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藤川菜乃花は喋れない 。  作者: 白咲 名誉
第三章 やりきれない程の切ない秋祭りと二人の温度。
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第七話 【裸の王様】

感想やご意見 お待ちしております



第三章:第七話




 鮮やかな屋根の数々は街灯に照らされてより色濃く個性を主張する。まるで異国にいる気分だ。一つ一つを目で追いながら自転車を漕ぐ最中、菜乃花の家の前を通り過ぎる。



 一瞬だけピアノが置かれている場所に眼を向ける。カーテンで遮られていたが内側から電灯の光が漏れていた。



 近所の方にストーカーと見間違えられて通報はされるのは避けたい。そそくさと視線の向きを直して、真っ直ぐに我が家へ向かった。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・。



 俺が菜乃花にしてやれる事は何だろうか?俺には何ができるのか?自分の環境は変えられる。なら俺ができることで、菜乃花の環境も変えられるんじゃないだろうか?



 その発想に辿り着いた時、彼女の頼みを叶えられる可能性が引き上がった。沸々と湧くやる気に呼応して足が軽くなる。



「よし」



俺は無理に口角を上げた。ポジティブな気持ちを捻り出す。頑張れ、まだ何も始まっていないんだ。



 家について真っ直ぐ自室のベッドに身を投げた。毛布に体全体を包んで呼吸を整える。何も聞こえない、見えない状況が心を落ち着かせた。




 酸素の薄い状態は脳みそが蕩けるような安心感があって集中力に拍車をかける。目を瞑って、「できることは何か?」と自分に問う。返ってこなくとも返ってくるまでこの言葉だけを反芻させた。



 頭の中の雑念が言ってくる。「死んでしまえ自分」と。綾瀬の過去を何も知らなかった事、菜乃花がいじめられていた過去の事、今日までの菜乃花に対しての変な俺の意固地さ加減に、全てに嫌気がさす。



 後ろ向きな言葉を俺の声で誰かが囁く。足を引っ張れているけれど考えないといけない。無理やりでも俺ができることに意識を引き戻して思案する。



 瞼を閉じると底知れないプールの中にいるようだった。体を動かすことができず、徐々に沈んでいく感覚。考えれば考えるほど深淵に進む。



この感覚が最奥に辿り着くと俺が求めていた答えに行き着くと直感している。



 毛布の中に籠っていると尋常じゃない量の汗を流す。シャツに汗が張り付く。鼻筋から汗が貯まっていく。だが、不思議と喉だけが乾かない。空腹にもならない。



呼吸をする度に脳が活発に働いた。




 それでも、なにも思いつかなかった。何度も仮説を建てた。ありそうな落とし穴を考えて修正する。そうすると白紙になってまた、考えを改める。これの繰り返した。



今後の行く末や自分の行動方針を考えても納得ができなかった。



 「あぁ俺ってやっぱりダメだなぁ」諦めの色が言葉に表れる。今までの学生生活を振り返ってみて、俺が何もしてこなかった。自分を変えようという意志に知らんふりをして辛い気持ちを滞納していた。返済期限が迫ってきたのだ。



 俺は築いてこなかった。頼ってくれた菜乃花に切れるカードがないんだ。外に出ていたときにあった気力は反転して自己嫌悪へと遂げる。




 後悔が押し寄せてきた時だ。ふと一筋の名案が降りてきた。漠然としすぎた問題に対しては、誰に聞いても当てはまるような答えしかやってこない。



 自分の人生に答えが乗っているんだ。今まで見てきた映画や音楽、人と話した内容。菜乃花とのやり取り。現状だはするのにやることは今まで生きてきた中で見聞きした情報を思い出すだけ。



彼女の現状を変えるには彼女の過去を知るしかない思いだせ、数少ないやりとりを・・・。



―――高杉さんやほかの皆さんのように話せる様になりたいです。 



菜乃花が俺に送ってくれた手紙。



――――小学校の時に、助けてもらって・・・それで「ありがとう」って言いたいんです。



あの夜の発言。



そして、朝に送ってくれたあのrain・・・。



――――――私は変わりたいです。





私は変わりたい・・・。




 もし、俺が変われる手伝いができたなら?俺の声が俺を呼びかけた。溢れていく発想の滝。今だけ無敵に近付けた感覚。



とうとう閃いてしまった。自分が菜乃花と過ごすのに必要な振る舞い方を。



 一番合っている答えだと確信している。客観的に見れば筋なんて通っていない。でもこれが自分の中では一番納得がいく理想だ。



 無作為にすり減らした時間は無駄なんかじゃなかった。考えることをやめずにいた境地は止め処なく溢れる快感に活力が再起する。



 布団から這い出て、俺は笑った。膝をつけて背骨を力の限り反る。獣の雄叫びにも似た笑いを部屋中に轟かせる。



弱々しく「決めた、決めたんだ」嘆いた俺は傍観者になると決めた。



 ひとしきり笑うと部屋が暗いことに気がついた。スマートフォンの電源をオンにするとモニターに十二時と表記されていた。




 これから何をするかは既に考えてあった。そのための準備として俊雄さんに電話をした。七回目のコールでやっと出た。


 

「夜中にうるせえな」



開幕一番に捻り出された本音。




「ごめん、俊雄さん。祭さ俺も出るし、人手も見つけるから手伝わせてほしい」



つい大声で言ってしまった。



「・・・・・・分かった。眠いからからもうかけてくんなよ」



そう言って一方的に電話を切られた。




知らず知らずに結んでいた緊張の線が切れたのか頭を回しすぎて疲れた。



 布団に戻ると流した汗がシーツを冷やしていた。それなのに俺の体温が背中に篭ってしまい寝心地が悪い。それでも、眠気が強いようですぐに気を失った。






収秋祭しゅうようさいは日曜日に開かれる。明日は金曜日。もう、時間に余裕なんてなかった。



 朝になると急いで登校の支度をする。洗面台の前で髪の毛を整えていて自分の顔つきは昨日より生気があったことに気がついた。生きた人の顔色をしていて、昨晩から見違えていた。



 本腰を入れるのが随分と遅い。それで悠長に1週間を過ごしていた。失った時間を取り戻すかのように俺は家を出た。



空は晴れているが肌寒い。秋の風が少し吹くとカラカラと音を立てて枯れた木の葉が踊った。



習慣として根付いている定位置で綾瀬は待ってくれていた。




 「おはよう」俺から挨拶をする。躊躇いながらも綾瀬はおはようと返してくれた。固い表情に明るさを取り戻してくれた。



「おれさ綾瀬、菜乃花を祭に誘おうと思うんだ」



綾瀬の顔を見て、俺はそう言った。



「えっ・・・・・・・」驚きはしつつ、その後に出てくる言葉はなかった。



「彼女にとって時期尚早かもしれないけど良い経験になると思うんだ。和山もくるだろうし」



綾瀬も顔を合わせずに



「・・・・・・そっか」



素っ気なくそう返された。それ以上は綾瀬はなにも言わなかった。




俺も「ああ」と言って言葉を吐かなかった。



 いつも通りの高校の授業で、プリント問題を解いてから俺は寝た。いつも通り不真面目で気だるい日常のまま三時限目が終わる。準備時間になり菜乃花は席を立つ。廊下に出ると俺は後を追い、一言声をかけた。





「なあ、突然なんだけれどさ、俺と収秋祭行かない?」





廊下の喧騒は、まるで銃の乱射のように騒がしい。菜乃花はすぐに首を横に振って、トイレに行った。





そのあとは何もしなかった。夜になってから一言rainを送ってみた。


唯一: 学校ではごめんね、いきなりで驚いたよね。俊雄さんがさ収秋祭で出店を出すんだよ、それで人手が足りないらしいんだ それに働くのは人があまり来ない昼頃だから、どうかな?



俺はそう送ると、もう一つ文章を作って送った。



唯一: もしかしたら和山も来るかもしれないよ。




物で釣っているようで心苦しいけれど、ここで送らないと彼女はずっと和山の背中を追うだけになる。




送ってから何分かして、返信が来た。





菜乃花: 実は私、あんまりお祭りって行ったことがないんですよねw ごめん、考えさせて



 一緒に祭りに行ける。そこは楽しみだが現実的な問題がある。きっと彼女もそこが不安なはずだ。それが小規模な会場だが夕方から大名行列のような人混みで賑わいをみせること。もしも菜乃花も参加するとなるとはぐれてしまう危険性を伴う。



「まぁ俺がいるしなんとかなるか」




唯一:人混みは怖いかもしれないけれど大丈夫、はぐれないように動くときは俺や綾瀬だったり俊雄さんもいるし心配しないで




菜々花:安心だね。 誘ってくれてありがとう 




そして猫がWAHAHAと笑うスタンプが送られてきた。





ネコ、好きなんだな



 

 土曜日になった。菜乃花から連絡はまだ返ってこない。気の利いたメッセージを送りたい。でもそれは返信の催促しているだけで負担になっているだけ。そう理解しているから動かす指を制した。




 朝起きてから特に何もしたくなかった。期待が膨らんでしまい茫然自失だった。無気力なまま朝食を摂り、ダラダラと雑誌やテレビ番組を眺めていたら日暮れ間近になっていた。



 湿度が高い1日は体に熱を溜めた。そのせいで頭がずっと痛かった。18時過ぎに俺のスマホからピロリンと1通メッセージが届く音が鳴った。





菜乃花: あのさ、唯一、お祭りなんだけどね




菜乃花から一件の着信。次に送られてくるメッセージを待つのが怖くて指が震える。




菜乃花: 行こうと思う




「・・・・・・いやったっ!!!」





 俺は大声で、歓喜した。横に寝ているベッドからジャンプして立ち上がって、大きくガッツポーズする。緊張から凝り固まっている表情筋は瓦解した。



「どしたの!?」下から母さんが訪ねた。俺は「なんでもない」と答えてから、返信を送る。




唯一: ホントに??



俺は笑っているほりの深い男のスタンプを送るとすぐに既読のマークが付く。



十秒後、菜乃花: ホントだよw



ありがとうと送った。



彼女の許諾を得られたあとは明日の細かい日程をメッセージで紹介した。既読後は



菜乃花からは、遅刻しないように早めに着くようにするね。と送られてきた。




菜乃花:お祭り誘ってくれてありがと。でもなんで私を誘ってくれたの?



唯一: 人手不足なんだよね。



 これは半分嘘。和山は確実に来る。友達が多い奴って大概お祭りとかクリスマスとかのたまにしかない恒例イベントが大好きな生態だ。



 あわよくば神がかったタイミングさえ合えば和山と菜乃花が接触してもらう。うまくいけばこれで仲良くなってもらおう。



ただそんなお節介を俺はしたかっただけ。





すると突然



菜乃花:私じゃなくて綾瀬くんを誘ってみたら?





唯一: 綾瀬も来るよ なんか俊雄さんがそれでも足りないとか言っててさ。だからかなww



菜乃花から猫がお茶をすするスタンプが届いた。。



菜乃花: ホント仲良しだね二人ってw



唯一:まあ小学校からの仲だからね  じゃ明日に備えて今日は寝るわおやすみ



おやすみと返ってきて今日のrainは終わった。





 

読んだ後の報告と面白いと感じた点や修正点、「こいつの小説本当につまんねえなクソかよwww」みたいなのも教えて下さいね!恨みませんから。(末代まで恨むかもですけど、それは内緒です)

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