比べて俺はラフな格好でダサい…。



 黒のチノパンに絹で出来た白色のワイシャツ、英語が書かれた紫のTシャツを中に着ているだけ。有り合わせで終わらせている感で統一されている。



 合流して2言目に“おしゃれだね”なんて気の利いた言葉が言えれば良いのに、敢えて飲み込むことにした。この言葉が言えるのは和山じゃないといけないからだ。



「さ、いこっか」俺は彼女に自転車の荷台に手を置く。



まだ少し暖かいけれどもどこか肌寒さを感じる今日。2人乗りする自転車が住宅街を出た。



チャリんと高いベルの音が後方から聴こえた。



「おはよう、唯一、今日は稼ごうぜ」





親指を立てている綾瀬は隣に横に車体を寄せる。





「おはよう、藤川さん 唯一から聞いたよ よろしくね」




綾瀬は後ろに座っている菜乃花にそう言う。菜乃花は綾瀬の挨拶に返すような形で頷いた。




「そういや、日本の法律で自転車で並走させて運転していると捕まるらしいってさ。昨日ニュースでやってたね」綾瀬が言った。




「あ、じゃあ俺らいつも捕まるじゃん?」



笑いながらそう返す。いつもの日常が返ってきたような気がして安心する。



 道の途中にある緩い下り坂がをゆっくりと下る。下っている時に視界の端ですごく遠いけれど綺麗な海が見える。キラキラと白と青が輝いていた。



俊雄さんの店に約束した時間の10分前に到着した。



 店の戸を引く。ガラガラと音を鳴らして、店内へ足を踏み入れる。1歩めからふんわりと香ばしい匂いが鼻の奥を突かれる。目の前で俊雄さんと愛維さんの2人は黄色いプラスチックの箱には涙うさぎを詰めている最中だった。



「よー、来たか、これ、すぐに準備終わらせるから座っててよ」



俊雄さんが指差すのはイートンスペースの木のベンチ。促されて3人は座る。



2人のせっせと仕事をしている背中を眺める。いつもは感じない緊張感に俺の気も引き締まった。



綾瀬は天井を仰いでいる。菜乃花は涙うさぎの方に気を取られている。



 目の前では働いている2人に対してただ座っているのも気が気じゃなくなり、何か手伝おうかとも思ったけれど、俺が関与できる量がなくなっていたから断念した。



「そういや、二人とも飯食べたの?」



「ん?ああ、食べたよ」綾瀬は俺を見て答える。菜乃花はコクリと頷いた。



「そ、そうか」



中身のない会話が終る。そうして俊雄さんが額の汗を拭ってこちらに近づいてくる。



「ふー、準備終ったわ~」



「そうですね、やっと終わりましたね。ごめんね皆、待たせちゃって」愛維さんも続けて言った。



「あ、ちょっと待ってて」と俊雄さんが言って走って作業場に向かい、何かを稼働させる音が聞こえた。



 

少し経つと俊雄さんは四つ分のソフトクリームをお盆に置いて運んで渡してくれた。



「待たしたお詫びと手伝ってくれるお礼に」俊雄さんが1人1人に手渡してくれた。



 俺達3人と愛維さんはお盆の上でそびえ立つ銀縁のソフトクリームスタンドからコーンを引き抜いた。



俺と綾瀬は、声を揃えてありがとうございますと言って菜乃花は申し訳なそうに頭を下げる。



 ソフトクリームを舐める。舌を使い、渦を巻く白いクリームを崩す。キンと冷たい。ソフトクリームの味というのはどう表現すればいいのか分からなくていつも迷ってしまう。



 食べているのは俺たちだけで俊雄さんは一服を挟まずに車の荷台に運んでいた。愛維さんの「私も手伝います」と食べるを手を止めたのに俊雄さんが


「いいんだよ。今の内に休んどけ休んどけ。適材適所、気にすんな。ほら、溶けんぞ」



 食べた後、店の後ろに駐車させている灰色の大型車に俺達三人は乗った。愛維さんが駐車場で見送ってくれた。



「じゃ、行ってくるわ」運転席の窓を開けて、愛維さんに言う。



「はい。店閉じたらすぐに行きますから、頑張ってきてください!」俊雄さんと俺達に向けて親指を立てる。



 俊雄さんは車のキーを差し込み、エンジンを温めて発進した。



 男2人は後部座席、助手席に菜乃花が座った。菜乃花からすれば異性が密接な距離間にいられるのはかなり居心地が悪いだろう。




 ここから一時間、車で移動する。車に付いてあるラジオからは今日の出来事や自分の身の上話などをメインパーソナリティの人が楽しそうに話していた。



 日光が眩しい。車内ではクーラーを効かせてもそれでも人口密度度が高く、涼しい風が循環しない。蒸し暑さが勝る。



 俺達三人はやることが無くて流れる景色をみたりラジオをただ聞いたりしてやり過ごしていた。



 車の中の湿度が高いせいでナメクジが張り付くようにゆったり流れる気持ち悪い汗が服にこべりつく。


 

ラジオからは知らない人の聴いたことのない曲が流れる。



 「なあ、この曲聞いたことあるやついる?」俊雄さんが、片手でハンドルを握って、運転する。もう片方の手は慣れた手つきで火を付けて俺達に聞いてきた。



 くっそ暑い車の中で酔ってしまうような甘ったるい声で歌われる病んだ女は傷つきやすくて、軽率な発言はやめようねというテーマのが曲が流れている。



一部のファン層に好かれる曲なんだろうな。



「分かんない」



先に綾瀬が答えた。そのあとに俺もその答えに同調した。



「これ流行ってんの?菜乃花知ってる?」



菜乃花は後ろを向いて首を振る。



 好みの曲であれば歌詞以外でもメロディーやテンポの速さまで味わえるが好きでもないものだと苦痛に感じる。



「五年前くらいの歌なら結構知ってるんだけどなー。最近の曲はホンット分かんねえなぁ」



 我らが住む町から出たら田舎道にさしかかる。あたりは1面畑で囲まれた畦道。敷き詰められた砂利のせいで小刻みに車が何度も揺れた。大小様々な石をタイヤが踏む。



 俺は暇だった。狭い空間で自分がしたいことが制限されるストレスで頻繁にスマホの電源をつけて、時間を確認している。だから俺は綾瀬に



「暑くね?」と話しかけてみた。



「ほんとにそれ」浅い解答が返ってくる。



「こんな暑い日だと家で普段何して過ごす?」



「溶けて死んでるから何もできないでいるんだわ」



この時だけはなんでも話題に上げられる賑やかな人間たちを俺は羨ましかった。



もう会話のラリーが終わりそうだ。



 綾瀬に話しかけて菜乃花に連鎖して笑いが絶えない環境にするってどうやって作ればいいのか。頭をこねくり回しても出てきてはくれない。


 

 綾瀬は度重なる車の揺れと暑さが原因で車酔いを起こす。頭を下げて項垂れている姿はテレビでよく見る終電にいるサラリーマンだ。



 綾瀬の酷い車酔いを少しでも緩和させられるよう後部座席にある両方の窓ガラスを限界まで下げた。澱む車内の酷暑こくしょとクーラーの涼風の2つが混ざり合った。真夏日の寝起きで真っ先に感じる清々しい感覚によく似ていた。



心の灰汁が抜ける心地良さに浸っていたい。



 そう思うと今、彼女はどんな顔をしているのか気になってしまった。バックミラーから菜乃花に気づかれないように眺めていると彼女の視線とぶつかって逸された。だが彼女は柔らかく微笑む。



2人にしか流れる雰囲気が生まれた。彼女が作った意図は測れなくとも心の中に希少な価値を埋め込まれた。



「やっぱ無理かも」



綾瀬の悲鳴のようにか細い嘆きで切り裂かれてしまうが・・・・・・。



 俊雄さんは一瞬、戸惑った様子があったが車を急停止させる。嗚咽を吐きながら片手を口に当てがいドアを開ける。




畦道から落ちて、ギャグみたいに呻いて滴らせた。



「あいつまじか・・・・・・・・」



膝の上に置いてあったカバンから何かを俊雄さんは探している。



「なに黄昏てんだ」



「別に何も・・・・。暗い顔の予行演習してるだけ」



「そんなのするなよ」



「論外なミスするのが怖いんだもん」



「その時はカバーするさ。労働力の経験値なめるなよ」



綾瀬は2、3分経ってからはい上がってきた。口を両手で覆って息を吹きかけている。



「見苦しいところ見せてごめんね」



「これまだ口開けてないから飲んでいいよ」



 先ほどカバンの中を探していたポカリを俊雄さんは渡す。慌ただしい騒動も終わりを迎え、運転は再開された。




収秋祭の会場に着くと関係者専用の駐車場に車を停める。車から降りて地に足を着けると全員が体を伸ばし座っていて固まった筋肉をほぐした。



町内会の窓口のテントに全員で向かう。



 会員証と出店のテントの番号が記載されている紙をその店の責任者の俊雄さんはもらう。手間暇のかかる組合の照合に3人は待ちぼうけをくらっていた。



「ほら行くぞ」指定された番号と地図を見比べながら、向かう。



 前日に町内会の人が立てたテントでは余裕で大人が10人いても余りあるくらいに広いスペース。




 13時から祭りは始まる。あと1時間足らずまで迫っている中で先に到着していた他の出店の店員たちは気だるそうに準備をしていた。動きは遅いが無駄はなく、素人の目から見ても洗練されている。内包された活気をありありと俺は感じた。なぜなら目は本気だったからだ。



 働く人の真剣な姿を見れる光景が好きだ。俊雄さんから出店の手伝いを最初に誘われた時は2人とも嫌々、行っていた。だって祭りは参加した方が楽しいのに、働かされるなんてつまんないだろ。



 まぁ安いけれどお駄賃も貰えるなんていう甘い言葉で結局手伝った・・・・・・。行きたくないなんて気持ちが勝っていた。ただ、その気持ちはすぐに消えた。俊雄さんもそうだし他の出店の人もそうだ。



 この会場で働く人の全員が働くスイッチが押されると気圧されるほどの覇気が澱みなく溢れた。俺の体を蒸発させてしまうくらい苛烈なくらい真剣に商売をする。




 背中を迸ったのは、感動。俺もこうなりたいと強く願ってしまうには充分すぎた。終始、途切れない集中力とお客さんに対する真摯な対応。その後、俺が感じた熱意を綾瀬にも言ってみたら彼も同じように刺激を受けていた。






そういう昔の話をつい思い出してしまった。



「懐かしいな」



 俺は誰にいう訳でもなく、連なる屋台に在りし日を見た。また独り言を呟いていた。



「これからやるんだよ」



 横にいる綾瀬が俺の独り言に反応してくれた。恥ずかしい。


綾瀬と菜乃花にプラスチックパックに涙うさぎを詰めたり、会計したりする係を務めてもらう。



「そろそろだなぁ」おれは座っていた椅子から立ち上がる。



「行ってらっしゃい」綾瀬は手を振る。



 祭りが本格的に忙しくなるまでは2人はテントの奥で丸椅子に座りながら待機してもらっていた。




 テントの中で俺と俊夫さんが涙うさぎの生地を焼くためにガス管をひねり火を出して鉄板を温めた。



ガスから出る火は一瞬でテントの中をサウナへ変貌する。



 小麦粉に水を混ぜて作った種を型に注いで焼く。あと二十分で祭りが始まる。俊雄さんは焼き作業を俺に任せて、クーラーボックスを担いで飲み物と昼ごはんの買い出しへ出向いた。



暑い鉄板に油をくと粒の油が勢いよく跳ねる。



綾瀬は菜乃花と会話をしている。珍しい組み合わせだ。



 俊雄さんが帰ってくるよりも先にお客さんが来た。しかし俺はまだ生地を焼くのに手が離せなく、菜乃花と話している最中、中断させて呼んだ。



「おい、綾瀬――――」俺は振り返って言うと



「――――ああ悪い悪い」食い気味に返答してレジに立つ。



綾瀬はお客さんに商品をパックに詰め込み、お金を渡す。



「ありがとうございます」



はっきり聞こえる声で言って、レジ袋を渡した。



 まだ昼頃だからか、祭り会場には若い人よりも年配の人が多い。急かされることも騒がれることもないので落ち着いて仕事に打ち込める。



綾瀬は蒼白した顔面で俺を睨む。




「俺は本当に、バカだった」




俊雄さんは少し遅れて帰ってきた。玉のような汗を俊雄さんは拭って、謝っていた。


綾瀬と菜乃花が真剣な話をするシーンを割いたのは唯一視点だったためです。第三章プロローグ2を読んでいただけると話のつじつまがあうかもしれません。

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