~プロローグ2~ 幕間 綾瀬
お祭りの人垣には数々の匂いと色が頭の中を痺れさせた。
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第三章
お祭りの陽気さは人が賑わっている証拠。それを端から眺めている。
前に行ったり後ろに引き戻されたり、行列は津波のように往来していた。
たくさんの声が勢いよく通過し、山鳴りが唸っているのに似ている。
これは祭りの開催前の話。屋台の準備中の時――――。
綾瀬は自分を変えるために今ここにいる。想うだけで何もできていなかったころを繰り返すのはうんざりしていた。
綾瀬幸太は、緊張と苦悶の顔で顔が歪む。汗がポツリとおでこから鼻筋にかけて、滴り落ちる。
口の中に溜まったつばを飲み込むと、口を開ける。だが意気消沈し、また座ってしまった。
手持ち無沙汰になった藤川さんは俯いたり、白い首を掻いたりしていた。
「あのさ、藤川さん・・・」
俺はつい立っていた。
言葉を吐いた。いつまでもいつまでもあの時から考えていた懺悔の言葉。
謝って、すっきりしたい。本心はこれだ。それでも、もしも彼女もそれで晴れ晴れするならば、それくらいする価値はある。
もしこのまま許してくれたら。思えば思うたび、過去に戻れる為のステップを踏んでいる気がして口がよく回る。
頭を下げ、言い終わる。藤川さんはスマホを取り出して何かを打ち込んだ。
その後、肩を小突かれた。
スマホの画面を綾瀬の顔へ近づける。ディスプレイが目の前から引いて文章の全体図が読めるようになった。
だが字を追うだけで読めなかった。耳の中にフィルターでも入ったのか、たくさんの車の音や人の足音がしているのに、それが他人事のように感じていた。
藤川さんは俺に、にやりと笑みを浮かべた。たっぷりと時間を使って読ませた感触を確かめさせる。
唐突に彼女は自分の服を脱いで下腹部を露呈させる。
目を疑う。意識があるのがやっとなくらい血の気が引いていく。自分という存在が歪んでしまいそうだった。
そして、――――もう終わったとばかり思っていた。
額から吹き出た汗が重力によって下に溢れる。
見えざる手によって首を捻られるように目があった。
白冷めた表情からは感情の機微が読み取れなくなる。潰瘍らしき窪んだ眼。
真っ暗な穴を覗き込まされた気分だった。
藤川さんの大きな瞳の中は汚れていなかった。とても綺麗で涙の粒で澄んでいる。見惚れてしまうとナニカが波紋状に濁っていってしまいそうになるのに、それが美しかった。
一緒に堕ちて行けそうで、おれはもう、藤川さんも全てが手遅れてになっていた。
すべて空っぽでそれが藤川菜乃花という人間の闇。あたかも正常そうに伺えるのは喋れないからだ。
本来なら普通に生きている少女だったはずだ。だが歪んでしまった。
きみの瞳からは俺の心の中に垂れ流れていく、いっぱいになった感情のバケツ。いま逆さにしてぶち撒けらた。
お客さんが来る。俺はそれに気が付くと椅子から立ち上がっていた。
「おーい綾瀬、手伝てくれー」
俊雄さんの声かけによって俺は、意識が現実に引き戻される。
平静を装いながらも分かった!と声を出した。
俺にはどうすることもできない。藤川さんも立つ。両手で服のしわを伸ばしながら。