~エピローグ~
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第二章 エピローグ
自分の家の敷地に足を踏み入れると、あるべき所にスタントはまったような座りの良さがある。
夜道を菜乃花と一緒に自転車で帰路へ着くのは窮屈でしかたがなかった。考える時間が欲しい。
自宅の明かりはついていない。完全に人が眠る家だ。
ドの鍵が開ける。
静かにドアノブを回すがガチャリと音が鳴ってしまう。流行りと一瞬だけしたが、きっと皆寝ているだろうな。そう願って静かに廊下を歩く。
自室がある階段へ上がる前に居間に寄り道をした。父さんの煙草を無断で拝借したから返さないといけない。
「んっ」
父がいた。 テーブルの上でパソコンの液晶画面の光を頼りにし、灰色のパジャマ姿の父さんは酒を呑んでいた。ガラスを口へ傾けていた時に目が合った。
俺は驚く。次に詰めが甘かった自分を恨んだ。父さんは何も言わない。…ただ酒の入ったグラスをテーブルに置く。
カランと小さな透明のグラスからカランと氷と氷がぶつかる音がした。冷えたグラスからは汗のようにグラスの周りから水が噴き出している。
血の気が引くって言うのがこういうことなんだなって初めて実感した。
父さんは「お帰り」と言って、「夜遊び、楽しかったか?」と次に訪ねてきた。すべてを分かっているように俺と目を合わせ、眉を上げる。怖くて仕方がなかった。煙草は必ず返さないといけない。立ち竦む俺は、自分の佇まいを変えられないでいた。
「べつに」と首を菜乃花みたいに斜めに首を傾けると、「そっか」と返された。
父さんは、白髪の多い人で小さな工場で働いている酒好きだった。母さんも酒が好きだからお酒を呑めば勝手に盛り上がっている。
またここでも沈黙が生まれた。父さんの眼を合わせられなかった。
「まあ唯一、タバコ返して。母さんには黙っておいとくから」
俺は座ると、ポケットからライターと煙草をテーブルに置いた。
「ごめん・・・」
「成長したな」父さんは、いろいろな感情を込めた声でそう言った。
煙草の箱を取り出すと、「あれ?一本しか吸わなかったの?」と口にくわえてから聞いてきた。
「うん・・・」
薄い髪の毛をポリポリ掻きながら、「なんで夜遊びした方が辛い顔してんだよ。最も人生が楽しいと感じられる時間だったんだろ。まったくよ」
父さん手慣れた手つきでタバコを咥えて火をつける。
「今はそんなふうに考えれる気分になれない」そう突っぱねて、二階の自室へ行った。
俺はどうしたらいいんだよ。
そして目が覚めれば朝になっていた。まだ布団の中に潜っていたかった。
お腹はすかなかった。それよりも心が空いた。休もうと思ったけどやめた。
教室で和山匠が男友達とわいわい賑やかに、はしゃいでいた。それを菜乃花は眺めていた。また心がズキンと痛んだ。
西という蛇みたいな目つきの女と和山が仲良くしていた。
和山はバスケ部で体格も運動神経も抜群に良く、みんなに慕われていた。しかし俺や藤川、その他の多少なり浮いている奴には目もくれようとも近づこうともしない奴だ。
多分そいつは、人として共通で持っているであろう〝あるもの”があいつの心の中にも存在していたから。
その〝あるもの”とは団体に所属している一体感と差別心だった。この二つは表裏一体。
団体で共感できないものは共有すらさせてもらえず、泥人形は泥人形、人は人と彼らは自分らを正当化させて、どんな所でもヒエラルキーという格差社会を生み出す。
近所のおばちゃんたちもそうだ。グループを作ってその輪に入れない人、入る見込みすら無い人は徹底的に偏見の眼差しとあることない事を話し合って、楽しんでいる。
この町はとても冷たい奴等しかいない。
これは透明で感じることが出来ても大体の人はそのことを言葉に表そうとしない。問う事はするのだろうが分からないからと答えに届かずにそして永遠に、考えなくなる・・・。
因みに学校では大きな一団を自然に形成し、そこから派生させるように男子、女子グループと別れてその下にも細かくあるが、俺や綾瀬や菜乃花は最下層だ。
こうやって理不尽は出来ていく。人がいる限り偏見の眼は無くならない。
なぁ?もうちょっといがみ合わずに仲良くはできないのだろうか?
そして、俺は 菜乃花とどうななるのだろうか?
第二章 終了
第三章に続きます。